酒さのお話

昨日、酒さとざ瘡のWEB講演会がありました。講師はよしき皮膚科クリニック銀座の吉木伸子先生でした。テレビなどでもよくお目にかかる先生です。
酒さは当ブログでも過去に何回も取り上げていて、もうそんなに真新しい話題もなかろう、と高を括っていたのですが、色々と教えてもらうことがいっぱいありました。
講演から、その抜粋をお伝えします。

🔹悪化因子(多い順番に、米国のデータ)
日光、ストレス、激しい運動、熱いお風呂、辛いもの、スキンケア(化粧品)の刺激、トマト、柑橘類、チョコレート、チーズ、加工肉(ハムやソーセージなど亜硝酸塩を含むもの)、冬場の冷たい風(部屋の中との温度差で血管が開くため)、カフェイン、喫煙
🔹食生活、腸内細菌が多いに関係する。合わない食物は個人差が大きい。酒さ日誌をつけることが重要。食生活の改善で酒さの6、7割は改善する。一般に抗酸化作用のある緑黄色野菜(ほうれん草、ブロッコリーなど)や和食が良い。
🔹炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病、セリアック病)、SIBO(small intestinal bacterial overgrowth,小腸内細菌異常増殖症)と酒さの関連が想定されている。小麦、乳製品を2ヶ月抜くことで改善することがある。
🔹酒さでは、皮脂レベルは正常だが水分が低下している。マラセチアなどへの抗菌活性が低下し、熱感、乾燥している。
🔹化粧成分で悪化のケースが多い。アレルギー性というより一次刺激性が多い印象。無香料のものを使う。首でパッチテスト(使用試験)をしてから使う。使うアイテムを減らしてシンプルに。
日焼け止めは必要だが、安全なものを選ぶこと。米国で16種のうち安全とされた成分は酸化亜鉛と二酸化チタンのみでいずれも紫外線散乱剤。紫外線吸収剤のかぶれには注意。女性はパウダーファンデーションを使えばUVカットになる(多くのものにはこの2者が成分として入っているから)。
結局、3ステップだけのスキンケアがお勧め。
石鹸洗顔➡️保湿剤➡️パウダーファンデーション
🔹外用剤で悪化するケースが結構ある。
ステロイド
タクロリムス(プロトピック、免役抑制剤)
ケトコナゾール(抗真菌剤)
アダパレン、過酸化ベンゾイル(ディフェリン、べピオなど、角質剥離作用のあるざ瘡治療薬)
コレクチム(JAK阻害薬、最近出たアトピー性皮膚炎の薬)。まだ不明だが薬理作用からすると雑菌が増えて悪化する可能性もある。
🔹メトロニダゾール外用剤は効く例がある。(フラジールの自家製、ロゼックス)
🔹酒さの人の傾向・・・熱感がありおしぼりなどで冷やす傾向。
乾燥してシワになるという心配から保湿パックをする、クリームやオイルを重ねづけする。洗顔の際に擦り落としてしまう。 これらの行為は逆効果になる。

講演の治療の大部分は漢方治療についてでした。後半はニキビに対する漢方治療薬でしたが、ここでは酒さに限定してニキビは割愛します。
🔹🔹酒さの漢方治療🔹🔹
🔹越婢加朮湯・・・熱感と浮腫を伴うもの。麻黄、石膏を含み清熱、抗炎症作用がある。若者向き、極端な虚証には使わない。
🔹防風通聖散、当帰芍薬散・・・メタボ、便秘ぎみで瘀血のある人。むくみのある人。
🔹越婢加朮湯、加味逍遥散・・・冷え、のぼせ(瘀血+胸脇苦満)。
🔹桂枝茯苓丸加薏苡仁・・・がっちり体格で赤ら顔の人。実証の人。

🔹漢方薬はガイドライン上では補助的な位置付けだが、時にはミノマイシンなどの抗生剤より一般的に副作用が少なく、止めた後での再発も少ない傾向がある。
🔹漢方薬を使う際には、上記の点を参考に処方するが、お腹の具合や、冷え性、食事のことなど問診を細かに、具体的に聞くことが重要で、腹診、舌診、脈診などから虚証か実証を見極めて処方することが重要です。
また、酒さの診療に際しては医師は患者を不安にさせないように状況の説明をし、治療の見通しを説明することが重要と述べられました。
確かに、医師は酒さという疾患は、原因は不明で慢性に経過することは当たり前のことと認識していますが、患者さん自身にとってはそれは大変なことです。分かり易く懇切に説明することは診療の意欲を高め、コンプライアンスを高めるためにも重要なことだと思いました。
ただ、状況は患者さんごとに千差万別で、酒さと似て非なる疾患もありえますので、なかなか一筋縄で行かないというのが、日々の診療現場での実感です。