先日、何気なくネットのニュースを見ていたら、アナウンサーの安住紳一郎さんが、「クインケ浮腫」で上口唇が3,4倍位腫れて番組を欠席したとの記事が出ていました。さらに、「星野源から同じ症状でたとの連絡があった」と述べたとのことです。
また数日後、今度は俳優の山田裕貴さんが、「親知らずの抜歯の後、顔がパンパンに腫れて、声がふにゃふにゃになった」とインスタグラムに顔写真と共にアップしたそうです。病名は書いてありませんでしたが、多分血管性浮腫の類かと思われました。
血管性浮腫(クインケ浮腫)はそれ程、認知度の高い疾患でもありませんが、さすがに有名人の報告は、インパクトがあり、多くの人の知るところとなったかと思います。
さて、前振りはさておいて、日皮総会でも血管性浮腫、特に遺伝性血管性浮腫(HAE)は数多くのセッションでも取り上げられていました。
其の内の僅かしか聴講しなかったのですが、疾患の病態解明、治療法などは以前調べた頃と比べても近年随分と進んでいるようでした。
一応過去の記事も再掲してみます。
HAEは頻度が少なく、医師の中でも認知度が低いそうで、診断されないままになっているケースも多いそうですが、一旦事が起きると重大な(場合によっては死に至る)結果をきたす疾患です。そこで血管性浮腫のなかでHAEを中心に調べてみました。
【血管性浮腫の症状】
血管透過性の亢進によって一過性に急激に皮膚や粘膜に浮腫が起こり、腫れる状態が生じます。多くの場合は眼瞼、口唇、頬などの顔面に生じますが、全身の皮膚や腸管粘膜など、どこにでも生じえます。
蕁麻疹では赤みやかゆみが強く、数時間~1日以内に消失しますが、血管性浮腫は赤みも痒みもなく、腫れがひくまで1~3日位かかります。灼熱感や軽度の痛みを感じることもあります。この違いは蕁麻疹は主として真皮上層であるのに対して、血管性浮腫ではその主座がもっと深い真皮中層から深層、皮下脂肪織であることに起因します。痒みがないのは痒み受容体があるとされる表皮真皮境界部位に浮腫が及ばないからとされます。
血管性浮腫は痒みのある蕁麻疹と同時にみられることもあります。小麦依存性運動誘発アナフィラキシーを始め、食物、薬剤アレルギー、また非アレルギー性のNSAIDsなどでみられることがあります。
咽頭や喉頭浮腫をきたすと喘鳴や呼吸逼迫、窒息をきたしたり、また腸管浮腫を生じると悪心、嘔吐、腹痛や下痢を起こし、急性腹症と診断されて緊急手術を受けるなど、重症化すると命の危険を伴い、治療の遅れは致命的となりえます。
【頻度】
欧米の報告では発症率はおよそ5万人に1人と推定されています。日本国内での推定患者数2500人(有病率1人/5万人)に対し、2018年で診断確定済みの患者数は400~500人と、多くの患者が診断されずに潜在していることがうかがわれます。
2011年の調査では原因不明の特発性の症例が最も多く45.7%、次いでHAEのI型、II型が多く(12.7%)、III型は少数(1.7%)でした。
ACE阻害薬起因性が8.3%,悪性リンパ腫や自己免疫性の慢性疾患に続発するものが8.0%でした。
【血管性浮腫の分類・原因】
🔷血管性浮腫を疑った場合は、腫れ・むくみ、痛みの原因が通常の蕁麻疹と同様のヒスタミンに起因する型か、ブラジキニンに起因する型かを分けて考えます。
前者は蕁麻疹を伴い、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーなどIgE依存性のものと、IgEを媒介しないものがあります。
<マスト細胞に起因する型>
*IgE依存性・・・ペニシリン、食物、昆虫
*COX阻害作用・・・アスピリン、NSAIDs
*マスト細胞への直接刺激・・・麻薬、筋弛緩薬、造影剤
<ブラジキニンに起因する型>
非マスト細胞起因性のタイプは、マスト細胞起因性のものに比べて症状が広範囲で重篤になりやすい。
*C1-INH欠損あり・・・HAE-I型、II型、後天性C1-INH欠損症
*C1-INH欠損なし・・・HAE-III型、ACE阻害薬
🔷日皮会蕁麻疹診療ガイドラインによる分類
*特発性(Quincke浮腫)
*刺激誘発型・・・外来抗原、NSADs、物理的刺激(温度、寒冷、運動など)、発汗、振動(金属研磨機、楽器、自転車など)
