黒い爪をみたら(前段)

昨日、千葉市医師会の講演会がありました。講師は元虎の門病院皮膚科部長の大原國章先生です。
大原先生の講演はもう恒例となった感があります。いつも期待に胸弾む講演です。こんな素晴らしい講演なのに、今回は他の講演会も重なったためかやや少な目の出席数でした。
今回のお題は「黒い爪をみたら」という演題です。
ご想像の通り、悪性黒色腫(メラノーマ)がメインのテーマでした。メラノーマについてはこのブログにも何回も書いていますが、常に新しいことを教えられます。というか、実際の治療に携わっていないと永遠に本体に近づけないことを痛感させられます。
講演に先立って、先生のVisual Dermatologyに書かれた「メラノーマのすべて(1)、(2)」を読みかえしました。悪性黒色腫に対する治療はここ数年いままでに類をみないほどの変革をとげつつあります。国立がんセンター中央病院皮膚科医長の山﨑先生の言葉を借りれば
「・・・陸上トラック競技にたとえれば周回遅れに等しい欧米と日本の差は、最近のオールジャパンでの治療開発のための力の結集の結果、数年後には欧米諸国に追いつこうという目標が夢物語ではなくなった.現在、追いかけていく欧米の後ろ姿を我々はしっかりとらえることができているのである.PD-1を発見したのは京都大学の本庶佑先生であり、trametinibを創製したのは京都府立医科大学の酒井敏行先生と日本たばこ産業株式会社である・・・皮膚悪性腫瘍に携わるものとして、いまほどやりがいのある時代はない.・・・」
分子標的薬のブレイクスルーの時代にあって、大原先生は本の執筆にあたって、「メラノーマのすべて、と銘打つ割には最新の遺伝子、染色体の話題や、分子標的薬などの治療が抜けていると叱られるかもしれません.・・・これから10年、20年経ってから評価が定まり、標準化されるでしょうが、この2015年という時点においてはまだ確立され、一般化されたとは言い難い気がします。・・・」と述べています。また「もっと正直にいうと筆者は”生ける伝説”から”歩く化石”になりつつあり学問の進歩についていけないのが実情です.・・・」と謙遜されています。しかしよく考えてみると最新治療はいわば初期治療でうまくいかなかった、初期治療をすり抜けた後の治療であって、治療の要諦はいかに初期に的確に診断して、再発無く治療するかにかかっています。
すなわち、最も肝要な部分は将来に亘っても大原先生の実践されてきた部分であろうかと思います。
それで、先生の当日の講演の要旨を文献1)2)3)を参考にしながら書いてみたいと思います。
前置きが思いのほか長くなったので本文は次回にしたいと思います。

ずっと、断片的なメラノーマの記事を書いてきたものの、まとまった全体像は書いてきませんでした。
これを機会に後日、自分の知識を整理するための悪性黒色腫の体系的な調べをしてみたいと思います。

1)大原 國章.メラノーマのすべて(1)病型・臨床型 Visual Dermatology Vol.13 No.9 2014

2)大原 國章.メラノーマのすべて(2) Visual Dermatology Vol .14 No3 2015

3)大原 國章.皮膚疾患のクロノロジー 秀潤社 2012