結節性多発動脈炎

結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa: PAN)はそもそも病理的な血管炎の始まりともいうべき名称で、1866年にKussmaulとMaierが剖検例において多臓器に分布する動脈の周囲に結節状の炎症がみられる疾患を見出し、結節性動脈周囲炎(periarteritis nodosa:PAN)という名称で報告したのがその嚆矢とされます。その後本症は動脈周囲のみならず、動脈全体の炎症であることが明らかになり、結節性多発動脈炎と呼ばれるようになりました。
さらに肉眼的に結節が確認できる(古典的)結節性多発動脈炎と、顕微鏡下でのみ血管炎が確認できる顕微鏡的多発血管炎(MPA)が含まれる概念となりました。その後ANCAが発見され、WG(GPA),CSS(EGPA),MPA 川崎病が独立した疾患として分離されてきました。さらにChapel-Hill会議(CHCC1994,2012)によって、PANは「中型動脈を主体に一部小動脈にも壊死性血管炎を認め、細動脈、細静脈、毛細血管(糸球体腎炎を含む)など小血管の炎症を伴わない全身性血管炎でANCAと関連のない血管炎」と定義されました。
これにより従来PANとして報告されてきた症例の多くはMPAと分類されることになり、統計も激変しました。現在では厳密なPANの診断基準に合致する症例は稀(年間発症率100万人あたり0.5人)となってきているそうです。
我が国におけるPANとMPAの比率は1:20程度との報告があります。
【病因】
欧米ではB型肝炎ウイルスの関与が指摘されてきましたが、本邦ではHBV感染の減少もあるためか、その関与はほとんどみられません。ヒトパルボウイルスB19, HIV, サイトメガロウイルスの関与も指摘されるものの明確ではなく、ANCAの関与もみられず不明です。
【臨床症状】
持続的高熱、体重減少、高血圧などの全身症状を伴って多彩な臓器症状がみられます。
1)皮膚症状(5~15%)・・・特に下腿に皮下結節や浸潤性紅斑、網状皮斑、蝕知可能な紫斑、水疱、潰瘍、指趾壊疽など多彩な皮膚症状を認めます。皮膚型PAN(cutaneous polyarteritis nodosa: cPAN)でも同様な症状を認めますが、全身型ではより潰瘍は大きく、多数出現し、急速に進展・増大する傾向があります。
2)腎症状(50%以上)・・・蛋白尿、血尿がみられ、しばしば初発します。腎動脈から葉間、弓状動脈が罹患し、高レニン血症を伴う高血圧を呈します。重症では腎不全に陥ります。MPAのような典型的な糸球体腎炎の像は呈しません。
3)腹部症状(15~50%)・・・小腸粘膜下・筋層の血管炎、腸間膜血管の血栓、肝臓・脾臓の梗塞をみます。これらにより腹痛、消化管出血、肝機能障害を認めます。急性胆嚢炎、虫垂炎で発症した例もあります。
4)中枢神経症状(20~30%)・・・脳梗塞、時に脳出血をみます。
5)末梢神経症状(50~70%)・・・神経栄養血管を障害し、単神経炎、多発性単神経炎がみられます。手足のしびれ、知覚障害、進行すると手足の運動神経も侵され、下垂手、下垂足を発症します。特に腓腹神経が侵されやすいとされます。
6)関節・筋症状(約80%)・・・左右対称性に関節・筋のこわばり、痛みを生じます。特に腓腹筋の症状は著明で同部からの筋生検で血管炎を認めることも多く見られます。
7)心・血管系症状(5~30%)・・・高血圧、虚血性心疾患、伝導障害、心外膜炎などがみられます。
8)呼吸器症状・・・頻度は低いものの間質性肺炎を認めます。
9)その他・・・ブドウ膜炎、虹彩炎、上強膜炎、眼底出血、中耳炎、副鼻腔炎、睾丸痛などがみられることがあります。
【検査所見】
炎症症状でみられるCRP、赤沈値高値、白血球増多、血小板増多などはあるものの特異的なものはありません。ANCA、 自己抗体も一般的には陰性です。
血管造影で腎動脈、腸間膜動脈、肝動脈で多発性動脈瘤、血管閉塞がみられることがあります。また四肢動脈の狭窄、閉塞を認めることもあります。
【病理所見】
腎、筋肉、神経、皮膚などの中小動脈の壊死性血管炎を認めることが診断につながります。腎動脈ではⅠ期変性期 Ⅱ期急性炎症期 Ⅲ期肉芽期 Ⅳ期瘢痕期に分類されます。皮膚小動脈では1)急性期(炎症初期) 2)亜急性期(炎症後期) 3)肉芽期(修復期) 4)瘢痕期に分けられます。
【診断】
厚労省アメリカリウマチ学会などの診断基準があります。厚労省基準では上記の主要症候2項目と組織所見によって確実例を決定しています。なお他の血管炎、とくにANCA関連血管炎、MPAが除外されたことによりPANと診断される症例が激減したことは先に述べました。なおPANに合致しながら、血管炎が細・小動脈に及ぶ症例も存在し、分類が困難なケースもあるとのことです。
【治療・経過】
寛解導入療法と寛解維持療法に分けられます。
寛解導入療法ではプレドニゾロンPSL(0.5~1mg/kg/day)を経口投与します。重症例ではステロイドパルス療法、それで不十分な場合はさらに血漿交換療法、シクロホスファマイド(CY)パルス療法、免疫抑制薬(アザチオプリン、メトトレキサート)を併用します。ガンマグロブリン、抗TNF-α抗体の有効例の報告もあります。通常PSL 1mg/kg/dayで4週間の初期治療を行い、治療開始時からIVCYまたは連日経口CY投与を併用します。IVCYは10~15mg/kg/回を3~4週間に1度 3~6回投与します。経口CYは1~2mg/kg/dayを用いますが、日本人では2mg長期は難しいそうです。免疫抑制剤使用に伴う易感染性に対処する必要性があります。
寛解維持療法では、再燃のないことを確認しつつステロイドを漸減し、維持療法(5~10mg/day)、アザチオプリンなどを併用します。また血栓溶解薬(ウロキナーゼ)、血管拡張薬(プロスタグランディン製剤)、抗血小板薬などを併用します。
発症3か月以内の急性期に適切な治療がなされれば予後は以前と異なり比較的良好とのことです。
予後決定因子としては(1)1日1g以上の蛋白尿 (2)尿毒 (3)心筋症 (4)腸管病変 (5)中枢神経系病変が挙げられています。

