毛孔性苔癬・顔面毛孔性紅斑黒皮症

 🔷毛孔性苔癬(Lichen Pilaris)
毛孔性苔癬は欧米ではKeratosis pilaris(毛孔性角化症)と呼ばれるようです。毛孔一致性の1mm程度の角化性丘疹が四肢中枢部の伸側や臀部などに散在ないしは集簇して多発します。ときに周囲に紅斑を伴ってかゆみを生じることもありますが、一般的には自覚症状はありません。
 ごくありふれた疾患でサメ肌、トリ肌、おろし金様と形容されます。女性に多く、小児期に発症し、思春期に目立ってきますが、成人(中年期以降)になると、徐々に軽快、消退してくるケースも多いです。家族歴を有することが多く、不完全浸透の常染色体顕性遺伝とされています。ただ思春期以降の日本人の半数近くに多少の毛孔性苔癬の所見があり、これは皮膚病というよりは肌質であり、気にならなければ必ずしも治療は要しません。
 肥満者で目立ち易く、アトピー性皮膚炎や尋常性魚鱗癬に合併していることもあります。またI型糖尿病、ダウン症候群でもみられます。
 さらに近年メラノーマの治療に用いられるRAS/MAPKシグナル伝達経路のBRAF遺伝子を阻害するBRAF阻害薬やチロシンキナーゼなどの分子標的薬の副作用としても毛孔性苔癬がみられることが明らかになってきました(この経路でRASやRAFなどに遺伝子異常を有する場合は経路が常に活性化され、細胞の異常増殖をきたす。メラノーマではRAFのタイプのうち、BRAF遺伝子に変異が見られることがある。)また、Noonan症候群やcardio-facio-cutaneous(CFC)症候群(心奇形、特異顔貌、骨格異常、知的障害といった多系統の組織に機能・形成異常を引き起こす先天性疾患群でRAS/MAPK経路の活性化異常がある)など一部のRASopathy関連の疾患群でも毛孔性角化がみられこの経路の過剰活性化が発症に関与していることがうかがわれます。
🔷顔面毛包性紅斑黒皮症(Erythromelanosis follicularis faciei)
耳前部から頬部、側頸部にかけて比較的境界明瞭な紅褐色局面を生じます。微細な毛細血管拡張を伴います。局面内には毛孔一致性の角化性丘疹が多発して細顆粒状を呈します。黄色人種の青年に好発しますが、時に女子にも発症します。しばしば毛孔性苔癬を合併するのでその一異型ともみられています。加齢とともに自然消退傾向を示します。

 治療の希望は若年女性の整容的な訴えによることが多いようです。まずは多くの人にみられる肌質であること、冬季に悪化するが年齢とともに自然に消退していくこと、外用による角化への対症療法が主で、止めれば再発し易いことなどを理解してもらいます。これらを勘案しながら、希望があれば日常的なスキンケア、角化を軽快させるサリチル酸や尿素製剤などの角質溶解薬の外用など無理のないマイルドな治療を行っていきます。活性型ビタミンD3製剤、レチノイド製剤の外用も行われていますが効果は不定です。それでも治療満足度が少なければ、保険適用外ながら乳酸など各種製剤によるケミカルピーリング、Qスイッチレーザーや、フラクショナルCO2レーザー照射などが美容皮膚科などで施行されているようです。

参考文献

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
朝比奈昭彦 XVII 腫瘍性疾患 A 上皮性腫瘍 3 毛孔性苔癬、顔面毛包性黒皮症 pp167

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
川村龍吉 XIV 角化症 A 上皮性腫瘍 3 毛孔性苔癬、顔面毛包性黒皮症 pp170

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 医学書院 東京2022
高橋健造 8章 角化症 毛孔性苔癬 pp420-422

汗孔角化症

四肢、顔面時に外陰部に円形から楕円形の環状隆起を示す角化性堤防状皮疹を認めます。但し、体幹部などにもみられることもあります。中央部皮膚は萎縮性でわずかに陥凹し、黒褐色丘疹として始まり、次第に遠心性に拡大し、自覚症はないか、軽度の痒みがあります。単発することも多発することもあり、その形状、数などによって臨床的に数種類に分類されますが、根本的な差異についてはあまりないとの考えもあります。
臨床分類
1)古典型 Mibelli型: 四肢、体幹、時に顔面に皮疹が散在する型。掌蹠では点状角化。口唇、口腔、亀頭にも生じます。幼少時より生じ、単発または数個です。
2)限局型: 限局性に少数個を生じます。臀部、下肢に好発します。時に5㎝以上の単発巨大な皮疹を呈する場合もあります。
3)線状型; 生下時から幼少期に生じます。下肢に好発します。線状ないし帯状に生じますが、時に融合して局面を形成します。
4)表在播種型; 全身に播種状に生じます。融合して巨大な局面を形成することもあります。
5)日光表在播種型: 30歳以降の成人の日光露光部に比較的小型の皮疹が播種状に多発します。紫外線によって誘発されるものと考えられています。
6)掌蹠播種型:掌蹠に播種状に多発する小角化性丘疹を認めます。

時に(約10%)が有棘細胞癌、ボーエン病、基底細胞癌などの悪性腫瘍を続発します。日光、放射線、外傷などの刺激、熱傷などが誘因になり得ます。表在播種型(29%)、限局型(20%)、線状型(17%)などは高率に悪性腫瘍を発症するとされます。
 このように汗孔角化症は高発癌性遺伝性疾患といえます。
 病理組織所見では辺縁隆起部に表皮肥厚、角質増生があり、その間に周囲角層より明るい不全角化円柱(cornoid lamella)が介在します。その下の顆粒層は欠落し、核濃縮、核周囲浮腫、好酸性原形質などの角化異常がみられます。また真皮にはリンパ球浸潤を認めます。皮疹辺縁部をマーカーペンで塗りつぶし、アルコールで拭き取ると、皮疹辺縁部から中央に向かって斜めに聳えるcornoid lamellaの部分にたまったインクが残りダーモスコピーなどで可視化できるそうです。
 治療は最も確実なのは外科的に切除する方法ですが、多発性の場合などは適用できません。その際にはビタミンD3、サリチル酸ワセリン、イミキモド、ステロイドの外用などを行いますが効果は不定です。またエトレチネートの内服療法も古くから行われてきていますが、催奇形性などの副作用に注意が必要です。
 近年はレーザー療法も試みられています。

