花粉-食物アレルギー症候群

食物アレルギーでは、年齢によって大きく変わってきますし、機序にもいくつかの特徴的なグループがあります。
すべてを網羅することはできませんが、食物アレルギーのうち、最近の話題になっているいくつかについて書いてみます。
🔷花粉ー食物アレルギー症候群(pollen-food allergy syndrome: PFAS)
1987年 Amlotらは口腔アレルギー症候群(oral allergy syndrome:OAS)という概念を提唱しました。特定の食物を食べた後に口腔内の痒みやピリピリ感、咽喉頭の閉塞感が出現し、重症例では引き続いて蕁麻疹や喘息、最重症例ではアナフィラキシーショックを呈する病態をとります。
1988年 Ortolaniらはシラカバ花粉症の多くにみられる野菜、果物摂取後にみられるOASを報告し、それが花粉抗原と野菜、果物などの交叉反応性によることを明らかにしました。OASは他のメカニズムでも生じることがあるために、近年は花粉と食物の交叉アレルギーによって生じるものに対してはメカニズムが類推できるPFASという名称が一般に使われるようになってきています。

【PFASの発症機序、抗原】
果物と花粉に共通する蛋白質が共通抗原となりその交叉反応によってアレルギー反応を発症します。
その蛋白質は主にPR-10(pathogenesis-related protein type 10)(感染特異的蛋白質 別名 Bet v I 関連蛋白)と プロフィリン(profilin)というプロテインファミリーに属する蛋白質です。PR-10は植物がウイルスや細菌やカビなどの感染から身を守るために誘導される蛋白質群です。これらは生物の生存に欠かせない構造や機能を司る蛋白質の一群であるために進化の過程でも広い種に保存されています。したがってひとたびこれらの蛋白質に感作されると、多くの植物に交叉過敏を生じる可能性が生じてきます。
【PFASの地域性】
花粉症が原因であるために地域差があります。ヨーロッパでは、北欧ではシラカバ花粉症が多く、約80%にバラ科などの果物OASを合併しますが、地中海側ではシラカバ飛散がないために、他の花粉によるPFASや経消化管感作など他の機序によるOASがみられます。日本でも地域差がみられますが、全体ではカバノキ科花粉感作で生じるバラ科果物のPFASが多くを占めています。ただ北海道ではシラカバが、関東以西ではハンノキ、オオバヤシャブシが知られています。
【交叉反応を示しうる食品】
◎シラカバ、ハンノキ、オオバヤシャブシ(樹木花粉)と交叉
バラ科・・・リンゴ、モモ、サクランボ、イチゴ、ナシ、ウメ、ビワ、アーモンド
マタタビ科・・・キウイ
セリ科・・・人参、セロリ、フェンネル、クミン、コリアンダー
ナス科・・・トマト、ジャガイモ
クルミ科・・・クルミ
マメ科・・・大豆(豆乳)、モヤシ
その他・・・ピーナッツ、ヘーゼルナッツ、ブラジルナッツ、ココナッツ
◎イネ科(カモガヤ、オオアワガエリ、マグサ)と交叉
ウリ科・・・メロン、スイカ
ナス科・・・トマト、ジャガイモ
◎キク科 ブタクサ属と交叉 
ウリ科、バショウ科(バナナ)
◎キク科 ヨモギ属と交叉
セリ科、 キウイ、ピーナッツ、スパイス、ニンジン、セロリ、ライチ
*◎パラゴムノキ属(ラッテクス)と交叉
バナナ、クリ、アボガド、キウイ、パイナップル、トマト、ジャガイモ
* ラテックス(ゴム)は花粉ではありませんが、バナナをはじめとしたいくつかのフルーツと交叉反応を起こし、アレルギー、アナフィラキシーを起こします。それでラテックスーフルーツ症候群とも呼ばれます。
【PFASの臨床症状】
原因食物摂取直後から1時間以内に口唇・舌・口腔粘膜・咽頭の痒みや刺激感、閉塞感を生じます。口唇や口腔粘膜の腫れ、水疱などを生じることもありますが、自覚症状のみで終わるケースのほうが圧倒的に多いです。
その理由は、アレルゲンエピトープの脆弱性によります。
花粉で感作された新鮮な果物、野菜が口腔粘膜に接触することによって局所性のⅠ型アレルギー反応が起きますが、食物は嚥下され消化管を通過し、消化され腸管粘膜で吸収されていきます。原因アレルゲンの多くは消化耐性、熱耐性が低く、消化の過程で抗原性を失っていきます。抗原は3次元的な高次構造に依存したエピトープであるために、消化されて、線状にばらばらにされると抗原として認識されなくなります。一方消化耐性の抗原では1次的な線状構造を認識することが多く、消化されても抗原性は保たれます。
