リンヴォック AD 5年

先日”リンヴォック(RINVOQ) AD 5年の軌跡を振り返る” というWEB講演が2題ありました。
1日のうちに2題あり、再講演かと思いましたが、演者は乃村俊史(筑波大学)、茂木精一郎(群馬大学)と当代をリードする若手皮膚科医による別々の講演なので、聴講してみました。
進歩しつつあるアトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis:AD)の治療のトレンドを垣間見ることができました。
日本皮膚科学会総会の天野博雄先生の講演(経口JAK阻害薬のリアル)も参考にしながら、アトピー性皮膚炎の治療におけるJAK阻害薬の立ち位置を勉強させてもらいました。
難治性ADの治療は年々進歩してきています。生物学的製剤の登場によって従来の治療では寛解に至らなかった例もコントロールできるようになってきました。しかしながらそれでもなお、軽快しない場合のアンメットニーズにJAK阻害薬が重要な地位を占めている事を学びました。
それぞれのエキスパートの解説をまとめてみました。

日本皮膚科学会ガイドライン; アトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis:AD)におけるヤヌスキナーゼ(JAK)阻害内服薬の使用ガイダンス 日皮会誌:132(8),1797-1812,2022(令和4)
まずは日本皮膚科学会の公式ガイダンスによって、JAK阻害薬の基本のおさらいをしてみました。

「ADの発症機序にはinterleukin (IL)-4,IL-13,IL-22,IL-31, thymic stromal lymphopoietin(TSLP), interferon(IFN)-γなどの複数のサイトカインが関与することが知られており、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害内服薬はこれらのサイトカインのシグナル伝達に関与するJAK-STAT(signal transducers and activator of transcription)シグナル伝達経路を阻害することから、ADに対して効果を示すことが期待される。
ADに対するJAK阻害薬は2020年にJAK1/2阻害薬であるバリシチニブ(オルミエント)が適応になり、2021年にはJAK1阻害薬であるウパダシチニブ(リンヴォック)が適応拡大され、同じくJAK1阻害薬であるアブロシチニブ(サイバインコ)も保険適用された。厚労省はこれらの薬剤に対してガイドラインを作成し、それを遵守することを求めている。
(薬剤の効果、安全性、対象患者の年齢、用法・用量など)
<臨床試験成績>
上記3剤で臨床試験が行われ、(ステロイド外用剤併用、プロトピック併用、プラシーボと比較)などで12週から16週の使用)いずれも有効性が示された。
<医師および医療施設条件>
生物学的製剤施設基準に準ずるが、承認制度は設けない。但し、日皮膚科学会事務局に届け出を出してから使用すること。
<対象患者>
バリシチニブは成人、ウパダシチニブは12歳以上(但し、小児は体重30Kg以上)、アブロシチニブは12歳以上
6か月以上、従来の外用治療などで軽快しないもの、IGA 3以上、EASI 16 以上(顔面 2.4以上)、体表面積 10% 以上
<用法・用量>
バリシチニブ・・・成人4mg 15mg 1日1回 経口  状態に応じて20mgに減量
ウパダシチニブ・・・15mg 1日1回 状態に応じて30gmに増量可  小児には15mg 1日1回
アブロシチニブ・・・100mg 1日1回 経口 状態に応じて200mgに増量可
<用法・用量に関する注意事項>
腎機能障害者への注意、併用薬の注意(尿酸排泄促進薬、CYP3A4阻害薬、CYP2C19阻害薬、免疫抑制剤など)が挙げられている。
<治療禁忌>
本剤への過敏症、結核、重度の腎機能障害、好中球、リンパ球、ヘモグロビン、血小板数の規定以上に少ない者、妊婦
<投与前および投与中に行う問診・検査>
基本的に乾癬の生物学的製剤の使用ガイダンスに準じる。
<注意すべき事象とその対策>
乾癬の生物学的製剤でのガイダンスに準じているが、特にJAK阻害剤で指摘されている事柄
・帯状疱疹は65歳以上では多い。50歳以上ではワクチンを検討するが、生ワクチンは禁忌。
・単純疱疹、カポジ水痘様発疹症に注意。
・JAK阻害剤では血清クレアチニン値の軽度上昇はみられるが、必ずしも腎機能障害ではない。
・血小板数の減少は65歳以上では見られやすい。5万以下ではアブロシチニブの投与は禁忌。
・CPK増加も見られることがあるが、筋障害とは無関係とされる。
・心血管事象MACE(Major Cardiovascular Events)・・・リウマチ患者でのTNF阻害剤との比較で非劣性が検証されなかった。
・消化管穿孔・・・IL-6阻害剤では報告があるが、本剤はIL-6シグナルの下流を抑制することより注意。
・悪性腫瘍・・・リウマチ患者でのTNF阻害剤、MTX使用との比較で非劣性は証明されず。

