静脈瘤 治療(II)

保存的な治療法、すなわち手術以外の治療法は前回に書いた、圧迫療法が主になりますが、それ以外のものには次のようなものがあります。
◇間歇的空気マッサージ装置
リンパ浮腫用に開発されたものだそうですが、波動式空気マッサージ装置(ハドマー、メドマー)があり、足部から大腿部まで空気のカフが末梢部から中枢部へ順次圧迫を進める装置です。周術期の深部静脈血栓症の発生予防に頻用されているそうです。これは高額で大型であるために、電気店で販売されているふくらはぎ用のエアーマッサージャー(エアキュット)が便利でお薦めだそうです。ただし、これは浮遊血栓のあるDVTがある時は肺血栓・塞栓を助長するために禁忌です。
(伊藤孝明 皮膚外科学 16 うっ滞性潰瘍・下肢静脈瘤 P545)

手術治療
一次性静脈瘤の治療法には、本幹治療法として、ストリッピング(静脈抜去術)や高位結紮術、血管内レーザー焼灼術などがあります。アメリカではレーザーが第一選択として推奨されています。分枝の瘤には硬化療法や静脈瘤切除術が行われています。またこれらを組み合わせて行う場合もあるようです。
【高位結紮術】
中等度の伏在型静脈瘤に対して行われます。大伏在静脈では鼠径部、小伏在静脈では膝窩部で結紮または結紮切離を行います。局所麻酔で皮膚を2~3cmほど切開して行います。
鼠径部では大伏在―大腿静脈分岐部より1.5横指下側の大伏在静脈部分を太い絹糸で2重結紮し、その間を離断します。さらに頭側に結紮を追加補強します。
 更には、再発を予防するために大腿内側や膝下の分岐部や深部静脈との交通枝なども離断する場合もあります。
 小伏在静脈では膝窩部分で静脈の切離をします。
高位結紮術のみでは再発するリスクも高いために、後日硬化療法も併用する施設が多いそうです。最近はより根治性の高いレーザー治療やストリッピング手術をする施設が増えているそうです。
【ストリッピング手術(静脈抜去術)】
伏在静脈の拡張が高度で鼠径部での静脈径が8mm以上の場合に選択する施設が多いそうです。再発率が少なく、最もスタンダードな治療法です。
腰椎麻酔・硬膜外麻酔などが使われますが、最近では大量低濃度局所浸潤麻酔(TLA: tumescent local anesthesia)と静脈麻酔、大腿神経ブロックなどを併用して日帰り手術を行う施設も多いそうです。
《TLA・・・大伏在静脈に沿って、生理食塩水で希釈したキシロカインを大量に注入して浸潤麻酔を行う方式。長時間の鎮痛作用が保たれ安全に使用できるために日帰り手術の標準的な麻酔方法になっているそうです。》
高位結紮術を行ってから、下腿1/2の高さの大伏在静脈を露出させ、ここからストリッピングワイヤーを挿入し、鼠径部に出たワイヤーをヘッドに換えて抜去するBabcock法とワイヤーに静脈を結紮して、静脈を内翻させて引いて抜去する内翻ストリッピング法があるそうです。後者の方が神経障害や疼痛が少ないそうですが、抜去途中で静脈が断裂することもあるそうです。
小伏在静脈高位結紮術は腓腹神経障害を生じる恐れがあるので一般にはストリッピングは行われません。(あるいは限局的ストリッピングを施行。)
これは根治術ですが、術後5年で3~4割で他の表在静脈を介した再発を認めるとのことです。
伏在静脈を抜去して血行は大丈夫か、との心配される向きもありますが、他の血行路があり、問題ありません。ただし、深部静脈が閉塞していないことが前提になりますが。
【血管内焼灼術】
伏在静脈内腔にレーザーを照射して焼灼閉塞させる方法です。American Venous Forumでは血管内レーザー焼灼術が伏在静脈本幹治療の第一選択枝として推奨されています。欧米では1998年から、日本でも2002年から行われているそうです。
2011年からは980nmの半導体レーザーが保険認可され、その有効性が認知されだし、本邦でも第一選択となりつつあるとのことです。一般に日帰り手術が行われ、下肢圧迫療法をしたうえで歩行帰宅できるそうです。まれに術後、皮下出血、皮膚熱傷、DVT などが合併症として発生するそうです。
なお、上記以外の波長や高周波(ラジオ波)は保険適用がなく、自由診療となるそうです。
【硬化療法】
1994年に保険適用になり、2006年に硬化剤ポリドカノールが承認されました。硬化剤を直接静脈に注入して弾性包帯で圧迫します。(圧迫硬化療法)
最近は空気と混合して注入する泡状硬化療法、フォーム注入療法も行われています。
ただし、硬化療法は立位で径8mmを越える高度な伏在静脈瘤には単独での適応はありません。高位結紮術などとの併用が行われています。
クモの巣状静脈瘤や網目状静脈瘤、側枝型静脈瘤などの小静脈瘤には硬化療法や血管レーザー(Vbeam, Gentle YAG など)が用いられています。

