蕁麻疹の診療と研究

2020年度日本皮膚科学会研修講習会 ー必須(冬)ー
蕁麻疹の診療と研究
神戸大学皮膚科 福永 淳

1.蕁麻疹・血管性浮腫の定義と症状
蕁麻疹・・・赤みを伴って一過性、限局性の浮腫、通常30分から24時間以内に消失。
血管性浮腫・・・蕁麻疹に伴い、或いは単独に皮膚や粘膜の深部を中心とした限局性の浮腫、顔の特に眼瞼や口唇に生じやすい。より長時間続く。

2.蕁麻疹診療ガイドライン2018と欧州ガイドライン
*日本のガイドラインは、全ての蕁麻疹の病型を細かに分類し取り上げているが(血管性浮腫、蕁麻疹関連疾患も含めて)、欧州(EAACI)など海外のガイドラインは刺激誘発型、血管浮腫、蕁麻疹関連疾患などは蕁麻疹のサブタイプとしては取り扱っていない。これらは病態生理が通常の蕁麻疹と大きく異なるためとされる。一方日本では日常の診療現場でもこれらの疾患は入り込んで来うるためにすべて含められている。
*蕁麻疹は大きく急性と慢性蕁麻疹に分けられる。以前は日本では4週間以内が急性とされたが、国際基準に準じて6週間で急性、慢性を分けることとなった。
*蕁麻疹の病型では(広島大学の統計から)、約20%が急性蕁麻疹。残りが慢性蕁麻疹で、53.5%が慢性特発性蕁麻疹(原因の不明なもの)。7.3%が機械性蕁麻疹。6.5%がコリン性蕁麻疹。5.4%がアレルギー性蕁麻疹。4.2%が血管浮腫。2.3%が寒冷蕁麻疹、と続く。
すなわちアレルギー性の蕁麻疹はわずかに5%程度なので、むやみやたらとあてのないアレルギーの検査はしない。
*蕁麻疹の診断は問診から始まる、臨床診断が基本になる。病歴、背景、身体所見などから関連が疑われる場合のみに必要な検査を行う。
すなわち、特定な刺激、ないし負荷によって蕁麻疹が誘発されることがあるのか、否かを検討、見極めることが重要。または増悪・背景因子の有無をまず問診から始める。
*蕁麻疹は原因や予後について患者からの説明要求に十分に応えきれないことが多いが最終的には治癒に至る希望の持てる疾患であることを経過、予後の可能性の見通し(慢性では平均6,7年といわれる)を説明し、病型に応じた生活指導を行い、患者の負担を少なく、不安を取り除くことが治療に当たる医師に委ねられた課題である。
*治療については、Step1としてまず非鎮静性の第二世代抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)を使用する。効果がなければ2倍量までの増量、2種類の併用(薬剤によって不可のものもあり)。
*Step2としてStep1に追加してH2 拮抗薬、抗ロイコトリエン薬を併用する。さらにそれ以外の補助的な薬剤も使用されうる(漢方薬、抗不安薬、トランサミン、グリチロンなど)
*Step3として、オマリズマブ、シクロスポリンなど。ステロイド剤の内服については日本では短期的には有効でも、長期になると治療効果よりも副作用のほうが上回り薬剤からの離脱が困難になることを考慮して、1ヶ月以内の投与に留め、他の治療への変更を検討するとの縛りで残っているが、海外では原則として治療適応外。
*EAACIなど海外のガイドラインではよりシンプルな治療アルゴリズムとなっている。
すなわち、第二世代抗ヒスタミン薬➡第二世代抗ヒスタミン薬 4倍量まで増加➡オマリズマブの追加➡シクロスポリンの追加
*蕁麻疹の診療においては問診表を活用すると便利である。
*UCT(Urticaria Control Test)は過去4週間の疾患の状態を4つの質問で評価できる質問票で待合室などで短時間に回答でき、スコア化(0点から16点)
により評価が簡単にできる。
UCT8点以下はコントロール不良  UCT12点以下はコントロール不十分 UCT 12点以上 プライマリーケア医師へ逆紹介 UCT16点 薬剤減量、中止考慮
(福永医師 私案)

