アトピー性皮膚炎のお話(1)

週末は皮膚アレルギーUpdateという講演会に行ってきました。製薬メーカー主催のものなので、その販売促進もあるかもしれませんが、なかなかに中身のある講演でした。
そのⅠは東大の佐藤先生の「アトピー性皮膚炎は新しいステージへ―Proactive療法の理論と実際―」でそのⅡは京都府立医大の加藤先生の「皮膚疾患のアドヒアランスを高めるために」という講演でした。その概略を。

「アトピー性皮膚炎は新しいステージへ―Proactive療法の理論と実際―」
アトピー性皮膚炎の病態は現在、大きく分けて、バリア異常と免疫異常の2つの側面が関与していると考えられています。
近年、尋常性魚鱗癬の責任遺伝子がフィラグリンであることが発見されました。
以前から尋常性魚鱗癬の37-50%の人にアトピー性皮膚炎がみられ、またアトピー性皮膚炎の中で8%の人に尋常性魚鱗癬が合併することがわかっていました。
最近アトピー性皮膚炎のうち、18-56%でフィラグリン遺伝子の異常がみられることが報告されています。日本人ではアトピー性皮膚炎の27%でフィラグリン遺伝子の異常がみられるとの報告がされています。そして、そのうち、7つの遺伝子異常は欧米の報告とは異なるものだそうです。(名古屋大学、秋山真志ら)
フィラグリン遺伝子の検査は一般的ではありませんが、その臨床的な特徴は以下のようです。
・早期発症、重症、持続性
・palmar hyperlinealityといって手のひらに縦に深いしわが多数みられる
・経皮感作の率が高い
・喘息が多い
・ヘルペスの頻度が高い
・IgEが高い
現在はバリア異常の説明にフィラグリン遺伝子の異常を原因とするのが流行ですが、無論これがすべてではありません。
(佐藤先生はバリア異常、免疫異常の比重はその時々によって変わるので将来はまた免疫異常の比重が大きくクローズアップされるかもしれないと述べていました。)
 ではフィラグリン遺伝子異常のないアトピーのバリア異常はどうなるのでしょう。
実はフラグリン遺伝子の異常はなくてもフィラグリン蛋白の発現が低下することがわかってきています。それは、Th2サイトカインによる炎症があれば低下するそうです。
すなわち外来アレルゲンに繰り返し暴露(反復暴露)されていると、サイトカインはTh2側にシフトしIL-4が増え、マスト細胞の増加、CD4+細胞の浸潤がみられ、ダニなどの抗原特異的なIgEも増えてきます。
Th2へのシフトはアレルゲンばかりではなく、角層のテープストリッピング(テープで皮を剥がすこと)を6回やっても起こることがわかっています。単に引っ掻いても起こるということです。
また最近は経皮感作といって、皮膚表面を通して食物アレルギーや喘息、鼻炎がアレルゲンの感作を受け発症に至る、経路がわかってきました。
抗IL-4R抗体や、ステロイド、プロトピックなどはこのフィラグリンの発現を是正することがわかっています。その意味でもこれらの薬剤が治療に有用であることがわかります。
しかしながら、注意しなければならないことは、ステロイド剤はフィラグリンの発現を低下させますが、皮膚を萎縮させるという欠点があります。タクロリムス(プロトピック)やピメクロリムス外用剤は皮膚を萎縮させずにフィラグリンを回復させます。
タクロリムス外用剤は1週間で2,3回の外用で皮疹の再燃を減らすことがわかっています。その後、1週間に1回の外用でも同等の効果があるとの報告もあります。
今までのreactive療法はアトピー性の皮疹に対して治療するという方法でしたが、proactive療法は一旦軽快したとしても再発しないように治療するという考え方です。
程度によってステロイド剤、プロトピック、保湿剤となりますが、例えばプロトピックにしても、全身に使うわけではなく、再燃しやすい部位、例えば頚などに使い、炎症の繰り返しや炎症後の色素沈着,からくるdirty neckを防ぐことに役立ちます。また四肢屈曲部などに使います。目安としては中等症なら半年、重症ならば2年間とのことです。

これが外用剤のプロアクティブ療法ですが、内服にも同様の考えが適用できます。
抗ヒスタミン剤はいわゆる痒み止めですが、最近インバース・アゴニストという考えかたがわかってきました。(当ブログの抗ヒスタミン剤の使い方の項でも触れました。)
すなわち、従来はヒスタミンがH1受容体に結合して、シグナルが伝達されると考えられていました。しかし、最近はヒスタミンが結合していなくても受容体は持続的に自然に活性化(自律活性)していることがわかってきました。そしてヒスタミンはこの活性型H1受容体に結合して活性化状態にシフトしたまま安定化させるというのです。
抗ヒスタミン薬はこれに対し、不活性型H1受容体の方に結合して平衡を不活性化状態にシフトするというのです。
アトピー性皮膚炎では、痒みを自覚しない時でも常にヒスタミン受容体は活性化の方へシフトしていることから寛解時でも連続して抗ヒスタミン薬を内服する有用性があるということでした。

治療のツールは変わりませんが、病態の理解が深まるともっと突っ込んだ適切な説明ができるように感じました。

講演2は長くなったのでまた後日