酒さupdate

先日、日本臨床皮膚科医会の講演会で、酒皶の話がありました。講師は東北大学の山崎研志先生でした。酒皶のブログで度々引用した、酒皶の病態について先端的な研究をしている先生ですが、実際の講演は初めてでした。そのトピックスについて一寸書いてみました。
 また、最近のAADの付録(?)の雑誌にunlocking the mysteries of Rosaceaという記事があり表紙には鍵穴にぶら下がった鍵がありました。果たして酒皶のミステリーは解決への鍵をこじ開けることができたのでしょうか。それも一寸レポートしてみました。

【講演「酒皶~酒皶様皮膚炎の病態と治療の整理」】
講演の所々で記憶に残った話題など
・日本人の酒皶は外人が(日本人も)一般に思うほどには少なくない。
 雪ん子、酒やけ、火照り、日焼け、りんごほっぺ、などという言葉はごく普通に使われ特段病気を表す言葉でもありません。しかし、これらはごく初期の酒皶の紅斑、flushingを表しているかもしれません。まさに酒皶の増悪因子の多くを表しているともいえます。
紫外線、寒さ、暑さ、酒などです。米国で人口の2-4%、北欧のスウェーデンで10%が酒皶と言われますが日本でも1-3%とのことで決して稀ではありません。しかし重症の人は少ないようです。
・酒皶様皮膚炎とはステロイド剤の外用によって、悪化、増悪し、酒皶様になっていくものですが、元々の使用原因を辿っていくと、脂漏性皮膚炎や接触皮膚炎やアトピー性皮膚炎だったりすることがよくあります。これらの疾患を正しく診断し適切なステロイド剤を使うのはもっともなことですが、人によってはステロイドの外用によって外界の刺激に感受性が高まり自然免疫の作用が高まる場合があります。(かくれ酒皶、酒皶体質といってもいいかなと感じました。)近年ステロイドによって自然免疫関連分子のToll様受容体の発現が増えることが分かってきました。酒皶体質の人はその感受性がさらに高いともいえるかといえます。
ただ、最初からこれを見極めるのは難しく慎重に体質を見極めつつ使うことが重要になります。皮膚科医にとっても治療・対応の難しいポイントです。
・酒皶の病因は不明ですが、その皮膚面にはアクネ菌(にきび菌)や表皮ブドウ球菌や毛包虫がみられます。またピロリ菌やHIVの感染患者に酒皶がみられることなどから外界の環境や微生物が何らかの関与をしているのは確かそうです。そして、これらは自然免疫機構に影響を与えます。
 事実、酒皶では自然免疫機構によって誘導され、宿主細胞にも作用する抗菌ペプチド・カセリサイディンの発現が増加していることを山崎先生らは発見しました。
またそれを切断し活性化させるタンパク分解酵素セリン・プロテアーゼの一つであるカリクレイン5も高発現していました。
 ただし、上記の微生物の影響や抗菌剤の効果などについての論文は賛否両論あって、明確な結論はでていないそうです。

【AADの記事の要旨について】

・毛包虫はいろいろ検討されていますが、現在外用のイベルメクチン(ストロメクトール)が試験段階にあるそうです。
・紅斑、ほてりに対して2種類の外用剤が治験中です。
一つは血管収縮作用のあるα-2アドレナリン作動薬であるbrimonidine tartrate(BT)です。
これは10年ほど前から緑内障の点眼薬として使用されてきました。
6-8年は酒皶に対する研究がされてきました。研究の結果0.5%ゲル剤を一日1回使用するのが最も良い成績が得られました。紅斑を0-4段階で比較すると1段階改善率は80%以上でした。2段階改善でも30%程度の有効率でした。
際立った、リバウンドや悪化などの副作用は見られませんでした。
これは酒皶の紅斑に対する薬剤としては、レーザー、カバーマークなどの化粧品以外では初めて有効な薬剤といえます。
そして、すでにPhaseIII studyも完成して論文にされています。ということは、近々薬剤として承認されるということです。
BTは塗布後30分で紅斑減弱の効果が現れます。最大効果は6-12時間後です。従って一番効果を得たい時間に合わせて使用することができるということです。
 もう一つの薬剤はoxymetazolineという鼻づまりの点鼻スプレーです。しかし、これはケースレポートの段階です。
・抗菌ペプチドと自然免疫の話は山崎先生の話と重なりますので省略しますが、酒皶の治療薬として使われるアゼライン酸、ドキシサイクリンにもカセリサイディン、カリクレインの経路をブロックして効果を表すことが分かってきました。(Richard L. Gallo, MD, PhD)
・Neurotransmitter
酒皶においてもう一つの重要な病因と目されているのは、血管と免疫と神経の関連です。
Martin Steinhoff教授らは酒皶に関連する候補の300以上の種々の遺伝子を調べ、正常よりも20-30倍程も高発現しているものをみつけました。pituitary adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP)というものです。またカルシウムイオンチャンネルが初期の病変に関与していることも遺伝子検索で分かってきているそうです。病因となる遺伝子がみつかればそれを抑える物質も分かってくるものと期待されます。

難しい遺伝子や、病因物質の解明は学者に任せるとしても、BTゲルの効果は期待できそうです。早く日本でも使用できるようになると良いと思いました。