大型血管炎

Chapel-Hill分類1994、2012による血管炎の分類では、血管炎を血管の大きさから、大血管、中血管、小血管に大きく分けました。CHCC2012では、これに加えてさらに4つのカテゴリーが追加されました。
・多様な血管を侵す血管炎・・・ベーチェット病、 Cogan症候群
・単一臓器血管炎・・・皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎、原発性中枢神経系血管炎、限局性動脈炎、その他
・全身性疾患関連血管炎・・・ループス血管炎、リウマトイド血管炎、サルコイド血管炎、その他
・推定病因を有する血管炎・・・C型肝炎ウイルス関連クリオグロブリン血症性血管炎、B型肝炎ウイルス関連血管炎、梅毒関連大動脈炎、薬剤関連免疫複合体血管炎、薬剤関連ANCA関連血管炎、がん関連血管炎、その他
これらのうち、中小血管炎、さらにベーチェット病、皮膚白血球破砕性血管炎、皮膚動脈炎についてはすでに書きました。
その他の血管炎についてはひとまずおいて、大型血管炎について書いてみたいと思います。

大型血管炎はCHCC2012では高安動脈炎と、巨細胞動脈炎の2つが挙げられています。その分類からみる大型血管炎はこの2つだけのように思われますが、実際にはその他の多くの疾患が大動脈炎を起こします。
細菌性大動脈炎、結核性大動脈炎、真菌性大動脈炎、梅毒性大動脈炎、ベーチェット病、再発性多発軟骨炎、膠原病及びその類縁疾患などです。従ってこれらを勘案して十分に鑑別することが求められます。
さらに、本邦の「血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)」においては、大型血管炎のなかにバージャー病も取り上げています。バージャー病、閉塞性動脈硬化症については、別項で後日取り上げてみたいと思います。

側頭動脈炎(巨細胞動脈炎)は本邦では稀で、高安病は本邦で特有なものの、世界的には希少でまず皮膚科では扱われません。希少ながら重要なこの2疾患について血管炎ガイドラインから要約してみます。

🔷巨細胞動脈炎(Giant cell arteritis: GCA) [側頭動脈炎(Temporal arteritis: TA)]
1890年HunchingtonらがTAの症例を報告したのに始まります。
1932年にHortonらが頭痛、視力障害などの臨床像と側頭動脈の炎症という病理学的特徴を発表し、TAの概念が確立しました。
1941年にGilmoreが組織所見で巨細胞を含む肉芽腫性炎症をみることからGCAのの名称を提唱し、次第にその概念が確立しました。
この疾患は活動期に巨細胞性肉芽腫性炎症を認め、側頭動脈を含めた頸動脈や椎骨動脈の枝が高頻度に障害を受けます。しかし、その後、必ずしも側頭動脈が障害を受けるわけではなく、他の血管炎でも側頭動脈を障害することもあることから、TAという名称は不適切として、CHCC2012ではGCAという名称に統一されました。
GCAは希少疾患で本邦では厚労省の調査で患者数690人(人口10万対0.65人)です。アジア人に少なく、欧米白人に多く、特に北欧に多いとされます。
【病因】
不明ですが、一部に感染抗原としてマイコプラスマや、パルボウイルスB19,パラインフルエンザ、などが想定されています。
またHLA-B, HLA-DRB1*04遺伝子との関連も欧米では指摘されています。これらが関与して、浅側頭動脈の血管壁に巨細胞性の肉芽腫性炎症を惹起するとされていますが、詳細は不明です。またより若年の女性に好発し、大動脈とその枝を障害し、側頭動脈の炎症の少ないlarge vessel GCA(LV-GCA)も報告され、従来のcranial GCA(C-GCA)との異同が検討されています。
【臨床症状】
50歳以上の高齢者に好発します。初発に発熱、全身倦怠感、易疲労感、食欲不振、体重減少などをともない発症します。頭痛、顎跛行、複視がみられることが多いです。10%の患者では大動脈が障害され、上腕の知覚異常、筋力低下をきたします。
皮膚では頭痛と同時に側頭動脈に沿った発赤腫脹、熱感、圧痛、索状肥厚、拍動の減少などをみます。稀に梗塞性の皮膚潰瘍をみます。また舌の潰瘍もみることがあります。視力障害は約半数にみられ、一過性黒内障、複視、眼痛、視野欠損、中心暗点などが出現します。放置すると失明に至るために早急に大量ステロイド治療を要します。
LV-GCAでは鎖骨下動脈病変が特徴とされ、上肢痛、冷感、脱力感、血圧左右差などが現れてきます。また総腸骨病変では間歇性跛行、下肢冷感、皮膚潰瘍なども現れてきます。GCAでは30~60%でリウマチ性多発性筋痛症(PMR)を生じます。腰、四肢の疼痛、こわばりが特に起床時に起きるのが特徴です。
【検査所見】
赤沈値の上昇をみます。白血球、CRPの上昇をみますが、特異的ではありません。時にIL-6, ANA, RF 第Ⅷ因子陽性、上昇がみられます。画像検査で血管の閉塞、狭窄。病理組織は炎症部位を2cm以上の長さで生検することが推奨されています。
【治療・経過】
GCAはステロイドに著効をしめします。PSL 1mg/kg/dayなどから症状を指標に漸減します。低用量アスピリン、ワルファリンも併用されます。生物学的製剤については症例が少ないこともあり、まだその評価は確定していないとのことです。

