ループス血管炎

全身性エリテマトーデス(Systemic lupus erythematodus: SLE)は腎・心・関節・中枢神経など多臓器障害をきたし、若年の女性に好発する原因不明の自己免疫疾患です。皮膚粘膜症状としては頬部の蝶形紅斑、円盤状皮疹、口腔潰瘍、光線過敏、脱毛などをきたします。検査所見としては抗核抗体(anti-nuclear antibody: ANA)陽性、抗dsDNA抗体陽性、抗Sm抗体陽性、梅毒血清反応の生物学的疑陽性(biological false positive: BFP)、LE細胞陽性、汎血球減少、補体低下などをきたします。
(あたらしい皮膚科学 第3版 清水 宏 著 より)
SLE患者の11~36%に様々なタイプの血管炎を生じることがあり、ループス血管炎(lupus vasculitis: LV)と呼ばれています。
女性発症の頻度が高い(1:9)中にあって、LVの合併率は男性が女性よりも多く(約2.2倍)、特に若年性男性のSLE患者に多くみられます。病勢を反映し、疾患増悪時、再燃時など疾患の活動期に認められやすいです。侵される臓器は皮膚が最も多く、約9割にみられ、一方内臓臓器の血管炎は10~20%と頻度は少ないものの、重篤な症状を呈することが多く、SLEの予後を左右するとされます。
1)皮膚血管炎
下肢に生じることが多く、一部では上肢、顔面に生じます。異なるレベルの血管炎が混在しうるので、多彩な皮疹がみられます。真皮の壊死性静脈炎が最も多く、それを反映して隆起性紫斑、血水疱、浸潤性紅斑、蕁麻疹様紅斑、浅い潰瘍などがみられます。また真皮下層から皮下組織の筋性小動脈も侵されることがあり、この際は皮膚型結節性多発動脈炎様の皮疹、浸潤性紅斑、小結節、網状皮斑、潰瘍などを認めます。
網状皮斑は抗リン脂質抗体(antiphospholipid antibody: aPL)陽性患者で多くみられ、この場合は血管の閉塞(血栓)がみられ、血管炎様の変化をきたします。
なおSLEでも蕁麻疹様血管炎を生じますが、これはCHCC2012では別項目に分類されています。
2)内臓血管炎
SLEの活動期に生じることが多く、胸部大動脈から肺胞や糸球体の毛細血管まで中小の血管に血管炎が生じえます。特に多発性単神経炎が多くみられ(約20%)、感覚障害をきたします。内臓血管炎の主座は皮膚が小血管炎であるのに対し、中型の筋性動脈です。しかし病理組織で証明されることは少なく、またSLEの血管障害は1)動脈硬化性 2)血栓性 3)炎症性(血管炎を含む)に分類されていますが、臨床的にはこれらが互いに影響しながら複雑に混在し厳密に分類するのは困難とされます。
ループス血管炎は単一な疾患概念ではなく、SLE患者にみられる血管病変の総称ととらえられています。
病勢の悪化と共に生じることが多いので、ECLAM scoreなどを用いて病勢の評価を行います。一般的に活動性のある皮疹と関節症状を呈し、腎症状がありAPS(aPL陽性、弁膜症、血小板減少症)、クリオグロブリン血症を合併する場合はLVの頻度が高くなるとされます。またレイノー現象は血管炎の素地になり、多発神経炎による感覚低下、急激な腹痛、下痢などはLVを疑う兆候とされます。
《各臓器の症状》
・網膜の血管炎・・・視力障害
・多発性単神経炎・・・血管の血行障害による感覚麻痺
・中枢神経病変を伴うSLE(CNS lupus)・・・14~17%にみられ、精神症状、痙攣などを呈し、予後不良です。真の血管炎が証明される例は少なくリベド血管症(livedoid vasculitis現在はlivedoid vasculopathy)が考えられています。
・腸管の血管炎・・・回腸と大腸に多く、適切な処置がなされないと腸管壊死から穿孔に至り、死亡率は50%に上るとされます。
・ループス肺炎・・・肺胞領域の毛細血管炎による肺胞出血をきたします。
・稀な臓器血管炎・・・冠動脈、高安動脈炎、脳、膵臓、膀胱、尿道、肝臓、胆のう、子宮
・腎動脈・・・動脈のフィブリノイド変性や壊死
《治療法》
血管炎に対する特異的な治療法はありません。SLEの活動性に見合った総合的な治療法に準じます。
副腎皮質ステロイド内服が治療の中心となります。これでコントロールされない内臓病変などではさらにステロイドパルス療法、IVCY、シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル、タクロリムス、ミゾリビン、アザチオプリンなどとの併用療法が施行されます。ヒドロキシクロロキンは皮膚症状の特に蕁麻疹様血管炎に有効であり、最近では抗CD20療法、生物学的製剤ベリムマブ(抗BLySモノクローナル抗体)、B細胞をターゲットとした新薬も試みられています。
皮膚潰瘍、指尖梗塞に対してはステロイドのほかに抗血小板薬、抗凝固療法アロプロスタジル、アルガトロバンなどの点滴、またaPL陽性など血栓形成傾向の強い患者にはアスピリン内服、ワルファリンの投与がなされています。2013年には抗凝固活性のモニタリング調節が不要な抗凝固薬non-vitamin K antagonist oral anticoagulants, new oral anticoagulant(NOAC):抗トロンビン薬、抗Xa薬が発売されました。

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

日本皮膚科学会ガイドライン
血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

基礎から固める血管炎 編集企画 石黒直子 
長谷川 稔 全身性疾患関連血管炎を基礎から固める MB Derma,287:64-69,2019