 汗孔角化症の原因については近年神戸大学、久保らの精力的な研究成果があります。すなわち、同症はメバロン酸経路の膜貫通蛋白をコードする遺伝子(MVK, PMVK, MVD, FDPS)とSLC17A9の遺伝子変異がみつかっています。遺伝例は常染色体顕性(優性)遺伝で限局的に異常角化をきたす表皮クローンが存在し、前記の生後様々な誘因によるセカンドヒットによって発症することが示されました。(原因遺伝子の1つが生まれつき欠失していても、もう一つの相同遺伝子が働いているために汗孔角化症を発症しまっせん。ちなみにこれらの遺伝子異常は日本人では400人に一人が持っているとされそれ程稀れな頻度ではありません。)
 また昨年(2024年)、前記原因の他に胎生期に生じたエピゲノム異常により(DNA変異はない)遺伝子の働きのスイッチがオフになり、遺伝子FDFT1の発現が消失した皮膚に強い炎症と過角化をともなう汗孔角化症の病変が生じることが発見されました。またこの皮疹はスタチン外用治療により軽快しました。
 久保らは胎生期に生じたエピゲノム異常によって生じる皮膚病を初めて発見しました。同じ仕組みで起こる病気としては他に、大腸がんを引き起こすリンチ症候群が知られている程度です。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 3 その他の角化症 5.汗孔角化症 pp360

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
多田弥生 XVII 腫瘍性疾患 A 上皮性腫瘍 8 汗孔角化症 pp243

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
伊藤明子 XVII 腫瘍性疾患 A 上皮性腫瘍 9 汗孔角化症 pp245

皮膚病の要因となるエピゲノム異常を初めて発見ー汗孔角化症の新しい発症メカニズムと原因遺伝子を解明ー
久保亮治、中林一彦、齋藤苑子 ほか 神戸大学、慶應義塾大学、国立成育医療センター Press Release 2024年4月17日

鶏眼(うおのめ)・胼胝(たこ)

後天性の角化症にも種々のものがありますが、日常外来で最も多くみられるのが鶏眼(うおのめ)、胼胝(たこ)でしょう。いずれも機械的な外力の反復する部位に、防御機転として生じる限局性の角質増殖です。
🔷胼胝(胼胝腫)(たこ)
 俗にペンだこ、座りだこ、鉄棒まめ、靴擦れだこ、などと呼称されるようにスポーツ、職業、習慣などによって長期間に亘って反復的、間欠的に圧迫、摩擦などの機械的な刺激が加わることによって生じます。刺激部位に淡黄色・扁平のやや楕円形の隆起した角質増殖性局面が見られます。好発部位は手掌、足底で下床に骨のある部位に多いですが、同様の機転があれば全身のどこにでも生じえます。
 仙骨部では尾骨の変形や自転車などの慢性的な刺激により瘤状に隆起することがあります。またバイオリン・ビオラ奏者などの側顎部に限局して生じる硬結・苔癬化・色素沈着などもこの一種ですがfiddler’s neckとも呼ばれます。
 胼胝は鶏眼と異なり、角質増殖の底面はほぼ水平ですので一般に痛みは生じません。スピール膏を病変部より少し小さめに切って貼り、ずれないようにテープ等で固定して数日後、角質が軟化したところをメス、カミソリ、専用のカッターなどで除去します。前処置なしで削ることもあります。
角質による圧迫で真皮が障害されたり。浸軟、内部が空洞化潰瘍化したような場合は壊死組織を取り除き抗潰瘍療法を行うこともあります。
 削りにくい部位などにはサリチル酸ワセリンを1~2回/日塗布します。

🔷鶏眼(うおのめ)
 下床に骨を有する部位に長期間圧迫が加わったことによって生じます。肥厚した角質が病変の中央部で円錐状に下方へ突出するような形態をとり、これがいわゆる”め”の部分にあたります。淡黄色半透明の色調で、好発部位は足底、特に第1趾や第5趾の中足趾節関節部や踵部で、また足趾先端部分、第5趾外側縁、第4,5足趾間などに好発します。”め”が真皮方向に垂直に突き刺さるような圧が加わるために歩行時などに激痛を伴います。
典型的なものでは肉眼、ルーペなどで中央部に半透明な角質柱”め”を認めることで容易に診断できます。鶏眼の場合ウイルス性いぼ(尋常性疣贅)との鑑別が最も重要です。いぼの場合は角化部表面を削っていくと点状の血管がみられます。ダーモスコピー像でより明らかになります。小児が魚の目として受診した場合はほとんどが尋常性疣贅です。手掌、足底に孤立性に生じるドーム状、噴火口状の小結節で蟻塚様の外観を呈するいぼをミルメシアと呼び幼少児に好発します。HPV-1型のウイルス感染ですが、鶏眼との鑑別に注意を要します。
足底に鶏眼あるいは疣贅状の点状の角化が多数みられる場合は点状掌蹠角化症、Cowden病なども鑑別として考える必要があります。

 治療はメスや魚の目カッター、眼科剪刀などで円錐状の角化部分を出血しないレベルで除去します。横から圧迫し、中央部分を持ち上げるように剪刀でくり抜くと行い易いです。
 予防的には足の大きさ・形に合った靴を選ぶ、足先にやや余裕があり、靴の中で足が動かないように足首で紐などで固定できるタイプのものが良いです。また病変部を除圧する中敷きや、趾間を広げるドーナツ状のクッション、シリコンパットなども効果的です。

参考文献

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024  編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2023
米田耕造 XIV 角化症 5 鶏眼(うおのめ)、胼胝(たこ) pp 172

皮膚疾患 最新の治療 2025-2026  編集 高橋建造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
井上卓也 XIII 角化症 5 鶏眼(うおのめ)、胼胝(たこ) pp 170

Darier病、Hailey-Hailey病

Darier病、Hailey-Hailey病は皮膚カルシウムポンプ病として分類される遺伝性角化症で、細胞のカルシウムポンプの機能不全により、病理組織学的に棘融解をきたす難治性疾患です。

🔷Darier病
常染色体顕性(優性)遺伝で家族性に発症しますが、突然変異でも発症します。やや男子に多いです。
細胞内カルシウム濃度を調節するSERC A2(sarco-endoplasmic reticulum calcium ATPase type 2 isoform)をコードする遺伝子ATP2A2に変異があり発症します。
 一般に小児期に発症しますが、青年期に発症する例もあります。主として脂漏部位、発汗性間擦部位(頭頚部、胸背部、腹部、乳房下、腋窩、鼠径部など)に好発します。数mmの暗褐色角化性丘疹が多発、集簇して表面に鱗屑や痂皮を伴います。しばしば湿潤して悪臭、痒みを伴います。腋窩、陰股部などの湿潤した間擦部では個疹は融合して乳頭状、コンジローマ様の増殖をきたし、時に水疱を形成します。時に手足にイボ状角化性局面を形成します。爪甲の変化、口腔粘膜の白色丘疹、舌の絨毛化、食道壁肥厚、精神神経症状(発達遅滞、てんかん、統合失調症など)を伴うこともあります。
夏季に悪化します。紫外線、発汗、機械的刺激などが悪化因子となります。真菌、細菌、ウイルス感染などに罹りやすいので注意が必要です。
 病理組織所見では、異常角化(dyskeratosis):円形体(corps ronds),顆粒(grains)と表皮基底層から上方の棘融解、表皮内裂隙形成がみられ、真皮乳頭が上方に伸び間隙中に突出して絨毛(villi)を形成します。
 難治性ですが、レチノイド、ビタミンD3,サリチル酸ワセリン、尿素軟膏などが用いられています。また各種感染症に対する治療も必要ですが、炎症部位にはステロイド剤の外用も用いられています。