血管性浮腫
ガイドライン2018における血管性浮腫の病型と病態
まず原因が蕁麻疹と同様のヒスタミンに起因するものとそれとは異なり、ブラジキニンに起因するものに大別される。前者(1,2)では蕁麻疹の合併はあり得るが、後者(3,4)では無い。
病型分類
1.特発性の血管性浮腫 マスト細胞/ヒスタミンに起因する
2.刺激誘発型の血管性蕁麻疹 マスト細胞/ヒスタミンに起因する
  ・アレルギー性
  ・NSAIDs不耐性
  ・物理的刺激(物理的蕁麻疹に伴う)
  ・発汗刺激
3.ブラジキニン起因性の血管性浮腫
  ・ACE-I内服によるブラジキニンの代謝異常
  ・骨髄増殖性疾患によるC1-INHの消耗
  ・抗C1-INH自己抗体など
4.遺伝性血管性浮腫 ブラジキニンの異常
  ・C1-INH遺伝子の変異/欠損
  ・その他の遺伝子異常
*血管性浮腫の症状としては口唇/舌の腫脹、喉頭浮腫、顔面浮腫、腹痛、、吐気、嘔吐がみられる。
浮腫はどの部位でも起こるが発症部位の予測は不可能である。
*1,2と3,4での鑑別のポイントはまず蕁麻疹の有無によって鑑別されるが、それ以外のポイントとしては
1,2では痒み、喘鳴などが生じうること、急速な発症により血圧低下/ショックが起こり得ること、またエピネフィリンへの反応があること。
3,4では蕁麻疹はなく、腹部や四肢の腫脹が起こり得ること、また陰部、尿道の腫脹を来しうること。
*血管性浮腫の鑑別診断にはまず臨床的に薬剤歴の確認(ACE阻害薬・・・降圧剤のカプトリル、レニベース、タナトリルなど)、誘発因子(物理的な刺激、発汗、食事など)の有無、蕁麻疹の有無などから情報を収集する。疑わしければNSAIDsやACE-Iの誘発テスト、好酸球、IgE,CRPなどの検査を行い、遺伝性が疑われれば、補体系検査(C3,C4,C1q<C1-INH定量など)へ進んでいく。しかしこれらの検査は保険未収載もものも多く、一部の専門医療機関での検索となってくると思われる。
*遺伝性血管性浮腫(HAE)は5~10万人に1人の稀少疾患であるが、若年者のみならず、高齢でも起こりえる。
誘因としては、ストレス、外傷、抜歯、妊娠などがあげられる。
*補体活性系カスケードに関与する多くの遺伝子の異常でHAEは起こりえる。
*HAEの発作時の予防、治療としてはヒト血漿由来濃縮C1-INH製剤(ベリナートP静注)とブラジキニンB2受容体拮抗剤(イカチバント、フィラジル)が保険適用されていて、歯科、口腔内手術、気管挿管、分娩時手術時などに要事(オンデマンド)予防使用が推奨されている。
*HAE発作の長期予防はまず、C!-INH製剤、2nd-lineとしてはアンドロゲン製剤であるが副作用が多い。抗線溶薬のトラネキサム酸は推奨されない。

慢性蕁麻疹の発症機序に関与する因子
肥満細胞、IgE,好塩基球、血管内皮細胞などの関与が研究対象のようですが難しい話のため省略
講師は好塩基球活性化テストを用いた病因の研究をされているようです。

コリン性蕁麻疹
*運動・入浴・精神的な緊張などの発汗刺激に伴って深部体温の上昇がみられた際に生じる小型の膨疹または紅斑を特徴とする。
*小型が特徴だが、癒合して大型となることがあるため注意
*手掌、足底には生じない。
*アトピー性皮膚炎に合併することが多い。
*汗が出て汗アレルギー型のケースと逆に汗がでないタイプ(特発性全身性無汗症/減汗症)もある。この両者は病態、治療法が異なってくるために鑑別が必要。

