先日、慢性特発生蕁麻疹(Chonic Spontaneous Urticaria:CSU)のWEB講演会2)がありました。
それによると、近年の蕁麻疹治療のガイドラインは、オマリズマブ(ゾレア)、デュピルマブ(デュピクセント))の登場もあって大きく変わってきた事を教わりました。それで、講演の骨子を元に主にCSUについて2026年版のガイドラインを調べて見ました。
前半はガイドラインに沿った専門的な硬い記述が多いので、スルーしても良いです。
【概要】
2005年 日本皮膚科学会 「蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン」策定
2011年 evidence based medicine (EBM)に基づく「蕁麻疹診療ガイドライン」発表
2018年 国際コンセンサス会議をへてグローバルガイドライン(国際ガイドライン)作成
2021,2025年の改定
2026年 2018年版を検証し、進歩が著しい疫学、病態の情報を追加した。また2018年以降に登場した新規薬剤について治療アルゴリズムに反映させ、医師、患者がどの様に蕁麻疹を捉え、問題を解決するための治療、行動指針を示した。
🔷定義
膨疹、すなわち紅斑を伴う一過性、限局性の浮腫が病的に出没する疾患で多くは痒みを伴う。
🔷症状と疫学
全身のどこでも出現し多くは痒みを伴い30分から24時間以内に元に戻る。
多くは皮膚に限局するが、腹痛、発熱、気分不良、気道閉塞感、嘔吐などの症状を伴うこともあり、これらの場合はアナフィラキシーの鑑別が必要となる。
世界人口の最大20%が生涯のある時点で罹患する頻度の高い疾患である。
CSUの有病率は欧米諸国では1.5%以下だが、東アジアでは高い傾向で中国では2.7%、日本ではデータは限られるが、1%前後(1.2~1.6%)とみられる。
🔷病態
何らかの刺激により真皮に存在するマスト細胞の活性化・脱顆粒によって生じる疾患である。
その機序としてI型アレルギーが広く知られているが、実際には原因として特定の抗原を同定できる事は少ない。
それ以外に物理的刺激、薬剤、運動、体温上昇などで出現する刺激誘発型の蕁麻疹があり、また他方、明らかな誘因がなく自発的に膨疹が出現する場合もある。これらに様々な背景因子(疲労、睡眠不足、風邪などの感染症、個体の感受性など)が重なって発症する事が多く、必ずしも原因は一つの因子には求められない。
近年の蕁麻疹の病態生理はCSUを中心に進められている。
マスト細胞の活性化経路は、IgE依存性経路と非IgE依存性経路に大別すると理解し易い。
IgEはCSPの病態の中心的役割を担っている。
◉CSUにおけるIgE依存性経路
1)I型自己アレルギー性CSU(type I autoallergy)
従来は外来抗原に対する抗原特異的IgEによるI型アレルギー反応が想定されていたが、実際には多くのCSUの患者に自己抗原に対する自己反応性IgEが存在することがわかってきた。代表的な自己抗原として、IL-24,ds-DNA, 甲状腺ペルオキシダーゼなどが報告)
これらでは血清総IgEが高い傾向がある >43IU/ml
2)IIb型自己免疫(typeIIb autoimmunity)が関与
血清総IgEが低く、オマリズマブに反応し難い例では、IgEではなく、IgG型の坑IgE,または抗高親和性IgE受容体α鎖(FcεRIα)抗体を介するIIb型自己免疫が多く関与すると考えられている。
◉CSUにおける非IgE依存性経路
IgE以外でも、様々な物質がマスト細胞の脱顆粒や化学伝達物質の放出を引き起こすことが近年分かってきた。
代表的な物質を列挙すると。
・サブスタンスP・・・神経ペプチドでマスト細胞受容体MRGPRX2の強力なアゴニストで、これを介した迅速な脱顆粒を引き起こす。
・補体や凝固系 ・・・C3a,C5aはC3aR,C5aRを介してマスト細胞や好塩基球を刺激して、脱顆粒やサイトカイン放出を誘導する。血管内皮細胞や好酸球は組織因子を発現し、外因系凝固経路を活性化する。活性型第12血液凝固因子(FXIIa)やトロンビンはプロテアーゼ活性化受容体を介して内皮細胞やマスト細胞を刺激し、血管透過性亢進と脱顆粒を引き起こす。活性化した凝固因子は補体成分のC3やC5を切断してC3aやC5aを産生するために、凝固系と補体は連動してマスト細胞活性化に寄与する。
・Toll様受容体を介した経路
・血小板活性化因子を介した経路
・マスト細胞周辺ではIL-4やIL-5といったTh2サイトカイン発現増加が確認されていて、それは蕁麻疹の疾患重症度と相関している。IL-4/13受容体阻害薬であるデュピクセントがCSUに有効であることはこれを支持する所見である。
🔷診断と分類 省略
🔷検査 省略
丁寧な問診と身体的所見を見落とさないように注意し、蕁麻疹というだけで、安易にスクリーニング的な検査を行うことは慎み、原因検索のための検査は最小限とするべきである。
🔷評価
個々の患者の病型、重症度、社会的背景、病勢の推移を評価して、治療の効果と負担のバランスを測ることが重要である。
血管性浮腫、CSUなどにおいては疾患の活動性とQOL(Quality ofLife)を評価するための質問セットが幾つかある。その中でも蕁麻疹コントロールテスト(Urticaria Control Test:UCT)は直近4週間の状態について4項目からなるシンプルな質問表でビンゴゲームように0~4点に穴を開けてその状態を判定できる便利なツールである。
Q1:この4週間に、蕁麻疹による症状(痒み、膨疹、腫れ)がどのくらいありましたか?