皮膚型結節性多発動脈炎
(cutaneous polyarteritis nodosa: cPAN)
1931年にLindbergが古典的PANと異なり、内臓などの症状を伴わず皮膚のみに限局したタイプがあることを報告しました。
その後多くの症例が報告され、独立した病型として確立してきました。しかしながら皮膚症状だけではなく、関節炎や末梢神経炎を伴うケースや、長期間観察後に全身型に進展したケースなども報告されています。
病因は一部c型肝炎、溶連菌感染の関与も示唆されるものの多くは不明です。炎症性疾患やミノマイシンなどの薬剤との関連も想定されています。
皮膚症状は全身型と比べて軽く、潰瘍も大きくはない傾向にあります。関節炎や末梢神経炎も皮疹部に限局するとされます。逆に遠隔、広範囲の場合は全身性のPANへの移行を注意する必要性があります。
検査所見で特異的なものはありませんが、aCL(抗カルジオリピン抗体)の高値、抗PS/PT抗体、抗LAMP-2抗体が高値であるとの報告があり、疾患マーカーとしての意義が検討されています。
治療としては、軽症例ではNSAIDs、循環改善薬の投与、治療抵抗例にはDDS、コルヒチンの投与を行います。循環障害の強い例やaPLの関与が考えられる例では循環改善薬を使用します。PANへの移行が考えられる例ではPANに対応した治療が必要となります。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめ

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改訂版 日皮会誌 127(3),299-415,2017(平成29)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017改訂版 日本循環器学会 

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011