HPVワクチンの現況

新型コロナでこのところワクチンのことが多く報道されるようになってきました。
それとは異なりますが、HPV(Human papilloma virus; ヒト乳頭腫ウイルス)ワクチンのことについて書いてみたいと思います。
 子宮頸がんの95%以上はHPV感染が原因であり、HPVワクチンが子宮頸がんの予防効果があり、このワクチン投与が世界中の何万人もの子宮がんの死亡者の減少に貢献してきていることは広く知られ定説になっています。ただ、先進国の中で日本だけがワクチンの副作用の問題で投与がほぼ止まった特異な国であることはあまり周知されていないかもしれません。
先日、といっても昨年秋11月ですが医師会の講演会で日本のHPVワクチンの現況に関する講演がありましたので、日頃気になっていたものの正確な知識がなく、実情を知りたくて参加してみました。その時の講演を基に日本の現況について調べてみました。

「当院でのHPVワクチン勧奨と効果ーー片岡 正 先生 川崎市」
まず現況として、HPVワクチン接種が止まって(接種の積極勧奨の一時差し控えの通知)から5,6年がたちました。最近ワクチンの出荷量がやや増え、皆冷静に現況を判断するようになってきた、自民党においてもHPVワクチン接種再開を目指す議員連盟が発足した、ということを述べられました。ワクチンの発売、接種から副作用報道、勧奨中止までのいきさつを解説されました。
HPV(Human papilloma virus:ヒト乳頭腫ウイルス)はパピローマウイルス科のウイルスで現在100種類以上の遺伝子型が知られていて、多くはヒトにイボを生じますが、子宮頸癌の発癌に関与するものはHPV16,18型をはじめ約40種類が知られていて、そのうち特定の12種類がハイリスク型とされています。感染しても70~80%が無症状で1~2年以内に自然消退します。しかし、数年から数十年に亘る持続感染、何代にも亘る細胞分裂を経て100人に1人が子宮頸がんを発症するとされます。80を越える諸外国では性交渉を開始する以前の若い女性へのワクチン接種が公費助成により施行されています。
本邦では2009年12月にグラクソ・スミスクライン社により2価(HPV16,18型)HPVワクチンであるCervarixが発売され、子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業(公費助成)が開始されました。2011年8月にはメルク万有社(現MSD社)より4価(HPV6,11,16,18型)HPVワクチンであるGardasilが発売されました。
その後、「筋注は痛い」「失神する」「ワクチンで不妊になる」などの風評がSNSで出回るようになりました。実際に失神、転倒するケースもあり、
2013年3月 朝日新聞によるワクチン接種による副作用報道、痙攣の動画などがアップされ、厚労省は定期接種の中止、積極的勧奨の差し控えを通達し、
2013年6月 中止勧告をし、「ワクチン接種は積極的には勧めない、リスクとベネフィットを考えて受けて下さい。」との通達を出しました。
それ以降、実質的にはほぼ接種件数は0に近づきました。
機能性疾患として「心身の反応」「「機能性身体反応」と呼ばれました。
WHOではISRR:immunization stress-related responses 接種ストレス関連反応と呼んでいますが、HPVワクチンの推奨を変更しなければならないような安全性の問題はみつかっていない、というスタンスです。
接種前、直後・・・急性ストレス反応
接種後・・・解離性神経反応
WHOでは接種後反応の発生はあるものの、安全性の問題は認めらない、日本の状況については「若い女性が本来予防し得るHPV関連がんのリスクにさらされている日本の状況を危惧し、安全で効果的なワクチンが使用されないことに繋がる現状の日本の政策は真に有害な結果となり得る」と警告しています。
2014年 本邦では一部の学者がワクチン接種による「薬害」を主張し、2016年には国と製薬会社に対して集団訴訟を起こしました。
横市 名誉教授 横田俊平氏らはHANS:HPV vaccine associated neuropathic syndrome, HPVワクチン関連神経免疫異常症候群という概念を提唱しました。
