基底細胞癌(Basal Cell Carcinoma :BCC)

皮膚癌の中で一番多いといわれる基底細胞癌について調べてみました。
悪性度は比較的低い癌で、早期に手術すれば治癒しますが、後手にまわると大変な癌であることを知ってもらいたく書いてみました。いくらかでも参考になり皮膚科を受診していただければ良いかと思います。

基底細胞上皮腫(Basal Cell Epithelioma :BCE)とも基底細胞腫(Basalioma)とも呼ばれます。
「悪性のハマルトーマ(過誤腫)で、基底細胞と似た形態の細胞の増殖です。悪性度は悪性黒色腫(Malignant Melanoma)や有棘細胞癌(Squamous Cell Carcinoma)と比べると低く、局所破壊性ですが、転移は稀です。」
これは以前の大原先生の講演の言葉ですが、同時に次のような言葉もあります。
「基底細胞上皮腫は局所破壊性に進行しますが転移は例外的で、一般的には生命予後は良好と考えられています。しかし言い方を換えれば、死なないけれど悲惨な状況のまま生き長らえなければならない、ともいえます。手のつけようのない進行例を一度でも経験すると、この病気が決して侮れないことが骨身に沁みます。」
皮膚疾患のクロノロジー  大原國章 著 学研メディカル秀潤社 東京 2012 より

BCCは皮膚悪性腫瘍の中で最も多くみられるものです。中高年の顔面に好発するので、日光紫外線の影響が考えられますが、良く日の当たる額や頬には少なく、SCCなどのできる下口唇にはまず見られません。むしろ胎生期の顔裂線に一致して多くみられます。
すなわち鼻翼、眼瞼、耳後部などのくぼみです。最近基底細胞母斑症候群の原因遺伝子であるPTCH遺伝子(9q22.3に座位する体節の極性を決定する遺伝子)経路の異常が腫瘍発生に関係することがわかってきました。このことから顔裂線での多発が説明できるそうです。
【症状】
日本人の場合は、初期病変は小さなほくろとしてみられることが多いようです。1~2mmの黒紫色の隆起性病変として始まり次第に数個の小隆起が融合して中央部が陥凹して潰瘍化します。その潰瘍の周りを黒色の結節が取り囲んだ形になるために結節潰瘍型といいます。
その他にも表在型、斑状強皮症型(モルフェア型)などありますが、いずれも病巣辺縁に灰黒色の表面が蝋様光沢のある小結節が真珠の首飾り様(pearly border)に配列するのが特徴とされます。ただ、白色人種の場合は小結節が黒くなく、光沢があるためにthread-like pearly borderと表現されていて黒くなく、むしろ白から黄色っぽく老人性脂腺増殖症に似るとされています。
【鑑別診断】
◇老人性疣贅(老人性いぼ)
角化が著明で表面がざらざらした感じがあり、潰瘍化することは稀れ。
普通は2cm位までで、淡褐色から黒褐色の境界がはっきりした腫瘍で多くは扁平または半球状に隆起します。眼瞼部や腋窩では有茎状になることもあります。
またBlochⅡ型といって、皮膚に黒いボタンや碁石を置いたような外観をとることもあります。
◇悪性黒色腫
結節型の場合は時に鑑別が困難であるといいます。但し、近年はダーモスコピーによる鑑別が進歩してきました。BCCの特徴的な所見があればこれを否定できます。
特に樹枝状血管拡張(arborizing telangiectasia)はBCCに特徴的とされます。
◇色素性母斑(ほくろ)
小型で潰瘍ができる前のものはBCCに極めて似ています。やはりダーモスコピーでの所見が有用とされます。
【治療・予後】
切除範囲、深さが十分であれば完全治癒が見込まれます。ただ、できる場所が眼、鼻、口唇などのしかも窪んだ解剖学的に複雑で重要な器官の部位にでき易いので十分に取り切れない場合もあります。初回に取り切れず、再発した場合は先に大原先生が述べられたような悲惨な経過を辿ることもあり得ます。眼の近くで進行しても眼球摘出を拒否されたりする時など手が付けられなくなるとのことです。
病型の中で、最初から潰瘍を作るケースやモルフェア型と言って強皮症に似た光沢のある白色浸潤局面を呈するものは癌の広がりが見た目よりもかなり大きいことが多く、要注意とのことです。
【発症誘因】
*紫外線・・・高齢者の顔にでき易く、PUVA療法などの光線療法のあとにできた例、色素性乾皮症での多発など一定の影響はあるものの、有棘細胞癌程の強い影響はなさそうです。
*放射性皮膚炎・・・放射線皮膚炎の部位にできることもあります。
*慢性ヒ素中毒・・・Bowen病が有名ですが、白人ではBCC例が多いそうです。手足の角化と雨だれ様の白斑が特徴的とのことです。
*免疫不全患者・・・腎移植、悪性リンパ腫、AIDS患者など
*基底細胞母斑症候群・・・PTCH遺伝子異常で多発するケースがあるとのことです。
掌蹠小陥凹、さまざまなcyst、歯肉、骨異常などを伴います。

参考文献
皮膚科診療カラーアトラス体系 6 講談社 東京 2010
編集/鈴木啓之・神崎 保
小野 友道 基底細胞癌 p40-43

大原 國章  皮膚疾患のクロノロジー
長期観察で把握する母斑・腫瘍の全体像
学研メディカル秀潤社 東京 2012

BCC鼻翼

鼻翼のBCC、黒く光沢のある小結節が周りを取り囲むようにみられます。

BCC

腫瘍の辺縁部に光沢のある小結節がみられます。これが真珠の首飾りの様に紐で繋がっているように見えるのがBCCの特徴です。そして中央部は陥凹から潰瘍になっています。

BCC多発例

BCC多発例。色素性乾皮症(Xeroderma Pigmentosum)。DNA修復異常のために、紫外線から受けたDNAの傷を修復することができずに悪性腫瘍が多発します。

BCCダーモスコピー像

BCCのダーモスコピー像。枝分かれした血管拡張がみられます。