表皮水疱症 治療(1)

表皮水疱症(epidermolysis bullosa:EB)に対する治療は、遺伝子治療やiPS細胞を用いた治療や幹細胞移植などの研究や臨床応用に向けた治験などが先端施設では報告されてはいますが、一般的にはまだ施行されておらず、対症的な皮膚に対するケアが中心となります。
症状はEBのタイプによって大きく変わります。単純型の皮膚症状は軽度で加齢とともに改善していくことが多いです。ただ、筋ジストロフィー型はより重症で予後は不良です。接合部型はより重症で全身に水疱、稗粒腫、萎縮性瘢痕をきたすこともあり、皮膚とともに全身管理を要することもあります。栄養障害型の重症型では全身の水疱、瘢痕への対応とともに全身管理また高率に発症する有棘細胞癌への対処も必要となってきます。
◆皮膚のケアは一般の創傷に対するケアと考えかたの基本は同じだと思われますが、EBではわずかの外力でも皮膚が破れ易い、傷は治りにくく、感染し易いということが最も留意しなければならない点です。
1)洗浄・・・皮膚は常に清潔でなければならないのは自明のことですが、EBにおいても同様で、感染予防の点でも毎日の洗浄は必要です。ただ、乳幼児などびらん面は疼痛が強いことも多く、その際は水よりも生理食塩水(又は1Lの水に対して9gの食塩をとかしたもの)の方が痛みが軽減されます。石鹸、洗浄剤は泡立てて皮膚を直接擦らず、泡で包み込むように洗います。痛みがなければシャワーなどの微温湯で洗い流します。
2)水疱・・・皮膚を刺さないように皮膚面と水平方向に針を刺し、水疱内容液を抜き取り創傷被覆材などでカバーします。
3)びらん・・・洗浄し、皮膚に固着しないシリコンガーゼや非固着性のドレッシング材で被覆します。保護のために白色ワセリンやアズノールの外用を行います。もし感染の徴候があれば抗生剤含有軟膏や抗菌作用のある銀を含有したドレッシング材などを用います。固定には極力絆創膏などのテープは避けて、シリコン粘着テープや伸縮包帯などで緩く固定します。
いずれにしても湿潤環境療法(moist wound healing)の共通コンセプトは大切で創部の適当な湿潤環境を保つことが重要です。
表皮水疱症友の会(DebRA Japan)が中心になって行った署名活動が端緒となり2010年度から在宅難治性皮膚疾患処置指導管理料が算定されるようになり、それまで自己負担しなければならなかったガーゼ等包帯交換材料費の負担額が軽減しました。ただ全額公費負担とそうでない型もあり、制度も複雑です。
◆全身管理
全身に水疱、びらんが拡大する型では補液による脱水の対応、栄養障害から生じる貧血に対する輸血、エンシュア・リキッドなどの栄養補助食品や、栄養剤、鉄材などの補給が検討されます。菌血症に対しては抗生剤の投与などを行います。抗菌剤は当初は奏功するものの次第にコントロールが難しくなるケースもあります。また幽門狭窄症に対しては手術が必要ですし、食道の狭窄に対してはバルーンカテーテルによる拡張術を要することもあります。歯肉炎の増悪を予防するために歯石除去などの歯科ケアが必要です。有棘細胞癌など悪性腫瘍に対する手術なども必要となってくるケースもあります。

参考文献

新熊 悟 表皮水疱症 特集 水疱をどう診る?どう治す? ◆編集企画◆西江 渉
MB Derma,292:70-78,2020

皮膚疾患 最新の治療 2019-2020 編集 古川福美・佐伯秀久 東京 南江堂 2019
梅垣知子 5表皮水疱症 pp129-130

皮膚科臨床アセット19 水疱性皮膚疾患 発症機序の解明から最新の診断・治療法まで 総編集◎古江増隆 専門編集◎天谷雅行 中山書店 東京 2014