類天疱瘡 治療

類天疱瘡の治療をガイドラインを基にまとめてみました。
日本皮膚科学会ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン
類天疱瘡(後天性表皮水疱症を含む)診療ガイドライン作成委員会
日皮会誌:127(7),1483-1521, 2017(平成29)

【治療概要】
基本的には天疱瘡の治療戦略と相同です。診断を早期につけて(除外診断をしっかり行う)、ステロイド剤による初期導入治療を十分に行う、地固め療法のあと、維持療法を行い、第1のゴールともいえるPSL 0.2mg/Kg/日≒10mg(50-60Kg)を目指す。最終的には無治療での完全寛解を目指すということになります。
尋常性天疱瘡より治療への反応性がよく、コントロールし易い例もありますが、高齢者に多く、時に治療に抵抗する例もみられます。
軽症ではPSL 0.2-0.3mg/kg/日でも可ですが、中等症、重症になるとPSL 0.5-1mg/Kg/日が必要になってきます。
治療の主体はステロイド内服ですが、テトラサイクリン(あるいはミノサイクリン)とニコチン酸アミドの併用内服やドキシサイクリン内服が奏功する例もあり、またストロンゲストクラスのステロイド外用、DDS内服が奏功することもあります。
ただ、重症例の中には治療抵抗性の場合もあり、その際はステロイド内服に加えてさらに、ステロイドパルス療法、アザチオプリンなどの各種免疫抑制剤、血漿交換療法、大量ガンマグロブリン療法(IVIG)療法などを併用します。国外ではリツキシマブ(抗CD20抗体)が有効とする報告もありますが、国内ではまだ治験段階です。将来的には抗原特異的B細胞に的を絞ったCAART療法(天疱瘡)なども研究されています。また血中からの抗体除去、、分子標的薬、サイトカイン抗体製剤、補体活性化経路阻害剤などの研究も進められているようです。
治療の効果、再発の予想はなかなか困難で、3~4割は再発するとされていますが、治療初期にBP180 ELISA値の高い例、また維持療法後でもBP180値の高止まりする例、DIF陽性例、認知症例では再発率が高いとされています。