*後天性のブラジキニン起因性・・・ブラジキニンの産生、分解に関与する薬剤、C1-INHに対する自己抗体、リンパ増殖性疾患によるC1-INHの過剰消費
*遺伝性
*メディエーター不明
今回はこの中で近年知見が積み重なってきたものの、医療者にとっても認知度の低い遺伝性の血管性浮腫(hereditary angioedema: HAE)に特化して検索してみました。
(後天性の血管性浮腫の中で、原因が特定できないものをQuinke浮腫ともよびますが、実はこのタイプが最も多く(4~5割)、顔面、特に眼瞼・口唇に好発し血管神経性浮腫ともいわれ、20~30代に多く、性差はみられません。次いで多いものはACE阻害薬起因性のものになりますが、今回はとりあげません。)
【HAEの診断・鑑別】
血管性浮腫を見たとき、蕁麻疹の合併の有無、家族歴、病歴などを参考にします。
蕁麻疹を併発しなければ、よりブラジキニン起因性を考え、家族歴、薬剤の使用歴を確認します。
薬剤では消炎鎮痛剤、ACE阻害薬、選択的DPP-4阻害薬など血管性浮腫を起こしうる薬剤の使用の有無を調べます。
蕁麻疹がなく、上記薬剤使用が無く、明らかな誘因が無く再発を繰り返し、家族歴がある場合はHAEを疑い、検査を進めていきます。なお25%は家族歴のない孤発例のため、家族歴にこだわりすぎると誤診の原因となるとのことです。
血管内皮細胞にはブラジキニンB2受容体が発現し、ブラジキニンが作用すると血管を拡張させて血圧を低下させ、血漿成分の透過性を亢進させて浮腫を生じます。ただ、血管性浮腫が何故皮膚の深層に生じるのか、については未だ解明されていません。
HAEでは毛細血管の拡張と水透過性を亢進するブラジキニンが主なメディエーターとして働きます。ブラジキニンの産生にはカリクレイン・キニン系、接触系(第Ⅻ因子・Hageman因子)、凝固線溶系、補体系などが関わっていますが、特にカリクレイン・キニン系の関与が重要だと考えられています。
これらの系の活性化を経て高分子キニノーゲンの分解を経て、ブラジキニンが産生されます。
(C1-esterase inhibitor:C1-INH)はこれらの経路において、複数のステップでブラジキニンの産生を抑制しています。
HAEは常染色体顕性遺伝性疾患です。HAE1~3型は類似の臨床症状を呈するために視診のみでは鑑別できません。補体C4とC1-INH濃度/活性の測定が必要となります。診断が確定すると特定難病となり、医療費助成の対象となります。
*HAE-1型
C1-INHのたんぱく質量、機能共に低下 11番染色体上のC1-INH遺伝子(SERPING1)の変異がある。
*HAE-2型
C1-INHのたんぱく質量は正常、機能は低下 11番染色体上のC1-INH遺伝子(SERPING1)の変異がある。
*HAE-3型
C1-INH異常が原因ではない。1、2型と同様の症状を呈し、かつ明らかな家族歴がある。HAE with normal C1-INH(HAEnCI)とも呼ばれる。一部の例では、原因遺伝子が特定されています。
遺伝子異常による新たな分類法も提唱されています。
F12(凝固第XII因子)遺伝子異常(HAE-F12)
アンギオポエチン1(angiopoietin)-1遺伝子(ANGPT1)
プラスミノーゲン(plasminogen)遺伝子(PLG)
高分子および低分子キニノーゲンの遺伝子(KNG1)
ミオフェリン(myoferlin)遺伝子(MYOF)
へパラン硫酸3-O-硫酸基転移酵素6遺伝子(HS3ST6)のバリアント
カルボキシペプチダーゼN(carboxypeptidase N)遺伝子(CPN)のバリアント
disabled homologous 2-interacting protein遺伝子(DAB2IP)のバリアント
一部のHAEの遺伝子異常に関しては「かずさDNA研究所」への外注ができるそうです。
*メディエーター不明の血管性浮腫
蕁麻疹薬の効果無し、家族歴無し、HAEの遺伝子異常無し、かつ後天性血管性浮腫も除外された一群。
但し、これは暫定的な区分。
episodic angioedema with eosinophilia (Gleich症候群)も含まれる。
国内症例は、non-episodicの報告が多い。
【HAEの治療】