一次性静脈瘤の治療方法はTLAなどの麻酔方法の進歩や血管内レーザー療法の進歩によって近年大きく変化、進歩してきているようです。
(詳しくは専門の血管外科、静脈瘤専門センターなどのHPを参照して下さい。)

【DVTの治療方法】
深部静脈血栓症による二次性静脈瘤については、深部静脈の還流障害によって表在静脈が側副血行路として拡張、蛇行したものですので、高位結紮術、ストリッピング術などを行うと、静脈血行路を遮断することになり、かえって静脈うっ滞を悪化させます。
従って、手術は原則禁忌です。ですから深部静脈の開存を血管エコーなどで術前に確認することが重要になっています。
◇圧迫療法
弾性ストッキングなどで下肢の静脈高血圧を改善し、腫脹の軽減化、血栓のさらなる防止、だるさなどの症状の改善が見込まれます。
◇抗凝固療法
DVTの急性期(約1週間)には肺塞栓が起こり易いとされています。入院の上、ヘパリン、ワーファリンなどの抗凝固療法が必要となります。
ヘパリン 初回 5000単位静注
        10000~15000単位を24時間持続点滴
その後APTT値をチェックしながら増減、経口抗凝固薬(ワーファリン)を使用。
◇血栓溶解療法
ウロキナーゼの持続的静脈内投与方法。血栓が遊離する危険性もあり限られた症例のみに使用されるそうです。また全身投与は大出血の危険性が高まるためにあまり行われないそうです。
◇下大静脈フィルター留置
下肢の血栓が肺に塞栓症を起こさないように腎静脈以下の下大静脈にフィルターを留置するもので、永久型と非永久型があるそうです。1~2週間ならば回収可能だそうです。
慢性期には、弾性ストッキングをきっちりと着用する習慣をつけることが重要です。むしろ長時間の安静、座位は避け動くほうが静脈流を活発にします。脱水状態にならないようにすることが肝要です。
またワーファリンを服用中はその作用に拮抗するビタミンKを含む食品を避ける必要があるそうです。
すなわちアロエ、青汁などの摂取は禁止となります。

参考文献
皮膚外科学 監修 日本皮膚外科学会 学研メディカル秀潤社 2010 東京
伊藤孝明 16 うっ滞性潰瘍・下肢静脈瘤 p540-549

日本医師会雑誌 第142巻・第9号 平成25年(2013)12月
特集 末梢動脈・静脈・リンパ管の病気update
長江恒幸、重松 宏:下肢静脈瘤の診断と治療 p1975-1979

駒井宏好、山尾 順:深部静脈血栓症の診断と治療 p1981-1984

日本皮膚科学会雑誌: 121(12), 2431-2448, 2011(平成23年)
日本皮膚科学会ガイドライン
創傷・熱傷ガイドライン委員会報告―5:下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン
伊藤孝明 ほか