🔷高安動脈炎(Takayasu ateritis: TAK)
従来は大動脈炎症候群と呼ばれていましたが、2014年の難病法の成立により、指定難病としての病名が高安動脈炎に変更されました。その理由は、欧米での呼称が(Takayasu arteritis: TAK)であること、また本疾患が大血管炎だけではなく、小血管、内臓を始め、眼、耳、皮膚など全身性の疾患であること、発見者への畏敬の念への配慮などであるとされています。
TAKは日本人に多く、欧米では少なく、逆に巨細胞動脈炎が多いとされます。この両者は発症年代と罹患血管の分布が異なるものの共通の発症基盤を持ち病理学的に共通した部分も併せ持ちその異同が問題となっていますが、現在では近縁ではあるものの異なった疾患と考えられています。
【歴史】
1824年 漢方医 山本鹿州 「橘黄医談」で左右脈拍消失、微弱症例を記載
1908年 金沢大学眼科教授 高安右人 “奇異なる網脈中心血管の変化の一例”として、花冠状吻合の眼底所見を示した22歳女性例を報告 追加発言で橈骨動脈の脈拍欠損を指摘
1940年 太田邦夫 大動脈をはじめ、基幹動脈の内・中・外膜全層にわたる血管炎であることを報告
1951年 清水健太郎、佐野圭司 眼底所見、脈拍減弱・欠損、頸動脈反射の亢進亢進を3徴とし、自験25例を脈なし病として報告
上田英雄 研究班を組織 大動脈炎症候群という病名を定着させる
1975年 難病として指定
1989年年〜 沼野藤夫 11回にわたり国際高安動脈炎会議を主催 HLAとの関連を報告
2007年 尾崎承一 診療ガイドライン作成
【疫学】
現在の登録者数は約6000人、毎年300人程度発症しています。男女比は1:9で発症のピークは20歳前後ですが、無症候例、未診断例も多いそうです。中近東・アジア、とりわけ日本人に多く、欧米では稀です。
【分類】
大動脈の侵される部位(弓部、弓分枝、胸部、腹部、腎動脈)によってⅠ〜Ⅴ型に分類されています。
【病因】
遺伝的要因を背景に、感染などの環境要因がきっかけとなり、大動脈を主体とした弾性動脈が自己免疫機序によって破壊されると考えられています。HLA-B*52が発症に関連しているとされています。さらに最近GWASにより、IL12B遺伝子領域の遺伝子多型が同定されIL-12, IL-23の関与も想定されています。
【病理所見】
大動脈の中膜から外膜よりが病変の主座で、中膜平滑筋細胞の壊死や弾性線維の破壊、線維化、外膜の炎症性肥厚が特徴で、とりわけ分布する栄養血管の炎症が重要と考えられています。初期には単核球細胞浸潤が、さらに多核巨細胞が混在する肉芽腫性動脈炎を呈します。瘢痕期になると動脈壁は板状の石灰化を伴い鉛管状を呈します。病変は健常部も混じ虫食い状を示し、壁は線維化・肥厚、閉塞、拡張し大動脈瘤、大動脈弁閉鎖不全などを起こしてきます。
【TAKとGCAの異同】
両者は病理組織学的な鑑別が必ずしも容易ではなく、異同について議論がなされています。(特にLV-GCAとTAKとの異同)。しかしながら、次のような点で両者は異なると考えられています。
1)大動脈肥厚はTAKでより高度である。
2)TAKは動脈中膜外膜の炎症が高度であるのに対し、GCAでは中膜の内膜側に炎症が顕著である。
3)外膜の高度の線維化はTAKでより頻繁に観察される。
【症状】
原因不明の発熱、全身倦怠感、頸部痛、めまいなど上気道炎に似た症状で始まります。その後、侵された血管病変に起因する症状を起こしてきます。上肢の脈拍の減弱(脈なし病)、頭痛・めまい、視力障害、高血圧などがみられます。また皮膚では下腿特に脛骨前面に結節性紅斑を多発することが多いです。病変部位の違いにより、脳、心臓、肺、腎臓、四肢それぞれの虚血に起因する症状を呈します。
【検査所見】
