先日、第16回ダーモスコピー勉強会が開催されました。今回はハイブリッド形式なので、WEBで聴講しました。
でも早いもので、もう16回にもなるのかと感慨深いものがありました。
ダーモスコピーの講演会、勉強会はもう数えきれない程、聴講していますが、センスがないのか、記憶力が悪いのか、何回聴いてもマスターできません。大体講師の先生の出すクイズにはうまく引っかかって誤回答をするのが常です。講師の方もそれを狙って、間違いやすい例をクイズに出すからなのでしょうが、普通は経験と共に成長していくはずなのになー、と忸怩たる思いがあります。(今回はクイズ形式はありませんでしたが。)それはともかく。
今回久しぶりに、聴講し基本を再学習することができました。
ダーモスコピーは、ダーモスコープという一種の拡大鏡で皮膚表面の乱反射を取り除く工夫をして、表皮から真皮浅層の色素や血管や腫瘍などの分布や構造を観察する手法です。乱反射を取り除く方法には、エコージェルを皮膚に塗る方法と、偏光フィルターを付ける方法があります。
まず、色、色調について。大きく、黒色、赤色、白色、黄色があります。それに褐色、青色なども混ざってきますが。
これらの色の成り立ちを知っておくことが大切です。
🔷色調
【黒色~茶色(褐色)~青色】
これは主としてメラニン色素によってもたらされます。
表皮内・・・メラニン色素が多いと➡黒色(特に角層から有棘層)、 少ないと➡茶色(褐色)、色は明瞭
真皮内・・・メラニン色素が基底層から真皮内に入ると灰褐色となり、さらに深くなるとぼやけた灰青色となる。
血液が酸化して黒く見えることもありますが、よくみると赤色調があり(皮下出血、爪下出血など)
【赤色】
血液、血管
【白色】
光りの散乱、屈折効果(線維化細胞浸潤、表皮突起など)、石灰化、尿酸などの結晶、生理的物質としての角層
【黄色】
脂腺
組織球、泡沫細胞
いずれの色についても、形についても表皮では、彩度が高く、明瞭で、真皮深くになると彩度の低下によって暗く、ぼやけた色調、像になります。
🔷体の部位による色素の見え方
【体幹・四肢】
体では、表皮、真皮境界部にメラニン色素が存在しますが、真皮からは真皮乳頭が表皮側に突き出るようにまるで乳頭の剣山のように密集しています。一方、それを受けるように表皮側は網目状に穴が窪んでいて、網目状のネットワークを形成しています。色素性病変ではそこにメラニン色素が存在するので、メラニン量が多くなると網状色素ネットワークが形成されます。良性であれば、定型的色素ネットワークとなり、悪性化すれば非定型色素ネットワークとなります。非色素性病変で乳頭部に毛細血管拡張のある上皮性病変は淡紅白色ネットワークと点状・糸球体状血管を示します。
【顔面】
顔面では、表皮索は比較的フラットで、一方毛穴は密集しています。それで、表皮に色素沈着を生じ、毛包部が温存されて白色に抜けると偽ネットワークを生じます。ここでは白く抜けた部分は、真皮乳頭ではなく、毛包。
【掌蹠】
表皮索は基本的に平行に配列しています。よって色素性病変は基本的に平行パターンをとります。良性の母斑細胞は規則的な皮溝平行パターンをとります。一方、悪性黒色腫では不規則な皮丘平行パターンをとります。
足底の圧のかかり方の具合によって、線維状パターン、格子状パターンをとります。
🔷血管の長さ、形
病変が表皮肥厚を伴いながら増殖する場合には、真皮乳頭の血管を反映して、主に短い血管、点状血管、糸球体血管、ヘアピン様血管がみられます。一方、表皮直下にかたまった病変が存在すると、直上への血管が阻害されて、病変の周囲から上に入り込むような長い血管が形成されます。線状、蛇行状、樹枝状血管として観察されます。
これらの基本事項を元に悪性黒色腫(MM:Malignant melanoma)、基底細胞癌(BCE:Basal cell epithelioma)、有棘細胞癌(SCC:Squamous cell carcinoma)をはじめとし、様々な悪性腫瘍、良性腫瘍や炎症性疾患の診断基準、診断方法が考案されてきていますが、上記の点が最も重要とされています。何事も基本に立ち返ってみることの大切さを再確認できた講演会でした。
以下は、自分のつぶやきに似た思いです。(個人的な意見ですので、スルーしてください。)
*定型的と非定型的、対称性のある、なし、規則的かそうでないかの判断、見極めが今一わからない(こともままある)。
*時に脂漏性角化症とほぼ区別のつかない悪性黒色腫、毛細血管拡張性肉芽腫と区別のつかない無色素性悪性黒色腫がある。腫瘍を形成した黒い塊、赤い塊は注意してかからないと地雷を踏みそう。特にあえて特徴がなく、全体が単一の黒色、赤色では悪性像をスルーしがち。
*スピッツ母斑も要注意。子供の場合は心配ないが、中年以降のスピッツ母斑は要注意。よく講演でもMMとの鑑別困難な症例が提示される。
*爪の色素斑は発症年齢が重要。子供の爪の黒色線条では、臨床的に良性なのに、ダーモスコピーではまるでMM。
*”木を見て森を見ず”の格言通り、一部の所見を丸のみすると誤診に繋がる。MMでもmilia-like cystやcomedo-like openingはあるし、皮溝平行パターンも見られることもある。逆にカメムシ、黒癬、抗がん剤などで皮丘平行パターンもあり。
*人種によって色調は全く異なる。白人のBCEは殆ど黒い色素はないと。国際化時代では、外国人の患者さんに出会う機会も増えるので注意が必要
*疑わしい、迷ったときは生検するか、専門医に紹介し、セカンド・オピニオンを仰ぐ。多分大丈夫です。このまま様子を見ましょう、とは言わないこと。
*以前、足白癬の患者さんがあった。数ヶ月通っていて、ある時、まじまじと顔をみたら、しっかりBCCらしい黒点があった。これも木を見て森を見ず、の類だろうか。
参考文献
標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2020
田中 勝 第6章 ダーモスコピー pp73-82
斎田俊明 ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 南江堂 東京 2012
大原國章 大原アトラス 1 ダーモスコピー 秀潤社 東京 2014