下肢静脈瘤治療ーUp-to-Date

先日、下肢静脈瘤治療の講演がありました。
ずっと血管炎のことを書いてきて、静脈瘤は一寸そこからはずれますが、下肢の脈管異常という観点からみれば、むしろこちらの方が、メインです。講演内容の骨子をまとめてみました。
講師は千葉静脈瘤クリニックの河瀬 勇 先生でした。
【成因】
下肢静脈瘤とは、立った時に下肢の静脈の血管が瘤のように浮き出ている状態のことをいいます。
心臓の帰り道である静脈内の血液は、立った状態の場合は重力に逆らって下から上へと戻っていかなければなりません。そのために重要な働きをするのが、ふくらはぎの筋肉です。これが、収縮することによってポンプのように血液を送り出しています。それで第2の心臓ともいわれます。
さらに、脚の静脈には多くの逆流防止弁がついており、血液が下方向へ逆流しないような仕組みになっています。この逆流防止弁が壊れてきちんと閉じなくなり血液が逆流してしまうことが静脈瘤の原因になります。
血液が逆流すると、血液が徐々に溜まり、滞ってくるために静脈は太くなっていき、瘤のような外観を呈するようになります。
さらに、進行すると、脚のむくみ、重たさ、疲れやすさ、こむら返り(足がつる)、痛みなどの症状が出てきます。さらに進行すると皮膚炎(湿疹)ができたり、色素沈着、ついには皮膚潰瘍などをおこすようになっていきます。
静脈瘤そのものは良性の病気ですが、症状がでて、日常生活に差支えがでてくるようになると治療の対象になります。
【なり易い要因】
・女性(男性の3倍)・・・妊娠や出産など脚の静脈に負担がかかる要因がある。
・長時間立ち仕事をする人・・・調理師、美容師、販売員など
・長時間デスクワークの人や膝・腰などが悪く1日中座りっぱなしの人
・遺伝性・・・親、兄弟に静脈瘤があるなど
【種類】
CEAP分類というものがあって、臨床・病因・解剖・病理的な側面から分類されています。臨床的には重症度を軽いほうからC1~C6まで分けています。C1はクモの巣状あるいは網目状で C6は活動性潰瘍のあるものです。
一般的には臨床的に4つのタイプに分けられています。軽いほうから
・蜘蛛の巣状静脈瘤・・・赤く細い血管がクモの巣状に皮膚に拡がったのもで、伏在型にはなることはありません。
・網目状静脈瘤・・・青く細い血管が蛇行してみえます。
・側枝型静脈瘤・・・伏在静脈から枝分かれした、やや細め(2~3mm)の血管が浮き出てこぶ状になったものです。
・伏在型静脈瘤・・・脚の付け根の静脈弁が壊れてできた大伏在静脈瘤と、膝裏の弁が壊れてふくらはぎに症状が現れる小伏在静脈瘤にわけられます。いずれも直径4mm以上に太くなり手術の対象となってきます。
【検査】
・トレンデレンブルグ検査
・ドップラー聴診
・エコー(超音波)・・・現在の主流です。脚にゼリーを塗ってプローブを当てて血栓の有無や逆流を確認します。
・CT・MRI
【治療】
・圧迫療法・・・弾性ストッキングによる圧迫が代表的です。症状の改善や進行予防に役立ちますが、それのみでは治癒しません。
・硬化療法・・・静脈瘤に硬化剤を注射し、その後弾性ストッキングや弾性包帯を巻き、静脈瘤をつぶす方法です。外来で数10分程度で簡便な方法ですが、進行したものでは再発してしまいやすい欠点があります。
・手術療法
1)高位結紮術・・・脚の付け根を数cm切開して、逆流をおこしている静脈を糸でしばって切離する手術です。しかし再発が多かったり、創合併症、血管損傷などの副作用の可能性もあり徐々に施行例が少なくなっているそうです。
2)ストリッピング手術・・・脚の弁不全がおきた静脈の中に細い針金(ワイヤー)を挿入して静脈と糸で結び、針金ごと静脈を抜き取る手術です。切開する場所が多く、麻酔のために入院が必要な場合が多いなど大変ですが、再発率が低く、かつてはこの治療法が主流でした。
・血管内治療
1)血管内焼灼術(endovenous thermal ablation: ETA)・・・静脈を内側から焼いて塞いでしまうレーザーファイバーや高周波カテーテルによる治療です。
2011年から本邦でも保険適応になり、急速に普及してきて、現在では70%以上がこの治療が施行されているそうです。
・レーザー(endovenous laser ablation: EVLA)
・高周波(ラジオ波)(radiofrequency ablation: RFA)
・Steam Vein Sclerosis
・マイクロ波
ETAでは熱焼灼による痛みに対して、麻酔(主に低濃度大量局所浸潤麻酔(tumescent local anesthesia: TLA))が必要です。そのために次のNTNTも開発されてきています。
EVLAの種類
2010年 認可 2011年保険適用 980nm 半導体レーザー Cerelas D 980nm Diode laser(ELVeSレーザー980)
ヘモグロビンに特異的に吸収され、術後の疼痛、皮下出血、再疎通などが少なくなかった。それを改善するため水に吸収される
2014年 ELVeSレーザー1470. Radial 2 ring fiber 認可
2015年 LSO 1470レーザー 認可
2016年 FOXレーザー 認可
2018 細径光ファイバー 認可
RFA
欧米では広く普及しています。我が国では2014年に保険適用になるなどごく最近の使用となっています。焼灼は連続的ではなく、1か所を20秒ずつ焼灼しながら、分節的に牽引して行われます。