🔷Hailey-Hailey病
別名で家族性良性慢性天疱瘡とも呼称され、先天性水疱症の一群として分類されることもありますが、Golgi装置のカルシウムポンプ遺伝子であるATP2C1(遺伝子産物SPCA1)の変異であることが判明し、カルシウムポンプ病である先のDarier病と近縁の疾患とされています。
思春期から青年期に発症します。主として頸部、腋窩、陰股部、肛門周囲など汗をかき易く刺激を受けやすい間擦部に発症します。紅斑上に水疱を生じ、痂皮、膿疱、びらん、色素沈着をきたし一見膿痂疹様の外観を呈します。軽快、増悪を繰り返しますが慢性に経過します。高温、発汗、紫外線、機械的刺激、感染などが悪化因子となります。
 病理組織上では基底層直上で表皮内間隙を形成し、裂隙内で棘融解細胞が緩く結合し、崩れかけた煉瓦の壁状(dilapidated brick wall)と形容されます。その間隙に延長した真皮乳頭が突出し、絨毛(villi)を形成します。まれに異常角化細胞をみますが、Darier病ほど著明ではありません。
 治療はDarier病に準じます。

🔷Transient acantholytic dermatosis
一過性に上記に似た病態をとる疾患に対してつけられた病名です。(Grover 1971)
一過性に(数週~数年)丘疹・小水疱が体幹・四肢近位に生じ、掻痒があります。時にびらん、痂皮を伴います。限局性の棘融解を伴います。
臨床型、病型により、天疱瘡型、Darier型、Hailey-Hailey型、落葉状天疱瘡型、海綿状態型に分けられます。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
秋山真志 XIV 角化症 4 Darier病, Hailey-Hailey病 pp171

掌蹠角化症

 掌蹠角化症は掌蹠を中心に紅斑や過角化を呈する疾患群です。遺伝性、先天性のタイプは掌蹠皮膚に発現する各種の関連遺伝子の変異により角質増生を生じます。皮膚症状以外に種々の他臓器の随伴症状(難聴、歯周炎、心筋症、易発がん性、外胚葉形成不全など)を伴う場合は症候性掌蹠角化症(掌蹠角化症症候群)と呼びます。
 掌蹠角化症は遺伝性であり、手掌と足底に高度な過角化が生じます。これまで臨床像、病理所見、遺伝形式により分類されてきました。しかしそれらのみでは最終診断を決定することは困難な場合も多く、現在では遺伝子変異は大多数の疾患において同定されていますので遺伝子変異の同定が必要となることが多いです。
 しかし、実臨床において掌蹠角化症の病型診断アルゴリズムが作成されています。
まず掌蹠の皮疹の分布パターンから3型に分類します。すなわち(1)びまん性 (2)限局性 (3)点状に分けます。
(1)のびまん性ではtransgrediens(掌蹠をこえて、指趾背側や手首、足首アキレス腱部にまで皮疹の拡大があること)の有無で細分類します。
日本人ではtransgrediensを認めればほぼ長島型掌蹠角化症、認められなければVōrner型掌蹠角化症の可能性が高いです。
(2)の限局性では線状の過角化の有無によって細分類します。
日本人では線状の過角化があれば、線状掌蹠角化症1型、線状の過角化がなければ先天性爪甲肥厚症の可能性が高いです。
(3)の点状では、四肢の脱色素斑の有無で細分類します。日本人では脱色素斑のない点状掌蹠角化症1型の可能性が高いです。
以下、本邦において重要なタイプについて述べていきます。
🔷長島型掌蹠角化症
常染色体潜性(劣性)遺伝。長島正治と三橋喜比古により独立した疾患概念として確立されました。SERPINB7遺伝子の変異によって発症します。アジア人で最も多く、日本人でも約1万人の患者さんがいると推定されます。病原性変異をおよそ日本人の50人に1人が持つために、罹患者が保因者と結婚する確率は1/50であり、その両親からは1/2の確率で罹患者が生まれます。一見優性遺伝形式のようにみえます。
2015年全国の500床以上の病院へのアンケート調査によれば、人口100万人当たり1人程度ですが、青森県では最も多く人口100万人当たり30人程度であったとのことです。
生後から1,2歳までに掌蹠の潮紅、軽度の過角化から気づかれることが多いです。皮疹は手首内側、アキレス腱部まで及び、いわゆるtransgrediensを呈すことが多いです。肘、膝にも潮紅、過角化を示す(progrediens)を呈することもあります。掌蹠多汗を伴い、悪臭を伴うことも多いです。足白癬を伴うことも多いです。10分程度の短時間の浸水で白色に浸軟することが特徴です(水浸試験)。
病理所見では過角化と表皮肥厚を認め、顆粒変性は認めません。角層最下層に軽度の不全角化を認めます。
アドリア海沿岸などに多いMeleda病に類似しますが、症状はやや軽度で、同症にみられる手指、足趾の絞扼輪は認めません。
🔷Vōrner型掌蹠角化症
Unna-Thost型掌蹠角化症は顆粒変性が見られないタイプで、Vōrner型では顆粒変性を認める型ですが、この両者は臨床症状はほぼ同一であり、現在では同一疾患と考えられています。
常染色体顕性(優性)遺伝。KRT1,KRT9遺伝子の変異によって発症しますが、Unna-Thost型ではその変異が軽度であるのに対し、Vōrner型では高度であるために有棘層から顆粒層にかけて顆粒変性を認めるとされます。
 生下時から掌蹠に潮紅を伴う過角化を生じますが、transgrediensは認めません。指趾の拘縮や爪甲の変化、掌蹠の多汗を伴うこともあります。足白癬を伴うこともあります。
🔷線状・限局型掌蹠角化症
常染色体顕性(優性)遺伝。1~3型の3亜型があります。日本人では1型の可能性が高いです。デスモグレイン1(1型)、デスモプラキン(2型)、ケラチン1(3型)遺伝子変異が報告されています。
線状、帯状、円形の角化性病変が加重部、被刺激部位を中心に出現します。症状が完成するのは青春期以降のことが多いとされます。同一家系でも同一患者でも過角化の形態が異なることが多いです。
🔷先天性爪甲厚硬症
常染色体顕性(優性)遺伝。2つの亜型が存在します。生後1,2年までに掌蹠の刺激部、加重部に有痛性の過角化と爪甲の著明な肥厚を生じます。kRT6A,6B,6C,16,17遺伝子の変異によります。
口腔内白板症、多発性脂腺嚢腫などを伴うこともあるとされます。
🔷点状掌蹠角化症
常染色体顕性(優性)遺伝。点状1A型はAAGAB遺伝子、点状1B型はCOL14A1遺伝子の変異によって発症するとされます。発症は青年期以降でCowden様病の一症状として生じることもあります。
他の角化症(鶏眼、胼胝、ウイルス性疣贅)との鑑別を要します。