今回はリンヴォックの講演会でしたので、それについての3人の先生の使用経験、コメントを抽出してみました。
重複する部分もありますが、適宜取捨選択しました。

RINVOQ AD 5年の軌跡を振り返る 乃村 俊史 筑波大学

まず、Level Up Testの結果を示されました。
これはリンヴォック(RV)とデュピクセント(DuP)によるADの比較試験です。
中等症から重症のADの12歳以上の患者に対して、RV(15mg/日)とDup(添付文書通り)で比較試験を開始した。
16週時点で、EASI,最悪の痒みのNRS(Numerical Rating Scale)のいずれにおいてもRVが有意に効果が高かった。いずれの群でも最も多い副作用は鼻咽頭炎だった。
Dup群で重篤な感染症があったが、RV群ではなかった。またMACE,VTE,悪性腫瘍もなかった。その後30mgにレベルアップしたが、効果の差は更に広がった。
RVのかゆみに対する効果は早かったが、一方遅れて発揮するケースもあった。
有害事象では鼻咽頭炎が5%と最大だった。次いでニキビ、毛包炎など。CK上昇、血球減少、肝機能異常は0~3.4%で重篤なものはなかった。また懸念された帯状疱疹は1-2%.
発売後、5年たってのイメージは。
・当初は漠然とした、不安、未使用による副作用への懸念があり、15mgのみを使用していた。
・次第に経験を重ねてきて、中等症には15mg、重症には30mgを使用するようになった。
・5,6年の長期使用においても、重篤な副作用(MACE, VTE, 悪性腫瘍)の出現率は一般のADの発現率と差がないか、むしろ低い。
・RV30mg使用で難治性のADも改善することを経験。
・注射薬と内服を均等に患者に提示できるようになり、診療の幅が広がった。
*現時点でRVが好適と思われる患者像は。
1)50歳以下
2)全身治療未経験のADで内服希望の患者
3)頭頚部、顔面の皮疹で悩んでいる患者
4)最重症の患者
5)他の全身治療で効果が今一つな患者
6)頭頚部、手の皮疹は目立つ部位でもあり、DLQI(Dermatology Life Quality Index)を低下させ不安になる。このような例にも適している。

