膠原病も、開業医では日常診療でそれ程お目にかからないので、ずっと不勉強でいました。
どの分野もそうですが、この分野も近年長足の進歩を遂げているようでした。特に免疫、アレルギーの分野は、免疫学の進歩や、様々な研究手法、新規創薬なども登場し、病態の分子基盤、治療標的が高い解像度で捉えられるようになったとのことです。
久しぶりに総会講演を聴講してもほぼ分からないことだらけでしたが、(そのうち書いてみると言った)強皮症について調べてみました。
最後に書いたVEDOSSが今回の骨子です。
【疾患の定義】
まず、全身性強皮症(systemic sclerosis: SSc)という語句ですが、小生のような古い皮膚科医はつい、PSS(progressive systemic sclerosis)と言ってしまいます。この語句は1945年に南アフリカの内科医Goetzが初めて提唱した疾患概念で1990年頃まではよく用いられていたそうです。(自分の知識がそこから上書きされていない証左ですが。)しかし近年は本疾患が必ずしもprogressiveな経過をとるわけでもなく、患者さんにいたずらに悲観的イメージを与えるとして、SScが国際的なコンセンサスを得たとのことです。
SScは、皮膚硬化が肘・膝関節部よりも近位にまで及ぶ、dcSSc(diffuse cutaneous SSc:びまん皮膚硬化型全身性強皮症)と、皮膚硬化が肘・膝関節部より遠位に留まるlcSSc(limited cutaneous SSc:限局皮膚硬化型全身性強皮症に分けられます。ここで、限局性強皮症(localized scleroderma)は日本語では共に”限局”という語句が使われますが、両者は全く別疾患ですので混同しないことが肝要です。限局性強皮症は皮膚のみの疾患で、内臓は侵しません。ちなみに英語表記では、両者はlimited, localizedと異なった表記です。
また、日本では「全身性強皮症」という病名が広く使われてきました。しかし、国際的にはsystemic sclerosisという名称が用いられており、日本リウマチ学会ではこの英語病名により忠実な訳として,2024年4月から正式に「全身性硬化症」に統一されました。ただし、現在も医療現場、患者会さらに社会一般では「全身性強皮症」という呼び方が流布されています。現在は病名の移行期で、次第に「全身性硬化症」という名称が定着していく見込みです。『この項、難病情報センター 全身性強皮症(指定難病51)HPより』
【病因】
1) SScの病態については、免疫の異常な活性化、血管障害、線維化という3つの要素が大きくかかわっています。その中でも免疫異常が最も大きな病因とされています。その理由は
*90%以上に抗核抗体が陽性であり、かつ多くは疾患特異性が高く、特異抗体と病型、症状がリンクする。症状の出現前に陽性になることが多い。(最長27年前から、平均7.4年。抗セントロメア抗体10.4年、抗RNPIII抗体4.8年、抗トポイソメラーゼ抗体4.5年)
*他の膠原病とのオーバーラップがあり、またPBCなどの臓器特異的自己免疫病との合併がある。
*SScにおいて免疫関連の遺伝子変異が多くみつかっている。GWASの検索の結果HLA(MHC領域)と相関する疾患感受性遺伝子が多く報告されている。
*B細胞、CD19,CD20の機能異常が報告されている。
*GVHDで皮膚硬化がみられることがあるのは、免疫異常から皮膚硬化が発症することを示唆する。
様々な自己免疫異常が引き金になることは解っていますが、SScの疾患には多様性があり、単一の病因論では説明がつかないようです。
2)コラーゲン代謝異常
上記免疫異常の基盤の上に、コラーゲン代謝異常がみられます。膠原線維は膨化、増生し、I型コラーゲンの産生が増強しfibrogenesisisにも異常がみられます。強力な線維化誘導因子としてTGF-βが活性化し、その分解酵素であるMMP-1(matrix metalloproteinase-1)の活性低下が指摘されています。これらが線維化に大きくかかわっているとのことです。