発作時、急性期の治療と、症状はないものの発作を予防する短期的な予防と長期的な予防の3系統に分けられます。
1)急性発作時のオンデマンド治療
突然の喉頭浮腫、息苦しさ、腸管浮腫(腹痛、吐気、下痢)などが生じた場合はベリナートP(乾燥濃縮人C1INH製剤)を1回1000~1500国際単位静注します。数時間以内に効果がない時、または不十分な時は500~1000国際単位を追加投与します。
24時間後でも効果不十分な時は、症状に応じて反復します。
あるいはブラジキニンB2受容体拮抗薬であるフィラジル(イカチバンド酢酸塩)30mg皮下注射します。効果不十分または再発時では、6時間以上の間隔をおいて同量を追加します。但24時間あたりの投与回数は3回までです。
喉頭浮腫から気道閉塞など重症時には、早期に気管挿管を行い気道確保をする必要があります。
2)短期予防
歯科治療、気管支鏡検査など、発作を起こしうる手術や検査に際しては、施術1~6時間前にベリナートP静注用10~20単位/kgまたは1000単位を静注します。
低リスクの場合はアンドロゲン(ダナゾール、スタノゾール)やトラネキサム酸の術前5日間および術後2~5日間の内服投与が推奨されます。
3)長期予防
・オラデオ(ペロトラルスタット塩酸塩)・・・成人及び12歳以上の小児には、経口の血漿カリクレイン阻害薬で150mg(1カプセル)を1日1回内服します。
・タクザイロ(ラナデルマブ)・・・成人及び12歳以上の小児には、血漿カリクレインに対するモノクローナル抗体で、300mgを2週間間隔で皮下注射します。症状が安定している場合は4週間隔に延長します。
・べリナート皮下注・・・60国際単位/kgを週2回皮下注射します。
安価で使い易いアンドロゲンやトラネキサム酸は保険適用外ながら以前より使用されていますが、予防効果のエビデンスは乏しいです。
2026年3月には唯一の経口急性発作治療薬セベトラルスタット(エクテリー)が発売されました。
同剤は、血漿カリクレイン阻害薬で、12歳以上の成人に、1回300mgを経口投与します。効果が不十分な場合には2時間以上の間隔をおいて、1錠追加する、但し、1日2回迄とする、とあります。
経口薬なので、患者さんのアンメットニーズにも期待されます。ただ、薬価は344822.1円と高価ですし、これから実臨床で評価がなされるかと思います。
HAEの病態の解明、治療法など、最近急速に進んでいるようです。しかしながら、一般的に医師も含めて病気の認知度は低く、多くの潜在患者があり、診断に平均15年程度かかったり、急性腹症のため、不必要な手術を何回も受けているケースもあるとの事です。また3通りの治療法の使用基準も疾患の軽重、患者さんの都合などで決まったレシピはないそうです。
治療法の進歩にも関わらず、いつ発症するか分からない中での生活は患者さんのQOLを大きく損ねているとの事です。遺伝子検査の保険適応の拡大などの進展も見られる中で、医師は疾患認識を新たにして患者さんの希望に寄り添う対応が望まれています。
参考文献
蕁麻疹診療ガイドライン2026(第4版)
蕁麻疹診療ガイドライン策定委員会 福永 淳 ほか 日皮会誌:136(4),375-493,2026(令和8)
福田知雄 遺伝性血管性浮腫治療の進歩 臨皮 78(5増):92-95,2024
皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
竹中祐子 II蕁麻疹 痒疹類 3 血管性浮腫 pp46
遺伝性血管性浮腫(HAE) 病態、診断の解説 監修 大澤 勲 武田薬品工業株式会社
皮膚科臨床アセット 16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター 総編集◎古江増隆 専門編集◎秀 道広 中山書店 東京 2013
II 血管性浮腫(総論)
27.血管性浮腫の症状・頻度・性差 池澤善郎 118
28.血管性浮腫の分類・原因 寺木祐一 123
29.血管性浮腫の検査・診断・鑑別診断 寺木祐一 126
30.血管性浮腫の治療・予後 原田 晋 129
第125回 日本皮膚科学会総会 2026.6.11-14 京都
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