皮膚科の将来

このところ、皮膚科の講演でも印刷物でも皮膚科の将来のこと、大きなパラダイムシフトが起こっていくであろうことが語られています。
皮膚科に限らず医療、医学全体がいろいろなことで大きく変化していきつつあることは、日常のマスコミ報道、ネットなどでも話題になっており、いまさら取り上げる話題でもないのかもしれませんし、大体医療界全体のことなど小生などには分かりもしません。
そこで皮膚科の中で書かれたり、話されていることについて自分の耳目に入り理解できる範囲内で一言述べてみました。
当ブログでも時々触れていることですが、乾癬治療に生物学的製剤が導入されたのがつい2010年のことでしたが、あっという間に薬剤が増えて現在はなんと9剤もの多さになっています。選択肢が増えたのは患者さんにとって朗報でしょうが、こんなに多くて選択に迷ってしまわないかと余計な心配をしてしまいます。
乾癬だけではなく様々な分野で抗体製剤が登場してきました。アルギー分野(アトピー性皮膚炎、蕁麻疹)、自己免疫疾患、悪性腫瘍(メラノーマ、リンパ腫など)。皮膚科の中でも重要な疾患の多くの分野で新薬が登場し、旧来の考え方、治療指針が全く通用しなくなってきました。ある例えでは、鍛錬を積んだ武田古武士が、若輩の織田軍の鉄砲隊になす術もなく破れ去った故事がカートゥーンで示されていましたが、なる程そういう例えもありかなと思いました。10年、いや5年前の常識が通用しない程の目くるめくような速さの進歩です。とてもロートル医にはついていけません。仮に無理に背伸びしようと思っても使用医療施設基準に達せず使用できません。見たことも、触ったこともない薬剤など使える訳がありません。
正に時代遅れのロートル医になったと感じるこの頃です。
診断面においても、遺伝子診断が病気のジャンルさえ変える事態も起こってきています。腫瘍の診断でもダーモスコピーの登場は、診断方法を一変させました。病理診断も含め、以前は画像解析は機械は達人の眼力には及ばないと思われていたのが、AIの進歩は凄まじく、AIの診断力の方がベテラン医の診断力に(ある部分に限定でしょうが)打ち勝つことが実証されました。囲碁でも将棋でもAIの方が強いのは常識なので、医学の世界でもこれは何も驚くことでもないでしょう。
膨大なデータをコンピュータに覚えさせ、診断させれば下手な皮膚科専門医より的確に診断し、治療指針を示すことは明らかです。世の中では一部ながらテレダーマトロジーも実用化されつつあるようです。そして、これを制御、統括するものはビッグデータを処理できる5G,6Gを制するものになるのでしょうか。
やりようによっては、皮膚科専門医でなくても機械活用によって皮膚病が診断、治療できるようになる時代が来るかもしれません。うかうかしていると皮膚科お払い箱になりかねません。
このように皮膚科診療を取り巻く状況は大変革の予感がありますが、また一方でそれを支える医療財政への不安も警鐘が鳴らされています。高額な生物学的製剤は、医療保険でカバーされますが、その原資は国民の税金です。このまま医療費が増え続けると将来は国民皆保険が維持できるのでしょうか。それにこれらの薬剤を供給している製薬会社はほぼ一握りの欧米の会社です。高度な医療の恩恵は受けたいけれどお金は出て行く一方で悩ましいところです。何とか上手い仕組みを構築していく必要性があるでしょう。
それと将来は皮膚科医の7割が女性になるとの予想があるそうです。AI,遠隔診療など導入されるでしょうが、医育医療機関、地方の基幹病院などマンパワーは充足されるのでしょうか。
もう引退間際の老医があれこれと取り越し苦労をすることもないかもしれません。皮膚科の中核部分は大変革を遂げて進歩して行くのでしょうが、ネガティブな面ではなく、ポジティブな面をみていくべきなのかもしれません。ただもう若い世代の活躍、頑張りに期待するばかりです。
一開業医としては出来る範囲で患者さんに向きあっていきたいと思っている今日この頃です。