膿胞性乾癬(4)生物学的製剤

生物学的製剤は10数年前からクローン病、潰瘍性大腸炎、強直性脊椎炎、小児特発性関節炎、関節リウマチなどに臨床応用されてきました。乾癬においても2010年にTNFα阻害剤のインフリキシマブ(レミケード)とアダリムマブ(ヒュミラ)が乾癬に保険適応になりました。同剤は関節症性乾癬にも有効性が認められています。ただ膿胞性乾癬に対する保険適応はインフリキシマブのみです。2011年にはIL-12とIL-23に共通するサブユニットであるp40に対する抗体ウステキヌマブ(ステラーラ)が乾癬に保険適応となりました。2015年には抗IL-17A抗体であるセクキヌマブ(コセンティクス)が保険適応になりました。そして最近同剤は膿胞性乾癬も効能追加承認されました。
21世紀にはいり、IL-17 を産生するTh17細胞の発見を機に乾癬の病因、病態論はTipDC-Th17細胞を中心としたパラダイムシフトともいわれる程の大きな変貌をとげました。
そして、それは基礎的な理論だけではなく、その経路にポイントとして作用する生物学的製剤の目覚しい乾癬への治療効果によって実際の臨床、治療効果がその理論を裏打ちして、証明するといった相互発展を遂げています。さらに、現在もなおその理論に沿った薬剤の開発が続いているホットトピックスともいえる状態です。
膿胞性乾癬に対する生物学的製剤の効果検討も進んでいますが、GPPは稀な疾患であり、重篤な疾患であるためにランダム化対照比較試験は難しく、個別な症例報告の効果によらざるをえません。
乾癬のTipDC-Th17細胞系の病因の経路とターゲットとなる生物学的製剤の作用ポイントを示した図を参考に示します。
GPPは病因論で述べたように細胞増殖に関するIL-1ファミリーのIL-36RNの欠損が関与する一群もあり、将来的にはその部分をターゲットにした治療戦略も検討されることも考えられますが、現時点での薬剤について述べます。

◆TNFα阻害薬
インフリキシマブ・・・米国のガイドラインでも第一選択薬となっています。本邦でも有効との症例報告もあります。ただ、インフリキシマブでは導入時にアナフィラキシー反応(infusion reaction)がみられることがあります。GPPでは心・循環系の不全を合併することがあり、同剤の使用によるinfusion reaction は特に注意が必要とされます。またTNFα薬によるパラドキシカルな副作用として新たな乾癬の発症、乾癬の悪化、・膿胞化の報告があります。
また長期使用によって高率に(20~30%で)中和抗体が出現するとされます。
米国では第2選択薬として、UVB光線療法と並んでアダリムマブ、エタネルセプトがあげられています。エタネルセプトは即効性は劣るものの中和抗体の出現頻度は少ないとされます。ただ、本邦では認可されていません。
妊婦への使用は他疾患などをみると、使用可能とされていますが、ドイツでは禁忌となっています。
小児への使用に関しては米国FDAはリンパ腫や他の悪性腫瘍の発生率が高いという警告を発しています。ただ、これは併用された免疫抑制剤のためとも考えられています。
◆ウステキヌマブ
英国では皮膚疾患以外の使用経験が少ないために、乾癬治療の第2選択薬に、米国、ドイツでは第1選択薬に位置づけられています。
膿胞性乾癬では有効であったとの報告とともに、逆に同剤の使用によって既存の膿胞性乾癬が悪化したとの報告もあります。従って他の治療薬が奏功しないケースに限って使うべきとされています。
◆セクキヌマブ
最近同剤は膿胞性乾癬にも効能追加承認されましたが、まだ新しい薬剤なので慎重に使用すべきとされています。
◆アレファセプト
T細胞と樹状細胞の相互作用を阻害するアレファセプト、エファリツマブが米国FDAによって乾癬に認可されましたが、エファリツマブは致命的な感染症のために販売中止となりました。アレファセプトは膿胞性乾癬にも有効と考えられますが、これらは投与中止によってリバウンドし膿胞性乾癬を誘発することも憂慮されます。なお本邦では認可されていません。

生物学的製剤(TNFα阻害薬)の妊婦への投与については、米国のガイドラインではシクロスポリン、副腎皮質ステロイド、外用薬と並んで第一選択薬に位置づけされていますが、ドイツでは妊婦にたいしては催奇形性の危惧から禁忌となっています。
インフリキシマブの使用に際してはinfusion reactionを避けるためにジフェンヒドラミン(レスタミン)の前投薬が行われますが、これは催奇形性があるために妊婦には禁忌であることも考慮する必要性があります。
インフリキシマブはIgG1クラスの免疫グロブリン製剤であり、妊娠初期には胎盤は通過しませんが、中期以降は胎盤の通過が亢進し、新生児にも6ヶ月にわたりインフリキシマブが血中に残るとされ、出生後6ヶ月は生ワクチンは避けるように指摘されています。
小児への使用については、有効性の報告はあるものの長期使用による続発性悪性腫瘍の発症のリスクを考えて、シクロスポリンや全身ステロイドが奏功せず、関節症状が重篤なケースなどに短期間使用に留めておくべきとされています。

生物学的製剤使用上の実際留意点
*生物学的製剤承認施設(日本皮膚科学会が認可)のみで導入ができる・・・大学病院、地域の基幹総合病院など。
*レミケードは2ヶ月に1回 5mg/kgの静注、ヒュミラは2週に1回、40mgの皮下注(自己注射も可能)、ステラーラは3ヶ月に1回、45mgの皮下注。
*レミケードは注射薬なので、注射時の反応(infusion reaction)などに注意が必要で、特に間隔を開けた後での再投与時は注意が必要で前投薬など必要。
*活動性結核患者など重症感染症患者、B型肝炎患者、うっ血性心不全患者、悪性腫瘍治療中の患者、脱髄疾患患者、などは使用禁忌
*副作用では結核などの感染症、薬剤によるアレルギー反応(多形滲出性紅斑、扁平苔癬、パラドキシカル皮疹など)
肝機能障害(併用される抗結核薬の影響も)
*治療費が高額。しかし現在では高額医療制度が導入され、保険者から認定証を入手すれば、自己限度額を超える分を窓口で支払う必要がなくなっている。 J Visual Dermatol 13:308-311,2014 根本 治 より

引用文献

照井 正 ほか:[日本皮膚科学会ガイドライン]膿胞性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版、日本皮膚科学会膿胞性乾癬
(汎発型)診療ガイドライン作成委員会, 日皮会誌:125(12),2211-2257,2015(平成27)

生物学的製剤による乾癬治療の工夫と注意点 責任編集 佐伯 秀久
Visual Dermatology Vol.13 No.3 2014

乾癬図  J VisualDermatol 13:230-234,2014 佐伯 秀久より