壊死性筋膜炎の早期診断

先日の日皮総会で、「壊死性筋膜炎の最前線」という講演を聴講しました。まず、驚いたのが、初期対応の遅れから不幸な転機をとったケースでの医療訴訟の判例でした。経過、対応などは正確に覚えていませんが、賠償金が5000万円以上だったと思います。我々開業医をはじめ、多くの皮膚科医のなかで直接壊死性筋膜炎の治療に主導的に関わる医師は少数派だとは思いますが、病初期の診断、治療に関わるのはほぼ皮膚科医だと思います。
上記のような事も他人事では無いな、と思いながら聴いていました。改めて診断の難しさも感じました。いかに早期に見極めるか、いかに誤診を避けるか、は我々皮膚科医に取っては喫緊の課題かと改めて思いました。そこで、早期診断に絞って文献検索をしてみました。過去に当ブログにアップした記事も参考にして下さい。

壊死性筋膜炎・劇症型A群溶連菌感染症

壊死性筋膜炎の早期診断のキモ

実臨床の現場で壊死性筋膜炎を疑うべき、早期現場にいたときに気付くべき要点、心がけるべき要点、キモをまとめてみました。
多くは、一般的で広く知られている所見ですが、文献検索した重要な点も踏まえて列記してみました。(個人的な考えも踏まえて)

*発赤、腫脹、浮腫と早期は蜂窩織炎としての症状と同様だが、次の点に注意。

・皮膚所見と乖離するような強い痛み、重病感

・発赤の範囲を越えた浮腫、腫脹や圧痛が存在

・一見普通の蜂窩織炎だが、抗菌薬が効かず、症状が進展していく。

・初診時に皮疹の辺縁をマーキングしておく。症状の進行は数時間から数日後発症の急速進行型と緩徐型がある。蜂窩織炎であっても常に壊死性筋膜炎との鑑別を念頭に密に経過をみる姿勢が必要。

*ごく初期は発熱もなく、病変が筋膜に広がるので皮膚の表層には大した所見がなく、紅斑もそれほど鮮やかでないこともある。しかし痛みは激烈。(進行すると神経障害のためにむしろ知覚鈍麻となる。)。さらに抗菌薬にも反応しない。➡地味に重症

*診察時に患者背景を問診することは必須。病歴(糖尿病、肝硬変、腎疾患、婦人科系、タンポン使用など)。使用薬剤など。また最近の行動、打撲、傷、海水浴、生の魚介類への接触、生食など。

*皮膚症状が軽微、あるいは無くても、下痢・嘔吐・吐気やインフルエンザ様の風邪症状があったり、四肢に痛み(激痛)がある場合は、A群溶連菌感染症を疑う。(人食いバクテリア)。このタイプは急速に進行するので専門医療機関などへの搬送など即時の対応が必要。特にごく初期の非特異的な場合は”何か変、重病感がある” などの勘が必要。(TSS,TSLSなども含め)

*触診(ガス壊疽などでの握雪感、圧痛、熱感、硬結、ぶよぶよ感など)も大切。

*皮疹部にガーゼなどを当てて臭いを嗅いで腐敗臭、どぶ水臭などないか確認も大切。

*LRINEC Scoreは早期診断には役立たない。スコア0の報告もある。参考程度にする。

*早期診断は視診、触診による。唯一の確定診断は試験切開による筋膜の所見とfinger test。但し、その先のデブリードマン、全身治療を前提として行うので、開業医レベルでは無理。

*エコー検査は開業医レベルでもその場で簡便、迅速にできて皮下の肥厚、液体の貯留、気体の混入を確認できるので画像検査としては有用。

 

🔷以上、文献を検索して早期診断に役立つと思われる事項を列記してみました。個人的な考えも入っているかもしれませんが、参考になれば幸いです。

以下の項目は、疾患全般についての記述で長くなりますので必要な部分のみチェックして下さい。

と言うよりも、以下のサイトをまとめたものなので、直接サイトの記事を見た方が正確かと思います。
リンク先をコピーして置きます。

5)井上茂亮
https://www.wakayama-med.ac.jp/med/eccm/assets/images/library/bed_side/22.pdf

6)臼井大記
https://oogaki.or.jp/orthopedic-surgery/infectious-disease/necrotizing-fasciitis-2/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

