尋常性痤瘡については、過去に詳しく書きました。しかしながら2015,2016年の記事からもう10年が経ちました。十年一昔とは言い古された言い方ですが、将にニキビ・酒皶治療についても変遷を経て、ガイドラインも改訂されました。そこで山崎研志先生による「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」の検証という記事、林 伸和先生のJDA eLectureの講義内容などを参考にして最近のニキビ・酒皶事情についてまとめてみました。
その(1)尋常性痤瘡
尋常性痤瘡については、基本事項は変わった訳ではありません。そこで変更事項を中心にまとめてみたいと思います。
本邦では2008年に作成された「尋常性痤瘡治療ガイドライン」ではエビデンスに基づく適切な標準治療基準を提示し、同年に導入されたアダパレン(ディフェリン)を中心にニキビ治療が大きく進みました。2014-2015年に導入された過酸化ベンゾイル(ベピオ)と過酸化ベンゾイル/クリンダマイシン配合剤(デュアック配合剤)、ディフェリン、過酸化ベンゾイル配合剤(エピデュオ)を推奨し、維持療法と薬剤耐性菌回避の対策を推進した改訂ガイドラインが作成されました。そして世界に後れをとっていた日本の痤瘡治療がやっと世界の標準治療に追いついてきました。
ニキビはほとんどの人が経験する慢性炎症性疾患であり、いずれは治る「たかがニキビ」です。しかし、いったん瘢痕を形成してしまうとなかなか治らない「されどニキビ」となりQOLを落としてしまいますので、尋常性痤瘡(ニキビ)の治療の骨子は瘢痕を残さないようにするということです。また近年問題になっている抗生剤によるニキビ耐性菌を作らないということも大事です。
【診断】
前提として、ニキビの診断が重要です。
ニキビと似た疾患として酒さ、酒さ様皮膚炎(ステロイド痤瘡)、接触皮膚炎、マラセチア毛包炎、膠原病(SLE)、好酸球性膿疱性毛包炎などがあります。尋常性痤瘡(ニキビ)に特徴的なことは面皰を認めることです。その他の疾患では面皰は認めません。面皰を確認することがニキビの診断においては最重要です。
【治療】
ニキビの治療は(1)急性炎症期 (2)維持期の治療に分けられます。
(1)急性炎症期(~3か月まで)
例え軽症でも、瘢痕を残すことがあります。速やかに炎症を抑えて、瘢痕を残さず、維持期へと導入することが骨子となります。3ヶ月を目安とします。
軽症)顔の片側の炎症性皮疹が5個以下。
アダパレン、過酸化ベンゾイル、この両者、またはクリンダマイシンとの配合剤、外用抗菌剤の使用。
高い効果と高いアドヒアランスを期待して配合剤を上位推奨。
中等症)片側の炎症性皮疹が6〜20個。
外用薬に加えて抗菌内服薬を追加します。
内服抗菌薬ではドキシサイクリン、ミノサイクリンが推奨度A。ミノサイクリンは副作用が多いことがらドキシサイクリンの方が上位。
ロキシスロマイシン、ファロペネムが推奨度B。
抗菌薬の副作用が出る場合は漢方薬も選択肢となります。
十味敗毒湯、清上防風湯、荊芥連翹湯など。十味敗毒湯は皮脂分泌を抑え、体質改善作用があるとされ、広く使用可です。清上防風湯は発赤、化膿傾向が強い場合、荊芥連翹湯は炎症が慢性化し、化膿傾向を伴う場合に用いられます。漢方薬は日本独自のものですが、抗生剤のニキビ耐性菌の発生を抑え。慢性の炎症を抑える意味でも有用であると思われます。
重症)片側の炎症性皮疹が21≁50個。51個以上は最重症。
抗菌薬の内服療法が主体となります。
(2)維持期(3か月以降)
ニキビは慢性炎症性疾患ですので、一旦急性炎症が治まっても、継続的な治療が必要です。
この際、最も重要なことは抗菌薬の耐性菌を作らないということです。2013年と2019年の抗菌薬耐性率を調べると、ロキシスロマイシンが43.5%➡60%、クリンダマイシンが37.7%➡60%、ドキシサイクリンが4.3%➡20%といずれも上昇していました。従って維持期では、抗菌薬の連用は慎むべきです。しかしながら実臨床では完全な維持期治療に持ち込めた例は少数となっています。
アダパレン、過酸化ベンゾイルの継続使用が推奨されていますが、いずれも刺激、乾燥が問題です。また過酸化ベンゾイルは時に”かぶれ”を起こします。