Q2:この4週間に、蕁麻疹によってあなたの生活の質はどのくらい損なわれましたか?
Q3:この4週間に、蕁麻疹の治療があなたの症状を抑えるのに十分でなかったことがどれくらいありましたか?
Q4:全体として、この4週間にあなたの蕁麻疹はどれくらい良い状態に保たれていましたか。
0点 非常に強い (Q1~Q3) 全く (Q4)
1点 強い わずかに
2点 ある程度 ある程度
3点 わずかに 良く
4点 全くない 完全に
0点~16点で評価する
正しい評価が行われないと、クリニカルイナーシャ(臨床的惰性)に陥ってしまい易い。それを防ぐためにはUCTは簡便で活用し易い。
🔷治療
基本は、原因・悪化因子の除去・回避とヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)を中心とした薬物療法
主にCSPの治療について
Step1
非鎮静性第2世代抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)通常量を使用する。
適宜、他剤への変更、2倍量までの増量または2種類の併用
第一目標としてUCT12点以上を目指す。(治療により生活に支障がない状態)
Step2
Step1に追加してオマリズマブまたはデュピルマブ
以前のガイドラインでは、Step1に追加して補助治療薬として
H2ー拮抗薬、抗ロイコトリエン薬、トラネキサム酸がStep2に挙げられていたが、、今回は一段格下げられた形で、Step1の治療で十分なコントロールが得られない場合はStep2へ移行する前に試してもよい、と付記された形。
抗アレルギー薬でのコントロールが不十分と判断されれば、速やかに次のステップへ移行すべきである。
Step3
十分なコントロールが得られない場合
Step1に追加してシクロスポリンまたは試行的治療(専門施設で実施すべき治療)
と以前のガイドラインと大きく変更されています。
では、オマリズマブとデュピルマブの使い分けは?
松本先生の講演から
CSUとTypeII炎症の合併頻度はかなり高い〜70%。
アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など。
CSUは表の顔でもあり、裏の顔でもある。
大まかな両者の使い分け
TARC↓ IgE↑・・・・オマリズマブから使用
TARC↑ TypeII炎症合併・・・・デュピルマブから使用
IgE低い例(10IU以下、カットオフ値43U/ml)・・・・オマリズマブ無効
TARC↓ IgE↓ ANA TPO-ab+(抗甲状腺ペルオキシダーゼIgG抗体)・・・・いずれも効果低い可能性
ガイドラインの蕁麻疹診療の行動指針から参考になりそうな事項をピックアップしてみました。
#蕁麻疹の診断は臨床的に行い。スクリーニング的な検査は最小限に行う。
#蕁麻疹の病型に応じて生活指導をする。
#蕁麻疹の薬物治療では非鎮静性の第2世代抗ヒスタミン薬の内服を基本とする。
#通常量の抗ヒスタミン薬で効果不十分な場合は2倍量までの増量を行なってもよい。
#1剤の抗ヒスタミン薬で効果が得られない場合は他の抗ヒスタミン薬への変更を行ってもよい。
#抗ヒスタミン薬で十分な効果が得られない場合は補助的治療薬の併用を検討しても良い。
#副腎皮質ステロイド製剤全身投与の連用は基本的には避ける。
#抗ヒスタミン薬では症状の制御が不十分な慢性特発性蕁麻疹、物理的蕁麻疹、コリン性蕁麻疹にはオマリズマブの皮下注射を行ってもよい。
#抗ヒスタミン薬では症状の制御が不十分な慢性特発性蕁麻疹にはデュピルマブの皮下注射を行ってもよい。(新規作成)
#オマリズマブやデュピルマブは、個々の症例における治療の必要性、他の治療法の効果と、費用のバランスを踏まえて適応する。
#ステップ2までの治療および患者の背景・悪化因子への対策を行っても症状を制御できず、かつ患者の生活上の支障が大きい場合は、シクロスポリン内服を行ってもよい。(新規作成)
参考文献
1)蕁麻疹診療ガイドライン 2026 (第4版)
蕁麻疹診療ガイドライン策定委員会 福永 淳 ほか 日皮会誌: 136(4), 375-493, 2026(令和8)
2)千葉県皮膚科医会学術講演会
松本 賢太郎 『慢性特発性蕁麻疹診療におけるクリニカルイナーシャからの脱却をめざす
~UCTの活用と生物学的製剤の選択について~』 2026年5月20日