バージャー病、閉塞性動脈硬化症

閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans: ASO)は主に下肢主幹血管の動脈硬化による狭窄閉塞で末梢への血流が減少し、虚血症状を示します。50歳以上の男性に多く、高血圧、脂質異常、糖尿病など動脈硬化などが発症の危険因子となり、全身特に脳心血管の動脈硬化性疾患を伴いやすいです。
それに対してBuerger病(バージャー病、閉塞性血栓血管炎; thromboangiitis obliterans: TAO)は四肢末梢の中型動脈が分節的に閉塞する血管全層炎であり、小動脈のみならず皮下静脈にも病変がみられ、30~40歳代の男性若年層に好発します。
特徴的なのはそのほとんどが喫煙者であることです。中近東、トルコ、アジア、本邦に多く、近年は特定のHLA、歯周病などとの強い関連性が指摘されています。
しかしながら、喫煙者(ヘビースモーカー)の減少もあり近年TAOの新規発症の減少し、逆に女性患者の増加、非喫煙者例もあり、学会、ガイドラインによってはASOとTSOを一括りにしてPAD(peripheral aarterial disease)として扱っているものもあります。

バージャー病は真の血管炎ではなく、チャペルヒル2012(CHCC2012)でも取り上げられていませんが、血管炎症候群のガイドラインには入っていますので、まとめてみました。

以下は主に「血管炎症候群に診療ガイドライン Ⅳ.バージャー病」に沿って記載します。

【疫学】
本邦では人口10万人に4~5人の発症頻度でしたが、1970年代後半より急速に減少してき、2014年の特定疾患受給者数は約7000人です。喫煙歴のある20~40代の青壮年に好発し、男女比は9:1です。ただ近年は女性患者数の増加傾向がみられ、また患者の高齢化がみられます。先にも触れましたが、近年は本疾患の減少と動脈硬化性疾患の増加により、アジア、トルコなどでの国々でも閉塞性動脈疾患の入院患者数はASOが多く、TAOはごくわずかとなっているようです。
【発症機序】
喫煙との関連性が特徴で、患者の93%が喫煙歴を有しているそうです。また病勢もそれと相関し、禁煙によって症状は軽快しますし、再開すると再び悪化することが知られています。喫煙によって血管攣縮や血液凝固能亢進をきたし、血管の閉塞、虚血をきたすとされています。
それをベースとして、感染、栄養障害、、寒冷、自己免疫などの要因が加味されて発症すると考えられています。
また近年は歯周病菌の一種であるTreponema denticolaが高頻度に検出され、喫煙があいまって発症へ導く病態が呈示されています。
【病理所見】
ASOとの区別がつかないとの説もありましたが、近年はTAOに特徴的な組織像として何点か挙げられています。ただこれらが必須、特異的というわけでもなさそうです。
・急性期に血管壁にみられる微小膿瘍と多核巨細胞
・内弾性板が圧排されずに屈曲が保たれ、過屈曲も認められる。
・中膜の線維化を欠く外膜の線維化
・外弾性板直下の浮腫
・再疎通血管の内皮細胞の玉ねぎ様の重層化
・血管栄養血管の内皮細胞の肥厚
・内弾性板に密着したマクロファージ・リンパ球の浸潤・・・TAOに特異的だが、全てにみられるわけではない。
TAOでは内弾性板が圧排されずに保たれており、逆にASOや血栓症では、粥腫や血栓によって肥厚した内膜が内弾性板を圧排する所見が目立って認められます。
【症状】
はじめに主に下肢末梢の中足骨動脈、弓状動脈、ついで下腿3動脈に病変が波及します。そのため初期には足趾冷感、しびれ、皮膚の色調変化、疼痛、足底筋跛行などを生じます。その後には間歇性跛行症を脚部に生じることが多いです。色調は赤紫色を帯びますが、虚血期間が長くなればチアノーゼを生じます。さらには安静時疼痛も生じるようになります。虚血の結果として潰瘍・壊疽を生じますが、足趾、特に爪周囲に生じることが多いです。このような症状は手指・上肢にも生じますが一般的に症状は下肢と比べて軽度です。また稀ではありますが、内臓、脳、心臓、腎臓などの動脈病変の報告があります。この際はTAO以外の動脈疾患を除外診断しておくことが重要です。
TAOはASOと異なり、四肢の表在静脈に、再発性かつ移動性の血栓性静脈炎を生じます。局所に索状の発赤・硬結を生じます。
【検査法】
視診では表在静脈に沿う紅斑・色素沈着など、皮膚の色調変化をみる。
聴診では狭窄性雑音の有無を調べる。
触診では皮膚温度の低下、末梢動脈の拍動減弱や消失を調べる。
機能的診断法には血圧測定、皮膚灌流圧、皮膚酸素動態、皮膚温、皮膚血流量、筋酸素量、血流量などを調べる。特に足関節上腕血圧比(ankle brachial index: ABI)は簡便で重要な検査です。ABI 0.9以下はASOを疑う所見となります。
形態的診断法としては、MRA,造影3D-CT、血管造影などがあります。
血液学的検査ではTAOに特異的なものはなく、赤沈値、CRPなどの炎症所見も通常は正常です。各種免疫マーカーも陰性です。
【血管画像所見】
・下肢では膝関節より末梢に、上肢では肘関節より末梢に病変がみられます。
・ASOでみられる虫食い像、石灰沈着などの動脈硬化性の壁不整はなく、壁は平滑です。
・閉塞様式は、途絶型、先細り型が多いです。
・コルクの栓抜き状、樹根状、橋状などの側副血行路の発達を示す所見がみられます。
・蛇腹状の所見は壁が柔らかく血管攣縮を起こしやすいことを示します。
・全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、血管ベーチェット病などの膠原病の血管所見は時に鑑別が困難です。その他の所見など総合的に判断します。
【診断】
各種診断基準が提唱されています。塩野谷の臨床診断基準は明確で実用的ですが、合致しない症例もあります。この際でも画像診断、病理組織像がTAOに合致し、除外診断で他疾患が除外できればTAOと診断します。
《塩野谷のバージャー病臨床診断基準》
(1)50歳未満の発症
(2)喫煙歴を有する(受動喫煙も含む)
(3)膝窩動脈以下の閉塞がある
(4)上肢の動脈閉塞がある、または遊走性静脈炎の既往がある
(5)喫煙以外に動脈硬化の危険因子を有さない
【治療】
まず生活指導として、ASO, TAOともに、禁煙指導、患肢保護保温、継続した運動療法、フットケアを行います。特にTAOにおいては、禁煙は受動喫煙も含めて重要で、禁煙を続けた患者は大多数が肢切断を免れていますが、喫煙を続けた約半数は切断に至っています。
《薬物療法》
経口抗血小板薬
シロスタゾール(プレタール)、ベラプロスト(PGI2誘導体;ドルナー、プロサイリン)、サルポグレラート(アンプラーグ)、リマプロストアルファデクス(PDE1誘導体;オパルモン、プロレナール)、チクロピジン(パナルジン)、クロピドグレル(プラビックス)
注射薬
アルプロスタジル(リポPGE1; パルクス、リプル)、アルプロスタジルアルファデクス(PGE1; プロスタンディン)
静脈注射ないしは動脈注射
《運動療法》
間歇性跛行に対して推奨されます。通常トレッドミルで、傾斜12%、速度2.4㎞で行い、痛みが中等度になったら5分休みを繰り返します。1日30分から1時間週3回行います。
《疼痛管理》
フェンタニルのテープ剤、入院ならば持続硬膜外麻酔を行います。切除範囲が少なければ、足趾切断も考慮されます。
《外科治療》
血行再建術・・・薬物療法などの保存的な治療法が奏功しない場合に施行されます。しかしながらTAOではグラフトとなる血管、静脈が炎症のためにすでに傷んでいることがままあり、また術後の開存率もASOと比較して低いとされます。しかしながらASOと比較してTAOは末梢血管の閉塞が多く、閉塞した場合も大切断に至ることは少ないとされます。
《交感神経節切除》
血行再建が不可能な疼痛を伴う足趾、手指に限局した虚血性潰瘍に施行されます。
上肢では、星状神経節の下3分の1と第2,3胸部交感神経節を切除し、下肢では第2,3腰部神経節を切除します。
《予後》
TAOの生命予後は若年発症ということもあり、従来は良好とされてきました。しかし患者の高齢化が進んだ現在、高血圧、脂質異常、糖尿病などの合併例も増え、重症虚血化する例も増え、生命予後についても今後さらなる統計が必要とのことです。
TAOの肢切断率は約10%とされますが、末梢の足趾切断は20%にみられるとのことです。

