顔面の真皮メラノサイトーシス

顔面の真皮メラノサイトーシス(Facial Dermal Melanocytosis: FDM)
対称性真皮メラノサイトーシス(Symmetrical Dermal Melanocytosis: SDM)

肝斑と紛らわしいのは、顔面の真皮メラノサイトーシス(FDM/SDM)です。これは欧米では真皮型の肝斑と記載されるほど専門家でも混乱があり、分かりにくい病態です。「シミと白斑最新診療ガイド」の中でも、専門の先生によって若干の考え、名称の違いもあります。
渡辺先生は顔面の真皮メラノサイトーシスの色素異常症を一まとめにして、太田母斑も含めて顔面真皮メラノサイトーシス(FDM)としたほうが理解しやすいと提唱しています。
一方、溝口先生は対称性真皮メラノサイトーシス(SDM)という名称を提唱しています。以前はADM( acquired dermal melanocytosis)という名称がよく使われていましたが、ADMという名称は、本症が遺伝的な要素が強く、思春期以降に発症する(遅発性)にしても後天性ではないために避けたい、と述べています。
《老人性色素斑は大小のシミが顔に一部の部分にでき、肝斑のように左右対称的にはできませんので、まず間違うことは少ないと思われます。》

以下に述べるようにさまざまな名称がこの病態に対し、提唱されてきましたが、FDMまたはSDMの両者が一番汎用されているようです。
【FDMの分類】                    渡辺による
・classical nevus of Ota
・café-au-lait macules-like nevus of Ota
・speckled nevus of Ota
・symmetrical type of nevus of Ota (Hidano)
・nevus fusco-caeruleus zygomaticus (Sun`s speckled nevus)
・acquired, bilateral nevus of Ota-like macules (Hori`s nevus)
・periorbital ring-shaped melanosis (panda-like nevus of Ota)
・infraorbital ring-shaped melanosis (dark ring under the eyes)

【SDMの分類】                溝口昌子、村上富美子による
和文名
両側性太田母斑(対称性群)             肥田野  1965
遅発性両側性太田母斑様色素沈着
後天性真皮メラノサイトーシス
顔面対称性後天性真皮メラノサイトーシス        金子  1988
肥田野・堀型真皮メラノサイトーシス          金子  1988
後天性対称性真皮メラノサイトーシス          村上  2004
対称性真皮メラノサイトーシス             溝口  2006
英文名
Acquired, bilateral nevus Ota-like macules Hori 1984
Nevus fusco-caeruleus zygomaticus Sun 1987
Acquired dermal melanocytosis(ADM)
Acquired symmetrical dermal melanocytosis of the face and extremities
Acquired symmetrical dermal melanocytosis Murakami 2005
Symmetrical dermal melanocytosis Mizoguti 2006

以上のようにさまざまな名称で主に日本人皮膚科医によって、研究報告されてきた疾患ですが、ほぼ同一の病変を示しています。

【FDM, SDMの病態、組織所見】
名前の通りに、皮膚の真皮に病変があります。そこに幼弱なメラノサイトが認められます。
表皮に病変がある肝斑とは、この点で全く異なります。欧米での肝斑の真皮型という概念は不適当と思われますが、国際的には学会でのコンセンサスはどうなのでしょうか。
<臨床症状>
頬、前額、鼻翼に多くみられます。個々の色素斑は米粒大の小斑が散在、癒合してみられますが、額では大きな斑状に左右対称性にみられることが多いです。
色調に濃淡はなく、褐色あるいは灰褐色調で、太田母斑のように青色調が混じることはほとんどないとされます。それは色素の部位が太田母斑より浅い、真皮浅層に位置しているからです。肝斑と違い、眼瞼部にも色素斑が生じることがあります。
また、太田母斑に認められる眼球や口蓋のメラノーシスはほとんど認められません。
<組織所見>
紡錘形のメラニン色素が充満した細胞が真皮上層に散在性にみられます。また炎症が生じるとメラノファージも認められます。メラニン色素を持たない幼弱メラノサイトも存在します。
病変の位置は太田母斑よりも真皮の上層にあります。従って色調も青色は無く、褐色から灰褐色を呈します。

