ANCA関連血管炎

小型・中型の血管炎は大きく免疫複合体(IC)が関与するものと、抗好中球細胞質抗体(ANCA)が関与するものに分けられます。ICが関与するものについては先に書きましたし、ANCAが関与するもので、本邦で多い顕微鏡的多発血管炎(MPA, MPO-ANCA関連)についても書きました。
ANCAが関与する血管炎にはMPO-ANCA関連血管炎とPR3-ANCA関連血管炎があります。我が国での頻度は8:1であり、欧米で後者が多いのとは大きく異なります。しかし少ないながらも本邦においてもPR3-ANCA関連の血管炎はありますのでそれについてもまとめてみたいと思います。
ANCA関連血管炎はpauci-immune vasculitisとされています。pauciとは少しの、わずかなという意味で、ANCA関連血管炎ではICはおおむね陰性ですが、陽性のこともあります。この理由として、ANCA,AECA,ブドウ球菌由来抗原がIC抗原となり得るものの血管壁に沈着したICは早期に浸潤細胞によって貪食され、結果的に蛍光抗体法は陰性になると考えられています。
CHCC2012での分類で小型血管炎はANCA関連血管炎には下記の3つが挙げられています。
1)顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangitis :MPA)
2)多発血管炎性肉芽腫症(Wegener’s) (granulomatosis with polyangiitis [Wegener’s] : GPA)
3)好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(Churg-Strauss) (eosinophilic granulomatosis with polyangiitis [Churg-Strauss] : EGPA)
更にもう一つのカテゴリーとして免疫複合体性小型血管炎(immune complex small vessel vasculitis: immune complex SVV)が挙げられていますが、これについては既に書きました。

