皮膚B細胞リンパ腫(低悪性度群)

悪性リンパ腫全体では、B細胞系が85%, T細胞系が10%,ホジキンリンパ腫が5-10%程度とB細胞系のものが多いのですが、皮膚のリンパ腫はT細胞系が多く、B細胞系は少なくおよそT細胞系の1/7~1/6の頻度(皮膚リンパ腫の10%程度を占める)とされます。
大きく予後良好な(indolent)な群と、予後の悪い(aggressive)な群に分けられます。(Burkitt lymphomaは進行が極めて速く高度アグレッシブ群に分類されます。)
予後良好な群には、粘膜関連リンパ組織節外性辺縁帯(MALTリンパ腫)(Extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue)、原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(Primary cutaneous follicle center lymphoma)。EBV陽性粘膜皮膚潰瘍(EBV+mucocutaneous ulcer)が含まれ、予後不良な群には原発性皮膚びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、下肢型(Primary cutaneous diffuse large B-cell lymphoma,leg type)と血管内大細胞型B細胞リンパ腫(Intravascular large B-cell lymphoma)が含まれます。
ここでは前者の予後良好な群について調べて書いてみたいと思います。

<皮膚B細胞リンパ腫(インドレントタイプ)>

🔷MALTリンパ腫(粘膜関連リンパ組織節外性辺縁帯リンパ腫)
原発性皮膚辺縁帯B細胞リンパ腫(primary cutaneous marginal zone B-cell lymphoma;PCMZL)は2005年のWHO-EORTC分類では独立した疾患単位として記載されていましたが、2008年改訂版では、MALTリンパ腫の一つとしてまとめられました。一方、2018年改訂版では、やはりPCMZLを包括させず、独立させています。
その理由は2サブセットに分けることができるからとのことです(詳細割愛)。
MARTリンパ腫はB細胞から形質細胞への分化過程にあり、従来はimmunocytomaとも呼ばれました。その85%は胃にみられ、Helicobacter pyloriに関連がみられますが、皮膚のMARTリンパ腫は11%を占め、H.pyroliに関連しません。5年生存率は95%以上(100%近く)と予後良好です。
頭頚部、上半身に好発し、時に四肢など他部位にもみられます。紅色調の小結節や局面、さらに皮下腫瘍として発症しますが、臨床診断は難しく病理診断で確定されます。(特にB細胞リンパ腫は臨床診断よりも病理診断の頻度、重要度が高いとされます。)
表皮と真皮内病変との間にGrenz Zone(clear zone)という一定の幅の正常な真皮成分が存在します。真皮から皮下組織にかけて結節性あるいはびまん性に腫瘍細胞が浸潤します。腫瘍細胞は胚中心を通過した濾胞辺縁帯部の成熟B細胞から形質細胞に相当し、小型から中型のcentrocyte様の淡く広い細胞質を有します。形質細胞、組織球、好酸球などの多彩な細胞浸潤があり、しばしば濾胞形成を認めます。
B細胞ではCD20, CD79a, bcl-2が陽性、CD5, CD10, bcl-6は陰性です。
 顔面などに好発する偽リンパ腫との鑑別が臨床、組織的にも困難なケースが時にみられます。偽リンパ腫では通常top heavyであり、CD20,CD79aが陽性であっても、軽鎖制限はなく、免疫グロブリンの単クローン性再構成を示しません。

🔷原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(Primary cutaneous follicle center lymphoma: PCFCL)
PCFCLは皮膚B細胞リンパ腫のなかでは最も多く、約半数を占めます。5年生存率は95%以上と予後良好です。
臨床像は限局性の硬い紫紅色局面、結節、腫瘤で、一部では多発することもあります。頭頚部に好発しますが、躯幹、下肢に生じることもあります。臨床像のみで診断をつけることは困難で、病理診断となります。
表皮と真皮内病変との間にGrenz Zone(clear zone)が存在します。腫瘍は真皮全層に結節状あるいはびまん性に浸潤を認めます。皮下脂肪織にまで及ぶこともあります。mantle zoneは萎縮ないし欠如します。腫瘍細胞の由来が濾胞中心細胞であることによって命名されたもので、必ずしも濾胞形成がみられる訳ではありません。
腫瘍細胞はmarginal zone の一つ手前の、濾胞内での分裂増殖が終わったB細胞であるcentrocyte(胚中心細胞)に由来します。胞体の広い大型細胞で、中型濃染核、あるいは棒状でくびれのある核を持ち、使用後のおしぼりの様に多様な核を持つと表現されます(今山修平 皮膚病理イラストレイテッド2.免疫染色)。CD20, CD79a, bcl-6が陽性、CD10, bcl-2は陰性のことが多いです。centroblast(胚中心芽細胞、大型で核小体の明瞭な明るい細胞)も一定の割合で混在してみられます。時にアグレッシブなDLBCLとの鑑別が問題となる場合がありますが、小型のB細胞、T細胞の介在や免疫染色で鑑別できるとされます。

