表皮水疱症 基本事項

表皮水疱症(先天性表皮水疱症 epidermolysis bullosa hereditaria:EB)は表皮基底膜構成蛋白をコードする遺伝子の変異により発症し、その部位で皮膚の脆弱性が生じた結果、水疱を形成します。近年表皮水疱症の原因遺伝子が明らかにされてきたことによって、疾患の正確な診断、遺伝形式の把握、遺伝相談、出生前診断が可能となってきました。変異のある遺伝子によって臨床症状や予後が大きく異なるために、病型を確定することが重要となってきます。重症型に対しては遺伝子治療をはじめ先進的な治療法が模索されてはいますが、一般的には専門家による早期診断と、家族をはじめ医療チームによる地道かつ持続的な患者ケアが必要となってきます。
【表皮水疱症の分類と”onion skin”アプローチ】
EBに関する国際コンセンサス会議が4回開催され、2014年にJADAに報告された国際分類が繁用されています。
この報告書では”onion skin”アプローチが採用されていて、特徴的な臨床症状、家族歴、病理組織による水疱の形成位置によって4つの型に分類します。その後、細かい臨床症状、病理組織、合併症などを加味し、主要亜型を再分類します。さらに可能ならば遺伝形式、原因遺伝子を特定していくという主要分類➡細分類といった玉ねぎの皮を剥いていくような分類方法をとっています。
大枠は次の4型です。
1)単純型EB・・・表皮内で裂隙が生じる
2)接合部型EB・・・透明帯(lamina lucida)で裂隙が生じる
3)栄養障害型EB・・・基底層緻密層(lamina densa)直下で裂隙が生じる
4)キンドラー症候群・・・いずれの部位にでも裂隙が生じうる
【診断手技】
・臨床症状、病歴、家族歴、合併症などでおおよその推定
・病理組織、電子顕微鏡の検査
・免疫組織学的検査(免疫蛍光染色抗原マッピング)・・・構成タンパクに対するモノクローナル抗体を用いて免疫染色を行う
・遺伝子検査・・・次世代シーケンス解析、全エクソームシーケンス、パネルシーケンス
【国際分類】
個別にみていきます。
1)単純型EB(EBS: epidermolysis bullosa simplex) 基底層上型と基底型に分類
基底層上型は外胚葉形成不全・皮膚脆弱性症候群ともよばれデスモソーム構成蛋白のひとつであるプラコフィリン1などの遺伝子異常で生じる稀な型。
基底型は限局型、重症汎発型、中等症汎発型、稀な特殊型として筋ジストロフィー型、幽門閉鎖合併型、劣性遺伝型に亜分類される。
前3者はケラチン5/14遺伝子の変異による。常染色体優性遺伝形式をとる。生後~乳幼児期から外力を受けやすい手足などに水疱を形成する。表皮内水疱であるために、瘢痕を残さず軽快する。夏季、温熱などで悪化。成長と共に軽快し、一般的に予後はよい。
筋ジストロフィー型、幽門閉鎖合併型はプレクチン(ヘミデスモソームや筋細胞膜の構成分子)の変異が原因であるために皮膚以外の筋症状を合併する。常染色体劣性遺伝形式をとる。
基底細胞内に裂隙が生じ表皮内水疱を認める。重症型では電顕で変性したケラチン線維の凝集がみられる。
2)接合部型(EBJ:junctional epidermolysis bullosa)
ヘミデスモゾームを構成する分子(ラミニン332、17型コラーゲン、α6/β4インテグリンなど)の変異によって発症する。これらは表皮基底膜部透明体に存在する蛋白分子である。汎発型と限局型に分類される。
常染色体劣性遺伝形式をとる。生後1年以内にほぼ全例死亡する重症汎発型EBJと生命予後良好な中等症汎発型EBJに大別される。特殊型に幽門閉鎖合併型、呼吸器・腎障害合併型があるが予後不良である。
中等症汎発型は生命予後はよいが、頭部脱毛、掌蹠角化、爪の変形、歯エナメル質形成不全を伴う。
3)栄養障害型EB(DEB:dystrophic epidermolysis bullosa)
基底版と真皮を結合する係留線維を構成するⅦ型コラーゲン遺伝子の変異によって発症する。遺伝形式によて常染色体優性遺伝と劣性遺伝がある。劣性の方が重症で、指趾の融合や有棘細胞癌を生じる例が多い。劣性ではさらに中等症汎発型と重症汎発型に分けられる。
係留線維の消失によって表皮下に裂隙ができ、水疱を生じる。
優性型は出生時~乳児期に発症し、四肢伸側に水疱を生じ、食道狭窄をきたしたり体幹に白色丘疹を生じるものがある。治癒後に瘢痕を残すが加齢とともに改善傾向がある。
劣性型でも中等症汎発型はⅦ型コラーゲンの完全欠損ではないために重症型ほど症状は重篤ではない。
重症汎発型はⅦ型コラーゲンの発現が完全に欠損しているために生下時から水疱や糜爛が繰り返し多発し、治癒後に稗粒腫や瘢痕を残す。指趾は癒合して棍棒状となる。爪、口腔、食道も侵され、食道狭窄をきたす。青年期以降は瘢痕部に有棘細胞癌などの悪性腫瘍をきたしやすい。
優性か劣性遺伝かを鑑別するために遺伝子変異の同定が必要となってくる場合もある。
4)キンドラー症候群
1954年にKindlerが水疱形成と光線過敏、進行性多形皮膚萎縮、粘膜症状を呈する常染色体劣性遺伝性疾患を報告したのに由来する。極めてまれな疾患。従来の分類に当てはまらず、種々の部位に水疱を形成するために2008年新たな一型として追記された。
キンドリン-1をコードする遺伝子変異によって生じる。これはアクチン線維と細胞外マトリックスを繋ぐ蛋白質とされる。臨床症状からRothmund-Thomson症候群や色素性乾皮症などとの鑑別が重要となってくる。

参考文献

清水 宏 あたらしい皮膚科学 第3版 第14章 水疱症A. 遺伝性水疱症(先天性水疱症)中山書店 東京

新熊 悟 表皮水疱症 ㎆ Derma,292:70-78,2020 特集 水疱をどう診る?どう治す?◆編集企画◆西江 渉

皮膚科臨床アセット 19 水疱性皮膚疾患 発症機序の解明から最新の診断・治療法まで 総編集◎古江増隆 専門編集◎天谷雅行 中山書店 東京 2014