そこで今回はANCA関連血管炎の中で1)MPAほど発症頻度は少ないものの 2) GPA 3) EGPAについて書いてみます。

🔷 GPA[Wegener’s] 多発血管炎性肉芽腫症
以前はWegener肉芽腫症と呼ばれていましたが、CHCC2012では、人名を冠した病名(エポニム)を避けて病因や病態に基づく記述的な病名に名称変更するよう推奨されました。
それにより、多発血管炎性肉芽腫症(Wegener’s)と変更されました。なお新名称が周知されるまでの間、新名称の後ろに旧名称をカッコ書きで追記するとされています。
1939年ドイツの病理学者Wegenerが1)上気道および肺の壊死性肉芽腫 2)全身の中・小型血管の壊死性肉芽腫性血管炎 3)壊死性半月体形成腎炎の3つの病理的特徴より独立疾患として報告したのに始まります。(1931年にドイツの医学生Klingerによる報告例あり)。
近年本症の疾患活動期にはPR3-ANCAが90%以上陽性で、しかも疾患活動性、病勢を反映することが明らかになり、これが自己抗体として病因に関与していると考えられてきています。
【病因】
鼻腔や口腔など上気道の感染症をきっかけに例えば黄色ブドウ球菌由来のスーパー抗原と自己抗体であるPR3が交差反応することで免疫反応を惹起、進展することが考えられています。しかしその過程で樹状細胞、T細胞、接着分子の関与するデータもあるものの詳細はまだ解明されていないそうです。
【臨床症状】
上気道(E), 肺(L), 腎(K)の3つの病変がそろっている全身型と、腎症状を伴わないEまたはL,EL のみの病型の限局型に分けられます。
発熱、体重減少、などの全身症状に加え、関節痛、上強膜炎、多発神経炎、心虚血、消化管出血、胸膜炎などの症状もみられます。
1)上気道症状
初発症状としてほとんどの例に見られます。鼻閉、鼻出血、鼻漏などがあり進行すると鼻中隔穿孔なども生じます。また眼痛、ブドウ膜炎、中耳炎、難聴、嗄声、気道閉塞症状を呈することもあります。
口腔では難治性、持続性の潰瘍を形成し、出血斑を伴うイチゴ状過形成歯肉炎を生じます。
2)肺症状
咳、血痰、胸痛、呼吸困難などの症状を呈し、X線やCT像で浸潤影、空洞像などを認めます。
3)腎症状
血尿、蛋白尿を認め半月体形成腎炎、急速進行性腎炎から腎不全へと進行します。
4)皮膚症状
経過中半数以下と多くはありませんが、特に全身型で多く症状がみられます。主に四肢に隆起した紫斑、丘疹、結節、血水疱、膿疱、網状皮斑、潰瘍と多彩です。潰瘍は壊疽性膿皮症のような外観を呈することが多いとされます。最も多い症状は浸潤を触れる紫斑とされます。また皮膚科からの報告例では血水疱を伴って、多彩な皮膚症状をきたした例が多く、これらを見た時同症を鑑別として考慮の要があります。
【病理組織】
鼻粘膜生検で巨細胞を伴う出血性壊死性肉芽腫性病変、腎生検で半月体形成腎炎、皮膚生検で白血球破砕性血管炎あるいは血管外肉芽腫性炎症や肉芽腫が典型とされています。他の血管炎と異なって血管壁の周囲に組織球浸潤、ときに類上皮細胞多核巨細胞などによる肉芽腫を認めます。この場合は臨床的には結節を呈するとされます。
【診断基準】
厚労省では上記症状、組織所見検査所見などから確実例、疑い例などの診断基準を作成してあります。
確実例は
a)E,L,Kの1臓器症状を含め主要症状の3項目以上の例
b)E,L,K 血管炎による主要症状の2項目以上と組織所見の1項目以上の例
c)E,L,K 血管炎による主要症状の1項目以上と組織所見の1項目以上+PR3-ANCA陽性例
【治療】
以前は呼吸器合併症や腎不全などによって極めて予後の悪い疾患でしたが、早期診断を下し、病型、病期に応じた適切な免疫抑制療法を徹底的に施行することによって完全寛解例もでてきたそうです。
シクロホスファミドとプレドニゾロンによる併用療法が治療の柱になりますが、具体的治療法は内科専門書、血管炎ガイドラインなどを参照して下さい。近年はBリンパ球表面抗原(CD20)に対するモノクローナル抗体リツキシマブでの治療の有効性が明らかになってきています。

