イスタンブール(EADV)・手湿疹他

­イスタンブールの学会では
学会での個人的な感想というか、つぶやきを書いてみます。印象記などとして学会の印象が学会誌などに掲載されることがありますが、とてもそのような立場、力はありませんし、単なる個人の印象です。大体英語は所々しか解らないし、長く開業しているので、皮膚科アップデートにもついていけません。従って、内容には責任は持てませんし、間違っていたらごめんなさい、です。(前もっての言い訳)

◇ベーチェット病

Behcetはトルコの皮膚科医です。1937年に世界で初めてベーチェット病を記載したのでこの病気のことをベーチェット病と呼びます。但しヒポクラテスの時代からあったらしいということです。
どんな病気かはインターネットなどで詳しくでています。トルコに多いことは知っていましたが、全世界での発症頻度はトルコが1番です。但し、患者数は日本が1番です。これはシルクロードに沿って多く発症するので、シルクロード病だというのは初めて知りました。その原因は未だに不明ですが、好中球の異常な活性化による血管炎を主体とした全身病とされています。眼症状(ぶどう膜炎)、口腔粘膜、外陰部潰瘍、皮膚症状(結節性紅斑、毛包炎、血栓性静脈炎など)の4主症状の揃ったものを完全型ベーチェット病といいます。
シルクロード域に多く、人種差が多い、HLA-B51を持つ人に多いなど遺伝的、内因的な要因が大きいのですが、工業汚染物質や虫歯菌、細菌、ウイルスなどの微生物が関わっているともいわれています。開業してから1人も完全型のベーチェットをみたことがないので、最近は減少しているのかと思ったら増えているとのことでびっくりでした。潰瘍など皮膚科の手当も大事ですが、むしろ眼科、内科の血管、神経、腸病変の方が生命予後には重要です。近年は生物学的製剤のレミケードなどが重症例には効くようです。
トルコからドイツへ移住した人の発生率は本国よりも少ないけれど、ドイツ人よりは多いとのことです。これから、遺伝的な因子だけではなくて、環境因子など外的な要因も関係していることがわかります。

トルコと日本と変な形でシルクロード繋がりですが、この病気の解明には両国の研究者の活躍が欠かせないと思いました。

◇乾癬

近年乾癬の治療における生物学的製剤の効果は目覚しいものがあります。毎年の様に新たな製剤が導入され、数年前の常識が通用しない程進歩の早い分野です。しかもTNF-αからIL-23そしてIL17と次第にターゲットが絞られてきています。このサイトカインを抑える製剤の効果は従来のものよりも優れたもののようです。
Secukinumab(ヒトIgG1), Ixekinumab(ヒト化IgG4)(IL-17Aをターゲット)、Brodalumab(ヒトIgG2)(IL-17RAをターゲット)などの製剤はPASI 100(ということは病気が治ったということ)レベルの患者も含まれるほどの素晴らしいデータを示しています。これらの薬剤は本邦でも数年内に認可されるでしょう。
しかし、Psoriasis controversiesというセッションに興味を惹かれました。生物学的製剤は優れたものですが、その光と同時に影(?)もあります。英国の講師がその影、注意点を述べていました。コスト面:すなわち適応になる重症例は全体の1、2割なのに、コストは4、5割に及ぶこと。効果面:長期に亘ると2次無効など有効率は低下していく、必ずしも100%の人に有効なわけではない。重症感染症などのリスク。HB、HC肝炎、HIV、ATLV、肺結核などの感染症の人は除外される(あるいは治療してから)。長期的な予期せぬ有害事象を我々は把握できているのだろうか?高齢者の癌や糖尿や心肝腎機能低下の問題。生物学的製剤は間歇投与、中止できるのか、などなど。素晴らしい薬に水を差すつもりはありませんが、やはり基本的に良性の疾患でかつ慢性の疾患ということ、リスクの面をも念頭に見ていくことが大切かな、と思いました。
あと、PASIというスコアはゴールデンスタンダードのように乾癬の重症度の目安に用いられますが、必ずしも実情に沿ったものではないことの講演も興味を覚えました。
例えば、非常に厚い鱗屑患者での紅斑は見えないのですが、スコア0としていいのか、逆に全身真っ赤だけどほぼ鱗屑の剥がれた状態の患者さんの鱗屑スコアも0としていいのか、また顔、陰部、手などの部位による重症度の違いが勘案されていないなど、です。だったら他のスコアがいいかというと、BSA(体表面積からみたもの)、DLQI(QOLからみたもの)なども一長一短がありなかなか難しいものではあります。