【壊死性筋膜炎・疾患の定義について】

皮膚壊死を伴う重症の皮膚軟部組織感染症で、狭義には浅筋膜に沿って水平方向に急速に感染が進行するものを指します。
広義には壊死を伴うさまざまな皮膚軟部組織感染症を総称し、壊死性皮膚軟部組織感染症(Necrotizing soft-tissue infection: NSTI)と呼称し狭義のものはその一部との立場をとる施設も増えてきています。ただ”筋膜炎”と定義するならば狭義のものが字義に合致するでしょう。最近では皮膚から筋肉までの軟部組織の壊死性感染症は共通のマネジメントを行うためにNSTIの呼称が推奨されているとのことです。
ここでは全体像を包括する壊死性皮膚軟部組織感染症(Necrotizing soft-tissue infection: NSTI)として話を進めていきたいと思います。

(この項 和歌山県立医大 救急集中治療部 井上茂亮 レクチャーノート 参照)

【壊死性皮膚軟部組織感染症(Necrotizing soft-tissue infection: NSTI)】
<分類>
I型 嫌気性菌を代表とした混合感染が主体
*糖尿病、末梢動脈疾患、免疫不全、手術などがリスクファクター
*好発部位は腹壁、会陰部、鼠径部などで、男性の陰嚢、陰茎など生殖器に始まるものをフルニエ壊疽と呼ぶ。
(起炎菌)
嫌気性菌
・bacteroides species
・peptostreptoccuccus species

clostridium species➡ 狭義のガス壊疽、主として筋層を侵す。他の菌との混合感染が多い。非Clostridiumのガス産生菌によるものを広義のガス壊疽と呼ぶ。
腸内細菌
・E.coli
・Klebsiella species
・Enterobacter species
・Proteus species

II型 A群溶血性連鎖球菌による
*単独菌型で健常者にも起こる
*好発部位は下肢
*非常に進行が急速でいわゆる”人食いバクテリア”
(起炎菌)
GroupA streptococci (B,C,G群でも起こりうる)
Staphylococcus aureus

III型 海洋性細菌による
(起炎菌)
Vibrio vulnificus 薄い塩分の汽水域に生息
Aeromonas species 水のあるところならどこでも生息、低温増殖性、ドブ水のような悪臭
*肝硬変患者、免疫不全患者に好発
*進行が速く、これらも俗に”人食いバクテリア”と呼ばれる

IV型 真菌型
*進行は緩徐である

本症は起炎菌としてStreptococcus属が最も多いが、菌種は多種多様である。ちなみに講演会での提示症例は結核菌でした。

【NSTIの病期】
Stage1(早期)
・圧痛、紅斑、腫脹、熱感
所見の揃っていない早期で、いかにNSTIを考えられるかが救命の鍵
Stage2(中期)
・水疱、皮膚の波動、皮膚の硬結
Stage 3(後期)
・血水疱、皮膚の知覚鈍麻、握雪感、皮膚壊死

【NSTIの診断は難しい】
*発熱がない事もある
*糖尿、肝硬変、免疫不全などのリスクファクターがなく一見健常者にも突然起こりうる。(特にA群連鎖球菌感染症)
*皮膚症状がなく、下痢、嘔吐、吐気で始まることもある。➡️A群溶連菌感染症の初期。皮膚症状がないか、軽微でも凄く痛がっている、紅斑の範囲を越えて浮腫や、圧痛、腫脹が存在する時は積極的にNSTIを疑う。(地味に重症)。
*地味に進行するメカニズム・・・筋肉と比べて筋膜の血流は少ない。A群溶連菌は周囲の血管に血栓を形成しながら筋膜を主座として水平に拡大して行くが、膿を形成し難く、初期には表層の組織(皮膚や皮下組織)には所見がでず、見た目だけでは分かりにくい。血栓を形成し、血流が途絶することで壊死が急速に進行し、抗生剤も到達できず、効果が現れにくい。
*LRINEC SCOREは当てにできない。・・・CRP,WBC,Hb,Na,Cre,glucoseを計数化してNSTIの診断に用いられるツールでスコアが6以上なら感度68.2%、特異度84.8%, スコア8以上なら感度40.8%.特異度94.9%で早期診断に有用とする見方もあるが、スコア0でも発症した報告もあり、早期診断のためにこれを用いるのはむしろ危険。スコアが低いからといってNSTIを否定できない。但しスコア8以上ならば、ほぼNSTIと考えられる。参考所見の一つとして活用するのはよい。