【鑑別診断】
<肝斑>
一番問題となる疾患です。
・肝斑では眼瞼部には皮疹は無く、FDM/SDMでは眼瞼にも生じます。
・肝斑では、びまん性で境界が明らかで、色調が均一な褐色調の色素沈着ですが、FDM/SDMでは色が灰褐色や灰紫色で小型の色素斑がみられます。
・肝斑は紫外線によって悪化し、冬季は軽快します。FDM/SDMではその影響が少なく季節での変化は少ないです。。
・肝斑はハイドロキノン、美白剤などの効果がみられます。FDM/SDMでは効果がありません。
・逆に肝斑にはQスイッチレーザーは効果がなく、むしろ悪化しますが、FDM/SDMには効果があります。
・ウッド灯の色調の差異である程度の色素の深さが推定できますが、正確には病理組織所見の差異によります。
・SDMでは遮光しても効果がなく、加齢と共に少しずつ増悪していきます。
【治療】
正しく、診断がなされれば、Qスイッチルビーレーザーで治癒させることができます。
太田母斑と比較して、病変が真皮の上層にあり、またメラノサイトの数も少ないのでレーザー照射の回数も少なくてすみます。
 しかし、メラニン色素のない幼弱メラノサイトはレーザー照射後も生き残るために後日に成熟して色素斑が再発する可能性もあります。
                        (溝口昌子、村上富美子)
太田母斑を含めて、FDM/SDMの治療はQスイッチレーザーを用いて行われます。
使用するレーザーはQスイッチルビーレーザー、Qスイッチアレキサンドライトレーザー、QスイッチNd:YAGレーザーなどがあります。
外用麻酔剤、局所麻酔剤などによる表面麻酔後に照射します。
照射後皮膚色が白くなりますが、(immediate whitening)20分位で消失し、その後蕁麻疹様の浮腫性紅斑が生じます。翌日には腫れはかなり軽減しますが、眼の周りなどは皮下出血を生じることもあります。表皮の色素量が多いと糜爛、水疱を形成することもあります。やがて褐色の痂皮・落屑が形成され、7-10日で剥がれ落ちます。この時点で化粧は可能になります。その後大部分の人に炎症後色素沈着が起きますが、ピークは約1カ月で2-3ヵ月後には消退していきます。通常3-4カ月以上間隔をあけて治療を繰り返します。SDMの場合は回数は太田母斑に比べて少なくてすみます。(渡辺晋一)

真皮メラノサイトーシスは教本によって、さまざまな呼び名があり、学者によって考えも微妙に異なっているように思われます。欧米の肝斑の真皮型だというのは論外としても、古くは肥田野の太田母斑のⅣ型の対称型に始まり、堀らのNevus of Hori、金子らの顔面対称性後天性真皮メラノサイトーシス、後天性真皮メラノサイトーシス(ADM)、遅発性真皮メラノサイトーシス(堀、小野)などもあり、FDM,SDMなども合わせると小生の頭ではよく理解できません。
 ただ、重要なことは顔に対称的にできるシミのうち、肝斑や炎症後色素沈着に似ているけれど表皮には病変はなく、真皮の浅い所にメラニン色素のある主として中年の病気があり、Qスイッチレーザーで治りうるということで、肝斑との治療方法は全く異なるということでしょう。

参考文献
皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光    中山書店 2011
シミ疾患の病態と診断               渡辺晋一 p6
シミの鑑別診断                  渡辺晋一 p11
対称性真皮メラノサイトーシスの診断・鑑別診断・発症機序  
溝口昌子・村上富美子 p87

皮膚科診療カラーアトラス体系 3 色調異常 他
編集/鈴木啓之・神埼 保
太田母斑のレーザー療法     渡辺晋一  p47
遅発性真皮メラノサイトーシス   小野友道  p49