接触皮膚炎の話題、あれこれ

<<接触皮膚炎の話題、あれこれ>>
以下は、拾い読み的に目についた接触皮膚炎の話題、あれこれです。
🔷近年、皮膚安全性症例情報ネット(Skin Safety Case Information Network: SSCI-Net)を通じて接触皮膚炎を起こした原因製品全国調査が行われるようになった。
🔷SSCI-Netによる調査では、化粧品・薬用化粧品が54%、医薬品25%と頻度が高い。
🔷パッチテストでアレルギーと判定するには「貼付部全体に浸潤を伴う紅斑が生じる場合」で、一部に紅斑、浸潤、水疱があっても、アレルギー反応とはしない。アレルギー反応であれば72時間、1週間後にも陽性反応が残るはず。従って1週間後まで確認する必要がある。
🔷Japanese standard allergenで陽性頻度の第1位はニッケル、あとは金、漆、染毛剤のPPD、コバルト、クロムなど。金は以前はかぶれにくい金属と思われていたが、パッチテストの濃度が上がり、陽性率も上がってきている。水銀は環境汚染への規制もあり頻度は減少してきている。ただ防腐剤としてのチメロサールは存続している。
🔷顔の湿疹に漫然とステロイド、プロトピックを使用し続けると酒さ様皮膚炎を続発しかねない。また長く使用しているから原因ではない、ということはない。化粧は朝から夜まで顔に使用するすべての製品が原因となりうる。(洗顔、基礎化粧品、サンスクリーン剤、メイクアップ製品、クレンジング製品)。シャンプー、トリートメント、染毛剤も顔に付着し原因となる可能性はある。
化粧品だけではなく、金属にも注意が必要。ピアス、ネックレス、ビューラー、美顔ローラー、髭剃り、コンパクトの蓋など
🔷独立行政法人製品評価技術基準機構(National Institute of Technology
and Evaluation: NITE) 日用品等の製品で「かぶれ」が生じた場合、製品のどの成分が原因かの成分パッチテストを行う機関である。アレルゲン究明の重要な存在である。
🔷家庭用品の接触皮膚炎は多岐に亘り、また新製品、輸入製品などが新規にその原因となりうる。化粧品、香料、防腐剤、ヘアケア製品、日焼け止め、ネイルジェル、界面活性剤など多種多様である。近年の例では抗菌デスクマット、冷却パッド、パラベン、イソチアゾリノン系防腐剤、眼鏡フレームのsolvent orange 60などがある。原因究明のためには先に述べたNITEの手助けが必要になってくることもある。
🔷美容師の接触皮膚炎
・毛染めのアレルギーのほとんどは1剤に含まれる酸化染毛剤の主成分PPD(パラフェニレンジアミン)で、20~30年前はパッチテスト陽性率は6,7%だった。近年は上昇して9%程度になっている。ヘアカラーをする人が増えたことと、長寿化により白髪の人が増えたことによると思われる。男性の方が毛が短いために白髪が目立ち、頻回に染める傾向がある。美容師の場合、陽性率はもっと上がる。毛染めのアレルギーの場合、頭部を避けて、顔面、手背に好発する傾向のあることも注意を要する。
・セルフテスト(オープンテスト)は有用ではあるが、それで陰性でも3割の人はかぶれる。閉鎖パッチテストとの併用は必須。
・PPDでは局所の接触皮膚炎のみならず、全身に拡大し、接触皮膚炎症候群をきたしたり、接触蕁麻疹症候群、アナフィラキシーをきたすケースもあるので注意を要する。
・PPDはパラベン、ハイドロキノン、ベンゾカイン、プロカインなどど交叉過敏をおこすことがある。
・美容師のかぶれの原因はPPDが最も多いが、パーマ剤の成分であるシステアミン塩酸塩も増えてきている。ほかに界面活性剤、金属、香料、ゴムなど多彩である。手のかぶれを防ぐにはニトリル製手袋が最適とされているが、ゴムアレルギーではこれでもかぶれる人がある。最近ではラテックスフリー、加硫促進剤フリーの手袋も発売されて来ている。
