顕微鏡的多発血管炎

顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis: MPA)はANCA関連血管炎の一つです。皮膚症状は30~60%に紫斑や網状皮斑がみられるとされます。したがって一般の皮膚科医にはどちらかというとなじみがないというか、まず最初に考える病名ではありません。ところが、川上先生の内科専門医へのアンケートでは「多くの一般内科医にとって血管炎といえばANCA関連血管炎であり、その代表である顕微鏡的多発血管炎をイメージします。・・・(岡崎貴裕先生)」とあります。逆に皮膚科医は血管炎というとIgA血管炎や皮膚動脈炎(結節性多発動脈炎)をイメージします。このように、皮疹からみるとマイナーな感じのMPAですが、重要な位置をしめる血管炎の一つです。さらに欧米ではANCA関連血管炎といえば旧Wegener肉芽腫症(WG)が多いのと異なり、我が国ではMPO-ANCAとPR3-ANCAの頻度は8:1と断然MPAが多く、欧米との違いが顕著です。
🔷ANCAとは
抗好中球細胞質抗体(anti-neutrophil cytoplasmic antibody: ANCA)は1982年にDavies DJによって発見されました。初めてANCAを盛り込み、腎臓病理所見に基づいて血管炎を分類したのがChapel Hill分類(CHCC1994)です。ANCAは主にIgG分画に属する自己抗体であり、蛍光染色パターンで細胞質型(cytoplasmic: C-ANCA)と核周囲型(perinuclear: P-ANCA)に分けられます。ELISA法によって代表的な対応する抗原はそれぞれ好中球アズール顆粒中のプロテイナーゼ3(PR3)とミエロペルオキシダーゼ(MPO)であることが分かっています。先に書いたように欧米に多いWGでは活動期にPR3-ANCAが80-95%と高率に認められるのに反し、本邦で多いMPAではMPO-ANCAが活動期には約75%に陽性に見られます。
発症機序はまだ解明されてはいませんが、MPO-ANCA-IgGがMPOと結合し(体質+感染や環境からの刺激などにより)MPO酵素を活性化し、活性化されたMPO酵素が過酸化水素と塩素イオンとでHOClという極めて細胞毒性の強い活性酸素を産生し微小血管の内皮細胞を壊死させることによって血管炎を発症すると考えられています。内皮細胞が壊死する過程で、活性化された好中球と内皮細胞の膜接着因子の発現による両者の接着も必要とされます。しかしなぜ自己抗体が産生されるかは明確にはわかっていません。
さらに最近では好中球が細菌を死滅させるために放出するneutrophil extracellular traps(NETs)や好中球から放出される小さな粒子microparticlesが病因に関連していることが明らかにされてきているそうです。
【臨床症状】
MPAは50歳以後の中高年に多く発症します。やや女性が多いようです。ただ、若年女児に発症するケースも稀ながらあるそうです。約7割のケースでは発熱、全身倦怠感、体重減少、筋肉痛、関節痛、感冒症状などの非特異的な症状をきっかけとして発症し、その後急速進行性腎炎、肺出血、間質性肺炎などの腎肺症状を呈してきます。発症1〜2週間前に上気道感染症を認めるケースが多いとされます。病型では、1)全身型 2)肺腎型 3)限局型(単一臓器に限局する) に分けられます。
(1) 腎症状 ・・・80〜100%と最も高頻度にみられます。顕微鏡的血尿を初発としてタンパク尿、腎機能低下、貧血などが起こり、進行すると腎不全から腎透析へと進むこともあります。
(2) 肺症状・・・25〜60%にみられます。咳、血痰から始まり、肺胞出血、間質性肺炎、肺線維症などに進行します。
(3) 皮膚症状・・・30〜60%にみられます。下腿に多く見られますがその他の部位にもみられます。紫斑、網状皮斑、浸潤性紅斑、丘疹、結節、皮膚潰瘍、蕁麻疹、浮腫、手足末端の出血斑など多彩な症状がみられます。皮膚症状は関節痛、神経炎、眼症状を合併する確率が高いとされます。
(4) 神経症状・・・10~60%で末梢神経炎がみられ、ほとんどの例で多発単神経炎の症状を呈します。(手足のしびれ、感覚がない、力が入らないなど)。稀に脳血管症状をとり、脳出血、脳梗塞などがみられることがあります。
(5) 消化管病変・・・腹痛は多くみられ、時に消化管出血、穿孔をみることもあります。
【検査所見】
MPO-ANCA陽性、CRP陽性、赤沈値上昇、腎障害(血尿、蛋白尿、尿円柱、BUN,クレアチニン値上昇)、胸部X線所見の浸潤陰影像、間質性肺炎や肺線維症の所見
【病理組織所見】
腎生検で壊死性半月体形成性腎糸球体腎炎、肺では肺胞出血を伴う肺胞毛細血管炎、腓腹神経では肉芽腫を伴わない栄養小動脈の壊死性血管炎、皮膚では真皮や皮下組織の肉芽腫を伴わない壊死性小動脈炎、細静脈炎を認めます。小血管壁にフィブリノイド変性と核破砕を伴います。
【診断】
厚生労働省診断基準があります。(1998年)
1.主要症候・・・1)急速進行性糸球体腎炎 2)肺出血または間質性肺炎 3)腎・肺以外の臓器症状(上記)
2.主要組織所見(上記)
3.主要検査所見(上記)
*判定
確実
a) 主要症候の2項目+組織所見陽性例
b)主要症候の1)2)+MPO-ANCA陽性例
疑い
a)主要症候の3項目を満たす例
b)主要症候の1項目+MPO-ANCA陽性例
【治療】
寛解導入法と寛解維持療法があり、厚労省の治療プロトコールがあります。軽症例、重症例によって治療方針、薬剤も異なりますが、基本的にMPAは急速進行重症の疾患ですので可及的早期に寛解導入法を開始して、病勢を鎮めコントロールすることが重要です。むしろ内科、全身療法となりますので専門成書を参照して下さい。ここではアウトラインのみピックアップします。
1)全身性MPAおよび急速進行性糸球体腎炎型(重症例)
ステロイドパルス療法かシクロホスファミドパルス療法で病勢のコントロールを図ります。そして経口ステロイドで寛解維持へと移行していきます。血清クレアチニン値が6mg/dlに達した場合は血液透析を導入します。
2)疾患活動性が高く脳出血など最重症例
ステロイドパルス療法にシクロホスファミドパルスあるいは経口投与を併用します。さらに血漿交換法も併用します。またBリンパ球表面の分化抗原CD20に対するモノクローナル抗体である分子標的治療薬(リツキシマブ)の併用も行われています。
3)限局型・・・逆に生命の危険のないような皮膚、筋肉、末梢神経に限局する軽症の場合は過大な治療は避け、経口プレドニン15~30mg/dayや抗凝固薬、抗血小板療法などを施行します。
寛解維持療法では再燃のないことを確認しながら経口ステロイドの漸減をしていきます。最近はステロイド長期投与による副作用の観点からアザチオプリンが寛解維持療法の中心となっています。またその他の免疫抑制剤としてメトトレキサート、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビンなどが試みられています。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016改定版 日皮会誌 127(3),299-415,2017(平成29)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017年改訂版 日本循環器学会

皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の診断と皮膚症状 pp104-110
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の治療 pp111-117
高橋一夫 顕微鏡的多発血管炎の臨床経過・予後 pp118-122

川上民裕 顕微鏡的多発血管炎 皮膚疾患 最新の治療 2017-2018 編集・渡辺晋一・古川福美 南江堂 東京 2017.pp75