NK細胞増殖症は、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型と皮膚型慢性活動性Epstein-Barrウイルス(EBV)感染症(種痘様水疱症様リンパ増殖異常症、重症蚊刺アレルギー)に大別されます。いずれもEBV関連の疾患で、本邦を含む東アジアや中南米に好発します。
EBウイルスはヘルペスウイルス科のherpes virus 4に属するDNA virusで成人の90%以上が感染している普遍的なウイルスです。多くの健常人ではEBウイルスに感染しても生涯にわたって体内で潜伏感染し、EBウイルス関連の悪性腫瘍を発症することはありません。EBV初感染時に伝染性単核球症を発症する人は一部の宿主です。ごくまれに以下のような重篤な疾患、悪性腫瘍を引き起こします。EBV receptorがBリンパ球上のCD21であることから最も親和性が高いBリンパ球が感染の主体ですが、Tリンパ球、natural killer(NK)細胞などにも感染し、NK/T細胞リンパ腫を引き起こします。
🔷節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型
【臨床】
以前は進行性鼻壊疽、致死性正中肉芽腫症などとよばれていました。稀な型の悪性リンパ腫で東アジア、中南米に好発します。ほぼ全例で、腫瘍細胞にEBウイルスが潜伏感染しています。
鼻腔、咽頭などの上気道に好発しますが、皮膚原発もあります。鼻腔・上気道原発例では、頭蓋内や中枢神経への浸潤に注意し、CT、MRI、PET-CTなどでの評価を行います。皮膚では単発、多発例があり、壊死、潰瘍、皮下硬結、局面、腫瘤、紫斑などを形成し、臨床症状は多彩です。発熱、全身倦怠感、リンパ節腫脹などを伴い、合併症として血球貪食症候群、播種状血管内凝固症候群を生じやすいです。
【病理組織】
血管中心性(血管破壊性)に腫瘍細胞の浸潤を認めます。以前angiocentric lymphomaと呼ばれたように腫瘍細胞は血管中心性の増殖パターンを示し、大小さまざまあり、表皮向性を示すこともありますが、真皮浅層から深層、また皮下脂肪織まで浸潤を示し壊死をきたすことも多いです。腫瘍細胞に加えて多様性に富むさまざまな炎症細胞(リンパ球、形質細胞、組織球、好酸球など)浸潤を認めます。それゆえ、病理組織は急性痘瘡状粃糠疹に似る場合もあります。スタンプ標本を用いたGiemsa染色では細胞質内にアズール顆粒を認めます。
【免疫組織】
腫瘍細胞がNK細胞由来のものはCD56陽性です。CD2,cytoplasmic CD3(cCD3)は陽性のことが多く、CD4,CD8は一部で陽性。CD16は多くが陰性。TIA-1, perforin, granzyme Bなどの細胞傷害性分子が陽性を示します。
T細胞由来のものでは、CD3陽性、CD56陰性で細胞傷害性分子は陽性を示します。
【ウイルス検査】
EBER in situ hybridizationで、組織片上の腫瘍細胞がEBV遺伝子産物のEBER(EBV-encoded small RNA)が陽性であることを確認。
組織DNAを用いたサザンブロット法でEBVのクロナリティーを確認。
【血液検査】
EBV抗体価高値、VCA-IgG >640倍 EA-DR IgG >160倍 EBNA抗体 陰性~正常 sIL-2R上昇 LDH上昇
【治療】
限局型では放射線と化学療法を組み合わせたRT-DeVIC療法が最も治療成績がよいとされています。
多発性病変を認める場合は予後不良で5年生存率は40%以下とされます。化学療法、造血幹細胞移植療法などが検討されますが、血液内科など専門機関での治療が必要です。
🔷種痘様水疱症様リンパ増殖異常症(古典型および全身型種痘様水疱症)
小児に生じ、多くは成人期までに自然寛解する予後良好な古典型種痘様水疱症(classical Hydroa vacciniforme: cHV)と発熱などの全身症状を伴う予後不良な全身型種痘様水疱症(systemic hydroa vacciniforme: sHV)の2つの病型があります。cHVは広く全世界にみられますが、sHVは東南アジア、日本、韓国、中国と中南米にみられ、成人・高齢者発症例もあります。共にEBウイルスに関連した稀な光線過敏症です。EBV感染T細胞が皮膚病変部および末梢血に認められ、cHVとsHVの両病型を合わせて種痘様水疱症様リンパ増殖異常症と称されます。
【臨床】
古典型は主として、幼小児の紫外線暴露後に、頬部、前額部、耳介、手背にヘルペスに似た小水疱、中心臍窩のある水疱性丘疹を形成し、やがて痂皮を形成し、浅い瘢痕を残して治癒しますが、繰り返して再発します。また同時に結膜充血、口唇や歯肉のアフタ性口内炎をみることもあります。多くは成人期までには自然治癒します。全身症状はなく、血液検査で異常は認めませんが、末梢血にはEBV感染γδT細胞が増加しており、(リンパ球の5%以上)、EBV DNA量が増加しています。
一方、全身型は個疹は古典型よりもやや大きく浸潤を深く触れ、周囲に浮腫を伴い露光部以外にも見られます。発熱、リンパ節腫脹、肝障害などを伴い、また腹部症状を伴い腸管粘膜にびらんを認めることもあります。古典型の平均発症年齢が9.6歳、全身型では18.5歳と後者では高く、成人発症例もみられます。
