アトピー性皮膚炎のお話(2)

講演Ⅱ
「皮膚疾患の治療のアドヒアランスを高めるために」
                  京都府立医科大学  加藤則人 先生

以前は治療に対して、指示通りに行っているかどうかを現わすのに、コンプライアンスという言葉が使われていました。これは企業のコンプライアンスというように、法令順守、命令に従うことの意味合いで使われています。
 すなわち、医師が患者の上位にいて、それに従わせるというような強制的なニュアンスがあります。これに対して最近はアドヒアランスという言葉がよく用いられます。
信奉、支持、固守などの意味合いがある言葉だそうです。
これは医師と患者が対等な立位置に立ち、共に治療を推し進めていこうと協同する意味合いが含まれています。
治療の行動を起こすのに健康信念モデルというのがあるそうです。
行動を起こすきっかけには一種の危機感が必要で、それに病気の重大性などが関与します。そして、有益性と障害を天秤にかけて行動をおこしていくのだそうです。
愛煙家が禁煙を始める時のきっかけ、行動パターンをもとに説明されましたが、成程と納得しました。これはアトピー性皮膚炎などの治療のきっかけの際でも同様のことがいえ、それぞれの段階に応じて説明、対応を変えていくことが重要とのことでした。
乳幼児期から若者のアトピー性皮膚炎についての治療の動機付けを主体に話されました。
最近Thymic stromal lymphopoietin: TSLPというサイトカインがあり、引っ掻き傷やテープストリッピングによりこれが増加しアレルギーの悪循環が進行することが判ってきました。佐藤先生の講演でもありましたが、これによってTh2にシフトしアレルギーを進行させるそうです。
ですから、当初単なる乾燥肌のみだったのが、引っ掻いたり治療せずに悪循環をおこしていると自然治癒力も発揮できなくなり、こじれるといいます。
そうすると、経皮感作を起こして、食物アレルギー、喘息、鼻炎などのアレルギーを起こしやすくなってきます。
乳幼児のアトピー性皮膚炎や乳児湿疹の説明は当然保護者になるわけですが、これらのことを踏まえて治療のゴールとロードマップを示し先の見通しを説明してあげることが重要です。
乳幼児期のコントロールは大人より楽で、乳幼児期に適切な治療を行い、皮疹を寛解に持ち込めば、たとえ数年続いていても思春期で軽快するチャンスが大きい、何年もこじれて、アレルギー体質が進行してから良くするのは大変だということを解り易く説明し治療に協力を求めます。
アトピー性皮膚炎は体質によるものですが、一生治らない病気ではなく、年齢とともに治っていくことが期待できる疾患であることを説明し治療に希望を持ってもらうことも重要です。
実際に乳幼児の有病率は10~13%程度ですが、発症後3~5年でその7,8割は軽快・治癒します。ただし、一旦治癒しても30~50%は思春期以降に再発するそうです。
大学1年での有病率は8%程度です。成人のアトピー性皮膚炎の治癒率は子供より低いようですが、45歳以降の患者さんは非常に少ないようです。
思春期以降になると親の言うことに反抗するようになるのでむしろ本人への直接な働きかけが重要です。
アドヒアランスを上げるためには、
・感情移入(受容と共感)
・傾聴と質問・・・相手の言葉を先取りしないオープンクエスチョン
         Yes,noだけにならない質問
・分かりやすい説明
・質問への適切な返答
などが重要と話されました。
いちいち成程と納得しましたが、これらのことを実行するには一人20~30分位の時間がかかり、忙しい開業医では無理ではないですか、との質問もでました。
加藤先生は「以前は私もそれ位かかっていましたが、最近は最初の数分で相手の求めている所を察知し、ポイントをついて話していけば短時間で診察を進めることができるようになりました。」とのことでした。
 実地診療ではこれらのことを実践するのはなかなか難しいことではありますが、ためになる言葉が沢山ありました。