🔷症候性掌蹠角化症(掌蹠角化症症候群)
皮膚症状以外に種々の他臓器の随伴症状(難聴、歯周炎、心筋症、易発がん性、外胚葉形成不全など)を伴うものです。
・難聴を伴うもの・・・KID症候群、Vohwinkel症候群
・歯周炎を伴うもの・・・Papillon-Lefevre症候群 Haim-Munk症候群
・心筋症とwooly hairを伴うもの・・・Carvajal症候群 Naxos病
・外胚葉形成不全を伴うもの・・・Clouston症候群 皮膚脆弱症候群
・易発癌性を伴うもの・・・Howel-Evans症候群(食道がんの発生率が高い)
・爪甲肥厚、嚢腫、口腔内の白色角化性病変を伴うもの・・・先天性爪甲肥厚症
・高チロシン血症を伴うもの・・・Richner-Hanhart症候群

治療は根治療法はなく対症療法となります。
角化の強い場合はサリチル酸ワセリン、ビタミンD3製剤などが用いられ、尿素含有製剤、ヘパリン含有製剤などは汎用されます。
低用量のエトレチナートの内服も奏功する場合がありますが、催奇形性、骨発育障害、肝障害、口唇炎などの副作用に留意する必要があります。
高度な角化性病変に対してはコーンカッターやカミソリなどを用いて切削します。

参考文献

掌蹠角化症診療の手引き 掌蹠角化症診療の手引き作成委員会 日皮会誌:130(9), 2017-2029, 2020 (令和2)

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃 医学書院 東京 2022
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

今日の皮膚疾患治療指針 第5版 編集 佐藤伸一 藤本 学 門野岳史 椛島健治 
須賀 康 8章 角化症 遺伝性掌蹠角化症 pp416-418

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
乃村俊史 XIV 角化症 2 掌蹠角化症(先天性、後天性) pp169

魚鱗癬症候群

魚鱗癬の皮膚症状に加えて、神経、眼症状や骨病変などの様々な臓器病変を伴ったものを魚鱗癬症候群(症候性魚鱗癬)と呼びます。いずれも極めて稀な疾患です。
(1)Netherton症候群
常染色体潜性(劣性)遺伝で1人/100万人の発症頻度です。欧米では1人/10万人とされています。本邦で少ないのはアトピー性皮膚炎と誤診されている例もあるとの説もあります。1)魚鱗癬様紅皮症 2)アトピー素因 3)竹節状裂毛を3主徴とします。
1958年にNethertonが A unique case of trichorrhexis nodosa-“bamboo hairs” +congenital ichthyosiform erythrodermaの症例報告をし、1964年にWilkinsonがILC(Ichthyisis linealis congenita)にbamboo hairとアトピー素因を伴ったものをNetherton症候群と名付けることを提唱しました。
病因、原因遺伝子: セリンプロテアーゼインヒビターであるLEKTI蛋白をコードするSPINK5遺伝子の変異により角層のセリンプロテアーゼ活性が異常亢進した結果、角層の過剰剥離が生じ、表皮のバリア破綻を生じます。本来角層で働くべきセリンプロテアーゼが有棘層でも活性化し、デスモグレイン蛋白が有棘層上層でも分解され角層近傍での角層剥離へと発展するとされます。
遺伝子変異はexon 5,9,18,25で多く(non sense変異、stop codon)上流の変異では重症型、下流では軽症型を生じるとされます。
LEKTI: lympho-epithelial Kazal-type related inhibitor
上記の3主徴に加えて、成長障害、精神発達遅延、再発性感染、てんかんなどを生じます。皮疹は辺縁部に2重の鱗屑縁を持つ曲折線状魚鱗癬の像を呈することもあります。成長障害はSPINK5の抑制機構が働かず、セリンプロテアーゼ活性が上昇し下垂体でGrowth hormoneが過剰に分解されるためとの仮説もあります。
Netherton症候群では角層バリアが高度に破綻しているために長期ステロイド外用によるCushing症候群を生じる危険性に注意が必要であり、またプロトピック軟膏やサリチル酸ワセリンの過剰吸収による腎障害やサリチル酸中毒の恐れがあるためにこれらの薬剤の多くの使用は原則禁忌となっています。

(2)Sjögren-Larsson症候群
常染色体潜性(劣性)遺伝で約10~20万人に1人の発症頻度です。1)先天性魚鱗癬様紅皮症または黒色表皮腫様皮疹 2)四肢の痙性麻痺 3)精神遅滞 を3主徴とします。
病因、原因遺伝子:長鎖脂肪族アルデヒドを脂肪酸に酸化する際に働く脂肪アルデハイド脱水素酵素の遺伝子ALDH3A2の変異により活性低下をきたすことに因ります。
四肢の痙性麻痺を伴い、精神遅滞は高度で視力障害もみられる症例もあるために日常生活が大きく障害されます。また皮膚バリア障害による感染症、うつ熱、脱水症、熱中症などにも注意が必要です。
患者の大部分は呼吸器疾患で亡くなることが多いとのことです。平均寿命は22歳と報告されています。

(3)Dorfman-Chanarin 症候群(neutral lipid storage disease)
esterase/lipase/thioesteraseサブファミリーに属する蛋白をコードするCGI-58(別名ABHD5)の遺伝子異常によります。表皮内で層板顆粒の形成不全と角層細胞間脂質の異常を生じて先天性魚鱗癬様紅皮症様の症状を呈します。種々の臓器に中性脂肪が蓄積して、肝障害、肝硬変、白内障、斜視、眼振、難聴、精神発達遅延、成長障害、筋力低下、運動失調などの症状を合併します。末梢血の塗抹標本で顆粒球の細胞質内脂肪滴(Jordan’s anomaly)がみられることは診断的価値があります。皮膚バリア障害による感染症、眼、難聴、運動失調などにより日常生活が大きく障害されます。