使用経験から見えた強みと課題 茂木精一郎 群馬大学

5年間の使用経験からのRVへの対処、変化を説明されました。
・当初はJAK阻害薬ということで、感染症、血栓、血球減少、MACEなどへの不安、心配もあり恐る恐る使い始めた。
・使用経験の蓄積と共に、患者選択、検査データなども蓄積し、次第に使い慣れて、対応方法も蓄積していった。
・効果の高さ、速効性を経験し、成功体験を積み重ね、患者さんからも感謝の言葉を聞くようになった。
・現在は治療への信頼を得て、痒みのある例、重症例などで効果を患者さんと共有し、感謝されている。
ADの診療に際して、ADのコミニュケーションカードを活用して、診察の前に患者さんに記入してもらって、患者さんの現在の状態、以前との違いなどを把握することによって、いわゆるSDM(shehered decision making)
の診療を実践して患者との共通作業を行っている。
・Level Up Testの解説 (前掲につき省略)
RVの適した患者
1)即効性を希望する患者、痒みを取りたい、夜眠れない。2週間以内にプラシーボと差がつく。
2)痒疹型の患者
3)季節性のある患者、例えば春、花粉症の時期のみ悪化する患者など。(短期間のみ内服)
4)重症でフレアを繰り返す患者。
5)難治部位に皮疹の残った患者。頭頚部、顔、手などに皮疹が残った場合、不安、抑鬱が増強する。
6)他の全身治療で効果のない患者。
7)ADでTypeII型のみではない、Th1,Th17,22系が関与していると思われる患者。(DupでIL-4を抑えると逆にTh1,17,22系が上昇するとされる。顔面の湿疹様皮疹)。
RVはいずれのシグナルも抑える。顔面の紅斑も抑制し、Dupで問題となる結膜炎にも効果的。(DupではIL-4/13を抑制することによってTh1優位に傾き、結膜の盃細胞でIFN-γが上昇し、ムチンの分泌が減少し、結膜炎を来しうる。)
副作用への対応
ざ瘡に対して・・・ステロイドを中止して、ジファミラストなどを使用する。
帯状疱疹・・・なるべく早期に抗ウイルス薬を投与。ワクチンの検討。
CK・・・運動の有無、定期的なチェックを行う。
当初危惧されていた結核、消化管穿孔、MACEなどの副作用は見られていない。
私案
・チョコJAK・・・金額も高額なので短期間お試し使用する。成功体験を経験してもらう。15mgでも1週間9000円ほどかかる。
1~3カ月間使用し症状に合わせて増減するのも可能。
・中等度の患者さんには15mg。重症では30mg。高齢者には15mgでもいいか。15mgでも結構効くという印象がある。
5年経過して変化は
・痒みの強い患者、顔、手に皮疹のある患者、眼を掻いている患者などに適用。
・色々な事象が解ってきた。使用範囲が広がってきた。
・但し、課題として効果のある患者がもっと解ればよい。長期使用についての経験、問題点、止め時の選定、などの検討。

第125回日皮総会 EL1-3 教育講演1 アトピー性皮膚炎の治療~成功例、反省例から学アトピー性皮膚炎のリアル~
経口JAK阻害薬のリアル 岩手医科大学 天野博雄

岩手医科大学では、クリニックの先生から、生物学的製剤(主にデュピクセント)で治らないアトピー性皮膚炎の患者さんの紹介が多い。そう言った患者に対してJAK阻害薬を使用してきた。
従来の難治性ADに対する治療は、生物学的製剤が主に使われてきた。その中でも、JAK阻害薬を使ってきて、優先して使う場合が次第に見えてきた。一部私見となるが、それらを挙げてみた。
1)一刻も早い症状の改善
2)生物学的製剤で効果が限定的な場合
3)(検査での採血は耐えられるが)、皮下注射への強い恐怖がある場合
4)季節の変わり目に悪化し、その時期のみ治療強化したい場合。
5)試しに数週間使ってみたい場合。
6)一時的に治療強化したい場合。
また、痒みに対する即効性がある。
貨幣状湿疹を伴ったADでは、寧ろJAK阻害薬が第一選択肢になりうる。
顔面の紅斑に対しても効果がある。
事などを症例を提示しながら説明されました。
各JAK阻害薬の使い分け、特徴
・脱毛のある場合・・・バリシチニブ
・潰瘍性大腸炎を伴う場合・・・ウパダシチニブ 45mgまで増量可
・バイオが効果のない時・・・ウパダシチニブ、バリシチニブ
・中等症、バイオをやめたい場合・・・バリシチニブ
・ウパダシチニブ・・・無難で、広く多くの例で効く。
・アブロシチニブ・・・特異的にJAK1を抑える。ピタッとハマる場合がある。継続率が高い。
ただ一方で、小児例で、思春期になるとともに、体幹部にニキビが多発して抗IL-13製剤に変更して良くなった例、
Dupで乾癬様皮疹がでて、JAKで軽快したものの、カポジ水痘様発疹症がでて入院し、抗IL-13製剤に変更した例、その後帯状疱疹を発症したADが立て続けに2例続き、流石にその時はへこんだ時期がある、
なども提示されました。
 難治性ADの治療は、今後はバイオシミラーなどの登場もあり、生物学的製剤が中心であろうが、上記のようにJAK阻害薬が、第一選択肢になる例もある。今後は、どの様な使い方、使い分けが良いのかを見極めることが重要である。
など私的見解ではあると限定しつつ将来への展望も示されました。