医療のコスト

週間医学ニュースに「コストを語らずにきた代償 ”絶望”的状況を迎え、われわれはどう振る舞うべきか」というショッキングなタイトルの記事が紹介されていました。__ 國頭 英夫氏(日本赤十字社医療センター化学療法科部長)に聞く

皮膚科にも大いに関係がある記事で、やはり驚きの内容でした。
抗PD-1抗体ニポルマブ(オプジーボ)は、日本人が発見、米国と共同で開発した日本が世界に誇るべき免疫チェックポイント薬です。
2014年世界に先駆けて「根治切除不能な悪性黒色腫」に対して承認され、2015年には「切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん」に適応が拡大されました。今後さらに他のがん腫にも適応が広がっていくと予想されています。
しかし、國頭先生は、この免疫チェックポイント阻害薬の登場によって財政的に医療、それどころか国の存在そのものが脅かされる危険性があると述べています。
その理由とは
*肺癌への奏功率は15~20%だけれど、病態を悪化させず、制御できるものを含めればもっと高い率となる。
*副作用は疲労感、食欲不振、大腸炎、皮膚炎、肺臓炎、劇症I型糖尿病、重症筋無力症などがあるが重篤なものの率は従来の化学療法より低い。
*効いたときには効果が長年持続する。
以上のことは長所のようです。しかし、以下の問題点もあります。
*一番の問題は非常に高価であるということです。二モルマブを1年間使用すると約3500万円かかるということです。
(体重60Kgの人で、3mg/kgを2週間ごと 1回 130万円かかる)
但し、高額療養制度がある日本では、医療費の自己負担額は最高でも200万円程度
すなわち、国の公的負担がおよそ95%
*ニモルマブの投与前の治療効果予測ができないそうです。そして、効果がみられる人は凡そ3人に1人程度だそうです。
すなわち、3500万円x3人のトータル1億円を超すコストで、ようやく有効例1例の治療ができる。
*免疫チェックポイント阻害薬ではリンパ球の集ぞくによって投与後一見新病変がでたようにみえる偽増悪(pseudo progression)があり、良悪の見極めが難しいとのことです。
*日本の非小細胞肺がん患者は年間10万人程度で、ニモルマブの対象になる人は5万人程度いるそうです。皆に1年間投与すれば年間1兆7500億円となります。
これが、その他のがん腫に適応になれば更に膨大な額になります。

國頭先生は、「医学の進歩」による新薬開発費の高騰、薬価高騰は国の財政を破綻させるような危機的なレベルにまでなってしまった、といいます。医療現場、学会では医師はこれらのコスト問題を正面から取り上げてはこなかった、といいます。

この問題の根本的な解決策はなかなかないとのことです。薬価を下げるということが必要でしょうが、仮に半額になったとしても危機的な事態は変わらないとのことです。
オプジーボは1992年本庶 祐 京都大学教授らによるPD-1遺伝子の発見、1998年に作成されたPD-1欠損マウスから体内の免疫反応の制御の解明などを経て、創薬へと進みました。小野薬品工業、米国Bristol-Myers Squibb(BMS)社により開発され、世界に先駆けて日本で発売となった薬です。世界に誇るべき画期的な薬剤であるだけに、何とかうまく将来にわたっても使えるように工夫、進化していって欲しいものです。

この薬剤に限らず、最近の新薬は抗体製剤、分子標的薬など高価なものが一杯です。
皮膚科に限っても、乾癬の生物学的製剤の薬価の高いのにはびっくりする程です。蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などでも新薬が開発されつつありますが、高価なもののようです。
これらの新薬を開発できる科学力、資金力のあるのは欧米をはじめとする一部の先進諸国位でしょう。巨大製薬メーカーばかりが栄えて、国民が薬の支払いのために一生働いて税金を納め続けるという未来図はあまりハッピーとは思われません。医療従事者のみが考える問題でもなく、国民、いや世界全体がうまい知恵をだしながら、議論を深めていくべきところにまで差しかかってきているように思われました。