(4)KID症候群(keratitis-ichthyosis-deafness syndrome)
常染色体顕性(優性)遺伝性疾患です。1)先天性魚鱗癬、2)血管新生を伴う角膜炎、3)感音性難聴を3主徴とします。
細胞間チャンネルであるギャップ結合の構成成分であるコネキシン26をコードする遺伝子GJB2またはGJB6の遺伝子変異によります。
角化性病変は乳頭腫状の過角化を伴い、細かい粒状、棘状の形態をとります。手掌、足底に目立ちますが、皮疹の範囲は限局されたものから、広範囲に及ぶ例もあります。爪の変形もしばしばみられ、口腔内に角化性、紅斑性病変、歯の異常を認めることもあります。皮膚の易感染症は高度であり、細菌、真菌ウイルス感染症を繰り返す例が多いです。感染症状、疼痛、難聴、角膜炎などによって日常生活が大きく障害されます。

(5)CHILD症候群 CHILD: congenital hemidysplasia with ichthyosiform erythroderma and limb defect
主に伴性顕性(優性)遺伝。片側性の魚鱗癬様紅皮症、長管骨の形成異常(四肢の欠損・短縮)、爪の肥厚や変形、また時に側弯症、中枢神経系、心血管系の異常、精神遅延、患側の難聴などを認めます。コレステロール生合成過程の遺伝子であるNSDHL機能欠失性変異による遺伝性疾患です。
この疾患で特筆すべきことは、HMGCoA還元酵素剤であるスタチンの外用で著明な皮疹の改善を認めることです。2011年ノースウエスタン大学のAmy Pallerらは皮疹部にコレステロールを外用しても効果がなく、NSDHLの活性低下で蓄積する中間代謝産物が皮疹を形成するとの予想のもとにコレステロール生合成を上流で止めるスタチンの外用を行ったところ皮疹は大幅に改善しました。脂溶性かつ分子量の小さいロバスタチン、アトルバスタチン(日本)が有効とのことです。

(6)Conradi-Hunermann-Happle syndrome
1914年にConradiが、X線上骨端軟骨の異常な点状石灰化をきたし、頸部、四肢の短縮、魚鱗癬症状を有し眼、中枢神経、心血管系に異常を伴う症例をChondrodystrophia foetalis hypoplasiaとして報告しました。
その後種々の名称で報告され、1969年にはChondrodysplasia puncutataと統一されましたが、1992年の国際会議で名称が再統一され、細分化されました。1)rhyizomelic type 2)Chonradi-Hunermann type 3) X-linked recessive type 4) MT-type 5) Others。この中で1)2)の型が皮膚病変がしばしばみられ、Conradi症候群として扱われているそうです。
出生時にみられる魚鱗癬様変化は生後数か月で自然消退し、後に毛包性萎縮や色素失調症様色素沈着、脱毛などを残します。1)の型は生後1年以内に死亡する例が多いとのことです。
Conradi-Hunermann型は伴性顕性(優性)遺伝形式をとり、△⁸ー△⁷sterol isomeraseに変異が病因とされています。

魚鱗癬症候群は小児期から成人になって初めて遅発性に他臓器障害が現れて診断がつく症例が少なからず存在すると予想され、診断が確定するまでは、未確定診断の魚鱗癬症候群とみなされ、関連各科(小児科、皮膚科、眼科、耳鼻科、整形外科、精神科など多くの関連科)の連携が必要とされます。
皮膚の角化に対する治療としては従来は保湿剤、ビタミンD3製剤、レチノイド剤などしかありませんでしたが、近年デュピクセントなどの生物学的製剤の効果の報告もみられ、新たなステージに入ってきているようです。

上記以外にも報告された魚鱗癬症候群はありますが、割愛します。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

米田耕造 マルホ皮膚科セミナー 2009年11月12日放送 第108回日本皮膚科学会総会➆ 教育講演4より 「症候群に伴う魚鱗癬」

小松奈保子 Netherton症候群とSPINKS 臨皮57(5増):51-58,2003

広瀬弘嗣 ほか Netherton症候群の成人例 臨皮 62:438-441,2008

久保亮治 CHILD症候群の病態と治療 臨皮 70(5増):53-56,2016

服部尚生 ほか Conradi症候群の1例 臨皮 58:813-815,2004

角田 梨沙 ほか KID症候群の1例 臨皮 70:347-352,2016

常染色体潜性先天性魚鱗癬

常染色体潜性(劣性)先天性魚鱗癬で、葉状魚鱗癬、先天性魚鱗癬様紅皮症、道化師様魚鱗癬の3種類があります。全身の潮紅と微細白色鱗屑が特徴で、これらは病変の程度や重症度のみの違いのみとの考えもありますが、症状・病因・遺伝ともに多彩で単一の疾患ではないとの考えもあります。
大部分は潜性遺伝ですが、中には顕性(優性)遺伝を示すものもあるとされます。
 頻度は常染色体顕性遺伝性の魚鱗癬(尋常性魚鱗癬は約250人に1人、伴性遺伝性魚鱗癬は男性2000≁6000人に1人、表皮融解性魚鱗癬は10万≁20万人に1人)と比べると低く、常染色体潜性先天性魚鱗癬では20~30万人に1人、葉状魚鱗癬では50万人に1人、道化師様魚鱗癬では30万人に1人といわれています。ちなみに症候性の魚鱗癬では非常に稀少であり、例えばNetherton症候群では100万人に1人といわれています。

