川崎病

川崎病は1967年川崎富作が「急性熱性皮膚粘膜リンパ腺症候群」として報告してから、同様症例の累積により独立疾患として認められ、一般的に川崎病又はmucutaneouslymphonode synderome とよばれるようになりました。
その病態は中小血管炎で、チャペルヒル会議でも中型血管炎の項目で、結節性多発動脈炎と共に同じ範疇に位置づけられています。川崎病で他の血管炎症候群との際立った差異は病変の局在性です。冠状動脈の強い炎症性血管炎といえます。
川崎先生は千葉大卒業後、日赤医療センターでこの症例に出会いました。それは1961年の1月のことだったとあります。それ以前は同様の症例はスティーブンス・ジョンソン症候群やしょう紅熱と診断されることがよくあったそうです。しかし水疱、粘膜疹を伴うことはなく、またA群溶連菌も検出されず、抗生剤も効きませんでした。同様の7例を経験した後に「非猩紅熱性落屑性症候群について」との題名で学会発表しています。(かつて川崎先生の講義を聴講して、そのたゆまぬ努力、臨床医としての眼力に深く感銘した記憶があります。)
同症はその臨床的な特徴から上記のように急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群(acute febrile mucocutaneous lymph-node syndrome : MCLS)とも呼ばれています。その本態は全身性の血管炎とされるもののその病因はなお不明です。
【病因】
現在までに様々な説が発表されていますが、いずれも確証のあるものではありません。ある種の細菌・ウイルス・リケッチャ・真菌・化学物質・環境因子などの侵入をきっかけに生体が過剰反応をして血管炎を起こすと想定されています。時に流行の年度があり(1979,1982,1986年)、また近年毎年発症が1万人以上と増加傾向にはありますが、明確な感染性の徴候はなく、診断精度の上昇による見かけ上の増加との説もあります。
また本症はアジア人、特に日本人での報告が多く、その発症に遺伝的体質が関与しているとされています。
近年、GWASなどの遺伝子解析などにより疾患感受性遺伝子も同定されつつあるようです。
【組織所見】
全身性の血管炎ですが、主に中型・小型時に大型動脈を侵す急性の壊死性血管炎像を示します。冠状動脈がしばしば侵されます。中膜の水様性変化と内・外弾性板の一部の破壊により脆弱化し、血管内圧特に拡張期圧に抗しきれなくなる結果、膨張・拡張し、重症例では動脈瘤を形成します。
【症状】
85%が4歳以下で男女比は1.4:1と男児に多く発症します。
主な臨床症状は次の6つで、5つ以上がみられた場合と、4つの症状のみでも冠動脈瘤がみられた場合は定型的な川崎病と診断します。全ての症状が揃わない不全型とも呼ばれるタイプも2割前後存在するそうですが、これらが必ずしも軽症であるとはいえないことは注意すべきです。
1)原因不明で5日以上続く発熱(38度以上) 但し、早期の治療が開始されて解熱した場合も含まれます。
2)発疹・・・2~4病日より、全身どこでも不定形の発疹が出現します。多形滲出性紅斑様、麻疹様、猩紅熱様、風疹様、地図状の大きな蕁麻疹様の多彩な発疹が出現し、または出没します。ただ多形滲出性紅斑のような水疱の形成はありません。BCG接種部位(特に接種後4~6ヶ月)に発赤、痂皮、時に水疱を形成するのが特徴的とされます。時に乾癬様皮疹をみることがあります。
3)両側眼球結膜の充血・・・85~90%にみられますが毛細血管拡張のみで炎症症状はみられず、眼脂はみられません。ウサギの眼のように赤くなり診断的価値が高いです。
4)口唇の発赤、乾燥、亀裂、口腔咽頭粘膜のびまん性発赤は90%にみられ、イチゴ舌もみられます。
5)四肢の変化・・・急性期には手足、指趾端の紅斑がみられ(90%)、手足のテカテカ・パンパンと腫れた硬性浮腫(75%)がみられます。これは手指で押しても圧痕は生じません。回復期(第10~15病日)には指趾端の爪囲より膜様落屑を生じ(95%)、手袋・靴下が脱げるように剥げ落ちます。約1か月で皮膚症状は治癒しますが、爪に横溝を残します。
6)急性頚部リンパ節腫脹・・・病初期に発熱とともに出現し、しばしば片側性です。有痛性です。拇指頭大からさらに大きく腫れますが自壊はしません。化膿はしません。
7)その他の症状・・・消化器症状(下痢・嘔吐・腹痛・胆のう肥大・麻痺性イレウス・軽度黄疸)、咳・鼻汁、関節痛、髄膜刺激症状(痙攣、意識障害、四肢麻痺、顔面神経麻痺)
【冠動脈障害】
当初、川崎病は比較的予後の良い疾患と考えられていましたが、統計が取られるようになると重篤な心疾患により死亡するケースもあることが分かってきました。
急性期に70~80%に心障害が起こり、25%で冠動脈瘤を生じ、その一部が虚血性心疾患や心筋梗塞(1.9%)を起こし突然死するケースもあります(0.9%)。
急性期に冠動脈に血管炎が生じ、その起始部(とくに左冠動脈の左前下行枝と左回旋枝の分岐にできやすい)に動脈瘤が生じやすいとされています。血管炎は1)血管炎のみで治まる 2)血管の軽度の拡張(瘤なし、通常3mm以下) 3)瘤の出現の3つのケースにわけられます。1)2)のケースでは冠動脈病変に関しては長期的にもほぼ問題がないとされています。
通常の冠動脈は2mm以下ですが、10mm以上の大きな動脈瘤ができることもあります。その中に血栓ができ、心筋梗塞を生じる危険性も増してきます。径7mm以上では1年以内に心筋梗塞を起こすリスクが高くなるとされます。また4mmを超すと急性期を過ぎた後に血管壁が肥厚し血管内腔が狭くなり、心筋虚血がでるリスクもあります。
【検査所見】
特異的な血液検査所見はありません。炎症を示す赤沈値高値、白血球増多、核左方移動、血小板増多、CRP陽性、肝機能異常、α2グロブリン増加、低アルブミン血症、貧血、蛋白尿などがみられるものの川崎病に特異的にみられるものではありません。
【治療】
急性期治療ガイドラインが作成されています。免疫グロブリン超大量(IVIG)単回投与+(ステロイド初期併用療法+アスピリンなどの抗凝固療法)が1st lineの治療となり、冠動脈瘤の発生を抑制することに寄与しています。ただこの治療に不応例も一部あり、その際は追加IVIG, IVMP, PSL、インフリキシマブ、ウリナスタチン、シクロスポリンA、血漿交換などが選択されています。この場合は冠動脈瘤の発生危険度が相当あがるとのことです。
詳しくはガイドライン、専門書などをご覧ください。
慢性期、遠隔期では狭窄性病変への進展抑制・冠動脈瘤内での血栓抑制に対する治療が必要とされています。
川崎病が報告されてから50年が経過し近年成人川崎病既往者の高齢化も進み、それらの人々における血管炎が動脈硬化の危険因子となることも危惧され、検討がなされています。

参考文献

皮膚科学 第9版 著・編 大塚藤男 原著 上野賢一

川崎病の発見・勉強会 一般社団法人日本血液製剤協会 第3回 1.川崎病の発見 2.川崎病の特徴 3.川崎病の冠状動脈障害とその検査法 4.川崎病の治療 5.川崎病の今後ー疫学と原因究明 川崎富作

川崎病急性期治療のガイドライン 日本小児循環器学会 平成24年改訂版