【NSTIの進行する病態生理】
*A群溶連菌や黄色ブドウ球菌ではストレプトリジンやエンテロトキシンなどの毒素を産生し、毒素関連性全身感染症を引き起こす。これらがスーパー抗原となり、非常に多くのT細胞を活性化させ、サイトカインストームを引き起こす。(TSST-1は抗原提示細胞上のClassII分子に結合し、さらにT細胞受容体のVβ領域に結合することで、特定のVβを発現する膨大な数のT細胞を一気に活性化させこれにより、IL-1,TNF-α,IL-2,IFN-γなどの大量のサイトカインが産生され、さらに免疫細胞にも影響を及ぼしてサイトカインが暴走してサイトカインストームの状態となり全身症状を悪化させる。)
*筋膜は血流が少なく、A型溶連菌は外毒素が血管内皮を傷害し、血栓を形成し、一気に拡散するために進行が非常に速く、抗生剤も壊死部分に到達できないために急速に進行し、数時間で四肢が紫紅色に変色する例もある。
*混合菌型では嫌気性菌が産生する酪酸などによりpHが低下し、それが好気性菌の発育をさらに促進する悪循環をきたす。

【感染経路】
・皮膚の傷口、小さな傷、擦り傷、火傷、手術創、床ずれ、虫刺され注射痕など
・外傷が明らかでなくても、筋肉の打撲傷、捻挫部位に菌が生着し発症した例もある。
・初期症状として、下痢、吐気、嘔吐、発熱など風邪症状から始まることがあり、菌の侵入門戸は不明、あるいは咽頭、生殖器、産後などもありうる。
・水中菌型では、海水浴、釣りの傷、生の魚介類を介して生じる。糖尿病、肝硬変、免疫不全などのリスク因子が背景にあることが多い。

【検査、チェック法など】
※指疹(フィンガーテスト)・・・麻酔下に数cmの試験切開をして筋膜所見を観察し、指で鈍的に剥離ができるか、壊死した筋膜、dish waterの確認、 さらに筋膜の病理組織を確認することが「早期の唯一の確実な診断方法」とされる。
※LRINECスコアは早期のNSTIの診断ツールとしては役立たない。参考程度に留める。
※画像
・X-P 初期は非特異的な所見で有用ではない。一部ガス像を認めることはある。
・CT・・・筋膜の肥厚、皮下の不鮮明化、微細なガス像を確認できる。多くの施設にあり、効率的で第一選択肢。
・エコー・・・その場で簡便かつ迅速にできる。皮下の肥厚、液体の貯留(2mm以上あれば強く疑う)、気体の混入を確認できる。
・MRI・・・軟部組織の描出に優れている。軟部組織の浮腫、筋膜の肥厚(T2強調の高信号)。感度90-100%。但し、検査に時間がかかるために緊急時の検査には適さない。
※細菌培養・・・手術、デブリードマン毎に。

【治療の概略】
治療は高度の専門的、集学的管理が必要ですので専門家、専門書にゆだね、基本的な概略的なことのみを記します。

・まずはできる限り早期の診断から緊急のデブリードマン
皮膚壊死部、発赤部、非感染部に分けて対処する。壊死部は全部切除する。発赤部は回復可能と考え切開に留める。非感染部は慎重に経過観察し、壊死が進行するようなら翌日以降追加デブリードマンを施行。
ガス壊疽では初回デブリードマンで創部を十分に洗浄し、嫌気的条件を排除すると追加切除範囲を減らせるとされる。初回切除を過剰にならないように血行が良好な縁まで切除する。
・全身管理、ショック対策、DIC対策、サイトカインストームへの対応。これらに対応するためワクチン開発、ファージ療法も研究されているとのこと。
・大量の抗菌薬投与・・・混合感染も多く緊急を要するので多剤、高用量のempiric therapyを行う。阻血状態なので低用量では局所に到達しない。
・培養結果や臨床症状の効果を見て不要な抗菌薬を中止してデ・エスカレーションしていく。
・クリンダマイシン(ダラシン)は毒素産生を抑制しEagle effect(菌が飽和状態になり分裂を休止すると細胞壁合成阻害の抗菌薬が効きにくくなる)対策にもなるために継続する。
・開放創として十分肉芽が盛り上がるのを待って、分層植皮術を行う。

参考文献

1)第125回 日本皮膚科学会総会 教育講演66 壊死性筋膜炎の最前線 加藤裕史 2026年6月14日

2)皮膚疾患 最新の治療 2025-2026 編集  高橋健造 佐伯秀久 南江堂 東京 2024
山﨑 修 XV感染症 A 細菌 壊死性筋膜炎、ガス壊疽   pp187-188

3)山﨑 修 壊死性筋膜炎 島根大学医学部皮膚科学講座
日本皮膚科学会 e Lecture

4)盛山吉弘 壊死性筋膜炎の早期診断 皮膚病診療 38巻 1号 2016.1.1

5)壊死性筋膜炎 レクチャーノート 和歌山県立医大 救急・集中治療部 井上茂亮 2023.12.25

6)壊死性筋膜炎 大垣中央病院 整形外科 臼井大記