🔷たんぱく質接触皮膚炎・・・一般的に接触皮膚炎の原因抗原は分子量の小さい物質であるが、時に蛋白質のような皮膚から侵入しないような高分子物質が抗原となることがある。アトピー性皮膚炎や職業的に手荒れで皮膚に亀裂、ひびわれ、びらんなどがあると高分子物質でもバリアを越えて侵入し抗原となる。皮膚に触れると即時型アレルギーを生じ、蕁麻疹、灼熱感や痛痒さを生じるが、繰り返すうちにアレルギー性接触皮膚炎と同様の症状を繰り返すようになる。このタイプではパッチテストではなく、プリックテストなどの即時型の検査が適応になる。ラテックス、調理師の食材などが注意を要する。
🔷air borne contact dermatitis・・・近年はネイルアートがはやり、ジェルネイルではアクリレートが多く用いられ接触皮膚炎が増えている。アクリルモノマーは揮発性のために空気伝搬性接触皮膚炎を起こす可能性もあるその際は眼瞼部を中心に顔にも皮疹がでる。エポキシ樹脂は様々な製品の塗料、接着剤に使用され、職業性の空気伝搬性接触皮膚炎を起こしうる。
🔷先に述べたように、パッチテストで陽性率の第1位はニッケルで、金属アレルギーの代表である。バックル、腕時計、イヤリングなど一見明らかな装飾品、日用品もあるが、メッキ、触媒、乾電池、スマホ、陶磁器、塗料(エナメル、ラッカー)、医療機器、硬貨、ナッツ類などに含まれることもあり、注意を要する。ニッケルが含まれているかを調べるものとして、reveal&concealニッケルスポットテスターがある。検知液を塗り付け、ピンク色に変化したらニッケルが含まれていることが判る(米国製)。確認できたらクリアコートでコーティングするか、ニッケルフリーのものに代える。
🔷金属パッチテストでは遅れて反応がでることがあるので1週間後までは確認する。金ではさらに遅れることがある。また刺激反応がでやすいので判定には浸潤性紅斑、遅れて反応が拡大などを基に確認が必要。
🔷コバルトはニッケルと同時に検出されることが多い。やはり検出テスターがある。近年ニッケルが規制されてコバルトは逆に増加傾向にある。メッキ、皮製品、青色顔料、陶磁器、歯科金属などにも含まれる。またビタミンB12製剤にも含まれている。チョコレート、ナッツ、胚芽、貝類などにも含まれる。
🔷クロムはクロム鞣しという言葉があるように皮革製品に含まれている。セメント、インク、ペンキ、ゴム類にも含まれる。またいろいろな食物にも含まれている。色の黒い染料に含まれる可能性は多く、下着などでもかぶれは注意を要する。足の革靴部が蒸れたり、濡れたりして水疱ができるタイプでは要注意。
🔷金は以前はパッチテストで陽性率は低かった。パッチテストパネルに2%金チオ硫酸ナトリウムが採用されてからは20%以上の高い陽性率を示す。以前は0.5%で偽陰性の可能性が高かった。金の陽性反応は遅れて出てくるので1ヶ月間は確認する。
🔷全身型金属アレルギー・・・一部の金属アレルギーの人では食物や歯科金属から口腔粘膜、消化管から吸収される微量金属によって様々な発疹が惹起される。臨床型は様々で汗疱状湿疹、亜急性痒疹、多形慢性痒疹、貨幣状湿疹、掌蹠膿疱症、扁平苔癬、僞アトピー性皮膚炎、紅皮症などを呈する。これらの例では金属パッチテストでは必ずしも陽性にならない。金属内服テストや金属高濃度含有食負荷テストなどで確認しうる。治療では原因金属との接触を避けることであるが、金属制限食が奏功することもある。ただ、微量元素は体に必要であるために、厳格な制限は避けるべきで、専門家の指導の元に行うべきである。
