老人性色素斑

老人性色素斑
シミと総称される疾患の中で、最も頻度の高いもので、40歳以降の中高年の顔面、手背、前腕などの露光部に多発する境界明瞭な色素斑です。(渡辺先生の統計では顔のシミ外来の60%ほどを占めていました。)
老人性色素斑(日光黒子)は真っ赤に日焼け(sun burn)するが、色黒(sun tan)にはならない人にはでき易く、逆の人はできにくい傾向にあります。太陽光線によるものが大多数ですが、乾癬などの治療に用いられるPUVA療法などの人工光線によっても生じます。( PUVA lentigo)
形は円形から類円形で色調は淡褐色から黒褐色で、大きさもそばかす様の小さいものから2~3㎝の大きなものまであります。したがって、大きさなどで3種類にわけられます。
小斑型・・・雀卵斑(そばかす)様な数mm大の色素斑が多発したもの
大斑型・・・2~3㎝大の色素斑が少数みられる、小斑型より色が濃く濃淡がみられる
白斑黒皮症型・・・色素斑と色素脱失が混在してみられる
男性より女性にやや多く、50歳台で80%、80歳以上ではほぼ全例にみられます。
【名称について】
日光暴露によることを重視した場合は日光黒子(solar lentigo)とよばれます。また日光性色素斑、老人性黒子などと呼ばれることもあります。しかし、2011年日本美容皮膚科学会において「老人性色素斑」と呼ぶことに統一されたということです。
しかし、20歳代でもみられること、海水浴などで、一気に強く日焼けした後で肩や背中にできる光線性花弁状色素斑も臨床も組織もsolar lentigoと同じであることを考えると個人的には、これらをすべて老人性色素斑と呼ぶことに違和感があります。
【老人性疣贅との異同】
老人性疣贅(いぼ)・(脂漏性角化症)は、皮膚表面から隆起して、ざらざらしているので、老人性色素斑とは区別できますが、この両者は連続してみられることも多く、一連の紫外線による光老化反応とみることもできます。病理組織像も類似の変化もみられ、老人性色素斑は老人性疣贅(とくに網状型)の早期段階の病変と考えられます。
【ダーモスコピー像】
Typical pseudonetwork(定型的偽ネットワーク)・・・開大した毛孔部が色素がつかず、丸く色抜けするために、そこが網穴となる網目状の色素沈着の像が規則的に見られます。
Moth-eaten sign/border(虫食い状辺縁)・・・毛虫に食われたような、木の葉のような境界明瞭な陥入がみられます。
それ以外にも指紋様構造、ゼリー様辺縁、黄色不透明領域などの所見が特徴とされています。
 これが、悪性黒子になると、規則的なネットワークが歪んできます。濃淡を伴い、非対症性の色素性毛孔や、環状顆粒状構造や灰褐色の線条の色素沈着が互いに交差して、菱形構造を呈したり、黒胡椒のような顆粒がみられたりします。ダーモスコピーの写真をみるとネットワークが規則的でないようですが、解答がなくていきなり写真を見せられても良性か悪性か迷う程微妙なものもあり、専門家の判断、最終的には病理組織検査で確定する必要性を感じます。
ダーモスコピーのすべて 皮膚科の新しい診断法 斎田俊明 2012年 南江堂 参照
【病理組織像】
表皮突起が不規則に下方に棍棒状、または蕾状に延長し、表皮基底層にメラニン色素が増加しています。真皮では光老化による光線性弾性繊維症などの変化がみられます。
また、一部では表皮細胞の増殖や肥大がみられ、初期の扁平な脂漏性角化症(老人性疣贅――老人性いぼ)の像をとることもあります。すなわち、老人性色素斑から盛り上がって老人性の疣になっていく一連の像をとることもあります。
【鑑別診断】
小斑型のものは、色素性母斑(黒子)や基底細胞癌と間違われることもあります。またそばかす(雀卵斑)やぱらぱら型の太田母斑と間違われることもあります。
大斑型では、茶あざ(カフェオレ斑や扁平母斑)などと間違われることもありますが、最も注意を要するのは老人の顔面に生じる悪性黒子や悪性黒子型黒色腫です。
特に悪性黒子はLentigo maligna melanoma in situといって、悪性黒色腫の表皮内の初期病変ともいえます。これを間違って、レーザー治療などすると後で大変なことになります。かつて、大原先生の皮膚癌の講演でもそのような事例に対し注意を喚起されていました。ダーモスコピーで鑑別可能ということですが、専門家でないとなかなか難しいところです。概して老人性色素斑よりも色調が濃く、境界不鮮明で色むらがあったり、非対称形ならば注意を要するところです。
【治療】
レーザー治療、液体窒素療法、ケミカルピーリングなどが行われています。
美容専門医の解説が多くありますので、わざわざ書くこともありませんが、いずれも施術後に糜爛、痂皮などを1~2週間生じるなどのダウンタイムがあり、また特に日本人の肌では半分程度に炎症後色素沈着を残すといわれていますので、よく医師に説明を聴いて納得した上で施術をうけることが重要です。また遮光や美白剤などの後療法も必要となってきます。
 上記のようなダウンタイムを嫌う場合はIPLやハイドロキノンやビタミンCなどの美白剤やトレチノインなどが用いられますが完全な消退にはいたらないようです。
 
老人性色素斑は長年に亘る紫外線暴露(光老化)が最大の誘因になるために日焼け止めその他による遮光が予防には一番重要です。
日焼けについては以前書きましたので詳しく書きませんが、UVB(サンバーンを起こす)だけではなく、UVA(サンタンを起こす)対策も必要です。

参考文献

皮膚科臨床アセット 11 シミと白斑 最新診療ガイド
総編集◎古江増隆 専門編集◎市橋正光 2012 中山書店
●総論  シミの定義と頻度・性差・好発年齢  渡辺晋一
    シミ疾患の病態と診断        渡辺晋一
    シミの鑑別診断           渡辺晋一
●各論 老人性色素斑の病態・診断・鑑別診断 山本有紀

皮膚科診療カラーアトラス体系 講談社 2009
編集 鈴木啓之 神崎 保 
Vol.3 色調異常
老人性色素斑 船坂陽子 p55