クリオグロブリン血症性紫斑

クリオグロブリン(cryoglobulin: CG)とは低温で沈降し、37度に加熱すると溶解する蛋白質です。CGが血液中に異常に増加した状態をCG血症といいます。その構成成分によって3型に分けられます。
Ⅰ型CG・・・単クローン性免疫グロブリン IgM, IgG 時にIgA  
本態性およびリンパ増殖性疾患、多発性骨髄腫、マクログロブリン血症など

Ⅱ型CG・・・混合性:単クローン性IgM(RF)と多クローン性Igの混成
Ⅲ型CG・・・混合性:多クローン性IgM(RF)と多クローン性Igの混成
本態性および感染症(特にⅡ型はC型肝炎)、ウイルス、細菌、寄生虫、原虫など、膠原病(SLE,RA,PAN,Sjogrenなど)
悪性腫瘍(白血病、リンパ腫など)、リンパ増殖性疾患、マクログロブリン血症など、腎炎、サルコイドーシスなど
【病因】
Ⅰ型CGは血液粘度亢進による微小血栓がその本態であり、血管炎はみられません。
Ⅱ、Ⅲ型CGは単クローン性あるいは多クローン性IgMと多クローン性の免疫グロブリンが免疫複合体を形成したものであり、血管炎がその本態となります。ただし混合性CG全例が血管炎を発症するわけではなく、その10~15%のみがクリオグロブリン血症性血管炎を発症します。これは混合型CGによるIC血管炎でⅢ型アレルギー反応が関係します。また寒冷曝露時の血液粘度の亢進も関与すると考えられています。
近年HCV抗体陽性例が多数あることがわかり、従来本態性として原因の解らなかった例の中にも多く含まれることがわかってきました。(本態性CGは10%以下まで低下してきました。)CGP患者の80~90% もの多くにHCV陽性とのことです。特にⅡ型でその傾向が強いです。またC型肝炎の3~4割にCGが陽性とのことです。HCV感染に伴う血管炎の発症機序としては、HCVに感染したB細胞がクローナルに増殖し、IgM型リウマトイド因子を産生して免疫複合体を形成することが原因と推定されています。また膠原病中でもシェーグレン症候群では約2割と高頻度にCG血症を認めます。
【臨床症状】
男性より女性に多く、40,50歳代に多くみられます。
発熱、全身倦怠感、筋・関節症状、神経症状(末梢神経知覚障害など)、腎症状、肝障害、高血圧、呼吸器症状、腹部症状など多彩な臨床症状を認めます。皮膚症状はほぼ全例に出現し、レイノー症状、寒冷曝露時に下肢に紫斑、血水疱、網状皮斑、色素沈着、潰瘍、寒冷蕁麻疹、指趾壊疽などを認めます。また鼻、耳介など寒冷にさらされる部位にも出現します。しかしながらこれらは他の血管炎でも生じうるもので臨床症状のみではCGPと断定することはできません。
【検査所見】
CGの証明には、温めた注射シリンジで採血し、37度下で分離した血清を4度に冷却して5~7日放置した後、遠沈して沈殿物を確認します。更にその内容を定量、分析して型を決定します。
また各種原因検索によって感染症、膠原病、血液疾患などを割り出していきます。
血液検査ではCRP、赤沈値上昇、血清ガンマグロブリン値上昇、IgMリウマトイド因子陽性、CH50,C4値低下などがみられ参考になります。
【病理組織】
真皮上層から中層の小血管にフィブリノイド沈着、赤血球の漏出、血管周囲の核塵などを伴う白血球破砕性血管炎の像を認め、時にそれは真皮下層、脂肪織境界部の小動・静脈にも及びます。蛍光抗体直接法では内皮下にIgG,IgM,C3の沈着を認めます。
【診断】
皮膚症状だけでは確診はできませんが、冬季、寒冷時に悪化するレイノー症状、紫斑、リベド、皮膚潰瘍などの血管性病変をみたら疑います。さらにC型肝炎、シェーグレン症候群などの膠原病、骨髄腫などの血液疾患を有するケースではCG精査が必要となります。ただし、必ずしも寒冷期に発症するとも限らず、静脈うっ滞などに伴う皮膚潰瘍として対処されているケースなどもありえますので、やはりANCA陰性群ではCGの有無を確認する必要がありそうです。
【治療】
まず、いずれのタイプでも寒冷曝露を避け、保湿に努めることが重要です。
CGのタイプによって治療は異なってきます。まず本態性なのか、原疾患に続発するものかによります。原疾患があればその治療を優先します。感染症、悪性腫瘍、膠原病などの治療で血中CGは消失することが多いとされます。
タイプⅠでは、血管炎よりも血管内の血栓・塞栓が病変の本態となるので、血管拡張薬、凝固阻害薬などを使用します。
タイプⅡ、Ⅲでは血管炎を伴うことが多いので、急速進行性の臓器障害、臓器不全への徴候がみられる場合は原因疾患の如何にかかわらずステロイド(パルス療法を含む)、免疫抑制薬(シクロスホスファミド、アザチオプリンなど)が適応となります。
重症例では抗CD20モノクローナル抗体であるリツキシマブ(RTX)の併用や血漿交換療法も用いられています。しかしこれらの2者は本邦では保険適用がないために治療の際は十分なインフォームドコンセントを得る必要性があります。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

血管炎症候群の診療ガイドライン 2017年改訂版 日本循環器学会

伊崎誠一 クリオグロブリン血症の診断と皮膚症状 pp148-150
伊崎誠一 クリオグロブリン血症の治療と臨床経過・予後 pp151-152
皮膚科臨床アセット 5 皮膚の血管炎・血行障害 総編集◎古江増隆 専門編集◎勝岡憲生 東京 中山書店 2011
 
菅谷 誠 平林 恵 クリオグロブリン(HCV)と皮膚血管炎 J Visual Dermatology Vol.13 No.7:780,2014
ガイドラインに照らして考えるふつうの血管炎 責任編集 川上民裕