(1)葉状魚鱗癬
出生時にはコロジオン児(膜性の厚い角化物質に覆われた状態で出生し、2,3日うちに乾燥し剥がれ落ちる)として出生することも多く、生下時から暗褐色調で大きく厚い板状、葉状の鱗屑が全身にみられますが、潮紅は目立ちません。眼瞼外反、手指関節の拘縮がしばしばみられます。爪甲肥厚、鉤彎、爪下角質増殖がみられます。顔面、掌蹠も軽度ながら侵されます。症状に軽重があるものの難治性で症状の軽快傾向は通常みられません。
 病因としてTGM1(transglutaminase 1)遺伝子変異によることが多いとされますが、その他にも多数の遺伝子変異の関与が報告されています。
ABCA12, NIPAL4, ALOX12B, ALOXE3, CYP4F22, SDR9C7, PNPLA1, CERS3, LIPN
 病理組織は非特異的ですが、不全角化を伴う角質肥厚、表皮肥厚、顆粒層の肥厚が認められます。
(2)先天性魚鱗癬様紅皮症
コロジオン児として出生することもしばしばみられます。皮膚の潮紅および白色から明るい灰色の細かい鱗屑を広範囲に認めます。紅皮症から鱗屑の範囲、程度は様々です。新生児期には軽度の眼瞼外反、口唇の突出開口を認めることもあります。掌蹠の角化も伴います。
 病因として、TGM1, ABCA12, NIPAL4, ALOX12Bが同定されています。
 様々な程度の不全角化を伴う角質の肥厚を認めます。
(3)道化師様魚鱗癬
魚鱗癬の中で最も重篤な病型です。出生時には、全身が厚い板状の角質に覆われていて、眼瞼外反、口唇突出、開口、耳介の変形は高度です。皮膚が乾燥するにつれて皮膚表面の引きつれは亀裂を生じます。新生児期の死亡例も稀ではなく、死亡率は30%に達するともいわれます。近年はレチノイドの使用により長期生存例もみられます。
 病因は皮膚の細胞間脂質輸送に重要な役割を持つ(transporter)ABCA12遺伝子の重篤な機能障害によるとされます。
ABCAの1アミノ酸置換をきたすミスセンス変異では、葉状魚鱗癬に、frameshiftなどのtruncationを呈するナンセンス変異では道化師様魚鱗癬を生じるとされます。
光顕では著明な角化細胞の堆積を認め、電顕では角化細胞内の異常な脂肪滴と顆粒構造、異常な層板顆粒の形成ないし欠損がみられます。

根本的治療法はありませんが、新生児期には保湿剤を中心に輸液管理や感染のコントロールになどの全身管理を行います。
重症例ではレチノイドの全身投与も行われますが、口唇炎、肝機能障害、催奇形性や骨発育障害への注意が必要です。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

秋山真志 道化師様魚鱗癬の原因蛋白ABCA12について 臨皮 60(5増):49-54,2005

滝沢佐和、他 TGM1遺伝子変異が同定された葉状魚鱗癬の姉弟症例 臨皮 69:917-922,2015

江川貞恵、他 エトレチネートが著効を示した道化師様魚鱗癬の1例 臨皮 59:1049-1052,2005

中野さち子、他 道化師様魚鱗癬の兄弟例 臨皮 63:356-361,2009

【補遺】

角層(角質細胞層)は約10層からなり、脱核し死んだ角化細胞は膜状になり、落ち葉を敷きつめたように重層化する。
角層細胞は扁平で、細胞質内は凝集したケラチン線維で満たされている。顆粒層の直上で細胞形態が消失し、好酸性の層状構造をとるようになる。さらに上層では膜状構造へと変化する。電子顕微鏡観察では、高電子蜜な線維間物質と低電子密なケラチン線維のコントラストが明瞭で、これをケラチン模様(keratin pattern)と呼ぶ。 
 また角層細胞には通常よりも厚い細胞膜が存在し、その内側には周辺帯(cornified cell envelope, marginal band)と呼ばれる裏打ち構造が観察される。周辺帯を構成する蛋白は物理的および化学的刺激に対して非常に安定であり、細胞膜を補強する役割を果たしている。(新しい皮膚科 第3版 清水 宏 著 より)

常染色体潜性先天性魚鱗癬の病因遺伝子(JDA eSchool –魚鱗癬 ichthyosis 秋山真志 より)
角層細胞の内側から
1)ケラチン、フィラグリンとその分解産物
2)cornified cell envelope:CCE(周辺帯)
3)corneocyte lipid envelope :CLE
4)角層細胞間脂質層

角層細胞間脂質層の形成に働く遺伝子
 ①アシルセラミドの合成、輸送 CYP4F22, PNPLA1, CERS3, ABCA12
 ②cholesterolからcholesterol sulfateへの変換 SULT2B1
CLE形成に働く遺伝子
 アシルセラミドをCCEタンパクと結合させる ALOX12B, ALOXE3, CDR9C7
CCE形成に働く遺伝子
 CCE前駆タンパクをクロスリンクさせる TGM1

最近のデュピクセントのインパクト

「アトピー性皮膚炎治療薬デュピクセントのインパクト」という題で記事を書いたのが、2021年3月でした。
それからのデュピクセントの皮膚科における重要性、浸透性はまさに快進撃ともいえるような目覚ましさに思われます。
 いきなり下世話な言い方で恐縮ですが、デュピクセントの総売り上げは1000億円に迫り、単一薬剤の売り上げで第4位につけたとのことです。(不確実情報なので弱冠の誤りがあるかもしれませんが、・・・)上位には現代日本人の最も脅威となる悪性腫瘍に対する薬剤がズラーと並びます。その中にあって抗アレルギー剤がその一角を占めるのは異例のことだとのことです。(全世界的には糖尿病薬が上位を占めるそうですが。)
前年度は第10位とありましたので、売り上げ高が顕著に伸びていることがわかります。
アレルギー性疾患における効能・効果の範囲も広く、アトピー性皮膚炎をはじめ気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎をはじめとし、皮膚科領域での適応疾患の追加・拡大が相次いでみられます。
結節性痒疹・特発性の慢性蕁麻疹にも適応が拡大されましたが、研究上ながら水疱性類天疱瘡や遺伝性角化症の一部にも有効性が示されているとのことで期待が持てます。
その中で、やはり最も患者数が多く、長年患者も医師も治療に難渋し悩まされてきた小児から成人までの難治性アトピー性皮膚炎治療はデュピクセントの登場によってドラマチックその治療概念を一変させました。最近それらを総括するような全国講演会がありましたので、それについてとりあげてみたいと思います。

(1)Dupixent Professional Forum 2024.11.24
2018年4月承認後6年を経過したデュピルマブによるアトピー性皮膚炎の開業医向けの全国講演会
2024.11.24 東京で現地参加
特別講演として上出良一先生の「アトピー性皮膚炎の新治療戦略」があり、その後分科会(1ー3)が催されました。
(2)デュピクセント小児適応拡大1周年記念講演会 2024.12.01
Web参加

複数の講師の先生方が講演されましたので、全体像を示すことはできませんが、その中で気になった重要なポイントを箇条書きにしてみました。
(講師 敬称: 略)

