深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis: DVT) 再び

一寸しつこいかもしれませんが、DVTについて再度書きます。
先日、県医FAXシャトル通信で産婦人科医学会より会員の皆様へお願いという文書が送られてきました。
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「最近、ピル服用者の血栓症が問題となっています。患者さんの多くが、最初に内科・整形外科・脳外科を受診しています。血栓症の早期診断にご協力をお願いします。」
以下の症状を訴えて、女性が受診されたときには、ピル/エストロゲン服用の有無を尋ねてください。服用者では血栓症の検索をお願いします。早期に診断できれば、救命が可能です。  
激しい頭痛・・・・頭蓋内静脈洞血栓症
下肢の急激な疼痛とむくみ・・・・下肢深部静脈血栓症
息切れ・胸痛・・・・肺塞栓症
四肢の脱力・麻痺・構音障害・急性視力障害・・・・脳梗塞

避妊のほかに、卵巣機能不全・月経困難症・子宮内膜症・更年期障害に処方されていることがあります。
エストロゲン薬には、経口薬の他に貼付剤・ゲル・スプレーもあります。
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最近も、下肢の腫脹、潮紅、痛みを伴ったり、静脈瘤のある患者さんが時々お見えになります。整形外科、内科、皮膚科などの通院歴のある方もあり意外とDVTは見逃されている可能性もあります。小生も今まではこのようなケースでは丹毒、蜂窩織炎などをまず最初に考えていました。重症の方は病院に紹介はしていましたが、DVT、肺血栓・塞栓症までは考えが及ばなかったのを反省しています。
急性のDVTは2,3日もすると側副血行路ができ、腫れや痛みなどの症状も自然に軽快することがあるようです。しかし、いったん深部静脈に血栓ができると、下肢の静脈は表在静脈系をバイパスとして還流せざるをえなくなり、負荷がかかって二次性の静脈瘤ができます。そして、検査でも一次性のものと同様な結果になる事もあるそうです。
しかし、治療方法は大違いです。(前のブログに書きました。)
DVTは急性期は勿論のこと、慢性期にも大きな問題をかかえているように思えます。

以前はDVTは欧米に比べて、日本人では稀といわれていたそうです。しかし、決して少なくはありません。
一般の人は勿論、医療者側ももっとDVTに対する認識を深めることが重要かと思いました。
繰り返しになりますが、DVTの原因などについて下にまとめます。
【DVTの原因】
血栓の原因はVirchowの3主徴とよばれる3つに分けられます。
1. 静脈内壁の障害
  カテーテル検査、外科手術、スポーツなどでの外傷
2. 血液凝固の亢進
  脱水、癌、感染症、手術、エストロゲン製剤の使用(ピルなど)
  血栓ができやすい病気・・・抗リン脂質抗体症候群、プロテインC/S欠損症
               アンチトロンビンⅢ欠損症
               ベーチェット病など血管炎症候群
3. 静脈のうっ滞
    長時間同じ姿勢・・・飛行機(以前はエコノミークラス症候群、最近は旅行者血栓症、ロングフライト血栓症と呼ばれる)
タクシー運転手、長距離トラック運転手、長期臥床
    うっ血性心不全、静脈瘤、肥満、妊娠、ギプス包帯固定

これらの誘因の中でも特に、静脈血栓塞栓症の既往、血栓性素因、下肢麻痺、下肢ギプス固定は危険因子の中でも最も注意を要するものとされています。
下肢深部静脈血栓は左側下肢にできやすいです。それは、左の総腸骨静脈と右の総腸骨動脈が交差しているために、左総腸骨静脈を圧迫するので左側に多いとされます。

上記の誘因があって、しばらく動かなかった人が動き始めたり、トイレに立ったりしたことをきっかけに深部静脈に血栓ができると急性深部静脈血栓症をおこします。
さらに一部は肺血栓塞栓症を起こします。
下肢の片側の色調の変化(赤くなる)、腫脹、痛み、これらが立位になると悪化する、下腿筋肉の硬化、圧迫すると痛くなるなどの症状は要注意です。
しばらくたって軽快しても早期に医療機関を受診することが肝要と思われます。
更に、胸痛、呼吸困難、咳、息切れなどの症状は肺血栓梗塞の際にみられるとのことです。こうなると一刻も早く受診する必要性があるかと思います。

参考文献

肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年改訂版)