皮膚白血球破砕性血管炎

皮膚白血球破砕性血管炎(cutaneous leukocytoclastic angiitis(CLA)はCHCC1994(Chapel-Hill会議)によって「全身性血管炎症状や糸球体腎炎を伴わない皮膚限局性血管炎で、組織学的に真皮小血管のleukocytoclastic vasculitis(LCV)を認める。」と定義されました。しかしLCVをきたす疾患は多数あり、そもそもLCVは疾患名というより、病理診断であり皮膚科専門医からはCLA,LCVを個別の疾患名とすることに疑念があがっていました。近年D-CHCC(Nomenclature of cutaneous vasculitis: Dermatological addendum to the CHCC2012)はこの疾患に対して皮膚IgM/IgG ICV(cutaneous IgM/IgG immune complex vasculitis)という名称を暫定的に提唱しています。

この疾患、病態を表す言葉は従来様々な疾患名が用いられてきました。
IgA-negative ICV, 過敏性血管炎hypersensitivity vasculitis(Rich, Zeek), idiopathic cutaneous LCV, 皮膚アレルギー性血管炎vasculitis allergica cutis(Ruiter)などです。しかしながらいずれも明確な疾患概念とはいいがたいものでした。
では、この疾患の本態はというと、「ANCA関連血管炎やIgA血管炎、各種続発性血管炎など他の小血管炎をすべて除外した皮膚限局性の小血管炎であり、病理学的にIgM/IgG-IC血管炎に属する」と定義されます。従ってD-CHCCが皮膚IgM/IgG ICVとの名称を提唱した訳です。しかしこの名称はまだ定着していませんので、従来通りCLAと表記して続けます。
【病因・発症機序】
CLAはIgM/IgG-ICが関与する免疫複合体血管炎とされますが、その抗原はほぼ不明です。逆にその病因に感染症、薬剤、膠原病、悪性腫瘍などが明確に関与したとわかれば続発性(症候性)CLAとなり、特発性(本態性)CLAからはずれ、全身性疾患関連血管炎や推定病因を有する血管炎となってしまう訳です。従って特発性CLAのみを本来のCLAとするのが厳密な定義となります。
【臨床症状】
時に発熱、関節痛、筋肉痛などの全身症状を伴うことはあってもいずれも軽度とされ、腎、肝、心肺症状などの臓器症状は伴いません。
皮膚では、下肢に蝕知性紫斑や、壊疽性丘疹、結節、水疱、血水疱、小潰瘍が混在して多発してきます。中には蝕知性紫斑主体の単調な皮疹をとることもあります。
【病理所見】
真皮細静脈の血管壁にフィブリノイド変性を伴う壊死性細静脈炎、LCVを認めます。また直接蛍光抗体法所見で50~70%の症例にIgG,IgMが血管壁に陽性に認められます。C3は70~90%に陽性に認められます。血水疱、結節を有する例では真皮皮下境界部までの細静脈に血管炎が及ぶこともあります。
【鑑別疾患】
特に単調な蝕知性紫斑を呈した場合はIgA血管炎と視診上では鑑別が付きません。組織学的に蛍光抗体所見が鑑別の決め手になりますが、必ずしも陽性にでるとは限らず、IgA,IgM/IgGともにその沈着の陽性率は50~70%とされます。
また顕微鏡的多発血管炎などのANCA関連血管炎や、続発性血管炎との鑑別が難しい場合もあるとのことです。各種抗体検査や全身疾患の検査、また続発性の血管炎の精査をして推定病因を否定しておくことも重要です。
また一旦CLAと診断した後に膠原病や感染症や、悪性腫瘍の関連が顕在化するケースもあるそうで経過観察は怠らないことが肝要とのことです。
【治療・予後】
下肢の安静を保つことが肝要です。弾性包帯、非ステロイド系抗炎症薬、血管強化薬などが用いられます。
時にDDS50mg~75mg/日,コルヒチン1.0mg~1.5mg/日、ミノマイシンなども使われます。皮膚症状の進展の強いケース、重症例ではプレドニゾロン10~30mg/日の投与が推奨されます。

皮膚血管炎 川名誠司 陳 科榮 東京 医学書院 2012からの抜粋 まとめによる

参考文献

血管炎・血管障害診療ガイドライン2016年改訂版 日皮会誌:127(3),299-415,2017(平成29)

川名誠司 2012年Chapel Hill会議による血管炎の命名法を踏まえた新たな皮膚血管炎の命名法 日皮会誌:129,23-38,2019