毛にまつわる迷信

脱毛症の本をみていたら、新潟大学の伊藤雅章教授の「毛にまつわる迷信を正す」という記事がありありました。
自分自身でもそれは違うんじゃないか、と思っても医学的に、科学的に説明できずにいました。
明快に解答してあり、毛のことに悩む人への参考になると思いましたので引用してみました。

◆海藻を食べると黒髪に良い
昆布やひじきは細長く、緑~黒色の外観から「黒髪」を連想させ、髪に良いと古くから一般に信じられています。
それならば、白人も海藻を食べれば黒くなるはずですが、決してそうはなりません。
髪の毛の色は毛毋メラノサイトの産生するメラニン色素によります。栄養失調状態では、その原料のフェニルアラニンやチロシンが欠乏するために淡色化を起こしますが、海藻に特別にこれらが多く含まれているわけではありません。
白髪は加齢とともにメラノサイト幹細胞が消失して起きる一種の老化現象です。

◆白髪を抜くと白髪が増える
そういうことはありえません。毛を抜いても同様にまた白髪が生えてくるだけです。ただ、残念ながら加齢とともに徐々に白髪が増えてくるのは前述した通りです。
また、しょっちゅう抜いていると、再生してくる毛は変形して波状になるなどかえって目立つようになります。

◆ストレスで白髪になる、一夜で白髪になる
円形脱毛症の2割の人には精神的ストレスがきっかけになって発症すると言われています。
円形脱毛症では黒色毛の成長期毛根のほうが、白色毛のそれよりも傷害されやすいです。従って白黒毛の混在した人での円形脱毛症では、黒毛が抜けて極めて短期間で白髪化したようにみえる特殊な場合があります。
白髪は前述のように徐々に進行するので、ストレスによって白髪になるわけではありません。

◆すね毛やわき毛を剃ると濃くなる
そういうことはありません。剃らないと腋下では10cm、下腿では数cm以内の先端が細い軟らかい毛になります。
剃毛した場合、成長期の太い毛が目立ち、ザラザラ、チクチクして濃くなったと誤解しがちです。そのまま放置すれば本来の柔らかい毛の状態に戻ります。

◆赤ん坊の髪を剃ると太い毛が生える
新生児では一時期に休止期になり、一斉に脱落してその後全体に成長期毛が再生して頭髪は回復してきます。
これは剃っても剃らなくても変わりはありません。

◆皮脂が多いと毛の成長が妨げられる
このような医学的根拠は全くありません。男性型脱毛も、頭皮の皮脂量の増加もいずれも男性ホルモンの作用によります。それでそのように信じられ、また業界での説明でもそのように理由づけてあることもあります。
男性型脱毛を生じない男性にも皮脂が多いことも、脂漏性皮膚炎をおこすこともありますが、軟毛はありません。ただし、この場合は湿疹の炎症のために脱毛を生じることもありますが、いわゆる薄毛とは別の現象です。

◆ストレスで禿げる
円形脱毛症ではきっかけの一つにはなりますが、男性型脱毛症では関係はありません。遺伝的な素因が大であるとされます。

◆白髪の人は禿げない
そういったことはありません。白髪と男性型脱毛とは別個の現象です。フサフサした髪の男性が白髪になると、薄毛で白髪の人より目立つので、そういった誤解が生じたものと思われます。

◆育毛剤の効果は頭皮の血行促進による
多くの育毛剤の効果の説明にそういった記載があります。しかし、医学的、科学的に証明された事実ではありません。ミノキシジル(プロペシア)の育毛効果も、当初はそのように説明されていましたが、現在ではミノキシジルは毛乳頭細胞に働き、毛成長の促進因子を放出して効くことが解っています。男性の薄毛は男性ホルモン作用による毛器官のミニチュア化であり、頭皮の血行が悪くてなるわけではありません。

◆頭皮のマッサージは育毛に良い
頭皮をマッサージしたり、叩くことで男性型脱毛を防ぐという医学的な根拠はありません。また、超音波、赤外線などが血行を促進して育毛効果があるという根拠もありません。むしろやりすぎることで毛組織を傷害する危険性もあります。

◆男性型脱毛恐怖症
男性型脱毛は20歳代から始まる場合もあり、家系などの遺伝的な素因が大きく関与しますが、将来を予測することは不可能です。健常な若者に対し、ビデオスコープなどで不安を煽り、高額な育毛療法を契約させるなどのセールスには注意が必要です。治療は確実に軟毛化のパターンが始まってからでも遅くはなく、しかも医学的根拠のある治療をすることが肝要です。

◆増毛、発毛、育毛、養毛、植毛についての誤解
これらの言葉が曖昧に使われ、しばしば商業目的に悪用されることがあります。
増毛とは人口毛を毛に絡めたり頭皮に接着して、見かけ上髪をふやすことなので早晩脱落します。植毛は自分の後頭部の毛を毛根ごと移植する自家植毛は正当な医療施術ですが、人口毛を直接頭皮に差し込むことは、異物反応や感染症を引き起こしますのでやるべきではありません。

引用文献

伊藤雅章 毛にまつわる迷信を正す
皮膚科臨床アセット 6 脱毛症治療の新戦略 総編集◉古江増隆 専門編集◉坪井良治