3)細~小動脈(50~500μm)から毛細血管の内皮障害、血小板の活性化、炎症、免疫応答、血栓、酸化ストレスなどにより線維芽細胞の活性化、細胞外マトリックス産生を経て線維化が進んでいくという一連の流れが考えられています。
【自己抗体】
SScに認められる自己抗体は全て抗核抗体です。それぞれの自己抗体の違いによって、臨床症状、疾患の重症度、経過も相関し、それぞれの疾患亜群の違い、特徴がみてとれます。
・抗セントロメア抗体(anti-centromere antibody: ACA)・・・毛細血管拡張・石灰沈着がみられる。肺線維症など重篤な内臓病変は少なく、lcSScと関連するとされており予後良好な群です。但し10%以上で肺高血圧症(pulmonary hypertension: PH)が見られ、また一部ではシェーグレン病への進展もあり、経過観察において注目すべき点です。
・抗トポイソメラーゼI抗体・・・末梢血管障害がみられ、70%以上に肺線維症をきたし、皮膚硬化も強くdcSScで予後不良な群です。
・抗RNAポリメラーゼ抗体・・・10%以上に強皮症腎クリーぜを認めますが、肺線維症も少なくdcSScの中では比較的予後良好な群です。
・抗U1RNP抗体・・・筋炎や関節炎などの炎症症状が見られ、時に肺線維症、肺高血圧症を認めますが、lcSScで比較的予後良好な一群です。
【皮膚、手の症状】
1.レイノー症状、強皮症の80%で、初発症状。
白 ➡︎ (紫) ➡︎ 赤 手の発赤は持続性
一次性レイノー現象(若い女性に多く、基礎疾患はなく経過良好で重篤な合併症は伴わない。抗核抗体陰性。色調変化のみ。潰瘍を伴わない。)と
鑑別しておくことが重要。
2.手のむくみ感
「最近、指輪が入りにくくなった」など 厚ぼったく腫れる。 puffy finger(手指腫脹)
3.朝の手のこわばり
4.爪上皮出血点(Nail Fold Bleeding: NFB)
爪上皮の点状、線状の出血点、後爪郭の拡張した毛細血管ループを認める。➡️全身の血管障害の本態
ダーモスコープ、キャピラロスコピーで観察。無侵襲的で簡易。活動期でcapillary densityの低下。後期では無血管領域。簡易的にはダーモスコープでも代用が可能で、所見があれば、専門医療機関にキャピラロスコピーを依頼することで十分対応できます。
5.指先の虫食い状瘢痕
6.毛細血管拡張
※逆流性食道炎の症状は、皮膚硬化の軽い症例でも高率に生じる。
胸焼け、胸のつかえ感、逆流感
【ACR/EULAの分類基準】(ACR/EULAR:米国リウマチ学会/欧州リウマチ学会)2013
項目…………………….小項目………………….スコア
中手指関節より近位の皮膚硬化……これだけで、difinite SScと分類される………9
手指の硬化(高い方のスコアをカウント)…..手指の腫脹…………………2
………………..強指症(中手指節関節より高位、近位指節間関節より近位..4
手指尖の病変(高い方のスコアをカウント)…指尖部潰瘍………………..2
………………………..指尖部虫喰状瘢痕……………………3
毛細血管拡張…………….. ー ………………….2
爪郭部毛細血管の異常……… ー ……………………2
肺動脈性肺高血圧症 and/or間質性肺炎….肺動脈性高血圧症(右心カテにて診断)…2
………………………….間質性肺炎(HRCT or 胸部Xpにて診断………2
レイノー現象(少なくとも2相性)…… ー ……………………3
SSc関連自己抗体(最大スコアは3)
……抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体…3
🔷トータルスコアが9以上でdefinite SScと分類される
【SScの早期診断と早期介入】
SScのごく早期に診断をつけて、早期に介入することによってSScの疾患活動性とILDなどの生命予後を左右する病態の進行を抑制することができます。