【各疾患の治療】
個別の治療を見ていきます。
[類天疱瘡 Bullous Pemphigoid:BP]
まず、診断を確定した後、BPDAI(Bullous Pemphigoid Disease Area Index)を基に重症度に応じて治療を選択する。
A.軽症例
1)局所外用療法・・・ストロンゲスト・ベリーストロングのステロイド外用剤の塗布。創保護、感染予防のために抗生剤含有軟膏、亜鉛華単軟膏の貼付も併用する。
2)テトラサイクリン(ミノサイクリン)・ニコチン酸アミド併用内服療法・・・
TC 500~2000mg、MC 100~200mg/日とニコチン酸アミド500~2000mg/日 併用
ステロイド外用を併用するのが一般的。ミノサイクリンの色素沈着、間質性肺炎に注意
3)DDS(ダプソン)内服療法・・・DDS 25~100mg/日内服。ステロイド外用、内服を併用することが一般的。肝機能障害、DDS症候群などに注意。
4)ステロイド内服療法・・・軽症例に対してはプレドニゾロン(PSL)0.2~0.3mg/Kg/日程度で開始、2~4週で水疱、びらんがなくなったら1,2か月ごとにPSL1~3mg/日の減量をめざす。第1目標はPSL 0.2mg/Kg/日以下。最終的にはそれ以下、或いは内服中止での寛解を目指す。
PSL治療開始前に糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、感染症(結核、肝炎他)などの合併症の検索を行うこと。骨粗鬆症(ビスフォスフォネート使用前の歯科のチェック)、ニューモシスチス肺炎予防の併用を考慮すること。
5)強力ステロイド全身外用療法・・・デルモベート1回10g、1日2回の外用が奏功するとされるが、糖尿病、感染症、皮膚萎縮などの副作用を来しやすい。
B.中等症、重症および難治例
1)ステロイド内服療法
PSL0.5~1mg/Kg/日を投与する。局所療法も併用する。
PSL減量前期・・・PSL 1mg~0.3mg/Kg/日までは1,2週ごとに5~10mg/日の減量
PSL減量後期・・・PSL 0.3mg/Kg/日以下では1,2か月ことに1~3mg/日の減量
第1目標はPSL 0.2mg/Kg/日。最終的にはそれ以下、或いは内服中止での完全寛解を目指す。ステロイドの投与量の重症度に基づいたエビデンスは乏しく、経験によるところが大きい。
PSL治療開始前に糖尿病、高血圧、消化性潰瘍、感染症(結核、肝炎他)などの合併症の検索を行うこと。骨粗鬆症(ビスフォスフォネート使用前の歯科のチェック)、ニューモシスチス肺炎予防の併用を考慮すること。
2)免疫抑制剤・・・ステロイド剤の早期減量、再発防止効果を期待、効果発現は遅い。それぞれの薬剤で副作用、併用禁忌薬があるので注意を要する。
・アザチオプリン・・・50~150mg/日
・ミゾリビン・・・150mg/日
・シクロフォスファミド・・・50~100mg/日
・シクロスポリン・・・3~5mg/Kg/日
・ミコフェノール酸モフェチル・・・40mg/Kg/日(通常2g/日)
・メトトレキサート・・・2.5~7.5mg/Kg/週
3)ステロイドパルス療法・・・メチルプレドニゾロン0.5~1g/日を日連続投与。
4)IVIG療法・・・400mg/Kg/日を5日連日点滴静注する。血漿交換療法のあとに行う。
Neonatal Fc receptor(FcRn)の飽和によりIgGのリサイクルが起こらなくなる、サイトカインの調節、BO180抗体に対する抗体、FcγRに対する調整などの機序が考えられている。
5)血漿交換療法・・・難治性のもの、ステロイド大量療法ができない例に限り適応となる。単純血漿交換(PE)、あるいは二重濾過血漿交換療法(DFPP)がある。通常2~3回/週行う。PEの方が原因物質の処理能力は高いが、凝固因子やアルブミンの低下を来しやすく補充が必要。
6)シクロフォスファミドパルス療法・・・ステロイド剤、免疫抑制剤のみでは十分な効果がない場合に適応となる。500~1000mg/m2静注する。繰り返す場合は4週間おきに施行する。3か月から半年程度。骨髄抑制、出血性膀胱炎、肝障害、発癌のリスクがあり総量12gを越えないようにする。
7)リツキシマブ(抗CD20抗体)・・・海外では難治性の例に使用され、良好な成績が報告されているが本邦ではまだ治験段階である。
8)テトラサイクリン・ニコチン酸併用
9)DDS内服
10)強力ステロイド全身外用・・・これらは有効との報告はあるが重症例での適応は少ない。
🔷病勢はBPDAIによって行う。IgGの血中半減期は3週間あるためBP180の血清抗体価(ELISA法、あるいはCLEIA法)の変動は当初は病勢とずれがある。
再発(月に3個以上の新生疹、10cmより大きい新生疹、また既存病変の拡大)時はステロイド剤を1.5~2倍、あるいは治療初期導入期に準じて増量する。
[粘膜類天疱瘡 Mucous membrane pemphigoid:MMP]
粘膜部のみに病変を認めることもあるので、専門医による正確な診断が特に必須。また眼、食道などの重篤な後遺症を残すことがあるので適切な治療が必須。
低リスク群と高リスク群に分けて治療方針をきめる。眼科、耳鼻科、歯科、内かなどとの連携が必要になってくる。
治療はおおよそ、類天疱瘡の治療指針に準じる。粘膜類天疱瘡では病勢を反映する血中抗体価測定法はないためにびらん、水疱の新生がなくなれば臨床症状を目安に治療薬の減量を進めていく。
[後天性表皮水疱症 Epidermolysis bullosa acquisita:EBA]
通常の検査では水疱性類天疱瘡(BP)との鑑別が困難であり、BPと比べて難治性で慢性の経過をとることが多い。症例数も少なく専門医による診断、適切な治療を要する。
全体として治療はBPに準ずる。ただしBPと異なる点は1)EBAではコルヒチンが使用されること、DDSが奏功する例があること(保険適用外)。 2)テトラサイクリン・ニコチン酸アミド併用療法はほとんどない。 3)強力ステロイド全身外用療法はほとんどエビデンスがない。
軽症例ではBPと同様に局所外用療法も可能であるが、軽快しない例では速やかに専門医療機関に紹介すべきである。重症度によって治療方針が異なるために、重症度判定を正確に行う必要がある。
EBAの再燃の国際基準はないので、BPに準じて判断される。

参考資料

古賀 浩嗣 第83回東京・東部支部学会SY2-3 自己免疫性水疱症の治療戦略