これを避けるために2025年にはべピオウォッシュゲルが発売されました。5-10分間のショートコンタクトの後、洗い流すことにより、刺激が少なくなりました。またべピオの欠点である衣服などの脱色、退色も避けることが可能になりました。かぶれには一次刺激性とアレルギー性があります。多くは一次刺激性ですが、アレルギー性では中止の必要がありますので、この見極めをしっかりつけることが肝要となってきます。
維持期での内服薬として、先に述べた漢方薬はガイドラインではCレベルながら耐性菌も作らず、抗炎症作用もありますので一定の効果はあるものと思われます。
(3)その他の治療法
・ケミカルピーリング・・・グリコール酸、サリチル酸マグコロールなど
・レーザー、光、高周波治療・・・IPL,Vビーム、パルス色素レーザー、フラクショナルCo2レーザーなど、美容皮膚科系のクリニックでは施行されていて一定の効果は認められています。2024年には1726nm波長を発振し、皮脂腺に特異的に作用するダイオードレーザー装置がニキビに対する長期治療機器として米国FDAで認可されました。本邦でも2025年に薬事承認されたそうです。今後の治療成績に期待したいところです。
(4)海外のニキビ治療
近年は日本のニキビ治療も海外と大差なくなりました。しかしながらいくつかの違いもあるようです。
・英国ではミノサイクリンは副作用の観点から、尋常性ざ瘡、酒さ患者に対しては避けることが強く推奨されています。
・海外のガイドラインでは重症ざ瘡に対して皮脂腺縮小効果のある低用量イソトレチノイン内服が推奨されていますが、日本では適応となっていません。最大の副作用は胎児の催奇形性ですので、安易に自費治療や個人輸入は避けるべきです。
【普段のケア】
・スキンケア
*面皰を作らないように、1日2回の洗顔、但し泡で優しく洗うようにし、ごしごし擦らないこと
*お化粧、日焼け止めはしても良いが、ノンコメドジェニックで。リップ、アイメイクなどポイントメイクを主体に。
*保湿は必要ではあるが、これのみではニキビは消えない。
・生活習慣
*食事はバランスが重要。チョコ、脂っぽいものはよくないとされるが、1/4は無関係との報告も。血糖を上げるものは誘発するとされるが、思春期、成長期に過度のダイエットは良くないので、高カロリー食を避ける程度でよい。
*睡眠、ストレスは悪影響ではあるが、受験勉強などもあり、これも出来る範囲で可。
【集簇性痤瘡】
思春期以降の男性によくみられる疾患で、項部、頸部、胸部、上背部などに好発します。皮疹は嚢腫、結節、皮下膿瘍を形成し、時にはこれらが皮下で交通し皮下瘻孔を形成することもあります。毛包閉塞性疾患の1型と考えられています。(膿瘍性穿掘性頭部毛包周囲炎、化膿性汗腺炎を含んだ疾患群)
治療は痤瘡の重症型に準じて行われますが、難治であり、長期にわたり慢性化します。海外では一般にイソトレチノインが用いられていますが、国内では未承認で使用できません。化膿性汗腺炎を合併していれば近年はアダリムマブなどの生物学的製剤が適応になり、良好な治療成績の報告もみられます。
様々な民間療法もある中で、皮膚科医はガイドラインに沿ったエビデンスに基づいた治療を実践することが治療の最善の方法であることを認識することが大切。
参考文献
皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集 高橋健造 佐伯秀久 南江堂 2024
山崎研志 「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」の検証 pp8-10
石井 健 XVIII 皮膚付属器疾患 1 痤瘡 pp277-279
黒川一郎 XVIII 皮膚付属器疾患 2 集簇性痤瘡 pp280
林 伸和 たかが「にきび」、されど「にきび」 2021/8/25
日本皮膚科学会 e Lecture
第42回日本臨床皮膚科医会総会・臨床学術大会 2026年4月18・19日
乃木田俊辰 LS8 ニキビ治療の最前線~東西融合のススメ~ p317
乃木田俊辰 SS6-1 新波長と新技術が変えるニキビ治療への期待 p343