🔷医原性(薬剤、医療材料・医療機器)による接触皮膚炎は化粧品の54%に次いで第2位の25%である(2016年SSCI-Net調べ)。
🔷原因は多数、多種に及ぶ。抗菌外用薬、抗真菌外用薬、消炎鎮痛外用薬(湿布薬)、鎮痒剤、局所麻酔薬、ステロイド外用薬、ざ瘡外用薬、点眼薬、消毒薬・潰瘍治療薬、坐薬・膣錠、基剤、保湿剤、防腐剤、医療機器(ステープル、ダーマボンド、接着テープ、など)。
🔷比較的に高頻度のものについて
1)抗菌外用薬・・・アミノグリコシド系は比較的に頻度が高い。硫酸フラジオマイシン(ソフラチュール、クロマイP、リンデロンA眼軟膏、ネオメドロールEEなど)ゲンタマイシン(ゲンタシン軟膏、リンデロンVG軟膏など)。アミノグリコシド系薬剤で交叉反応を起こしやすい。外用部位を越えて全身に皮疹が拡がることがある。
2)抗真菌外用薬・・・1980年代より増えたイミダゾール系外用剤によるかぶれが多い。同系統では交叉感作によるかぶれが多い。
3)消炎鎮痛外用剤・・・消炎鎮痛剤とそれによく配合ざれている局所麻酔剤、鎮痒剤によるかぶれも多い。特にOTC(over the counter)市販品では配合されているものを多く見受ける。
ケトプロフェン、ピロキシカム系では光接触皮膚炎を引き起こしやすく、内服薬では光線過敏性薬疹を引き起こしうる。
ケトプロフェン(モーラステープ)による光かぶれは多く見受けられる。ちなみにピロキシカムーバキソによる光線過敏症の本邦第1例目の報告は小生による。
4)消毒薬・潰瘍治療薬・・・かつてかぶれの多かったマーキュロクロム、チメロサール、ピオクタニンはほぼ使用されなくなった。一方傷の消毒に頻用される消毒薬はアレルギー、刺激性接触皮膚炎を生じる。ポピドンヨード、塩化ベンザルコニウム、グルクロン酸クロルヘキシジンなど。
5)ステロイド外用剤・・・頻度は高くはないが時に、接触皮膚炎治療剤でもあるステロイドでかぶれを起こしうる。主剤そのものによる場合と配合剤による場合がある。立体構造式により4つに分けられ、グループ内では交叉感作を起こしやすい。パッチテストはステロイドの抗炎症効果で抑えられるので1週間までの判定が必要。かつてトプシムクリームに含まれるステアリルアルコールの接触皮膚炎を経験したが、やはり1週後に初めて陽性所見がでた。
🔷植物による接触皮膚炎では、ときとして患者がそれを認識していないことがある。代表的なものとして、漆、マンゴー、銀杏、サクラソウ、キク科植物、プロポリスなどがある。アレルギー性のみではなく、機械的刺激によるものもある(アロエ、山芋、サトイモ、キウイ、タケノコ、イラクサ、ニンニクなど)
1)ウルシ・・・ウルシの主成分であるウルシオールはウルシ、ハゼの木、マンゴーなどに含まれる。ウルシに含まれるラッカーゼの酸化作用でウルシオールが重合し、網目状の高分子となり硬化するとかぶれない。カシューナッツ、銀杏はウルシオールと交叉感作しやすいので注意を要する。制作2年目のウルシの箸でもかぶれた報告がある。ウルシ食器だけではなく将棋、碁盤、釣り竿、楽器、三味線など意外なところにも使われている。
2)サクラソウ・・・以前は多くみられたが、最近はやや少ない印象。プリムラオブコニカ、トキワザクラ、綺麗なピンクの花だが葉でも茎でもかぶれる。
3)キク・・・栽培農家、花屋また葬儀業者など職業性のことが多い。空気伝搬性で光線過敏症と紛らわしい。
4)プロポリス・・・ミツバチが植物から採取した樹脂や花粉に腺分泌物を加えた膠状物質。機能性食品に分類されていて、化粧品や医薬品ではないがそのような使い方をされることもある。産地により成分は異なるがペルーバルサムやローズオイルと類似した成分で時にかぶれる。これに陽性の時は香料アレルギーを注意する。ロジン、松脂、シナモン、クローブビーズワックスとの交叉感作もある。