蕁麻疹治療に対する個人的な悩ましい思い

・現行の第二世代抗ヒスタミン薬は非鎮静性で眠気が少ないとされるが、多くの薬剤には能書にはしっかりと「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう十分注意すること」との記載がある。
この記載がないのはアレグラ、クラリチン、デザレックス、ビラノア位である。しかも後ろ3者は倍量処方は保険で認められていない。
ところが運転などの操作に従事させないとの記載があるアレロック、ザイザル、ルパフィンなどは症状に応じて倍量に増量できるとの記載がある。講演などでは講師の先生は眠気も少ないし効果が少なければ倍量を、と話されることが多いが運転についてはほぼスルーされる。これって實臨床サイドでは本当に困る。字面通りに厳格に対応しなくてもいいのかもしれないけれど、説明責任はあるし・・・。後からこれを話すと患者さんによっては怒り出す人もいるし。
・妊婦への投与・・・これもまずまず問題はないのだけれど、妊娠自体がわずかながら異常のリスクを有する。生まれた後で何かあった場合、あの薬のせいでは、となり兼ねないという危惧があり投薬に躊躇する。
・原因は何ですか・・・?という質問に対し、話の持って行き方によっては怒り出す人もでてくる。あちこちで治らなくて折角時間を作ってやってきて長い時間待たされて結局よく分かりません、とは何だ、 「原因、誘因は何かありますか?」という問いに対して、素人に解らないから聞いているのに何だ、という人もあり・・・上記のようなガイドラインの話を長々とすると、難しい話は素人には分からない、結局何もわからず薬だけ出すのか、という人もあり、時間をかければかえってドツボに嵌まり込む場合もあり、悩ましい・・・
話術の拙さ、説得力のなさを思い知らされ、一日不愉快になり落ち込むこともあり。

悲しい思いをするとき

・これは単なる痒み止めでしょう。(そうではなく、ヒスタミンレセプターの安定化など種々の治療薬としての機序が呈示されています。)
・薬だけもらうのに何で診察料を払わなくてはいけないのか。(さる高学歴の職業の方の言です。)因みに厚労省では原則として無診察での投薬は禁止と通達しています。
・どうせ同じ薬を出すのだから、診察は要らない、出せるだけMAX欲しい。
・いつまでこんなに長く飲むのだ。(内科の高血圧や糖尿病の薬は一生飲み続けるはずですが。)
・こんなに長く飲んでいて大丈夫ですか。(そのために問診したり、時に肝機能を調べたりしています。・・・これは当然の質問で悲しくはないが)
・内科で一杯薬をもらっているからもうこれ以上薬は増やしたくないです。(皮膚科の薬は次いでなのかなー)
・内科などで長期にセレスタミンを処方され、私はそれしか効かないからそれが欲しいと来院。セレスタミンは第一世代の眠気のある抗ヒスタミン剤とステロイド薬の合剤だから、なるべく長期に使わない方がいいと説明し、ガイドラインに従って第二世代の抗ヒスタミン剤などに変更するもやはり効かないと来院、やはり私の言った通りだろうとドヤ顔でいわれたとき。
・アレルギーの検査をして欲しいと来院した患者さんに対し・・・お話をお聞きすると、あなたの蕁麻疹は慢性で特に誘因がないタイプの蕁麻疹、すなわち慢性特発性蕁麻疹と思われます。あてのないアレルギーの検査をしてもあまり意味がないと思いますよ、と言うと「内科の先生はちゃんとアレルギーの検査をしてくれて、ダニ、ハウスダスト、花粉は異常ないと説明してくれた、それなのに検査もしないで専門の皮膚科なのか、と。(最近はあまり意味はなさそうでも、検査を希望する人にはなるべく当たり障りなく検査することにしている、やることで不利益にはならないだろうから・・・料金はそれなりにかかるが、それも納得の内だろうから)