🔷EGPA[Churg-Strauss] 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症
1951年ChurgとStraussによって気管支喘息が先行し、病理解剖組織所見で著明な好酸球浸潤を伴う肉芽腫性血管炎がみられた13症例をアレルギー性肉芽腫性血管炎として報告したのに始まります。
それ以来Churg-Strauss症候群と呼称されてきましたが、CHCC2012以降EGPAという名称に統一されたのは、GPAと同様です。
【病因】
好酸球の組織浸潤に伴って、その細胞質から脱顆粒された細胞毒性蛋白が血管や臓器へ沈着し、組織破壊をきたすことによって生じる炎症性疾患とされます。末梢血リンパ球に占めるCD4(Th2タイプのサイトカイン)の割合が高く、治療と共にこれらやIgE,好酸球、その活性に関与するとされるEotaxin-3の値が減少し、それは病勢の指標になります。
その誘発因子は特定されていませんが、多くの例で喘息やアレルギー性鼻炎の先行がみられ、おそらくアトピー素因のある人が種々の抗原刺激によりTh2リンパ球の活性化を受けて発症すると想定されています。そして炎症の修復過程で肉芽腫および肉芽腫性血管炎の像を呈するものと思われます。
喘息の治療薬ロイコトリエン拮抗薬との関連も、発症に関与するかの議論もあります。しかし現在ではステロイド治療薬から同剤への切り替えがきっかけで全身性ステロイドによって抑え込まれていた血管炎の症状が顕在化して、同剤が一見病気の発症の誘因のようにみられるとの見解だそうです。
【臨床症状】
1)先行するアレルギー性疾患
先にも述べたように、気管支喘息の先行が最も多いようです。しかしその重症度とは相関しません。またアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎もみられます。
2)好酸球の組織浸潤
全身の組織に浸潤しえますが、肺や消化器に浸潤し、好酸球性肺炎、抗酸球性胃腸炎を生じます。
3)全身性血管炎症状
発熱、倦怠感、易疲労感、体重減少などがみられます。臓器病変は血管炎によるものと好酸球浸潤によるものが混在しています。
1.多発単神経炎・・・下垂足が最も多く、下垂手もみられます。
2.皮膚病変・・・ANCA関連性血管炎のなかでは最も高頻度に(50~60%)皮膚症状がみられます。蝕知性紫斑が最も多いですが、蕁麻疹、紅斑、丘疹、結節、血痂、水疱、潰瘍、網状皮斑など多彩な症状を同時期にあるいは時期を変えて出現します。
3.肺症状・・・30~40%にみられ、X線でさまざまな肺浸潤像がみられます。GPAのように空洞化することは稀とされます。
4.消化器症状・・・肺と同様に多くみられます。腹痛が多く、下痢や出血を伴うこともあります。
5.心症状・・・好酸球浸潤による心筋炎、心内膜炎、冠虚血などがみられます。特にANCA陰性例に多く心不全や心筋梗塞も起こり、心症状の有無は予後に大きく関わってきます。
6.腎障害・・・GPAやPAN(結節性多発動脈炎)と異なり、一般に重篤な腎障害をきたすことは少なく、巣状分節性糸球体腎炎の像をとることが多いようです。腎炎を伴う例ではMPO-ANCA陽性例が多いとされます。
7.その他の臓器病変・・・関節炎、関節痛、筋症状も半数以下ながらみられます。上強膜炎、中枢神経症状もみられ時として脳出血もみられます。
【検査所見】
末梢血好酸球増多は必発です。ただステロイド治療例、慢性例では低い場合もあります。
赤沈、CRP、リウマトイド因子、Th2サイトカイン(IL-5,IL-13,IL-2 receptor)、Eotaxin-3などは高値を示します。腎炎を伴う例ではMPO-ANCAが陽性でその値は病勢と相関します。
【病理所見】
1)組織への好酸球浸潤 2)肉芽腫性炎症 3)壊死性血管炎の3つですが、単独でみられることも共存することもあります。好中球浸潤が主でMPO-ANCA陽性で腎症をきたす好中球性血管炎の像から、逆にANCA陰性で好酸球浸潤が主で腎症をきたさない好酸球性血管炎の幅広い病理組織像のスペクトラムを示しますが多くは両者が混在した中間像を示します。
【診断】
アメリカリウマチ学会では1)喘息 2)好酸球増加 3)単または多発神経炎 4)肺浸潤 5)副鼻腔の異常 6)血管外好酸球増加の6項目のうち4項目をみたせば、同症と分類するという基準を発表しました。この基準は臨床症状に重きを置き、病理組織所見が揃わなくても診断できるという簡便な方法です。厚労省では1998年に診断基準を作成しています。主要臨床所見、臨床経過の特徴、主要組織所見から判定するものです。これは先行する気管支喘息を診断の絶対必要条件とはせず、非定型例も早期診断することを可能にしたものです。
【治療】
EGPAはPANやGPAと比べて、ステロイド剤に良く反応し、重篤な腎障害は少なく、予後は比較的よいとされます。しかし心不全や消化管出血で予後不良なケースもあり、また多発単神経炎は残存することも極めて多いとのことで注意が必要です。
ステロイド、シクロホスファマイドの併用が施行されますが、アザチオプリンなども併用されます。また難治例では免疫グロブリン大量療法なども施行されます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012 からの抜粋 まとめ

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改訂版 日皮会誌 127(3),299-415,2017(平成29)

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011