しかしながら、一部では症状が局所にとどまらず、引き続いて鼻症状(くしゃみ、鼻汁、鼻閉)、眼症状(涙、結膜の充血や眼瞼の腫脹)、顔面全体のむくみ、全身の蕁麻疹へと発展する場合もあります。さらに重症になると消化管症状(腹痛、嘔気、嘔吐、下痢)、呼吸器症状(呼吸苦、喘息発作、喉頭浮腫)を伴い最重症型ではアナフィラキシーショックに陥る場合もあります。
特に豆乳アレルギーでは大量の新鮮抗原が一気に消化管に入りますので、アナフィラキシーに注意が必要とされます(大豆では陰性、Gly m 4陽性が多い)。またヨモギ花粉スパイス間の交叉反応も注意が必要とされます。モモはカバノキの花粉症との交叉反応を起こしえますが耐熱性の抗原のためにショックを起こしやすいとされ、注意が必要です。(その他小麦、甲殻類などと運動誘発性も危ないとされますがこれらはまた別項で述べます。)
【PFASの診断】
まず、患者さんから摂取してアレルギー症状がでる食物とその症状について問診します。例えばリンゴ、サクランボで口の中がかゆくなる、という主訴があれば、ではビワ、ナシ、モモ、イチゴはどうですか、とバラ科植物について聴いていきます。さらに交叉しやすいセリ科の人参、セロリナス科のトマト、ジャガイモ、スパイス類またマメ科のモヤシ、豆乳についても尋ねます。ついでに症状のでる食物の加工品、加熱したものでの症状を聴きます。そうして花粉症の有無について尋ねます。これで大よその全体像がつかめます。
これらの問診をしてもほんの1,2分しかかからないはずです。
検査としては、まずⅠ型(即時型)アレルギー血液検査があります。抗原特異的IgE抗体測定検査がありますが、果物や野菜では、その粗抗原の試薬にはPFASを起こすアレルゲンコンポーネントが少量しか含まれておらず偽陰性となることが多いです。近年はHevb 6.02やGly m 4などのコンポーネント特異的IgEが測定できるようになりましたが、測定項目はまだ一部に限られ、さらに保険で検査できる項目はごく一部に限られています。
それで現在では皮膚テストの有用性が勝っています。検査試薬は「トリイ」スクラッチエキスなどがありますが、新鮮な食物はas is(そのままの材料)をプリックランセットなどで直接刺し、それを前腕などの皮膚に垂直に刺します(プリックープリックテスト)。
15分後に現れた膨疹(蕁麻疹)の大きさで判定します。陰性コントロールを生食で、陽性コントロールをヒスタミン液で測定します。ヒスタミンの2倍を4+、同じ場合を3+、1/2を2+、それより小さいものを1+、生食と同じ大きさのものを-とし、2+以上を陽性とします。
プリックテスト陰性の場合はスクラッチテストが施行されることもあります。
さらに負荷試験(口含み試験など)も施行されますが、検査でアナフィラキシーを起こしうるので、専門病院でライン確保、救急の準備をするなど万全な体制の元に施行されるべきとされます。
【PFASの治療】
症状が軽ければ抗アレルギー剤、プレドニンなどの頓用でも事足りるケースもあります。しかし全身症状のでるケース、アナフィラキシーの既往のある患者さんには携帯アドレナリンキットであるエピペンを処方します(使用方法を説明し、できればビデオなど、同意を得たうえで処方)。
将来的には原因食物による減感作療法などが開発されるかもしれませんが、現時点では原因食品の経口摂取をさけることが基本になります。ただ、先にも述べたように新鮮な果物で症状が誘発されても、加熱、加工したものでは症状がでないこともあり、慎重に判断し許可することもあります。
重篤な症状を誘発しうる豆乳、スパイス類では厳格な除去が必要になります。

参考文献

猪又直子 花粉—食物アレルギー症候群 MB Derma, 289:1-8,2019.
知らぬと見逃す食物アレルギー ◆編集企画◆ 矢上晶子 MB Derma 2019年11月号 

足立厚子 花粉―食物アレルギー症候群 MB Derma, 256:56-63,2017
こどもとおとなの食物アレルギー診療 ◆編集企画◆ 千貫祐子 MB Derma 2017年4月号

最新!食物アレルギーの診断と治療 責任編集 栗原和幸 Visual Dermatology Vol.11 No.3 2012

2019年度日本皮膚科学会研修講習会
アレルギー診断検査の実際 猪又 直子 2020年1月12日