医会で思ったことー補遺

皮膚病理の大切さを続けて書きました。
それは、まぎれもない事実なのですが、一寸皮膚生検が万能だというメッセージを与えてしまったかなと思い直しました。それを打ち消すわけではないですが、追加のコメントを書きました。
皮膚の病理組織は、腫瘍では比較的に明確な診断が得られますが、湿疹、皮膚炎などの炎症では、非特異的な炎症細胞の浸潤を示し、診断の根拠にならないことも多くみられます。
また血管炎など、採る時期、部位によっては却って診断を間違うことすらあります。
更に、腫瘍においても、専門の皮膚病理の先生同士の意見が、学会の討論の場で、良性、悪性の正反対の結果に真っ二つに分かれることすらあるのをたまに経験してきました。Pseudomalignancyという言葉がありますが、これは偽悪性とも訳すのでしょうか、悪性腫瘍の病理所見のようであって、臨床的には良性の疾患に対する言葉です。
小生の大学在籍当時もこのようなケースがありました。顔面の有棘細胞癌(?)の患者さんでした。顔の正面にキノコのような腫瘍ができ、皮膚生検でも悪性像です。日増しに大きくなって顔の中央に盛り上がる巨大な腫瘍になりました。手術は植皮を含めて大がかりなものになります。教室の大部分の先生が拡大手術もやむなし、という結論でしたが、当時の腫瘍チームのリーダーの小林講師は頑として「これはケラトアカントーマ(偽癌)だからそのうち自然治癒する」として手術を延期しました。これで手遅れになったら、大変なことになると我々は危惧しましたが、顔面の中央に極大にまで成長した腫瘍はその後次第に縮小していき、ついに自然治癒していきました。成書には2cm程には成長するとありますが、そんな半端なものではありませんでした。皆小林講師の慧眼に恐れ入ったものでした。こういったような癌か、良性腫瘍か判らないケースは、メラノーマ(悪性黒色腫)でも、リンパ腫でも、線維肉腫でもたまにみられます。
また、乾癬に似た類乾癬で後年悪性化する例があるのですが、数十年前の乾癬または類乾癬の患者さんが、菌状息肉症(悪性)になった例も経験があります。
すなわち、ある時点のある病理組織のみで結論づけると判断を間違うこともありうる、ということです。
千葉大学の元助教授で、臨床、病理に優れた眼力を持つ藤田先生はある時、雑誌に面白いことを書いていました。曰く、4次元診断法です。目で見、病理組織をみても検査をしても尚且つ結論に至らない場合、何かしっくりこない場合は時間の経過を待ってその病気の変遷を追い求めるというものです。見ている内に隠されていた病気そのものが本来の姿を現してくることもあります。
蓋し、名言だと思いました。
 皮膚病理についての舌足らずな思いの追加コメントを書きました。

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