蕁麻疹(3)–分類

日本皮膚科学会では2005年に「蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン」を作成しましたが、2011年に国内外の新たな知見を加えて、改訂版とでもいうべき、現時点での最新版のガイドラインが作成されました。
それに基づいて分類、病型などについてまとめてみます。

前回述べましたように、マスト細胞活性化によって脱顆粒し、ヒスタミンを始めとする化学伝達物質(ケミカルメディエイター)が放出されて蕁麻疹が起きます。
この機序としてⅠ型アレルギーは広く知られていますが、実際に原因として特定の抗原を同定できることは非常に少なく(全体の数%以下)、非アレルギー性の種々の機械的、物理的刺激が複合的に関係し、ある種の過敏性の亢進状態に一過性の誘因が加わって生じることが多いとされます。従って一つのアレルギー抗原に原因を求めようとすると却って隘路にはまり込む危険性があります。このことを前提にして原因・分類を見ていくことが必要かと思います。

このガイドラインでの分類の主眼目は蕁麻疹を何らかの明確な刺激で誘発できるものと、できないものに分けたことだと思います。
Ⅰ. 特発性の蕁麻疹 Ⅱ.刺激誘発型の蕁麻疹
日常診療でもこのことが最も重要になります。
その他にⅢ.血管性浮腫 Ⅳ.蕁麻疹関連疾患 が分けられていますが、これは重要ながらもごく数の限られた病態で、開業医などの実地医療ではめったにお目にかかりません。
それで、日常診療現場ではⅠ.とⅡ.の鑑別を行う作業が必要かと思います。
下にガイドラインの病型分類を列記してみます。

Ⅰ.特発性の蕁麻疹
1. 急性蕁麻疹(1か月以内)
2. 慢性蕁麻疹(1か月以上)
*諸外国では6週間で急性と慢性を分けていますので、日本でも早晩そうなると思います。
 
Ⅱ.刺激誘発型の蕁麻疹
3. アレルギー性の蕁麻疹
4. 食物依存性運動誘発アナフィラキシー
5. 非アレルギー性の蕁麻疹
6. アスピリン蕁麻疹(不耐症による蕁麻疹)
7. 物理的蕁麻疹
(1) 機械性蕁麻疹
(2) 寒冷蕁麻疹
(3) 日光蕁麻疹
(4) 温熱蕁麻疹
(5) 遅延性圧蕁麻疹
(6) 水蕁麻疹
(7) 振動蕁麻疹(振動血管性浮腫)
8. コリン性蕁麻疹
9. 接触蕁麻疹

Ⅲ.血管性浮腫
 10.特発性の血管性浮腫
 11.外来物質起因性の血管性浮腫
 12.C1-INHの低下による血管性浮腫
 
Ⅳ.蕁麻疹関連疾患
 13.蕁麻疹様血管炎
 14.色素性蕁麻疹
 15.Schnitzler症候群
 16.クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)

このように16種類あるいは18種類もの多くに分類されますが、実際の臨床現場で重要なことはアナフィラキシーなど緊急性の有るタイプか否かを見極めることと、問診により大まかな病型、特にⅠ型とⅡ型を見極めることになります。
 ただ、個々の例での発症機序、誘因はかならずしも一つではなく、多岐にわたることも多くクリアカットに分類できないことも多いようです。
本邦の過去の集計でも特発性の蕁麻疹が72.7%(うち急性19.2%、慢性53.5%)、機械性蕁麻疹が7.3%、コリン性蕁麻疹が6.5%、アレルギー性の蕁麻疹がわずかに5.4%という結果だったということです。

蕁麻疹の患者さんが、まず口にされるのが、「アレルギーの検査をして下さい。」という言葉です。それに対する答えは一番最初のブログに書いたように、「むやみに検査するのはお金の無駄ですよ。」という結論になるのですが、いきなりこれだけでは患者さんは納得されないですし、身も蓋もないことになってしまいます。
舌足らずな回答をするよりもきちっとした解答が良いと思いますのでガイドラインでの解説文を引用しておきます。

《蕁麻疹にⅠ型アレルギーの検査は必要ですか。》
《推薦文》:詳細な病歴からⅠ型アレルギーが疑われる場合を除き、すべての蕁麻疹にⅠ型アレルギーの検査を実施する意義は認められない。また検査を行う場合には臨床的に関与が疑われる抗原の種類を絞り、個々の事例に適した検査の方法と内容を選択することが大切である。

毎日のように出没し、特に夕方から夜、明け方にかけて悪化するような特発性の蕁麻疹では、まず外来抗原によって蕁麻疹が引き起こされることはありません。このようなケースでのⅠ型アレルギーの検索の意義は認められません。あてどのないスクリーニング的なアレルギー検査は慎まなければならないとされています。
 ただし、逆に一見特発性蕁麻疹と思われる症例でも、Ⅰ型アレルギーや回避されうる誘因が隠れていることもあり得ます。それを見逃さない詳細な問診も重要です。
 それはすなわち、Ⅱ型の個別の細分類に該当するような誘発因子がないかどうかを問診していく作業になります。
 仮に検査をするにしても、問診により対象をしぼり必要なアレルギー検査を施行することが大切です。
また食物、薬剤で症状が誘発される場合でも、被疑品目そのものではなく、寄生虫や食品添加物、非アレルギー性の機序で起こることもあることがあります。
例えば、魚中のヒスタミン、防腐剤などの仮性アレルゲンがあります。

《急性蕁麻疹に検査は必要ですか。》
《推薦文》典型的な蕁麻疹以外に身体症状がなく、治療への反応性も良ければ検査の必要はない。ただし発熱などの全身症状を伴い細菌やウイルスの感染が疑われる場合は一般的生化学検査を行っても良い。

《慢性蕁麻疹に検査は必要ですか。》
《推薦文》慢性蕁麻疹に対してルーチンに行う検査はない。ただし、非定形的な症例、難治性の症例などで、背景因子、合併症の存在が疑われる場合はそれらに応じた検査を行っても良い。

多くは原因のはっきりしない特発性の蕁麻疹なのですが、その中でも何らかの誘発因子を探し出す手掛かりにこのガイドラインが役立つと思いました。
実際に蕁麻疹でお悩みの方も病型分類によってどこの部分に当てはまるのかを見極めることによって、治療、対応の仕方もより明確になってくるものと思われます。

参考文献

秀 道広 ほか:蕁麻疹診療ガイドライン.日皮会誌:121(7),1339-1388,2011

皮膚科臨床アセット 16 蕁麻疹・血管性浮腫 パーフェクトマスター
総編集◎古江増隆 専門編集◎秀 道広  中山書店 2013

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