リベド様血管症

諸事情により、1ヶ月以上ブログから遠ざかっていたので、一連の血管炎の書いた内容も朧気になってきました。血管炎類似疾患は多岐に亘るのでもうそろそろこの項目から離れますが、最後にリベド様血管症、抗リン脂質抗体症候群(APS)について調べて書いてみます。
【歴史的背景】
1944年 O’learyらが下肢に皮斑があり、夏に足関節に反復する潰瘍ができる女性例を報告した。
1955年 Mayo ClinicのFeldakerらは上記の例も含めlivedo reticularis with summer ulcerationとして12人の女性例を報告した。
しかし、男性例もあり、夏に限らず出現する例もあることから翌年彼らはlivedo reticularis with ulcerationと病名を変更した。
1967年 Mayo ClinicのBardらはlivedo vasculitisという病名を提唱した。しかしその病理組織像では明らかな血管炎の所見は認められなかった。
1972年 Mayo ClinicのWinkelmannは本症のリベドは僞リベド(pseudolivedo)だとの理由でlivedoid vasculitis:segmental hyalinizing vasculitisの病名に変更した。
1998年 イタリアのPapiらは小血管の血管炎とは異なる病態であるとし、下肢にリベド、白色皮膚萎縮、疼痛を伴う紫斑、潰瘍の生じる疾患を総括してlivedo vasculopathyという疾患名を提唱した。
同年米国のJorizzolらはPapiの論文を論評しながらもLivedoid vasculopathyと病名変更した。
このように病名は変遷を経ていますが、2008年の日本皮膚科学会ガイドラインではlivedo vasculopathyという病名を用い、2017年のガイドラインではlivedoid vasculopathyという病名を用いています。
それに倣って本篇でもリベド様血管症(livedoid vasculopathy)として話を進めたいと思います。
【臨床所見】
若年から中年に多く、男女比は1:3と比較的若い女性に多く発症する傾向にあります。主に両下肢に生じる網状の皮斑で、しばしば有痛性の紫斑や虫食い状の潰瘍を生じ、白色星状の萎縮性瘢痕(atrophie blanche)を残す慢性の疾患です。瘢痕部には褐色から黒色の色素沈着を残すこともあります。ただ潰瘍、atrophie blancheは必須ではないとされます。
【病因・発症機序】
本態は血管内皮細胞の抗凝固能の低下に基づく血栓性疾患と考えられていますが、基礎疾患の見いだせない本態性と基礎疾患のある続発性に分ける考え方もあります。
本態性のものが本来のもので、日皮会ガイドラインでは続発性のものは鑑別疾患としてとりあげられています。
すなわち、続発性はSLE,SScなどの膠原病、原発性抗リン脂質抗体抗体症候群(APS)、Sneddon症候群、プロテインCやプロテインSの欠乏症、薬剤(ヒドロキシカルバミドなど)、血漿蛋白異常症(クリオグロブリン、クリオフィブリノーゲンなど)、慢性感染症(結核など)、糖尿病などに併発するものです。
ただし、病因に関し、様々な抗体や遺伝子変異の報告もみられ、将来的にはlivedoid vasculopathyは種々の原因からなる一つの症候群とされるかもしれないとのことです。
【病理組織所見】
真皮の小血管に血栓がみられ、明らかな血管炎所見はみられません。進行期になると血管壁の肥厚やヒアリン化がみられ、壁へのフィブリンの沈着がめだってきます。慢性期では真皮の線維化、瘢痕形成、表皮の萎縮がみられてきます。蛍光抗体直接法では早期にはフィブリンの沈着、後期には免疫グロブリンや補体の沈着がみられますが、染色パターンは均一、無構造でこれは血漿蛋白が二次的に取り込まれた血栓過程を表したもので直接病態に関与したものではないとされます。
【治療】
確立した治療法はありませんが、病態からして血行障害の改善を目的とした治療がなされます。
*抗血小板療法・・・少量のアスピリン、ジピリダモール、ペントキシフェリン、
*抗凝固療法・・・低分子ヘパリン、ワルファリン(INR 2~3)、リバーロキサバン
*血栓溶解薬・・・組織プラスミノーゲン活性化因子の静脈内投与
*血管拡張薬・・・ニフェジピン、プロスタグランディンE1
*蛋白同化ステロイドのダナゾール、スタノゾロール
*IVIG
*圧迫療法、高圧酸素療法、PUVA療法
*生活上の注意点・・・禁煙、下肢の安静、長時間の立位、座位を避ける、飲水量の見直し、経口避妊薬を避けるなど。
livedoid vasculopathyは生命予後はよいですが、罹病期間が長く、歩行困難、疼痛などを伴うためにQOLは低下します。また潰瘍から急速に悪化する例や疼痛のコントロールが困難な例もあるとのことです。そういった意味で皮膚科だけではなく、関連する診療科、訪問看護師、ソーシャルワーカーなどの医療連携チーム作りが重要とされます。

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

日本皮膚科学会 ガイドライン委員会
血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌 127(3),299-415, 2017(平成29)

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 中山書店 東京 2011
33. livedo vasculopathyの診断と皮膚症状 清島真理子 pp184
34. livedo vasculopathyの治療 清島真理子 pp189
35. livedo vasculopathyの臨床経過・予後 清島真理子 pp194