4大症状 1.記憶・情動障害 2.感覚障害 3.運動障害 4.自律神経障害
(HANSは「脳症」であり、その4大症状は中枢神経由来である)
2015年には村中璃子氏がHANSについてのマウス実験の『捏造』を告発しました。(ただ、これは逆提訴されて裁判では敗訴となっています。)
マスコミの報道も世論への忖度、弱者の方へ付く、といった風潮があり、このワクチン投与は日本ではほぼ消滅しました。
その後、名古屋市でのアンケート調査(名古屋スタディー)ではHPVワクチンと24項目の症状の発症との間には有意な関係は見出されなかった、という報告がなされました。(名古屋スタディーは両者間の母集団の取り方、解析に問題があるとの意見もあり、村中瑠子氏の報告への評価は賛否があり、講師の先生は時系列で事実を述べられましたので、詳細の評価は各自原論文に当たって下さい。)
2016年には全国疫学調査(祖父江班)がなされ、結論として、
・HPV接種を受けていない人でも一定の割合で多様性の症状を呈するケースがあること。
・HPV接種とその後に生じた症状との因果関係は証明できない。
との報告がありました。
2016年4月には15団体、産婦人科学会がHPV接種推進に向けた声明を出しました。
国際的には、英米、北欧をはじめ欧米ではHPV接種による子宮頸がんの数が有意に減少し、更に一歩進んでいるオーストラリアでは2028年には子宮頸がんによる死亡者をほぼ0にできるシミュレーションを立てています。(翻って本邦は年間の子宮頸がん発生数が約1万人、死亡者数が約2800人とのことで亡くなる人は年々増加傾向にあります。日本産婦人科学会でもこのままでは日本は世界の流れから大きく取り残される、との危惧感を訴えています。)
WHO(新型コロナでその権威は地に墜ちた感はありますが、腐っても鯛)は日本の現状に対して、先にも述べましたが「ワクチン接種によって救われるはずの命を放置しているのは由々しき事だ」と苦言を呈しています。
またノーベル医学賞を受賞した本庶佑教授は「日本のHPVワクチン接種拒否は嘆かわしい」「マスコミはデメリットだけでなくメリットも報道すべきだ」と現状を批判しています。
ここ1,2年徐々にワクチン接種も個別に上向き傾向があり、日本産婦人科学会、自民党有志連合の推進運動にも関わらず、集団提訴もこともあり、厚労省は身動きがとれない状態のようです。古くはサリドマイド、スモンからエイズなどの薬害事件があり、腰が引けているようです。(今回のアビガンもそうかもしれません。)
このような状況の中でも、小児科、産科のクリニックの先生方の追加発言によると、HPVワクチンについての効果を疑っている人はほぼいないものの、副作用についてはあまり詳しく知らない人が多く、信頼する主治医の意見、説明、周りの人の意見を重要視しているとのことです。かかりつけ医は最も影響力のある存在で、直接話を聞いて副反応などの微妙な話も丁寧に説明すること、母子手帳をみて打つ対象の子供への声掛けなど現場での地道な努力が大切なことなどを述べられました。

海外では4価のみならず、9価のワクチン接種も始まっているようですが、日本では未承認とのことです。
徐々にワクチン接種数が増えていき、仮に以前のように定期接種勧奨ともなれば、やはり一定数の有害事象例はでてくると予想されます。
その際には、それを無視、隠蔽するのではなく、かといってマスコミはセンセーショナルに取り上げるのではなくそれらの人々への対応はしっかりとし、年々死なないでもよいはずの膨大な女性たちのことも考えて報道していただきたいものだと思いました。
ワクチン接種後に「多様な症状」が現れた際には全国に85医療機関の診療相談窓口もあるそうです。
積極的なワクチン接種が推進され、また万が一接種後に「多様な症状」が現れた人に対してもしっかりした医学的な対応がなされていくことが重要なことかと思われました。

なおHPVワクチン、子宮頸がんの専門的に詳しいことは日本産婦人科学会のHPに掲載してありますので関係、関心のある方は熟読されることをお勧めします。

子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために