帯状疱疹のアップデート

皮膚科学会で帯状疱疹についての講演がありました。
普段外来でも多くの帯状疱疹の患者さんを診ているので、ことさら目新しくもない疾患かと思っていましたが、知らないことがいっぱいありました。
1)発生頻度
帯状疱疹は脊髄神経節に潜伏していた水痘帯状疱疹ウルス(VZV)(水ぼうそう)の再活性化によって生じます。およそ100人年に0.5人が発症します。
しかし免疫の状態によって大きく変わり、50歳以上では1人に増え、さらに年齢とともに発症率は増えていきます。若年者に比べてハザード比は65歳以上では3.28、造血幹細胞移植では9.85、血液悪性腫瘍では3.22、エリテマトーデスでは2.46倍となります。
種々の免疫抑制剤はリスクファクターとなりますが、とりわけ近年抗リウマチ薬として登場してきたJAK阻害薬は高度に帯状疱疹の発症率を上げることがわかってきました。
皮膚科領域でも最近アトピー性皮膚炎に対し、JAK阻害薬であるバリシチニブ(オルミエント)が、乾癬性関節炎に対し、ウバダシチニブ(リンヴォック)が適応症となりました。種々の注意すべき副作用の中でも帯状疱疹の発症には注意が必要です。
帯状疱疹の話題とは関係ありませんが、バリシチニブは何と「新型コロナによる肺炎」にも追加適応になったそうです。
2)帯状疱疹ワクチン
水痘ワクチン(Oka株)は1974年大阪大学の高橋先生等により開発されました。水痘患児より分離、継代された弱毒株(生ワクチン)です。WHOが認める世界で唯一のワクチンで80カ国で使用され、本邦でも2014年から水痘の定期接種が始まりました。また2016年からは50歳以上の帯状疱疹発症予防にも適応が拡大されました。
最近、新規ワクチンとして、ウイルス糖蛋白のgEとアジュバント(免疫増強剤)を混合したサブユニットワクチン(シングリックス)が開発されました。これは感染性はないために免疫抑制患者にも接種可能という利点があります。
2017年に米国、カナダで承認され、我が国でも2018年承認され、2020年から販売が開始されました。
米国では生ワクチンよりもサブユニットワクチンの投与を推奨しています。
生ワクチンは接種の実績があるという利点がある一方で、本当に接種が必要な免疫抑制患者や免疫抑制薬剤使用患者には不適当というジレンマがあります。
サブユニットワクチンは有効で長期(10年以上?)の効果が期待できるという利点はありますが、一方で2ヶ月間隔で2回筋注する必要性があること、注射部位の痛みが強いこと、副反応の頻度が高いことなどの欠点があります。

上記のように、帯状疱疹は高齢者になると増加します。一方水痘(水ぼうそう)は夏季に少なく、冬季に多く、帯状疱疹の発症と鏡像を呈していました。水痘ウイルス暴露によるブースター効果とされますが、2,014年水痘ワクチンの定期接種化の結果、小児科定点報告数は減少し、流行の季節性もなくなってきています。
帯状疱疹の発症率は高齢化とともに年々上昇傾向にあります。高齢者のワクチンの接種は必要かと思われます。
ワクチンといえば、このところ帯状疱疹に罹った患者さんから新型コロナワクチンの接種の可否を聞かれることがよくあります。
罹ったばかりの急性期はともかく、抗ウイルス剤の治療を終えた1週間後以降なら接種は問題ないそうです。ただ、明らかなエビデンスはなく現場での医師の判断にはなるそうですが。

他科の先生からのお役立ち情報
🔹眼合併症に対する迅速PCR検査
中野聡子先生(大分大学眼科)
眼部帯状疱疹は三叉神経の第1枝領域を侵すために時に眼瞼結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎などを生じます。中でも急性網膜壊死は重篤で約40%が失明します。 
Hutchinson徴候:鼻尖部、鼻背部に皮疹を認める時、眼症状の確率が高い。 
早期診断が重要ですが、眼内の病変の早期診断は鑑別疾患も多く、従来困難でした。大分大学眼科では新たにわずか20μlの眼内液を使用するだけで、簡便に9項目もの病原体を一度に定量できる簡易キットを開発しました。
用手操作1分、PCR時間32分の操作で簡便なために先進医療で全国の(26施設)医療機関で導入されつつあるとのことです。(ヒトヘルペス1-6型、HTLV-1、梅毒、トキソプラズマ)
🔹ラムゼイ・ハント症候群
松代直樹先生(大阪警察病院耳鼻科)
膝神経節(顔面神経膝状部)が侵されると、皮疹の他に、顔面神経麻痺、内耳神経障害(難聴、耳鳴、回転性眩暈)の3主徴を呈すことがあります。これをラムゼイ・ハント症候群と呼びます。いずれかを欠く不全型もあります。これの予後はベル麻痺よりも悪いとされます。口腔や喉の粘膜疹が主徴で耳鼻科や内科や口腔外科を受診することもあります。早期診断、治療が重要で、重篤化することもあるので、疑わしい場合は患者さんにその旨を説明しておき、治療時期を失しないようにすることが大切です。治療には可及的早期の抗ウイルス剤とステロイド剤の投与が重要です。
狭義のベル麻痺は原因不明ですが、ベル麻痺と診断された患者の8割近くにHSV-1 DNAが検出されるとのことです。