感染性血管炎

感染性血管炎とは、感染が発症原因として強く考えられる血管炎の総称です。
ただ、多くの血管炎に細菌、ウイルスなどがきっかけになっていることは常に報告されてきたところです。
その発症には感染病原体の直接の作用とIC,ANCAなどの免疫の作用なども考えられており、また明確にそれを証明できない場合もあり、それゆえに感染性血管炎の定義、範疇もあいまいではあります。
【病因】
従来、細菌、ウイルス、真菌、リケッチャなど多くの感染病原体が血管炎の発症に関与すると報告されてきました。中でも細菌、ウイルスは多くみられます。これらは血管内皮細胞に直接作用して血管炎を起こす場合と、ICやANCAの産生を介して間接的に血管炎を起こす場合があります。
1)血管内皮細胞への直接作用
病原体が直接血管内皮細胞を刺激してサイトカイン、接着因子を発現し、白血球を活性化し血管炎へと進展していく、という考えです。
一方で、病原体が内皮細胞を直接傷害、破壊して抗凝固・抗血栓機能を低下させ、出血・血栓、播種性血管内凝固症候群(Disseminated intravascular coagulation syndrome: DIC)などを生じる場合があります。この際は組織的には血管炎は認めないので「血管炎類似疾患」に分類され真の血管炎とは区別されます。また病態、治療法も大きく異なってきます。電撃性紫斑、敗血症性血管症、感染性心内膜炎、DICなど重篤な経過を辿る場合が多くあります。
2)血管内皮細胞への間接的作用
以下のような機序が関与するとされます。
・IC形成によるⅢ型アレルギー炎症
・ANCAの誘導とそれに続くサイトカインカスケード
・血管壁細胞成分と交叉する抗体(AECAなど)産生による血管傷害
・細胞由来のスーパー抗原によるT細胞刺激
・CD4+T細胞とマクロファージの活性化、肉芽腫形成
【代表的な病態、病因】
🔷HSPと溶連菌感染
HSP(ヘノッホ・シェーンライン紫斑、IgA血管炎)では急性上気道炎の先行や病巣感染(慢性扁桃炎、副鼻腔炎、根尖性歯周囲炎など)がみられることが多く、就中A群β溶連菌は咽頭培養で小児のHPSの約半数に証明され、ASOの上昇も2-3割にみられます。しかしながら近年はその割合は低下傾向にあり、溶連菌以外の細菌、ウイルスの関与する例が増えてきています。また成人では溶連菌の関与は小児より少ない傾向にあります。ウイルス感染症のなかにあって近年ヒトパルボウイルスB19感染症(リンゴ病の」病原ウイルス)の血管炎への関与が注目されています。
🔷皮膚白血球破砕性血管炎
その病因には特発性(本態性)、薬剤性もありますが、感染症の関与もあります。HSPと同様に種々の細菌、ウイルスの関与するとの報告がみられますが、HSPと異なるのは前者がDIFでIgAがみられるのに対して後者ではIgG,IgMが認められることです。いずれもICの関与するⅢ型アレルギーによるとされます。
🔷蕁麻疹様血管炎
B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、溶連菌、ピロリ菌などの関与するとの報告もあります。しかしこれらが蕁麻疹様血管炎を起こすことは少数でむしろ蕁麻疹そのもの、あるいは蕁麻疹様紅斑の原因となることが多いようです。
🔷感染性心内膜炎
歯科処置、中心静脈カテーテル留置、その他のカテーテル等の治療処置によって菌血症が発症し、病原菌が心内膜、弁膜に付着、繁殖し全身の感染症、心不全、血管塞栓を生じる疾患です。急性ではブドウ球菌、亜急性では口腔内弱毒菌、カンジダ菌などが多いです。
臨床症状ではOsler結節、Janeway斑が特徴的とされます。急性型では10%、亜急性型では20~50%にみられるとされます。この両者は手足に生じる1-5㎜の紅斑、紫斑ですがその違いは疼痛の有無とされます。病態は同様とされ、血管閉塞や免疫反応の程度の違いによるとされます。組織的には血管炎がみられる場合と、小膿瘍・塞栓がみられる場合があります。
🔷クリオグロブリン血症性紫斑
混合型(Ⅱ型、Ⅲ型)クリオグロブリン血症では本態性と続発性があります。続発性には感染症、膠原病、悪性腫瘍、その他炎症性疾患によるものがあります。近年クリオグロブリンの形成にはHCVが中心的な役割を担っていることが明らかになってきました。クリオグロブリン陽性例の80%以上に抗HCV抗体が陽性であり、特にⅡ型CGにその傾向が顕著です。
🔷ANCA関連血管炎
しばしば感染症を契機に発症します。多発血管炎性肉芽腫症(Wegener’s)では約半数で黄色ブドウ球菌感染の先行が認められ、MPO-ANCA関連血管炎では感冒症状が先行する例が60%にみられます。また好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss)では寄生虫や細菌などの感染症が大きな要因となっています。これらの病原菌が発症にどのように関与しているかは明確な結論は得られていません。炎症性サイトカインTNF-a,IL-1などの産生が促進され、その刺激でANCAが細胞表面に引き寄せられ、抗原分子と結合し免疫反応が進行していくモデルが推測されています。
🔷結節性多発動脈炎(PAN)
欧米では1980年代にPAN患者の約半数にB型肝炎感染が証明されたことから、病因に強い因果関係が考えられました。しかし輸血による例の減少やワクチン接種などにより、HBV陽性率は著減しました。本邦ではもともとHBVの関与する例は少数でした。近年はむしろHCVの関与する例が増加してきています。
感染性血管炎では非感染性の場合と異なり、ステロイド療法の適用について慎重が判断が必要となります。感染症をコントロールしながらステロイド剤、免疫抑制剤などの治療となり、肝炎専門医による治療を要します。
🔷HIV感染症
HIV感染はあらゆるサイズの血管炎の発症に関与します。多くはCD4細胞が300/μL以上の時期に出現するとされます。肝炎ウイルス以外にサイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスなどによる血管炎もみられます。
🔷結節性血管炎(Bazin硬結性紅斑)
両側下腿に硬結を伴う暗赤色紅斑が多発し、しばしば潰瘍化する慢性炎症性疾患です。20~50歳の女性に多くみられます。しばしば臓器結核を伴うこと、病理組織像は結核にみられる乾酪壊死をともなった多核巨細胞性類上皮肉芽腫がみられ病因に結核が強く考えられています。しかし結核と関連のない症例もあり欧米では結節性血管炎の呼称が用いられています。
しかし本邦ではBazin硬結性紅斑の呼称が一般的です。結核に伴った例(結核疹)がほとんどで、非結核性と診断しても後に活動性結核をみた報告もあり、慎重な取り扱いが必要です。
【治療】
通常の全身性血管炎に対してはステロイド療法や免疫抑制剤による治療がなされますが、感染性血管炎では当然のことながら感染症に対する治療も必要になります。血管炎の活動性が高い場合や重篤な臓器障害を認める場合は感染症のみの治療ではなく、ステロイド、免疫抑制剤の併用も必要となってきますので両者に対する専門的な高度な治療を要します。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 著  医学書院 東京 2013  より 抜粋 まとめ