従来伏在型静脈瘤に対する治療はストリッピング手術や高位結紮術が行われてきましたが、皮下出血、神経障害、術後疼痛、創感染などの合併症が多くみられました。それに代わる治療法がETAです。現在保険認可されているEVLA用レーザー機器は4種類です。超音波ガイド下に穿刺して、TLA麻酔を行いながら罹患静脈の焼灼を行うのが一般的です。ファイバーの牽引速度は静脈の径、厚さ、血液の有無で変わるそうです。術後は皮下出血・血腫の予防、血栓合併症の予防などの目的で弾性包帯、ストッキングなどによる圧迫療法が行われます。
【ETAの禁忌】
《禁忌》
・急性期深部静脈血栓症(DVT)
・急性期表在静脈血栓症(SVT)
・歩行困難
・妊娠あるいは授乳中
・全身状態不良(多臓器障害、DIC、ショック、前ショック状態など)
《慎重適応》
・DVTの既往
・若年者、多発性あるいは再発を繰り返すSVT
・先天性血栓性素因(高ホモシステイン血症、アンチトロンビン欠乏症、プロテインC欠乏症、プロテインS欠乏症、プラスミノーゲン異常症等)
・後天性血栓性素因(膠原病、悪性腫瘍、薬剤、ネフローゼ症候群、炎症性腸疾患、骨髄増殖性疾患、多血症、抗リン脂質抗体症候群等)
これらはETAは施行可能であるが、治療法の何らかの変更あるいは他の治療法が可能かを検討し、患者本人に十分な説明を行って承諾を得る必要がある。
薬剤・・・経口避妊薬(ピル)、エストロゲン製剤、ステロイド剤、骨粗鬆症治療薬(ラロキシフェン、バゼドキシフェン)、抗精神病薬など
*局所麻酔下の日帰り手術で早期歩行することによって、術後の深部静脈血栓症のリスクをへらすことができるとされます。

2)非焼灼非浸潤麻酔治療(non-thermal non-tumescent: NTNT)・・・以前からフォーム硬化療法やカテーテルを用いた硬化療法が行われていましたが、最近n-ブチルシアノアクリレート(NBCA)という医療用接着剤を用いた血管内治療が試みられるようになりました(Vena Seal)。一種の糊(glue)、アロンアルファのような瞬間接着剤を用いた治療法でグルー治療とも呼ばれます。レーザー器機も浸潤麻酔も要らない画期的な治療法として脚光を浴びています。良好な治療成績が報告されていますが、糊は異物であり、アレルギー(アナフィラキシー、アレルギー性接触皮膚炎)などの可能性もあり、この治療法についての長期的な評価は将来の検討課題とのことです。
・本幹硬化療法
・mechanochemical ablation(MOCA)
・NBCA(グルー)治療

当日河瀬先生は血管内焼灼術の豊富な自験例を元に、日本静脈学会のガイドラインに沿って分かり易く解説して下さいました。また実際の施術のビデオも見せていただき、より実地に近く理解できました。先生のホームページにも詳しい解説があるので参考にされるとよいかと思います。(そういう意味では敢えて耳学問のこのブログ記事は必要ではないのかもしれませんが)

現在の下肢静脈瘤の治療は2011年の血管内焼灼術の保険適用以降、従来の手術療法にかわりパラダイムシフトとも呼ばれるほどの治療の変革をきたしました。
しかしながら全てETAの適応になるわけではなく、あくまで症状があり、日常生活に不便のある下肢静脈瘤でしかも大小伏在静脈、副伏在静脈のケースで治療禁忌のない例に適用するとされています。
日本静脈学会は「下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン2019」を作成していますが、その最後に一般の方向けのまとめという項目も設けてあり、解り易く解説してあります。情報の必要な方は参考にされるとよいかと思われます。

下肢静脈瘤については当ブログにも過去に取り上げています。
2014.1.18から数回に亘って
こちらも参考にしてみて下さい。

参考文献

下肢静脈瘤に対する血管内焼灼術のガイドライン 2019 日本静脈学会

創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン5: 下腿潰瘍・下肢静脈瘤診療ガイドライン 日本皮膚科学会ガイドライン
日皮会誌:127(10),2239-2259,2017(平成29)

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