(1)
(上出良一)
・最新の(2024年版)のアトピー性皮膚炎(AD:Atopic Dermatitis)のガイドラインで強調されていることは治療方針の説明・共有(SDM:shered decision making)の考えを取り入れて、患者主体の治療を行っていくことの重要性。
・デュピクセントは2018年4月に承認され、6年目を迎え実臨床においても有効性と安全性が検討されて、多数の難治性アトピー性皮膚炎患者を治すという夢に一歩近づいた。
・入口戦略として、早期介入を行って、アレルギー感作を予防し、ステロイドからの離脱を図り、自然寛解へと導いていく。それが困難な例では全身療法を行う。
・ADの全身治療薬として、JAK阻害薬やネモリズマブなど他の生物学的製剤もある。ただ、デュピクセントで長期寛解を維持できている患者さんは安定してTARCも低い。これは安定した寛解の指標となりうる。JAKではギザギザの上下動の多い不安定な動きになる。
・出口戦略として、デュピクセントなどで寛解に持ち込めた人をどのように「安定した寛解」を維持していくかは今後の問題だ。
・今でも脱ステロイドの患者さんがある。これらの人に対しては頭ごなしの否定はせずに傾聴的な問診が重要だ。これらの人は経験的に長期ステロイドを使用してきた患者さんよりデュピクセントによる治りが早い。脱ステロイドが無駄ではなかったんだよ、という肯定的なメッセージも必要だ。演者は定期的にアトピーカフェを開催し、ネット上からも参加を呼び掛けている。
・治りにくい人は好酸球の高い人、不安定な人。なぞの顔面紅斑の人。(3群に分けて考えている。1.ステロイド酒さの人、ダーモスコピーで判断。2.発赤、カサカサのある人、掻破していることが多い。3.デュピクセントによって紅斑がもたらされたかと思える人➡IL-13など他剤への切り替えを考慮する。)
(竹岡伸太郎)
・ADに対しては、まず外用療法をしっかり行うことが基本だが、それでも十分にコントロールできない例ではシクロスポリン、内服JAK阻害薬などの免疫抑制薬や光線療法、デュピクセントなどがある。シクロスポリンは使用期間の制限や副作用、また内服JAK阻害薬は安全性を担保するための検査が必須であり、クリニックでの長期使用には使いにくい。その点デュピクセントは重篤な副作用もなく、特別な内科的検査も必須ではなく、クリニックで使い易い薬剤だ。
・自施設で導入する、しないにかかわらず、デュピクセントなどの新たな治療があることを患者さんに伝えていきたい。看護師、事務、薬剤師の皆さんとともに体制を整えて導入した達成感は大きなものがある。
(米田明弘)
・AD治療において十分な外用療法、紫外線療法、シクロスポリン内服療法などを行ってもコントロールできない難治性の患者さんが一定数いて、この点が臨床的アンメットニーズのひとつであり、AD治療の限界点だった。これを超えることを可能にしたのがデュピクセントの登場だった。今までは難治性の患者さんは大学病院などへ紹介していたが、今ではクリニックでも十分にコントロールができるようになった。生物学的製剤というと基幹病院で使用するというイメージがあるが、デュピクセントは適正使用のもとクリニックでも安全に使用できる薬剤である。
(2)
(常深祐一郎)
・ADのガイドラインは2024年に新しく改訂されたが、治療目標(ゴール)は川島先生らが作成された当初からの「症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない」と記載してあり、これは一貫して変更がない。
ただ、以前は治療方法が限られており、なかなかこの目標に到達できず、いってみれば努力目標だった。しかし、近年は各種外用薬(非ステロイド剤など)、各種全身治療薬(生物学的製剤、低分子治療薬など)が開発されてこの目標が現実に到達できるような時代になってきたことが大きな違いだ。
また、大きな違いは「疾患と治療目標(ゴール)の説明・共有という項目が追加された点で、いわゆるSDM(shared disease making)という概念が導入され、適当な治療や疾患概念の説明や患者教育を具体的に行い、それを患者と共有していく、という患者目線にたった治療の必要性をうたっている点だ。
またアトピー性皮膚炎の病態図において好塩基球が重要な働きを持つとして追加された。
・難治性のADの小児に対しても生後6か月からデュピクセントが使用できるようになり、患児のみならず、家族のQOLもあがった。治療を担当する医師もAD治療の成功体験を通して使命感、やる気を高めることができる。
・注射の打ち方一つとっても工夫が必要である。真摯に向き合って痛い注射だけど頑張ったね、と褒める、シールをあげる、など工夫して治療している。
急に動かれて危なくないように座らせて大腿の上から下方へ垂直にできるだけゆっくり打つ。
(福家辰樹)
・治療の早期介入によって食物アレルギー、AD、喘息、花粉症、鼻炎などのアレルギーマーチを抑制していくことが重要だ。
・デュピクセント治療によって確実にIgEが下がっていく。
(工藤恭子)
小児への注射の打ち方の工夫として、ペンレスを使用、プニュプニュで軽く冷却して行う。ペンよりシリンジの方が(調節し易く?)打ちやすい。
小児の皮膚は薄いのでそのまま指で挟んで摘まみ上げると打ちにくい、周りの皮膚を寄せるようにして厚みを作るとよい。シリンジは早く打ったほうがよい。

・注射の方法は各担当医が個々の患者さんと相談しながらやりやすい方法を工夫していくのがいいのかな、と感じました。
・寛解した後の出口戦略は?との質問には、寛解が得られて調子よければ、徐々に注射間隔をあけていく、との回答でしたが、なかなか統一したコンセンサスは得られていないような印象を受けました。

まだまだ究極の治療ゴールには至っていないものの、デュピクセントの登場によってアトピー性皮膚炎の治療は確実にブレイクスルーを遂げてきていると感じました。

ケラチン症性魚鱗癬

従来の病名では、水疱型先天性魚鱗癬様紅皮症(Bullous congenital ichthyosiform erythroderma:BCIE)とよばれていました。
2009年の新分類では、(1)表皮融解性魚鱗癬(epidermolytic ichthyosis)と(2)軽症型(Siemens型)の表在性表皮融解性魚鱗癬(superficial epidermolytic ichthyosis)に分けられています。
いずれも、細胞骨格を形成するケラチン遺伝子の変異が原因となって生じます。

(1)表皮融解性魚鱗癬
常染色体顕性(優性)遺伝で罹患率は1人/10万~20万人。ケラチン1またはケラチン10の遺伝子変異によって発症します。(稀に潜性(劣性)遺伝の報告あり)
出生時より全身に潮紅がみられ、水疱、びらん形成を反復し、次第に鱗屑が厚くなってきます。臨床症状はあたかもSSSS(stafilococcal scalded skin syndrome)と類似することがあります。学童期より厚い角化は固定し全身におよび、紅皮症状態は継続しますが、水疱形成は次第に軽快してきます。関節屈面では洗濯板状・煉瓦状になります。ケラチン1変異例では掌蹠に高度の角化をきたし、ケラチン10変異例では掌蹠の角化はほぼみられません。重症例では特有の臭気がみられます。毛・歯はほぼ正常です。
稀に鱗屑を有する環状紅斑が体幹・四肢近位部に多発することがあります。
 ケラチン線維はⅠ型とⅡ型が特定のペアを組みヘテロダイマーを形成し、これが重合して成り立っていますが、角化細胞では基底層ではK5/14を発現していますが、有棘層に分化・移動するとK5/14の発現はなくなり、代わってK1/10が発現します。本症ではK1,K10のいずれかの遺伝子の変異によって発症しますが、遺伝子変異は主に点突然変異でK1のロッドドメインのカルボキシル基末端、K10のアミノ基末端で生じるとされます。
 病理組織では、著明な表皮肥厚と過角化がみられます。有棘層上層から顆粒層にかけて表皮細胞の細胞質内の核周囲に空胞と粗大なケラトヒアリン顆粒が認められます。(顆粒変性granular degeneration)、表皮内水疱を形成します。(epidermolytic hyperkeratosis)。顆粒層は肥厚します。真皮上層では慢性の炎症細胞浸潤を認めます。
電顕ではトノフィラメントの過形成や未熟なケラトヒアリン顆粒の凝集塊(clumped keratin filaments)を認めます。

