膿胞性乾癬(3)治療全般

日本皮膚科学会ガイドラインによる治療のアルゴリズムを示します。
膿胞性乾癬(汎発型)(GPP:generalized pustular psoriasis)を全身性炎症疾患ととらえて、1)急性期の心・循環器系、呼吸不全に対する全身管理 2)皮膚症状に対する治療 3)高頻度にみられる関節症状に対する治療
これら全身性炎症反応に対する急性期の治療の側面。
急性期を脱した後の、慢性期の長期的な治療計画、それには治療による副作用、QOL(Quality of Life)も考慮したもの、が呈示されています。
まず、それに即した治療の全般についてまとめてみます。
【急性期膿胞性乾癬の全身症状に対する治療】
GPPでの直接死因は心・循環不全が多いです。疾患そのものによる肺疾患(ARDS:acute respiratory distress syndrome/capillary leak症候群)や乾癬治療薬のメトトレキセート(MTX)やレチノイン酸(チガソン、アシトレチンなど)による肺合併症が稀に生じます。
MTXは肺線維症とともに肝不全も引き起こします。
これらの全身性の重篤な症状を乗り越えるには、原因薬剤の中止とともに副腎皮質ステロイド全身投与(プレドニゾロン換算1mg/Kg/day)が推奨されます。
また生物学的製剤のなかでTNFα阻害薬のインフリキシマブ(レミケード)の有効例の報告はありますが、逆にinfusion reactionによる悪化も懸念されます。
急性期の救命的な時期の治療はステロイドの全身投与が主役になっていますが、この薬剤は二律背反的な側面があります。
というのは、ステロイドの全身投与によって膿胞性乾癬を引き起こすことがわかっているからです。ステロイド剤はあくまで乾癬治療薬というよりも全身症状を改善する薬剤としての位置づけです。
ステロイド剤以外の薬剤では、全身症状の改善のために下記のものも使われますが、上記のように副作用もみられます。
【急性期膿胞性乾癬の治療】
乾癬そのもの、あるいは関節炎などの治療薬剤については下記のようなものがあります。
◆エトレチナート(チガゾン)
その催奇性のために先進国では唯一日本だけがいまだ認可、使用されています。海外ではほとんどの国で半減期のより短いアシトレチンが使用されています。
GPPに対しては、0.5~1.0mg/kg/日を使用します。有効性が高いですが、長期に亘ると肝障害、過骨症、骨端の早期閉鎖、催奇形性などの副作用に注意が必要です。また使用によって皮膚が薄くなり、ビタミンD3外用薬の吸収が高くなり、高カルシウム血症に注意が必要となります。
小児への使用は骨への副作用による成長障害も懸念されるために他の治療が使えない場合に限り使用されます。妊婦への使用は当然禁忌です。
◆シクロスポリン(ネオーラル)
GPPの第一選択薬の一つとして推奨されています。
通常2.5~5.0mg/kg/日(分2)で開始されます。長期使用によって高血圧、腎機能障害がでるために、これらの定期的なチェックが必要です。本邦では使用期間の規制はありませんが、イギリス、ドイツでは原則2年、アメリカでは1年間の使用期間が推奨されています。
小児にも使用可で、保険適応のある薬剤はシクロスポリンとエトレチナートのみですが、いずれも長期副作用に注意が必要です。
また長期使用によって皮膚の有棘細胞癌の発生率が高くなることがわかっています。副作用を避けるためにできる限り低用量で、短期間あるいは間歇投与が推奨されています。
妊婦に対しては禁忌薬剤となってはいますが、他に適当な薬剤が少ないことなどを考慮して、慎重に使用せざるを得ないこともあります。
◆メトトレキサート(MTX)
エトレチナートやシクロスポリンに治療抵抗性の例や関節炎の激しい例などに推奨されます。ただし、この薬剤は日本では乾癬に対して保険適応がまだないので慎重に、説明を十分にして使用する必要があります。
通常7.5mg/週1回(12時間毎に3回に分けて内服)します。
特に関節症状には有効です。肝障害、骨髄抑制、間質性肺炎、催奇形性などの副作用があります。口内炎、嘔気、嘔吐などの副作用は葉酸1~5mg/週の予防内服で軽減されます。ただし、その効果は減じる可能性があります。
小児では米国で若年性関節リウマチに使用承認されてはいますが、本邦での使用例は多くはありません。また妊婦では胎児への催奇形性があるため(メトトレキサート胎芽病)使用禁忌です。
長期内服による肝障害については関節リウマチ患者の解析で(3808例、平均内服量10.5mg/週、55.8ヶ月)、20.2%に肝酵素の上昇あり、12.9%の症例では正常の2倍以上、3.7%では肝毒性のために治療中止となっています。汎血球減少は1%前後と稀とされています。
◆ダプソン(レクチゾール)
第一選択薬ではありませんが、上記の薬剤が無効な場合は使用を考慮するとされています。保険適応はありません。好中球接着能、遊走能を阻害することによって抗炎症効果を発現すると考えられています。通常50~100mg/日(分2~3)使用します。
副作用として貧血、肝障害、腎障害などがあり、DDS症候群(薬剤性過敏症候群)など重篤な薬疹の報告もあり注意が必要です。
◆ステロイド内服
先に書きましたが、急性期での全身症状を改善する薬剤としての意義は高いですが、ステロイド剤によって膿胞化を引き起こすという、重大な副作用があります。したがって、GPPの治療薬としてはむしろ不適当です。しかし、他剤が効果がない場合や、妊婦に生じる疱疹状膿痂疹などのように禁忌薬剤が多く、他剤が使用できない場合は使用されます。ただし、この場合でも胎盤通過性の少ないプレドニゾロンを使うべきとされます。また使用に際してはステロイドのメジャーサイドエフェクト(主要副作用)の易感染性、消化性潰瘍、精神症状、糖尿病、血圧上昇、骨粗鬆症などに注意が必要です。
◆外用療法
GPPの急性期治療としては積極的に有効とはいいがたいとされています。ただ急性期を乗り切った皮膚症状対しては、維持療法、補助療法として使用されています。
*ステロイド外用剤
補助療法として日本でも海外でも使われていますが、強力かつ大量、長期のステロイド外用剤の中断によって膿疱性乾癬が誘発されることもあるので、その使用量、期間には十分注意する必要があります。
*活性型ビタミンD3外用剤
慢性期を脱した場合は補助的に用いられますが、これも膿疱性乾癬を誘発した報告があるので、注意しながら使用する必要があります。
◆光線療法
PUVA療法については、急性期はおおむね適応はないとの意見が多く、安定期に入ってからは有効との意見もあります。ただ、その光毒性による副作用、とりわけ慢性にわたると光老化、発癌性もあり、積極的には推奨されません。また妊婦には8-MOPは禁忌なので、PUVA療法は禁忌です。
近年はPUVA(長波長紫外線)療法に替わって中波長紫外線療法、narrow-band UVB療法が多く行われていますが、まだその歴史は浅く、効果の程度や光老化や光発癌に対しての長期的は影響はよくわかっていません。
第一選択というよりも、他の治療法との併用、補助としての位置づけのようです。

