魚・甲殻類アレルギー

我が国での魚アレルギーの頻度は第10番目ですが、成人に限ると第2番目と高くなります。
魚アレルギーにおいては、魚そのものによるアレルギーの他に、紛らわしい症状としてヒスタミン中毒とアニサキスアレルギーがあります。
🔷魚アレルギー
頻度からすると赤身魚より白身魚のアレルギーが多いです。
原因物質(抗原)はパルブアルブミン(parvalbumin:PA)とよばれる分子量12kDaの筋蛋白質で、速筋(白筋)の弛緩に関与していると考えられています。これは水溶性で熱安定性であるために加熱しても抗原性はなくなりません。約2/3の例の原因抗原とされます。
(赤筋(遅筋)はミオグロビンという赤色の色素蛋白質を多く含みます。これは筋肉に酸素を多く供給する働きがあるために持久力に富み、マグロやカツオなどのように長距離を泳ぎ続けることができます。その逆に白筋は普段はじっとしていて瞬発力に富むタイやヒラメ、カレイといった白身魚に多いです。)
またPAの含量は部位によって異なり、尾側より口側、背側より腹側で多いとされます。
コラーゲンもPAに次ぐ抗原とされます。患者の30%はこれに陽性とされます。コラーゲンを加熱して変性したものがゼラチンですが、PAと違って非水溶性ですので「水さらし」にしても抗原性はなくなりません。
また一部では上記以外のマイナー抗原が知られています。
これらの抗原は魚群間で交叉抗原性があることが知られています。ただ魚群と哺乳類のコラーゲンには交叉抗原性はみられません。
感作経路としては、食べてなる経腸管感作の他に、手荒れなどからくる経皮感作、魚市場などでの飛散による経気道感作などがあります。
診断、検査については特異的IgE抗体価や皮膚試験の抗原液がありますが、限られていてprick-to-prickが行われることもあります。ただこの場合はヒスタミン中毒の除外する必要性があります。
魚アレルギーが明らかになった場合にどのように対処するかについては専門家や管理栄養士の食事指導が必要になります。まず、低抗原性の魚出汁(かつお節、煮干しなど)の摂取を試み、大丈夫ならばマグロの缶詰(水煮)、さらにPA含有量の少ないマグロ、カツオなどの煮魚など摂取可能な魚種、量などを増やしていきます。
ただし、過去にアナフィラキシーを起こした例では原則摂取禁止です。
🔷ヒスタミン中毒
ヒスタミンが大量に蓄積した魚を食べたあとに生じるアレルギー様症状のことをいいます。ある種の腐敗菌などにより魚がもっているヒスチジンというアミノ酸が分解されてヒスタミンを生じます。魚肉100g当たり、ヒスタミンが100mg以上産生されると重篤な症状を呈するとされます。吐気、顔面紅潮、蕁麻疹などを生じます。これは魚アレルギーとは逆に赤身魚が多いとされます。塩干物、味醂干しなどの加工品に多いとされます。また25~40度で発生する菌と0~10度で発生する菌があり、冷蔵庫で長期保存した魚では注意が必要です。ヒスタミンは熱に安定性で加熱したものでも症状は誘発されます。
🔷アニサキスアレルギー
アニサキスとは回虫目アニサキス属に属する線虫の総称で魚介類に寄生する寄生虫です。最終宿主はイルカやクジラなどの海生哺乳類で、卵はオキアミなどから中間宿主の魚類やイカなどの内臓で成長します。生きたアニサキスを食すると激しい腹痛、吐気を伴い、腸アニサキス症では急性腹症として開腹手術を受けるケースもあります。
アニサキス症には胃アニサキス症、腸アニサキス症、消化管外アニサキス症があります。刺身や寿司などの生食を嗜好する我が国に特に多く、なかでもサバ(しめ鯖を含む)が最も重要な感染源となっています。対策としては魚介類の生食をしないこと、または60~70度で1分以上の加熱、もしくは-20度で24時間以上の冷凍が厚労省から推奨されています。
アニサキスアレルギーでは蕁麻疹、血管浮腫、アナフィラキシーといったIgE依存性のアレルギー反応を生じます。経口摂取後腹部症状が全くなく上記のようなアレルギー症状が出た場合はgastro-allergic anisakiasis(GAA)と呼ばれることもあります。発症なでの時間は1~2時間と短いものから数時間、半日たってから発症する場合もあります。診断は臨床症状とIgE抗体検査によって行われますが、特異度は必ずしも高くなく、ダニ、甲殻類などとの交叉過敏性があります。ほとんどが魚介類の生食後に生じますが、耐熱性の抗原もあり、調理し熱を加えたものでも発症するとされます。それゆえ食事指導に関しては魚類の完全除去から加熱なら可との様々な意見があります。
🔷甲殻類アレルギー
甲殻類アレルギーは食物アレルギー全体での頻度は7位ですが、成人に限ると小麦に次いで第2位であり、果物と共に3大アレルゲンとされます。その代表はエビ、カニです。
症状で最も多いのが蕁麻疹などの皮膚症状で、次いで口腔アレルギー症候群、呼吸器症状、腹部症状と続きます。また半数以上に2臓器以上の症状を呈する、いわゆるアナフィラキシー症状がみられるとのことです。
甲殻類アレルギーでは経口摂取だけでは発症せず、食後の運動や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)服用の組み合わせで誘発されることも多いです。甲殻類アレルギーの原因抗原(アレルゲンコンポーネント)として6種類の蛋白が知られています。海外ではトロポミオシンに対する陽性率は60%と高いとされていますが、本邦ではそれ程高くなく、それ以外の抗原が存在すると考えられて原因解明を検討中とのことです。またダニやゴキブリ、アニサキス、イカ、タコ、貝類などとの交叉反応を示すこともあるとのとのことで、甲殻類アレルギーの成立過程でのこれらの動物の関与が想定されています。
また空中の吸入感作や、手荒れ、飲食業の人の皮膚からの経皮感作の経路のケースも報告されています。
アレルギーへの対応としては、甲殻類では成人例が多く、免疫寛容は期待できないために除去食が基本です。また甲殻類は外食時には様々な料理に含まれていることが多いためにアナフィラキシー歴のある人はエピペンなどのアドレナリン自己注射の携帯が望ましいとされています。ただ将来的には舌下免疫療法やバイオ技術を用いた免疫療法が研究開発されようとしているそうです。

下記の文献から要約

知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma No.289/2019.11
中島 陽一 魚アレルギー pp50-54

濱田 祐斗 アニサキスアレルギー pp55-58

中村 陽一 甲殻類アレルギー pp59-66