(2)表在型表皮融解性魚鱗癬
(1)よりも軽症な型で、主にケラチン2eの遺伝子変異が病因となります。ケラチン2eは表皮上層のみで発現するために病変は表皮上層に限局するために(1)と比較すると潮紅、鱗屑、水疱のいずれもが軽症となります。幼少時期では四肢を中心に水疱形成と角層剥離(軽い外力で脱皮(molting phenomenon)をきたし成人期では四肢屈側に角化局面がみられます。

根本的な治療方法はなく、対症療法や生活指導が中心となります。角質溶解剤、保湿剤、ビタミンD3軟膏の外用を主体とし、重症例ではレチノイドの全身療法も行われています。魚鱗癬を専門とする医療機関へのコンサルトが必要となります。

参考文献

皮膚科学 第11版 編集 大塚藤男 藤本 学 原著 上野賢一 金芳堂 京都 2022
大塚藤男 15章 角化症 pp341-377

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168

尋常性魚鱗癬、伴性遺伝性魚鱗癬

【尋常性魚鱗癬(Ichthyosis vulgaris)】
非症候性魚鱗癬の中で最も頻度が高い型です。罹患率は約250人に1人とされます。
常染色体半顕性(優性)遺伝(autosomal semidominant inheritance)でヘテロ接合体(異なる遺伝子型を持つ場合、片方のアレルに変異がある場合)とホモ接合体(同じ遺伝子型を持つ場合)で軽症、重症の表現型の差異を示します。
出生時には無症状ですが、生後数か月で発症します。10歳頃まで進行性で多くは青年期以降軽快します。
 症状は背部、四肢伸側の小型で白っぽい鱗屑を固着し、乾燥がみられますが、四肢屈側、胸腹部は避けます。頭顔部に軽度の粃糠様落屑を認めます。冬季には増悪しますが、夏季には軽快します。掌蹠皮膚紋理の増強が特徴的で、アトピー性皮膚炎の合併頻度が高いです。性差はありません。
一般的に四肢屈側には乾燥、角化は認めませんが、ホモ接合体などの遺伝子変異の患者さんなどでは四肢屈側が侵される場合もあります。
 病因はフィラグリン遺伝子の異常でプロフィラグリン合成機能低下により、ケラトヒアリン顆粒の形成異常、フィラグリン合成低下をきたし、角層形成不全、保湿機能低下をきたします。プロフィラグリンは約400kDaの分子量で有棘層上層で発現し始め、10~12個のフィラグリンリピート構造を有します。脱リン酸化しプロテアーゼの作用によって37kDaのフィラグリンモノマーとなり、ケラチンフィラメント同士を凝集させる線維間凝集物質として働きます。フィラグリンはさらにアミノ酸などの天然保湿因子に分解されて保湿機能を持ちますので、尋常性魚鱗癬では保湿機能が低下します。
 病理組織では、フィラグリンが主構成要素である顆粒層を欠如または減少します。角層は肥厚していますが、これは増生ではなく、角層脱落遅延(retention hyperkeratosis)によるものです。
【伴性遺伝性魚鱗癬(X連鎖性潜性魚鱗癬】
伴性潜性(劣性)遺伝で、X染色体に遺伝子変異があり、母親が保因者になります。男性2~6千人に1人で見られます(稀に女性発症)。出生直後あるいは幼少時期から発症し、尋常性魚鱗癬と比較して症状は高度です。手掌足底を除く全身に皮疹がみられ、黒褐色の大きな葉状の鱗屑が特徴です。冬期に悪化します。頭毛は疎で瘢痕性脱毛も生じます。また角膜混濁が高頻度に見られます。ただ臨床症状だけではこの両者の鑑別が困難な例もみられます。その際は以下の遺伝子検査などが必要となります。
 病因はステロイドスルファターゼ遺伝子(STS)の変異、欠損でFISH(Fluorescence in situ hybridization)法によって生前診断が可能です。STSの遺伝子座はX染色体短腕遠位側のXp22.31に存在し、同症ではこの遺伝子の完全欠失が多く、周囲の遺伝子を巻き込んで様々な随伴症状をきたすことがあります。(隣接遺伝子症候群 患児の5%程度)。STSの欠損の結果、硫酸コレステロールが角層細胞間に蓄積して剥離遅延を起こします。
Kallmann症候群(性腺発育障害、嗅覚障害)・点状軟骨異形成症・低身長・精神発育障害など。
また母体血清マーカーでエストリオール(uE3)が正常の1/10以下で子宮口開大不全による陣痛微弱がみられます。潜伏精巣(20%)、精巣癌が20~40歳で見られることがあるので成人に達したら一度泌尿器を受診し、精巣腫大の検査方法を習うべきとされます。
病理組織では、特徴的な所見は見られませんが、角質肥厚(retention hyperkeratosis)で顆粒層は尋常性魚鱗癬と異なり正常かまたは軽度肥厚、有棘層の肥厚を認めます。

治療は根本的な原因療法はなく、基本的には保湿などの対症療法や生活指導になります。伴性遺伝性魚鱗癬の重症例ではエトレチナートの内服も適応となりえますが、小児では骨端線の早期閉鎖を生じるために外用剤の治療が主体となります。
プロペト、ヘパリン製剤、尿素軟膏、サリチル酸ワセリン、ビタミンD3軟膏などが適宜使い分けられています。

参考文献

皮膚科学 第10版 大塚藤男 著 上野賢一 原著 金芳堂 京都 2017
15 角化症 pp329-364

標準皮膚科学 第11版 監修 岩月啓氏 編集 照井 正・石河 晃
秋山真志 第18章 角化症 pp271-285

皮膚疾患 最新の治療 2023-2024 編集 高橋 健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2022
須賀 康 XIV 角化症 1 魚鱗癬 pp167-168