🔷EBV陽性皮膚粘膜潰瘍(EBV-positive mucocutaneous ulcer: EBVMCU)
粘膜、皮膚に浅く境界明瞭な不整形潰瘍を形成するリンパ増殖症です。医原性免疫抑制、加齢、HIV感染、移植などに伴う免疫低下によって発症します。70歳台の高齢者が多いですが、免疫抑制投与歴のある患者さんでは60歳台とやや若年発症の傾向があります。発症部位は口腔、口囲などの口腔付近が最も多いですが、その他の皮膚や消化管の発症もあります。真皮内に小型のリンパ球、centroblast, immunoblast, 形質細胞、組織球などの多彩な細胞浸潤があり、大型異型核を有するReed-Sternberg様細胞が混在します。RS様細胞はCD20の発現は減弱することがあるものの、CD79a, PAX5, Oct-2は高率に陽性であり、B細胞の表面形質を示します。CD15は一部の細胞のみ陽性で、CD30, EBERは全例陽性です。
メトトレキサートなどの免疫抑制剤投与例は減量、中止によって自然消退します。ほとんどの例が自然消退しますが、消退しない場合は、放射線照射、リツキシマブの単剤投与、抗がん剤化学療法が検討されます。

<治療>
インドーレント型、PCMZL,PCFCLの治療の第一選択は外科的切除や放射線療法といったskin-directed therapy(SDT)です。ただし、生検後に自然消退することもあり、その場合は追加治療は不要です。増大傾向が乏しい場合は経過観察、ステロイド外用・局注などが選択されます。一方、多発した場合や広範囲に病変が拡大、再発、皮膚外への拡大などの場合はリツキシマブ単剤投与、多剤併用化学療法が検討されます。

◎B細胞系マーカー(斎田俊明 皮膚病理組織診断学入門 p23より一部抜粋)

CD5: T細胞、B細胞のごく一部
CD10(CALLA): リンパ濾胞内胚中心のB細胞、前駆リンパ球など<濾胞性リンパ腫、異型線維黄色腫>
CD20: B細胞<B細胞リンパ腫>
CD79a: B細胞、形質細胞<B細胞リンパ腫>
bcl-2: リンパ濾胞胚中心を除くB細胞、T細胞<濾胞性リンパ腫(反応性胚中心では発現低下>
bcl-6: リンパ濾胞中心のB細胞<濾胞性リンパ腫>
MUM1/IRF-4: 非胚中心B細胞<びまん性大細胞型B細胞リンパ腫>
κ鎖: Igのκ鎖<light chain restrictionの判定>
λ鎖: Igのλ鎖<light chain restrictionの判定>

参考文献

皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン改訂委員会 皮膚リンパ腫診療ガイドライングループ 委員長 菅谷 誠 日皮会誌 130(6),1347-1423,2020(令和2)

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
宮垣朝光 皮膚B細胞リンパ腫 pp842-843

皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎岩月啓氏 中山書店 東京 2012
濱田利久 36 粘膜関連リンパ組織の節外性辺縁帯リンパ腫(extranodal marginal zone lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissue) pp158-161

藤井一恭 37 原発性皮膚濾胞中心リンパ腫(primary cutaneous follicle center lymphoma) pp162-165

平井陽至、岩月啓氏 41 免疫不全を基盤に生じるリンパ腫 pp176-178

斎田俊明 皮膚病理組織診断学入門 改訂第3版 南江堂 東京 2017
各論29 Cutaneous B-cell lymphoma(Marginal zone lymphoma, Follicular center lymphoma, Diffuse large B-cell lymphoma) pp74-75