HLA-B*52, B*67を除けば特異的なバイオマーカーはありません。(PTX3は期待されるものの保険未適用)
近年のCT,PET-CT,MRI、超音波は解像度が上がり、長期フォローに推奨されます。眼症状は約30%の患者でみられ、一部は網膜症、虚血性視神経症が眼底所見としてみられます。
【治療】
ガイドラインでは治療のフローチャートがありますが、その中心になっているのが、ステロイドです。
疾患活動性を根拠に治療がなされます。
(1)全身炎症症状 (2)赤沈値亢進 (3)血管虚血症状 (4)血管画像所見
初期量はプレドニゾロン(PSL). 0.5~1mg/kg/day x2~4w
→毎週 5mg減量(30mg/day まで)
→毎週2.5mg減量(20mg/day まで)
→月あたり1.2mgを越えない減量
→維持量:5-10mg/day (→off)
緊急度の高い場合や難治例の再燃時にはステロイドパルス療法(mPSL 1gまたは15mg/kgx3day)を施行します。
減量スピードが速すぎると再燃率が高くなります。再燃時は再度寛解導入治療を行い直すか、PSLを10mg増量しMTXなどの免疫抑制剤を追加します(米国)。
*免疫抑制剤
a.メトトレキサート(MTX)
TAに最もよく使われている免疫抑制剤です。米国では0.3mg/kg/w→最大25mg/wまで漸増。
ただし、MTXは血管病変の進行を阻止できない可能性があり、再燃が多いとされます。
b.アザチオプリン(AZA)
血管病変を抑えられないケースもあるものの、各国のプロトコルにおけるAZAの位置づけは高いです。
AZA 1-3mg/kg/dayが使用されています。
c.シクロホスファミド(CY)
もっとも古くからTAに使用され、しかも重症例に適用されることが多いです。CY 2mg/kg/day
d.ミコフェノール酸モフェチル(MMF)
各国で使用されていて有効例もみられますが、日本では適用はありません。少量から漸増されます。
e.タクロリムス(TAC)
少数の症例報告のみです。保険適用はありません。
f.シクロスポリン(CyA)
症例報告のみですが、有効例もあるようです。保険適用はありません。
*生物学的製剤
a.トシリズマブ(TCZ)
2017年8月25日25日保険適用
TAでは血清IL-6が上昇し、疾患活動性と相関することがわかっています。TCZは国産初の抗ヒトIL-6受容体モノクローナル抗体です。他の免疫抑制剤で効果のなかった症例に対し有効との報告があります。
TNF阻害薬との有効性の差異はまだ明らかではありません。
*抗血小板薬アスピリン内服によって心虚血、脳虚血イベントの発症が有意に抑制されるとの報告があります。
〔観血的治療〕
観血的治療の適用、実施、術後の管理は膠原病内科医、心臓血管外科医、インターベンショナリスト、神経内科医などを含む学際的チームでの対応が要求され、また薬物療法などで疾患活動をコントロールした上で実施することが必要とされます。炎症のある時期に実施された場合の再手術率はコントロールされた状態での手術より高いとの結果があります。

近年PETやMRIなどの画像を中心とした診療技術の進歩により、早期に診断し内科的および外科的治療を行うことが可能になり、生命予後も大きく改善されてきました。

血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版) 抜粋 まとめ
Ⅱ. 高安動脈炎
Ⅲ. 巨細胞性動脈炎

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29) 抜粋 まとめ

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 医学書院 東京 2012 抜粋 まとめ