以前から早期診断についての検討はありましたが、2011年にEUSTARグループによって発表されたVEDOSS(very early diagnosis of systemic sclerosis) 超早期SSc 2011 Criteriaがその後のSScの早期診断の基準となってきました。その内容は、
*1st Level
-レイノー現象、-Puffy fingers、-抗核抗体陽性所見で、SScの疑いとする。それでRed flagを立て、要観察とする。
⇩
*2nd Level
-爪郭の毛細血管異常または-SSc特異的自己抗体陽性でVEDOSSの診断とする。
このVEDOSSの考え方が2013年のACR/EULAR SSc分類基準に反映され早期分類が可能となりました。
VEDOSSの有用性の検討 2021年 Lancet Rheumatologyの報告に基づく最新アプローチで各項目の組み合わせでのSScへの進展度の高さを検討したところ、SSc特異的抗体陽性とPuffy fingerの組み合わせが最も進展リスクが高かったことより、レイノー現象を必須項目として、Puffy finger、抗核抗体陽性、SSc特異的抗体陽性、後爪郭の毛細血管異常のうち1項目以上を満たすものがVEDOSSと定義されました。
その後の研究で、VEDOSSの定義をもとに早期介入することによって、疾患の進展を遅らせ、生存期間を延長しうるデータも得られてきています。
ただ、これの問題点としては、SScは早期診断群として不均一な集団であり、進行リスクが一様でないことがあります。そしてこれらの集団を一様に密にフォローするには、患者負担の増加、医療コストの増加なども問題となってきます。現実問題として1/3以上が軽症例のまま長期間推移しています。
VEDOSSはSScの早期診断には有用ではありますが、疾患重症度や予後、また臓器の拡がりも異なる多様性のあるSSc集団を患者さんとSDMを共有しながら、QOLを保ちつつ過不足なく長期間フォローする事はなかなか困難な事です。
しかしながら、現在進行性の高リスク群を正確に同定する試みが進んでいるとのことです。
皮膚科医としては、ゲートキーパーとしてSScの早期診断に寄与すること、また皮膚関連症状の治療とともに日々の診療を通して各臓器障害の検出と各科専門医への橋渡しの役割が求められています。
次回は、皮膚科医としては直接診断、治療には関わらないかもしれないものの重要なSScの全身の臓器障害について、調べてみたいと思います。
参考文献
皮膚科臨床アセット 7 皮膚科 膠原病のすべて 総編集◎古江増隆 専門編集◎佐藤伸一 中山書店 東京 2011
VII 全身性強皮症
藤本 学 26. 全身性強皮症の概念と疫学、病因(1)自己免疫 pp112-114
浅野善英 27. 全身性強皮症の病因(2)コラーゲン代謝、 TGF-β異常 pp115-117
桑名正隆 28. 全身性強皮症の病因(3)血管障害、血管内皮前駆細胞異常 pp118-120
神人正寿 29. 全身性強皮症の診断基準、病型分類 PP121-123
竹原和彦 30. 全身性強皮症に伴う全身症状 pp124-127
佐藤伸一 全身性強皮症(SSc)の病態 日本皮膚科学会 JDA eLecture
膠原病 first touch ーー日常診療で見落とさないーー 編集企画 浅野善英 Derma 2026年3月
松下貴史 レイノー現象に潜む膠原病を見逃さない pp1-5
濱口儒人 抗核抗体検査の解釈を極める pp6-10
瀬川雄一朗 爪上皮出血点・爪郭部毛細血管異常を極める pp12-18
関口明子 抗セントロメア抗体を極める pp19-26
住田 隼一 全身性硬化症に伴う肺動脈性高血圧を見逃さない pp27-32
第125回日本皮膚科学会総会 京都 2026年6月
渡邊 友也 EL32-4 全身性硬化症の早期診断と早期介入における皮膚科医の役割