見逃しやすい食物アレルギー

MB Dermaの特集号に「知らぬと見逃す食物アレルギー」という企画がありました。
その記事を中心に見逃しやすい食物アレルギーについて調べてみました。
🔷獣肉アレルギー・・・2000年初頭に米国でロッキー山紅斑熱を媒介するマダニがα-Galという糖鎖の特異的IgE抗体を産生し、これは獣肉(牛肉、羊、豚など)アレルギーの原因と同一であること、またこの成分を有しているセツキシマブという抗がん剤として用いられる抗体製剤にも含まれ、これらのアレルギー、アナフィラキシーが重なっていることが明らかになってきました。本邦においても島根大学の千貫らは、島根地方に好発するマダニが媒介する日本紅斑熱と獣肉アレルギーの好発地域が重なることに注目し、フタトゲチマダニの唾液腺を検索し、その中にα-galが存在することを証明しました。そして患者さんの多くは犬を飼っていました。すなわち散歩中に犬がマダニに咬まれ、さらに飼い主が犬からもらって咬まれ、マダニ、獣肉、セツキシマブアレルギーを呈するというストーリーが成り立ちます。この糖鎖抗原は血液型のB抗原と類似しているために抗体を作りにくく、血液型B型の人はこのアレルギーにはなりにくいそうです。また交叉反応のためにカレイ魚卵アレルギーも起こすそうです。
また、pork-cat syndromeという豚肉アレルギーがあります。この原因抗原は豚の血清アルブミン(Sus S)ですが、類似の構造を有するネコの血清アルブミン(Fel d 2)に経気道的に感作されたあと、豚血清に交叉反応しアレルギー症状を起こします。加熱不十分や燻製で出易いとされます。
これらに共通するのは、牛肉でも豚肉でも直接そのものの経口摂取して感作したものではなく、交叉反応によるものであるということです。牛肉ーマダニ、豚肉ーネコの関係を知らないと見過ごしてしまいます。
🔷食品添加物アレルギー・・・食物自体のアレルギーは比較的に原因が容易に推定できますが、添加物によるものではすぐには推定できず、診断が困難であることが多いです。その中で近年注目されているものを幾つかとりあげます。
➀コチニール色素
コチニールは中南米の主にペルーのサボテン科のベニコイチジクなどに寄生するエンジムシの雌の虫体から抽出された赤色色素です。多くの食品や、口紅、アイシャドーなどの化粧品に赤色着色の目的で使用されています。これによる、即時型アレルギー、アナフィラキシーの報告が時にみられます。多くの例は化粧をする成人女性にみられます。その原因抗原は、微量に含まれる虫体由来の夾雑タンパク質と考えられていますが、また主色素のカルミン酸(分子量492)がハプテンとして抗原となっているとのことです。以前はカンパリが原因の例が多かったそうですが合成色素に変更後は無くなり、近年は化粧品によるもの、イチゴ飲料、魚肉ソーセージ、マカロンによる例が散見されます。マカロンによる例は日本人特有で、欧米での報告は皆無とのことです。原田は、欧米人は子供の頃から高濃度のカルミンを経口摂取することで免疫学的寛容を獲得するが、その機会が少ない日本人女性が成人後に高濃度カルミンを含む化粧品によって経皮感作されるのではないかと推論しています。
なお、化粧品に感作されても半数以上はかぶれなどの局所症状を伴わない(症状の自覚がない)とされ、診断を困難にしています。
②エリスリトール
いわゆるカロリー0の甘味料で、健康飲料、ダイエット食品、和洋菓子に多く用いられる糖アルコールです。これを含んだ食品を飲んだり、食べたりした後に目の痒み、顔の浮腫、動悸、呼吸困難などのアナフィラキシー症状を呈するケースがあります。
その診断は非常に困難とのことです。その理由は、プリックテスト、スクラッチテストでも陽性反応が出ないこと、食品の表示義務が無いという事です。実際のエリスリトールによる誘発試験で初めて原因が特定できた例もあるとのことで、このような食品摂取後に症状がでる場合は検討が必要です。
(なお、エリスリトールはインフルエンザ治療薬タミフルにも含まれています。)
③ポリガンマグルタミン酸(PGA)
納豆菌が増殖する際に菌の乾燥を防ぐために分泌される高分子ポリペプチドで、菌が発酵する過程で産生される粘稠物質です。これはまたクラゲの毒針の触覚細胞中にも含まれているためにサーファーやダイバーなどのマリンスポーツ愛好家にクラゲ刺傷をきっかけにPGAアレルギーが発症し易いとされます。これは腸管内で消化分解されて低分子化して抗原性を発揮すると考えられています。それでアレルギー症状の発現までに8〜12時間かかり遅発性にアレルギー症状が発症するのが特徴的です。PGAは中華タレや缶コーヒー、ジャスミン茶などにも保存料、増粘料、旨味成分として含まれている場合がありますので注意が必要です。PGAアレルギーは蕁麻疹、呼吸困難が多く、意識消失や血圧低下などのアナフィラキシーショックをきたす場合も少なくないとされます。
④ペクチン
植物の細胞壁や中葉に含まれる複合多糖類で、増粘安定剤としてジャム、ゼリー、キャンディなどに含まれています。アナフィラキシーの報告例は少ないですが、多くはカシューナッツ、ピスタチオアレルギーの既往があり、交差反応で発症しています。
食品添加物の種類は数百種類と膨大でアレルギーの可能性物質も多岐に亘ります。
上記の他に従来から有名なものについて記します。
#抗酸化剤アレルギー・・・ワイン、ビール、調理食品に含まれる亜硝酸塩、重亜硝酸塩、バター、ガム、ソフトクリーム、魚介製品などに含まれるブチルハイドロキシアニソール、ブチルハイドロキシトルエン
#保存料アレルギー・・・パラベン、安息香酸ナトリウム、サリチル酸誘導体
#着色料アレルギー・・・チーズ、菓子類に含まれる黄色のアゾ色素であるタートラジン
アスピリン喘息がある際はこれら添加物にも過敏なことがあり注意が必要です。
食物アレルギー診療で最も大切なことは、症状をしっかり治療してできるだけ落ち着いた状態になってから原因検索にかかることだといいます。専門医の十分な臨床診断と、適切な検証によって制限される添加物は限定されたものになっていくとのことです。

参考文献

こどもとおとなの食物アレルギー診療 ◆編集企画◆ 千貫祐子 MB Derma 256:2017
原田 晋 食品添加物による食物アレルギー pp64-71

知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma 289:2019
千貫 祐子 獣肉アレルギー pp9-13

竹尾 直子 コチニールをはじめ香粧品の成分による経皮•経粘膜感作食物アレルギー pp31-39

井上 徳浩 食品添加物によるアレルギーを見逃さないために pp41-49