以上のような、従来の治療方法だけではなく、近年は乾癬治療薬として生物学的製剤や顆粒球単球吸着除去療法(GMA)などが脚光を浴びてきました。これらについては別項で取り上げてみたいと思います。

【関節症状への治療】
GPPでは合併する関節症状や虹彩炎などの眼合併症の治療が重要とされています。長期の炎症の結果血清アミロイドA(SAA)の上昇が続き二次性アミロイド―シスの原因ともなりうるとされています。
一般的に関節リウマチに準じた治療がなされています。
◆メトトレキサート(リウマトレックス)
週1回低用量(2.5~5mg)の試験投与から始めて、漸増し7.5~22.5mg/週まで増量します。関節炎に対してはシクロスポリンとほぼ同等の効果があるとされます。副作用では肺線維症は関節リウマチに比べて低く、一方肝線維症や肝硬変は乾癬のほうが高いとされます。以前はMTX蓄積使用量1.5gごとに肝生検が推奨されましたが、最近は肝炎などリスクのない人では総使用量が3.5g~4gに達した人では肝生検をするか他剤への変更を考慮するとされています。
◆生物学的製剤
TNFα阻害薬のインフリキシマブ(レミケード)、アダリムマブ(ヒュミラ)は関節症性乾癬に適応があり、有効です。エタネルセプト(エンブレル)は日本では適応がありません。
TNF阻害薬以外の生物学的製剤のウステキヌマブ(ステラーラ)は抗IL-12/23p40抗体ですが、2011年に関節症性乾癬に対し適応になりました。第一選択剤ではありませんし使用例は少ないですが、セカンドラインとして位置づけられています。
最近コセンティクス(ヒト型抗ヒトIL-17Aモノクローナル抗体)も膿胞性乾癬の適応の効能追加承認がなされました。まだ経験は浅い製剤ですが、期待の持たれる製剤です。
◆サラゾスルファピリジン(サラゾピリン)
2~3g/日で末梢の関節炎に軽度の効果を示します。
◆アザチオプリン(イムラン)
軽度の効果は期待できるとされます。
◆エトレチナート(チガソン)
軽度の関節炎症状に有効とされます。ただし、同剤によって過骨症や骨端の早期閉鎖などの骨への副作用があることも留意する必要性があります。
◆シクロスポリン(ネオーラル)
軽度の関節炎症状に有効とされています。NSAID内服と併用する場合に腎機能の悪化を増強する危険性があり特に注意が必要です。
◆副腎皮質ステロイド
罹患関節が少ない場合は関節内投与が有効です。激しい関節症状があり、他剤が奏功しない場合は使用されますが、同剤によって膿胞性乾癬が誘発されることなどを考慮すると安易には使用できません。
◆顆粒球単球吸着除去療法(GMA)
安全な治療として推奨されてはいますが、まだ経験が少ない治療法でさらなる検討が必要とされています。

引用文献

照井 正 ほか:[日本皮膚科学会ガイドライン]膿胞性乾癬(汎発型)診療ガイドライン2014年度版、日本皮膚科学会膿胞性乾癬
(汎発型)診療ガイドライン作成委員会, 日皮会誌:125(12),2211-2257,2015(平成27)