◇手湿疹

ありふれた病気、いつも通りすぎていくようなセッション。しかし、患者さんの悩みは大きく尽きない、いつも「先生ちっとも治らないね」といわれる疾患の代表でもあります。日本の学会でこのような手湿疹のセッションがあったでしょうか。今までスルーしてきた感じ。いつか外国で手湿疹に効く薬があると聞いたような気がして覗いてみました。ヨーロッパで手湿疹のガイドラインができているというのは初めて知りました。日本ではあるのかしらん。この地でもやはり苦労しているようで、スパッとは良くならないようです。
手湿疹といっても様々なものが混じっています。まず臨床像、病歴を注意深く検討して、どのような病型に入るのかを見極めるのが大切です。3か月以上のものはできればパッチテストを行い、接触原因物質を探すのが重要です。

手湿疹は大きくいくつかに分類できます。
*接触皮膚炎(contact dermatitis: CD)・・・これには大きく一次刺激性(primary irritant: ICD)とアレルギー性(allergic: ACD)がありますが頻度としては濡れた手仕事によるICDの方が頻度は高いです。
*アトピー性の手湿疹
*汗疹(異汗性湿疹)
*過角化性の湿疹

European Society of Contact Dermatitis: ESCDによるガイドラインはICD,ACDなどを見極めて上記の診断、分類を行い、ステップ1,2,3の治療、すなわち1、保湿剤、2、外用ステロイド剤、光線療法 3、全身療法などを行うアルゴリズムが示されています。日本でも同様なガイドラインがありますが、その予防、教育面での細かな指導が目新しく、ある意味目から鱗のような気がしました。

治療面での注意)
急性湿疹は慢性化させないように早期に治す。ステロイド外用剤がファーストチョイスだが、漫然と使わない。6週間以上使うと角層、表皮の皮膚萎縮を起こす。・・・会場からそれで治らなかったり、慢性の時はどうするんだ、のような質問がありましたが、弱いものに変えたり、休みながら、と日本と似たような答えをしていました。やはり苦労しているのでしょう。プロトピックや光線療法も含め、その他の治療も必要ということかもしれません。

予防、普段の手のケアについて)
Wet workというのは1日2時間以上手が濡れることをしている人、そのくらい手袋をしている人、また1日10~20回以上手洗いをしている人と具体的です。
これらの人は要注意ということです。
慢性に続く手湿疹の場合は患者さんが病気のことを認識し、普段のケアの必要性を自覚できるようにEBMに基づいた教育することの重要性が述べられていました。そして、それに沿って普段の行動パターンを変えることで症状の改善が見込めることが示されました。
以下に誤解されやすい事項、具体的な対処方法を列記します。

《手袋》
利点・刺激になるもの、かぶれるものを避けることができる
・細菌などの感染を避けることができる
・傷、刺激部位を保護できる
欠点・手が湿気る、ふやける
・水溶性の接触源、刺激物質が浸透する
・手袋によるICD,ACDの危険性が増す
誤解・仕事ができなくなる・・・多くは手袋をしても可能
・汗っぽくなる・・・下に綿手袋をつけることで回避できる
・保湿剤をつけてから装着する・・手袋からの刺激を増す、保湿剤ははずした後で
・繰り返し着ける・・・蒸れて、汚れたものはNG
#手袋は傷んでいないもの、清潔、中が乾燥したものが原則
#着けることは必要だが、なるべく短く。10分以上着けるようならば綿手を下に
《保湿剤》
利点・傷を治す
・バリアを改善し、皮膚の表面をしっとりと保つ
欠点・ICD,ACDの危険性が増す
・刺激物質をも浸透させる危険性
・べとべとする
#保湿剤は芳香剤フリーのものを選ぶ
#べとつきがいやなら油脂成分の少ないものを
#成分、特にかぶれ易い成分を知って使うこと
《アルコール消毒剤》
利点・石鹸に替りうるし、より刺激は少ない
10日間アルコール消毒、石鹸を使う群に分けて調べると石鹸を使う群の方が水分蒸散量が多くなった
・汚れがひどくない時は良い適応になる
欠点・手湿疹、特に傷がある人は刺激したり、しみたりする
誤解・きれいにならない、よほど手が汚れていなければOK
・手に刺激になる、先の実験にもあるようにバリアを傷めないので逆に刺激が少ない
不必要な手洗いや、熱いお湯、たっぷりの石鹸などは明らかに皮膚バリアを傷める

最後にデンマークでの専門の看護師によるグループ教育の紹介がありました。具体的に、事細かに普段の習慣を変えることでかなり手湿疹が改善できることが示されました。
美容師、飲食業、介護ケアの人達などハイリスクグループへの統一的な教育プログラムは日本でも必要かと思いました。

書いていたら、思いのほか長くなってしまいました。
今回はここまでとします。

EADV

The 22nd Congress of the European Academy of Dermatology(EADV)and Venereology
“Dermatovenereology in a changing world”