【PAD, ASO,TAO,CLIの関係について】
主にTAOについて、一部ASOについて記述しましたが、末梢動脈疾患(peripheral arterial disease: PAD)という概念があり、末梢動脈とは心血管、脳血管を除くすべての動脈を指し示しますが、一般的には手足、四肢の動脈の疾患を意味しています。これにはASO,TAOが含まれますが、TAOの症例の減少もあり、PADはこの両者を包括した概念でASOとほぼ同義語とされることも多いそうです。重症虚血肢(critical limb ischemia: CLI)とはPADの徴候の1つであり、典型的な慢性虚血性安静時疼痛や潰瘍・壊疽などの虚血性病変を指します。CLIにより下肢切断に至った場合の5年生存率は40%をきり、肺癌患者の予後よりも悪いとされ、CLIが重要な意味合いを持つようになってきています。

血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版) Ⅳ.バージャー病 より 抜粋 まとめ

参考文献

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著 医学書院 東京 2013

皮膚疾患 最新の治療 2019-2020 編集 古川福美・佐伯秀久 南江堂 東京 2019
池田高治 Buerger病、閉塞性動脈硬化症 pp73

下腿潰瘍・足趾壊疽 皮膚科医の関わり方 責任編集 沢田泰之 Visual Dermatology Vol.9 No.9 2010

過去に書いた当ブログの記事も参考にして下さい。

2014.3.6 動脈硬化・重症虚血肢(1)
2014.3.9 動脈硬化・重症虚血肢(2)
2014.3.15 動脈硬化・重症虚血肢(3)
2015.2.9 足趾の潰瘍・壊死