血液中にはEBウイルスが感染したαβT細胞およびγδT細胞の増加を伴うことが多いですがNK細胞が優位に増加する場合もあります。この場合は重症蚊刺アレルギーを合併することがあります。慢性活動性EBV病・感染症(CAEBV)と包括され、全身症状を繰り返してEBV関連血液貪食性リンパ組織球症、T/NK細胞リンパ腫/白血病への発症リスクが高く予後は不良です。(診断後10年で50%が死の転帰をとる)。
(岡山大学では病変部の痂皮よりRNAを抽出し、RT-PCR法により非侵襲的に患者の皮膚病変部からEBV-encoded small RNA(EBER)を確認することも可能とのことです。(三宅智子)。(材料は常温で月単位での保存も可能とのことです。)
【治療】
古典型では成人期に自然治癒しますので(稀にはは全身型に移行)、サンスクリーン剤による遮光、ステロイド外用剤、定期的な受診を行います。
全身型ではCAEBV治療に準じて、化学療法や造血幹細胞移植治療が施行されますが、専門の血液内科、小児科へのコンサルトを検討します。
🔷重症蚊刺アレルギー
従来は「蚊刺過敏症」と記載されていました。現在では、この疾患はEBV感染を伴ったリンパ腫やリンパ増殖異常症の関連疾患ということが明らかになり、種痘様リンパ増殖異常症や慢性活動性EBウイルス病と同一スペクトラムに位置づけられています。
EBウイルスは全世界に分布し、成人の95%以上が既感染と考えられています。一方重症蚊刺アレルギーや全身型種痘様水疱症、慢性活動性EBウイルス病などは本邦を含む東南アジアと南米の一部地域に発症が限定されていて、欧米ではほぼみられません。
【臨床】
小児~若年者に発症する非常に稀なEBウイルス関連疾患で、蚊刺部位に引き続いて局所の発赤腫脹を生じ(手掌大よりも広範囲)、壊死~深い潰瘍を形成する強い局所反応と、高熱やリンパ節腫脹、肝機能障害などの全身症状を呈します。慢性活動性EBウイルス病の診断基準を満たすこともあり、この両者は鑑別が難しいこともあります。蚊刺などの誘因がなければ、無症状に経過します。誘因は蚊刺が多いですが、他の虫刺(ブユなど)やワクチン接種を契機に発症することがあります。
【診断】
1)上記臨床症状
2)皮疹部にEBV感染細胞あるいはEBウイルス関連遺伝子を証明できる。
3)血液中にEBV DNA量が有意に上昇している。
4)末梢血中に大顆粒リンパ球またはNK細胞の増加を認める。
5)既知のアレルギー機序や基礎疾患に伴う皮膚反応を除外できる。
診断基準では
definite: 1)~5)のすべてを満たすこと。
probable: 1)を満たし、2)4)のいずれかまたは両方が証明されること。
possible: 1)を満たし、3)が証明されること。
<補足条項>
皮膚生検を用いたEBER陽性細胞検出が標準的だが、生検が難しいときには痂皮や病変部皮膚組織を用いたRT-PCR法によるEBER検出が代用できる。
リアルタイムPCR法を用いて全血のEBウイルスDNAを定量した場合、一般に10,000IU/ml(4.0LogIU/ml)以上が1つの目安になる。
末梢血フローサイトメトリー検査では、重症蚊刺アレルギー患者のNK細胞分画は、通常、リンパ球数の30%以上に増加している。
経過中に、重症蚊刺アレルギー患者がCAEBVの全身症状や血球貪食性リンパ組織球症を合併することや、節外性NK/T細胞リンパ腫ー鼻型やアグレッシブNK細胞白血病に進行することがある。
本邦における年間罹患者数は50~100人程度と推定されています。臨床経過は様々ですが、全体としては予後は不良です。同種造血幹細胞移植を受けない場合の生存率は5年で50%、15年で25%程度とされます。同種幹細胞移植を行った患者群で3年生存率が87.3%という報告もあります。予後不良因子は移植時の年齢、疾患活動性、高可溶性IL-2受容体血症であるとされ、疾患活動性がコントロールされている時期での強度減弱処置による同種幹細胞移植が推奨されます。
参考文献
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皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
三宅智子 Ⅸ 物理的・化学的皮膚障害 3 種痘様水疱症 pp123
島内隆寿 ⅩⅦ 腫瘍性疾患 C リンパ腫 4 NK細胞増殖症 pp258
濱田利久 特集 日常診療に潜むリンパ腫・リンパ増殖性疾患ーリンパ腫との鑑別が問題になる関連疾患ー
4.重症蚊刺アレルギーとEBウイルス関連リンパ増殖異常症 皮膚臨床 65(12);1776~1783,2023
今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京 2022
岩月啓氏 種痘様水疱症 pp660
平井陽至 EBウイルス関連リンパ腫とNK細胞リンパ腫 pp843-846
皮膚科臨床アセット 13 皮膚のリンパ腫 最新分類に基づく診療ガイド 総編集◎古江増隆 専門編集◎岩月啓氏 中山書店 東京
2012
山本剛伸 30 節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻型 pp137-140
平井陽至、岩月啓氏 31 種痘様水疱症様リンパ腫 pp141-144